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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十一話 クワサンの謎

                 第八十一話 クワサンの謎
バルマー帝国は多くの民族からなる星間連合国家である。その中心には言うまでもなくバルマー人がおり、霊帝と貴族達による封建主義体制となっている。その帝都はバルマー本星にある。
その帝都で今密談が行われていた。暗い玄室においてである。
「地球の方はどうなっているか」
若い男の声がまず聞こえてきた。
「ハワイにおいて敵軍と交戦した模様です」
四つの目を持つ仮面を着けた男がそれに応える。
「ですが結果は思わしくなかったようで」
「敗れたのか」
「残念ながら。今は戦力を立て直しているところです」
「そうか。マーグには次の作戦を考えておくように伝えよ」
「はっ」
「ロゼにもな。よいな」
「畏まりました。ところでその銀河辺境方面軍全体のことですが」
「何かあったのか?」
「第四艦隊、第七艦隊に続き第三艦隊までもが消息を絶ちました。どうやら宇宙怪獣、若しくはデントラーディの攻撃により壊滅したものと思われます」
「第三艦隊までもか」
「如何致しましょうか」
「そうだな。再編成に取り掛かろう」
若い男はそれに応えてすぐに決断を下した。
「まずは七個に編成しなおす」
「はい」
「第八艦隊を壊滅した三個艦隊に振り分けよ。足りないものは占領地及び補充兵を充てる」
「わかりました」
「そしてマーグだが」
「どうされますか?」
「今銀河辺境方面軍の司令官は誰か」
「今は空席となっております」
「空席か」
「司令官であったバラン=ドバンが近衛軍司令官となりましたので」
「そうだったな。では今は適任者はマーグしかいないということこになる」
「宜しいのですか、それで」
仮面の男の声がくぐもった。
「何がだ?」
「マーグは。あの家の者ですが」
「だが十二支族ではあるな」
「はい」
「ならばよい。方面軍の総司令官ともなれば然るべき身分の者でなければならない」
男はむべもなくこう答えた。
「十二支族でなければな。わかったな」
「はっ」
「そしてだ」
男の言葉は続く。
「その補充戦力だが」
「どう御考えですか」
「今銀河辺境方面軍はバルマーの正規軍の他にキャンベル、ボアザン、ポセイダル、そしてムゲの援軍を得ているな」
「はい」
「そこからさらに徴兵せよ。そして足りなければ」
「足りなければ?」
「グラドス人達を使え」
「グラドスをですか」
「そうだ。よいな」
「畏まりました」
仮面の男はそれを聞いて頭を垂れた。
「ではその様に」
「わかったな。あの者達を使え」
「はっ」
「そして本星とその周辺の備えは近衛軍に任せよ」
「わかりました」
「我々は今また拡大期に入ろうとしている」
男の声は何故か空虚なものであった。政治を、そして野心を語っている筈であるのにその言葉には実はなかった。それが実に奇怪であった。
「その為にはこれまで以上の戦力が必要だ」
「そして地球もまた」
「そうだ。そして破滅を食い止めよ」
「承知しております」
仮面の男は頷いた。
「我等が生き残る為にもな」
「はっ」
男達の話は続いた。バルマーでもまた時が動いていた。そしてそれは無気味な歯車となって地球にも覆い被さろうとしていたのであった。
バルマーで密談が行われていた頃地球圏では様々な動きが見られた。
ミケーネは暗黒大将軍を失ったものの地獄大元帥をあらたな司令官に迎え戦力の拡充に務めていた。ギガノスは月に篭り要塞建造に取り掛かっていた。バームは小バームにおいて機会を覗っていた。ネオ=ジオンと火星の後継者達はサハラ砂漠で連邦軍の主力と対峙していた。そしてティターンズはドレイク軍と共に欧州において勢力を張っていた。
「何っ、ザフトだと」
その本拠地であるゼダンの門においてジャミトフはシロッコから話を聞いていた。
「はい」
「どの様な者達だ、それは」
「コーディネーターと呼ばれる者達によるコロニー国家です。彼等はそのコロニーをプラントと呼んでいますが」
「コロニー国家か」
「はい」
シロッコがジャミトフとバスクに対しそう説明していた。彼等は今ジャミトフの執務室にいた。
「そこで何かを企んでいるそうです」
「シロッコよ」
バスクがシロッコに問うた。
「何か」
「そのコーディネーターというのは一体何者だ」
「簡単に言いますと遺伝子操作等で能力を強化した者達のことです」
シロッコはそう説明した。
「それにより常人を越えた能力を持っているとされております」
「つまり強化人間ということか」
「分かり易く申し上げればそうなります」
シロッコはそれを肯定した。
「宇宙への進出の初期に。極秘に研究が進められていたそうです」
「それを我々が知らなかったとはな」
ジャミトフはそれを聞いて怪訝そうな顔を見せた。
「おかしな話だ」
「私も彼等の存在を知ったのはごく最近のことです」
シロッコも言った。
「何しろ。彼等はそれからその存在を自ら隠蔽し続けていましたから」
「連邦政府の記録からも抹消されたのだな」
「はい」
「道理でだ。私ですら知らぬわけだ」
ジャミトフは少し嘆息してこう述べた。
「そして彼等は一体何を考えているのだ」
「どうやら人類社会からの独立を考えているようです」
「独立を」
「はい。そして我々普通の人類、彼等がナチュラルと呼ぶ存在を支配しようと考えているそうです」
「支配だと」
「はい」
シロッコは今度はバスクの言葉に頷いた。
「彼等は我々を劣った存在と認識しているようなので。ごく一部ですが」
「そうか。では危険な存在だな」
「そう認識されて宜しいかと」
「わかった。では対策を講じておこう」
ジャミトフはそこまで言うとバスクに顔を向けた。
「バスク」
「ハッ」
「貴官がコーディネーターへの対策にあたれ。強攻策を用いても構わぬ」
「わかりました」
「兵はブルーコスモスの兵を使え。よいな」
「了解」
バスクは敬礼でそれに応える。ジャミトフはそれを見た後でシロッコに顔を戻した。
「そしてシロッコよ」
「はい」
「貴官はこのままゼダンの門の守りにあたれ。一兵たりとも通すな」
「わかりました」
シロッコも敬礼してそれに返した。
「ギガノスもまた動こうとしている。そしてバルマーもいる」
「はい」
「油断するな。何かあれば私も動く」
「わかりました。それでは」
「うむ」
ティターンズも対策を講じていた。特にバスクはドゴス=ギアに入り作戦の準備に入ろうとしていた。宇宙でもまたあらたな戦いがはじまろうとしていた。
地上でのティターンズも同じであった。彼等は本拠地から送られて来る物資と現地で手に入れた物資、二つの物資補給ルートを以って戦っていた。ブルーコスモスもその提供者の一つであった。
「まあ大助かりってやつだな」
ヤザンは基地に運ばれて来る多量の物資を見ながら言った。
「正直ゼダンの門から送られてくるのだけじゃ心もとないところだったからな」
「そうだね、おかげで何とかここに踏み止まっているしね」
ライラがそれに応えた。
「まさかこんな協力者が出て来てくれるなんてね」
「あの理事はどうにもいけ好かない野郎だけれどな」
「ムルタ=アズラエルだったね」
「ああ。何か企んでる感じがしやがるな」
「ジャミトフ閣下に最近何かと御会いしているそうだね」
「ゴマスリってやつか?」
「多分ね。それで自分達の権益を確保したいんだろうね」
「へっ、何か政治家みてえだな」
「まあ政治家でもあるんだろうね」
ライラは口を歪めて言うヤザンに対して言った。
「そうじゃなきゃあの若さであそこまでなれないだろうしさ」
「あの男にそんな能力があるかな」
ここでカクリコンが言った。
「どういうことだい?」
「いや、これは俺の勘なのだが」
彼はそう断ったうえで言った。
「あの男。あまり大したことはないように思える」
「大したことはないってのかい」
「ああ。確かにそこそこはやるだろうが精々二流だろう。とてもジャミトフ閣下のようにはなれない」
「つまりは小者ってことだね」
「そうだ。それに信用出来そうにもないな」
「それはあるな」
ヤザンはカクリコンのその言葉に頷いた。
「ああしたにやけた奴ってのは腹の中に何を隠していやがるかわかったものじゃねえからな」
「そうだね」
ライラもカクリコンの言葉に頷いた。
「まあ政治家のやることさ。あたし等下っ端には関係ないところがあるけれどね」
「今のところは役に立ってるってことか」
「それだけだね。おかげで助かってるけれどね」
「ところでラムサスとダンケルはどうした」
「今は訓練中だ」
ヤザンはカクリコンに応えた。
「マウアーと一緒にな。ハンブラビとガブスレイでな」
「そうか」
「そういやジェリドの奴もいねえな。何処に行ったんだ?」
「ジェリドも訓練中さ」
「そうか」
「シロッコから送られたジ=オに乗ってるよ。慣れる為にね」
「ジ=オだと!?」
「ああ。シロッコは別のものに乗り換えるらしくてね。それで送って来たのさ」
「ジ=オをか」
「ジェリドが一番合ってるそうだからね。それで送ったらしいね」
「それでもあれを送って来たってのかよ」
「何ならあんたも乗るかい?乗りこなせる自信はあるだろう?」
「いや、俺はいい」
だがヤザンはライラのその言葉を断った。
「俺にはハンブラビがあるからな。それで充分だ」
「そうかい」
「しかしあれを送って来るとはな。シロッコの奴、何を考えてやがる」
「あいつにもあいつの考えがあるんだろうさ。あたし等とは別にね」
「また色々とありそうだな」
「何でもロンド=ベルがまた来るそうだしね。楽しみにしておきなよ」
「ああ、わかったぜ」
ヤザンはそれを聞いて不敵に笑った。
「また派手にやらせてもらうぜ」
「期待してるよ」
三人はそんな話をしながら倉庫に入っていく物資を見ていた。ティターンズはロンド=ベルとの次の戦いに入ろうとしていた。
そのロンド=ベルは京都、そして明日香での戦いを終え舞鶴から中国東北部に向かっていた。そしてまずは瀋陽で止まった。
「まずはここからだな」
「はい」
ブライトは大文字の言葉に頷いた。
「大シンアンリン山脈を越えモンゴルに向かう」
「そしてそこから中央アジアを経由して欧州に向かうとしましょう」
「いや、それは少し待ってくれ」
だがここでグローバルが話に入ってきた。
「何かあるのですか?」
「うむ、実はギリシアにティターンズとドレイク軍が進出して来ていてな」
「彼等に向かわなければならないと」
「そうだ。だから道を変えたい」
彼は言った。
「まずはモンゴルにいるギガノス地上部隊を叩く」
「はい」
「そしてそれからトルコに向かいそこからギリシアに入りたい。それでいいか」
「そうですな、それで行きましょう」
大文字はそれに賛同の言葉を述べた。
「バルカン半島からヨーロッパに入るルートも有効ですし」
「そしてそこからドイツに入って行くのですね」
「どうかな、それで」
「わかりました、それで行きましょう」
ブライトもそれに賛成した。
「そしてそのまま西欧に主力を置くティターンズ、ドレイク連合軍を叩いていく」
「ではそのルートで決定だな」
「了解」
進撃ルートも決定した。こうしてロンド=ベルは瀋陽で補給を整えた後でモンゴルに向かうのであった。
「何ていうか予想通りだよな」
「ああ」
ケーン達はナデシコの食堂で話をしていた。
「ラーメンに餃子に炒飯」
「中華の定番だよな」
「けれど羊は中華の定番じゃないぞ」
ライトがケーンとタップに突っ込みを入れた。
「少なくとも日本の中華料理店じゃな」
「そういやそうだな」
タップがそれを聞いて納得する。
「それにこの焼き餃子だって日本だけだよな」
「そういやそうだ」
ケーンもそれを聞いて頷く。
「水餃子や蒸し餃子の方が多いよな」
「何で日本の中華料理店だけ焼き餃子なんだ?」
「それはこの東北独特の料理なんだよ」
サイサイシーが彼等にそう答えた。
「へえ、そうだったのか」
「ほら、日本人は昔ここに一杯いたよね」
「ああ」
「それで焼き餃子が餃子だって思ったんだよ。実際はここだけの変わった料理だったんだ」
「へえ、そうだったんだ」
「そりゃまた意外だな」
「あと麺も違うな」
ライトはラーメンを啜りながらサイシーに言った。
「東北の麺は油っこいな」
「寒いからね」
「そりゃまた。気が利いてるね」
「タップにとっちゃ敵だな、そりゃ」
「うるせえ。そういう御前だってどれだけ食ってるんだよ」
「俺か?俺はいいんだよ」
ケーンは羊の唐揚げを食べていた。
「太らない体質だからな」
「それで油断してたかあっという間に太っちまうぜ」
ヂボデーが油断している彼に対して言う。
「そうしたらリンダちゃんにもふられてな」
「そりゃまたご愁傷様ってことで」
「おめえ等同じ声で同時に言うんじゃねえよ」
ケーンはタップとヂボデーにこう言い返した。
「ったくよお、飯位まともに食いてえよな」
「おいおい、御前だってかなりしゃべっているじゃないか」
ライトが突っ込む。
「けれどよ」
「まあここは落ち着くんだな」
アルゴは八宝菜を食べていた。
「折角美味いものを食べているところだしな」
「そうですね。アルゴ=ガルスキーの言う通りです」
ジョルジュは優雅に中華料理を食べていた。少なくともケーン達のそれとは大きく違っていた。
「ここは料理を楽しみましょう」
「嬉しいなあ、そう言ってもらえると」
後ろからアキトの声が聞こえてきた。
「おっ、これアキトの作ったラーメンだったのか」
「ああ、そうだよ」
ケーンに応える。
「どうかな、今回は」
「中々いいんじゃないの?量も多いし」
「キャオは食べられればいいからね」
「おめえに言われたくはねえよ、アム」
「チャーシュー抜いて下さいね」
「綾波ってやっぱりお肉食べないんだね」
「ええ」
「シンジ君は平気なんですね」
カトルがそれを見て言う。
「あれ、何か不都合があるの?」
「豚肉を使っていると。どうしても」
カトルはアラブ系の富豪の家に生まれている。だから豚肉は宗教的な理由で御法度なのだ。
「大丈夫だよ、これトリガラだから」
「そうですか、それはよかった」
彼はそれを聞いてほっとした顔になった。
「では僕も一杯下さい」
「毎度」
「それにしても最近こうして話すことなかったから何か新鮮だね」
「そうですね。シンジ君も元気で何よりです」
「まあまさかまたエヴァに乗るなんて思わなかったけれど」
「それも運命っちゅうこっちゃな」
「トウジ君もよく無事でしたね」
「洪さんに助けてもろうたからな。けどあん時はホンマやばかったで」
「御免、あの時は」
「御前が謝ることはあらへんわ。事故やさかいな」
「けど」
「過ぎたことを言っても仕方ねえぜ」
デュオが俯きかけたシンジを慰める。
「これからのことが大事なんだからな」
「うん」
「しかし、見事なラーメンだな」
その横でウーヒェイがラーメンを啜っていた。
「コシもいいしスープもいい」
「そのまま店を開けるな」
トロワも言った。見ればかなりの者が食堂に来て中華料理を食べていた。
「ところでデュオ」
「ああ、俺?」
「そうだ」
デュオは自分の指で自分を指差した。ウーヒェイはその彼に対して言った。
「マリーメイアが御前を呼んでいたぞ」
「ゲッ、マリーメイアがかよ」
「何かあるの?」
「デュオはマリーメイアが苦手なんですよ」
カトルは微笑んでシンジにそう説明する。
「ふうん、また何で」
「あとニナさんとミスティさんも。どうしてでしょうね」
「何となくなんだよな」
デュオは困った顔でこう返した。
「マサトさんもそうみてえだけれどな」
「ふうん」
「声を聞くとな。何か身体が強張っちまうんだ」
「仲良さそうなのに」
「声の関係でしょうね」
カトルは笑いながら言った。
「宙さんと万丈さんの関係と一緒で」
「その話は止めておいた方がいい」
ヒイロはポツリと言った。
「それがお互いの為だ」
「そういえばカトル君の声ってあのファラ=グリフォンって人と似てるよね」
シンジは普通にこう述べた。
「そ、そうでしょうか」
カトルはそれを言われて何故か焦りを見せていた。
「あとレビさんにも」
「他人の空似ですよ、ははは」
「そうかなあ」
それでも気付かないシンジは言葉を続ける。
「あとトウジとドモンさんの声も。僕もリンさんと似てるって言われるし」
「私も驚いているがな」
そこに来たリンが言い返した。
「不思議なものだ、少年」
そしてシンジの声を真似て言う。それは確かにそっくりだった。
「そのうち俺の声にそっくりな傷のある奴が出て来たりしてな」
「ははは、まさか」
これは流石に皆信じようとはしなかった。
「他にも青い髪の奴とかグレイトが口癖の奴とかな」
「そして緑の髪の奴とかね。出たら臍で茶沸かしてやるわよ」
「アスカ、一つ言っておくことがある」
「何よ」
ムッとした顔でヒイロに問う。
「あまり滅多なことは言わない方がいい」
「そんなのあんたに関係ないでしょ」
「そないざって時は臍で茶沸かしてもらうで」
「有り得ないわよ、どうせ」
そんな話をしている間にタオアン方面に向かう。だがここでレーダーに反応があった。
「あれっ、これは」
「どうした!?」
ブライトはサエグサに尋ねた。
「ギガノスのものではありません」
「では一体」
「ポセイダル軍のものです」
「何っ、ポセイダルだと」
それを聞いたブライトの顔が険しくなる。
「ここにか」
「はい、その数約七百」
サエグサは今度は数を言った。
「バルマーのマシンもあります」
「ブライト、ここは応戦するぞ」
アムロがブライトに対して言う。
「数が多い。しかもバルマーのマシンは数が多い」
「振り切れないか」
「そうだ。応戦した方がダメージは少ない」
「わかった、では総員出撃」
ブライトは意を決した。そして出撃命令を出す。
「ここで迎え撃つ。そして戦闘終了後またあらためて進軍を開始する」
「了解」
「では俺も行こう」
「頼むぞ。不意の遭遇戦だがな」
「何、いつものことさ」
アムロは笑って友に返した。
「もう慣れているからな」
「頼りにさせてもらうぞ」
「こちらこそな」
そんな軽いやり取りの後で総員出撃し戦闘態勢に入った。そして布陣を終えたその瞬間にポセイダル軍とバルマー軍が北から姿を現わしたのであった。
「今回はマーグはいないようだな」
ケンジが敵を見てこう言った。
「かわりに変な形の戦艦がいるな。あれは何だ」
「バルマーのものではないようですね」
アキラがそれに応える。
「だとすれば何だ」
「またどうせどっかからの星から徴発したやつでしょうけれどね」
ナオトは相変わらずシニカルな様子であった。
「いつもみたいに」
「そうか。だが気になるな」
それでもケンジの警戒は晴れなかった。
「気をつけておこう。いいな」
「了解」
「司令」
ケンジが言うその変わった形の艦の艦橋でロゼがマーグに顔を向けていた。
「宜しいのですか、また前線に出られて」
「構うことはないさ」
だがマーグはロゼのその言葉には構うことはなかった。
「前線に出なければ。戦う意味がないからね」
「ですが司令の身にもしものことがあれば」
「その心配はいらないさ」
マーグはロゼを落ち着かせるようにして言う。
「私が戦死すると思っているのかい?」
「えっ、それは」
ロゼは言葉を詰まらせた。
「わ、私はただ。司令の御身を気遣って」
右に顔を俯けて言う。やはり顔が少し赤くなっている。
「そうか、有り難う」
マーグはロゼの言葉に応えて礼を述べた。
「けれど心配はいらないよ。私のことならね」
「では」
「私のことより部下達のことを考えてくれ。それが君の役目だ」
「わかりました、それでは」
ロゼは応えた。そしてその部下達に指示を下す。
「司令の御言葉だ。命を無駄にすることのないよう」
「何っ!?」
これに驚きの声をあげたのはポセイダル軍の者達であった。
「くれぐれも無理はするな。次の戦いがあるということを忘れるな」
「これは一体どういうことだ」
それを聞いたリョクレイがいぶかしむ。
「あのバルマー軍がそのようなことを言うなぞ」
将兵、しかも被占領地の将兵を消耗品とみなすのがバルマー帝国のやり方である。それでこの様なことを司令官が言うとは予想外のことであったのだ。
「あの司令なら有り得るね」
いぶかしむリョクレイに対してリィリィが言った。
「有り得るか」
「あの司令は何かと甘ちゃんだからね。そんなヒューマニズムってやつにかぶれてるんだろうさ」
「そうなのか」
「そうさ、だからそんなに気にする必要はないさ」
「ふむ」
「それよりもあたし達下っ端はこれまで通りやるよ」
彼女はリョクレイに言う。
「どのみち戦争やってるんだ。命の掛け合いだからね」
「わかった。では行くか」
「了解。いいかい、ギャブレー」
「うむ」
ギャブレーはリィリィの言葉に頷いた。
「このギャブレット=ギャブレー、何時でも用意は出来ている」
「そうかい、じゃあ先陣を務めな」
「それはまた名誉なこと」
先陣を務めるのは武人としての栄誉とされている。ギャブレーの様にそうした古風なことに弱い男にとってはまたとないことであった。
「では参ろう」
「かしら、あっしもですかい?」
「無論だ」
ギャブレーはハッシャに言葉を返した。
「名誉なことだとは思わないのか」
「あっしはそれより後ろでぬくぬくとしている方が」
「馬鹿者!そんなことだから貴様は盗賊なぞやっていたのだ!」
ギャブレーはこう言ってハッシャを叱る。
「武人としての栄誉、貴様も受けたくはないのか!」
「そんなことよりあっしはその日の飯の方が」
「うぬうう、嘆かわしい」
ギャブレーはそれを聞いて嘆息する。
「誇り高きポセイダル軍にいながらそれとは。何ということだ」
「漫才はいいから早くお行き」
後ろからリィリィの声がした。
「そんなことじゃ何時まで経ってもはじまらないよ」
「・・・・・・わかった、では行こう」
ギャブレーは咳払いをしてからそれに応えた。
「行くぞ、ハッシャ」
「へいへい」
ハッシャと共に出る。そんな彼に声をかける者がいた。
「ギャブレー殿」
「は、はい」
ギャブレーは脊髄反射してそれに応えた。見ればカルバリーテンプルからの通信であった。
「頼みましたよ」
「クワサン殿」
ギャブレーは夢見るような顔でカルバリーテンプルに乗るクワサンに応えていた。
「お任せ下さい。このギャブレット=ギャブレー、必ずやロンド=ベルを」
「はい」
「ありゃかしら、また一目惚れですかい?」
「だ、黙れ!」
ギャブレーはハッシャの言葉に顔を真っ赤にして取り繕う。
「これは運命なのだ。クワサン=オリビー」
そして言う。
「何と可憐な」
ギャブレーが栄誉と恋に熱をあげている頃ロンド=ベルでは攻撃準備を整えていた。その中にはダバ達もいた。
「おい見ろよ、ダバ」
キャオがアルビオンの艦橋からダバに通信を入れていた。
「またアシュラテンプルが前に出て来ているぜ」
「わかってる、ギャブレーのだな」
「ああ。気をつけろよ」
「にしてもあいつもしつっこいわよねえ」
「しつこい男は嫌いなのだがな」
アムとレッシィが呟いた。
「まっ、言っても仕方ないし」
「行くぞ。いいな、ダバ」
「ああ」
ダバはそれに頷いた。そして前に出る。そこで気がついた。
「!?」
「どうしたの、ダバ」
リリスが彼に声をかけてきた。
「いや、あのカルバリーテンプル」
ダバはポセイダル軍の中にいる一機のカルバリーテンプルを指差して言った。
「あれはまさか」
「クワサンだっていうの?」
「俺の勘が正しければ」
心の中では確信していた。
「オリビー、どうしてポセイダル軍に」
「それを確かめる為にもここは退くわけにはいかねえな」
「ああ」
キャオの言葉に頷く。
「サポートはあたし達がするから」
「ダバはそのクワサンのところへ行くんだ。いいね」
「済まない。じゃあその言葉に甘えさせてもらう」
アムとレッシィに応えた。
「行くぞ、リリス」
「うん、気をつけてね」
ダバの前進が戦いのはじまりとなった。ギャブレーもそれに対して前に出る。こうしていつもの様に戦いがはじまった。
「参る!」
「そうそういつも同じパターンじゃ飽きるんだよ!」
レッシィがギャブレーの前に出て来た。
「たまには他の台詞考えたらどうだい!」
「貴様に言われたくはない!」
ギャブレーはそう言いながらランサーを振り下ろす。
「いつもいつも私の揚げ足を取りおって!」
「それはあんたに隙があるからさ」
レッシィは笑ってそう返す。
「違うかい、ギャブレット=ギャブレー君」
「ぬうう、私に隙があるだと!」
「少なくともアムロやクワトロ大尉とは大違いだよ」
「こらこら、本当のことを」
「待て、そこの娘」
突込みを入れてきたクェスにも突っかかってきた。
「私を侮辱するか!ガウ=ハ=レッシィの妹か!」
「ちょっと待った」
レッシィがここで言う。
「何でそうした見方になるんだい?」
「声が似ているからだ」
ギャブレーはあっさりとこう返す。
「というか同じに聞こえるのだが」
「フン、声が似ているのはあんただってそうじゃないか」
「何!?」
「仮面被ってる黒騎士にそっくりなんだよ、君の声は!」
「私をあんな訳がわからないのと一緒にするな!」
ギャブレーはムキになって反論する。
「私はあの様な輩とは」
「いや、そっくりだと思うよ」
「この小娘また!」
「ってあたしはチャムだよ」
「同じ声で騒ぐな!」
「何か最近あたしに似た声のが多くてね」
レッシィは苦笑しながら言う。
「困ってたりするんだよ。まああんたも同じみたいだね」
「ぬうう!」
本当のことなので反論しようにも反論出来ないギャブレーであった。
「まっ、そりゃアムも一緒だけれどね」
そのアムはこの時ハッシャと戦っていた。
「もうすっかりギャブレーのウンチみたいだね」
「それが女の言う台詞かよ」
「フン、どうせあたしはそんなキャラなのよ」
「おうおう、やさぐれちまって」
「けれどダバとは固い絆で結ばれてるんだからね」
「どうだか」
「ハッ、まさか」
ここでアムは気付いた。
「あんたもギャブレーと・・・・・・」
「言うに事欠いてそれか!そうしたことは他のところでやりな!おめえとレッシィの二人でよ!」
「誰があんな女と!」
「じゃあそんな下らない話は止めやがれ!俺はそうした話は大嫌いなんだよ!」
アムとハッシャもやり合っていた。彼女達も彼女達でいつもの調子であった。
そしてダバはクワサンが乗っていると思われるカルバリーテンプルに向かっていた。だがその前にリィリィのバッシュがやって来た。
「覚悟おし、ダバ=マイロード」
「クッ!」
止むを得なく剣を抜こうとする。だがそこに助っ人がやって来た。
ガンダムローズであった。ジョルジュはサーベルを抜いてリィリィのバッシュのセイバーを止めていた。
「ジョルジュ!」
「ここはお任せ下さい、ダバ=マイロード」
ジョルジュは気品のある声でこう述べた。
「貴方は先へ」
「済まない」
先へ行こうとする。だがそこにもポセイダル軍のヘビーメタル達がいる。しかしそこにもシャッフル同盟が現われた。
「ハイハイハイハイハイハイハイハイーーーーーーーーーーーーッ!」
「吹き飛べぇーーーーーーーーーーーーっ!」
蹴りとパンチの風圧によりヘビーメタル達が蹴散らされていく。そしてそこにハンマーが襲い掛かる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
サイシー、ヂボデー、アルゴの攻撃であった。三人の派手な攻撃で道が開いた。
「ダバ兄ちゃんは先に行ってな!」
「ここは俺達が引き受ける!」
「後ろを振り返る必要はない」
「有り難う」
ダバはそれに礼を述べてまた先へ進む。そして遂にカルバリーテンプルの前まで来た。その横ではアレンビーのノーベルガンダムがリョクレイのバッシュの相手をしていた。
エルガイムマークⅡがカルバリーテンプルの前に来た時だった。そのカルバリーテンプルからパワーランチャーが放たれた。
「死ね!」
「クッ!」
ダバはそれをかわした。そしてその時の声で確信した。
「この声、間違いない」
「クワサンのものなのね」
「ああ」
リリスに応える。
「オリビー、どうしてまた」
顔に苦いものが浮かぶ。そしてクワサンに対して言った。
「オリビー!」
「ダバ=マイロード、また御前か!」
「思い出すんだ!一緒にコアムにいたあの時のことを!」
「ウッ・・・・・・」
それを聞いたクワサンの顔が突如として歪んだ。
「う、うう・・・・・・」
そして頭を抱えて苦しみだす。それが少し収まってからダバに対して言った。
「や、止めろ・・・・・・」
それでもまだ呻いていた。
「何故御前は・・・・・・私をこんなに苦しめるのだ」
「クワサン、俺だ、ダバだ。一緒に来るんだ!」
「ダバ・・・・・・マイロードか」
「!?」
声が変わった。その声はクワサンのものではなかった。
「まさか、その声は」
「私はオルドナ=ポセイダル」
その声の主はクワサンの身体を借りて語っていた。
「オルドナ=ポセイダルだと!?」
「それってまさか」
「そうだ、ペンタゴナの支配者だ」
クワサンの身体を借りたポセイダルはそう名乗った。
「オルドナ=ポセイダル!オリビーの身体を操って」
「ダバ=マイロードよ」
だがポセイダルはダバに構わず逆にダバに問うてきた。
「何だ」
「何故御前は私の支配にあがらうのか」
「知れたこと、それは御前が独裁政治を敷いているからだ!」
彼はそう言って反論した。
「人は支配されなければ生きてはいけぬ」
「その支配もまたバルマーの手によるものだ!ペンタゴナのそれぞれの文化まで破壊しておいて何を言う!」
「それは妥当だ」
「逆らう者は皆殺しにしてまでか!それじゃあバルマーのやり方そのままじゃないか!」
「当然だ。逆らう者には死だ」
「だからヤーマンも殺したのか!」
「ヤーマン!?」
ポセイダルはその言葉に反応した。
「ヤーマン族のことか」
「それがどうした!」
「成程。御前はヤーマン族の生き残りなのだな」
「カモン=マイロード」
ダバは言った。
「これが俺の持って生まれた名だ」
「ではカモン王家の生き残りか」
「そうだ!貴様に一族を全て殺された!オルドナ=ポセイダル、貴様によってな!」
ダバは何時になく激しい調子で叫ぶ。だがそれに対してポセイダルの声は冷酷なままであった。
「そうだったのか。だがヤーマン族皆殺しは私の意志ではない」
「嘘をつけ!」
「あれはペンタゴナの、そして銀河の意志だったのだ」
「また嘘を!」
ダバはそれを否定する。
「ヤーマン族根絶やしがペンタゴナの意志だと!」
「そうだ。全ては秩序の為」
ポセイダルは言う。
「ペンタゴナの安定の為に必要だったのだ」
「それは独裁者のエゴだ!その証拠に今御前はオリビーを操っている!」
彼は叫ぶ。ポセイダルに対して。
「オルドナ=ポセイダル!オリビーから出て行け!」
「うっ・・・・・・」
ここでポセイダルが消えた。オリビーの顔も険のあるものから元に戻っていく。
「うう・・・・・・」
「オリビー、大丈夫か」
「わ、私は・・・・・・」
「早くこっちへ来るんだ!オリビー!」
「ダバ=マイロード」
ダバを虚ろな目で見る。だがそれだけで何も語ることは出来なかった。
「気分が悪い」
そう語るので精一杯であった。
「撤退する・・・・・・」
そして退いていく。後には呆然とするダバだけが残った。
「オリビー・・・・・・」
「大丈夫だよ、ダバ」
そんな彼をリリスが慰めた。
「きっと何時か洗脳が解けるから」
「ああ」
「洗脳だと」
それを耳に挟んだギャブレーが呟く。
「まさかクワサン殿は」
「こら、ギャブレー」
しかしここでレッシィの叱る声がした。
「戦場で余所見をするな!」
「余所見ではない!」
「じゃあ何だっていうんだい?」
「ただ単にちょっと話を聞いていただけだ!人聞きの悪いことを言うな!」
「それを盗み聞きって言うんだよ!」
「おのれ!」
彼等はいつもの調子であった。そんな調子で戦いは進んでいる。
ロンド=ベルは主力を前方に置き、左右からも攻撃を仕掛けていた。数においては劣っていたがやはりパイロットの技量とマシンの質が大きくものを言っていた。それは作戦を執るマーグにもわかっていた。
「やはり。一筋縄ではいかないか」
「私も出撃しましょうか」
「いや、今はいい」
彼はこう言ってロゼを制止した。
「今は無理をする時じゃない。撤退しよう」
「はい」
「ただ後詰が必要だね。彼女はどうしているかな」
「あの女ですか?」
「うん。ちょっと彼女に今回の後詰を頼みたいのだけれど」
「わかりました。ではすぐに出撃させましょう」
ロゼはそれに答えてこう述べた。
「アルフィミィを出撃させよ」
そしてすぐに指示を出した。
「ベルゼイン=リヒカイトでな」
「了解」
すぐに受諾の返事が返って来た。それに従い戦艦の中から一機赤く禍々しい機体が出撃した。
「彼女が敵を引き付けている間に我々は撤退しよう」
マーグは言った。
「そして我々が戦場から離脱したら彼女にも撤退するように伝えてくれ。いいね」
「はっ」
こうしてバルマー軍は撤退に移った。ポセイダル軍もこれに続く。
「何だ、もう撤退なのかい」
「その勝負、預けておく!」
ギャブレーが最後にレッシィに対して言った。そして戦場を離脱にかかる。
「ハッシャ、行くぞ!」
「待って下さいよおかしらぁ~~~~」
そんな軽いやりとりをしながら戦場から離脱した。だがロンド=ベルの前には別の敵が立ちはだかっていた。
「何だ、あの赤くて化け物みてえなデザインのマシンは」
豹馬がベルゼイン=リヒカイトを指差して言う。
「何か見るからに敵だって感じがするんだけれどな」
「敵なのは間違いないだろうな」
それに一平が答える。
「だが問題はその力だ」
「それだが気をつけろ」
ライが彼等に言う。
「一度宇宙でやりあった。相当の力がある」
「そうなのか」
「あのアストラナガンとほぼ互角だ。注意しろよ」
「おいおい、アストラナガンとかよ」
豹馬はそれを聞いて驚いたように言う。
「とんでもねえ奴みてえだな、そりゃ」
「けれど一機だけよ」
ちずるが言う。
「油断しないで行けばいいじゃない」
「いえ、残念ですがそうもいかないようです」
それに小介が答える。
「僕の見たところあのマシンはかなりの戦闘力を持っています。だから一機で戦場に残っているのでしょう」
「つまり切り札ってことでごわすな」
「はい」
小介は大次郎に答えた。
「気をつけて下さい。かなりのパワーを持っていいますから」
「そうだろうな。ライディーンも警戒している」
洸が言った。
「こんなに禍々しいパワーは。宇宙怪獣以来だぜ」
「だとしたらあれはかなり危険な奴だな」
京四郎も言った。
「皆ここは警戒しろ、下手なことをすれば命取りになる」
「了解」
多くの者はそれで迂闊に前に出ようとはしなかった。だがキョウスケだけは別だった。
「ちょっと中尉」
それを見てアクアが思わず声をあげる。キョウスケのアルトアイゼン=リーゼがその赤いマシンに向かっていたのだ。
「危ないですよ、迂闊に前に出ちゃ」
「いや、大丈夫だ」
しかしキョウスケはそれを聞き入れることはなかった。
「こいつのことは。よくわかる」
「よくわかるって!?」
「何か知っている気がする。だから大丈夫だ」
「大丈夫って・・・・・・」
「つまり勘ってことね」
エクセレンがそれを聞いて言った。
「何かキョウスケらしいけれど滅茶苦茶よね」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ、ブロウニング中尉」
アクアは今度はエクセレンに声を向けた。
「無謀ですよ、こんなこと」
「まあ普通に考えればそうよね」
しかしエクセレンはいつもの調子だった。
「けれどキョウスケだから。何とかなるんじゃないかしら」
「何とかって」
「少なくとも立ち止まっては何にもならないな」
ヒューゴも話に入って来た。
「いつもそうそうイングラム少佐が出て来てくれるわけじゃない。ここは俺達だけでもやらなくちゃいけない」
「ちょっとヒューゴ」
アクアはヒューゴの相手もしなくてはならなくなった。
「あんたまで。三人共ちょっと落ち着いて」
「一番落ち着いてないのってどう見てもアクアさんだよな」
「そうよね」
ジュドーとルーは慌てているアクアを見て囁く。
「あんなのとまともにやり合っても勝てる可能性は」
「あら心配性ね、アクアは」
「そ、そうじゃなくて」
完全にエクセレンに手玉にとられていた。
「迂闊なことはやっぱり」
「ひょっとしてアクアさんって結構焦るタチなのかな」
「どうやらそうみたいだね」
イーノがビーチャに応えた。
「ありゃ結構予想外のことになるとうろたえるタイプよ」
「そうかも、見ててそんな感じするよ」
エルとモンドも言う。流石に彼等は鋭かった。
「一機だけで勝てないのなら二機で行けばいい」
「それが駄目なら三機四機ってことで」
「四機ってまさか」
アクアはそれを出されてハタと気付いた。
「そうよ、貴女はフォローお願いね」
「お願いって言われても」
「後ろは任せたぞ」
「こらヒューゴあんたまで」
もう既に三人はリヒカイトに向かっていた。アクアにとってはもう手遅れであった。
「そんなこと言ってたら」
だがもう遅かった。三人はリヒカイトと対峙していた。アクアは止むを得なくサーベラス=イグナイトを三人をフォロー出来る場所にまで移動させた。
「何だかんだ言って的確に動いてくれてるじゃない」
エクセレンはそんなアクアを見て言った。
「ナイスフォローが期待できるわね」
「そうだな。頼りにさせてもらおう」
キョウスケは静かな声で応えた。
「いいな、エクセレン」
「ええ」
「ヒューゴも」
「ああ」
二人はそれぞれ頷いた。
「ここは俺に任せてもらう。この赤いマシンの相手はな」
「また来られたのですね」
リヒカイトから声がした。
「ロンド=ベルの皆さん。お久し振りです」
「そういえば長い間会っていなかったっけ」
エクセレンがそれに対して返した。
「何か私にそっくりの声でちょっとあれなんだけれど」
「少しの間、ここでじっとしてもらいますね」
「つまり足止めというわけか。だが」
それでもキョウスケはやるつもりだった。
「ここで見せてもらおう。御前自身をな」
「私をですか?」
「そうだ。御前が何者なのかをな」
彼は言う。
「バルマーの何なのかをな」
「バルマーの」
その言葉にレビが反応した。
「まさか」
「どうしたんだ、レビ」
その彼女にリュウセイが尋ねた。
「急に怖い顔になってよ」
「いや、何でもない」
しかし彼女はそれは誤魔化した。
(まさか)
だがそれでも心の中で呟かずにはいられなかった。
(バルマーはまた)
それは今は口には出さなかった。しかし確実に何かを察していた。
「行きますよ」
アルフィミィは四人に対して言った。
「これが私のやるべきことですから」
「来るか」
キョウスケはリヒカイトが動いたのを見て呟いた。
「いいな」
「任せて」
「やってやる」
エクセレンとヒューゴが彼に応える。
「エクセレンは右、ヒューゴは左だ」
キョウスケは指示を出す。
「そしてアクアはフォローダ。俺は正面から行く」
「ナンブ中尉」
「何だ」
アクアに応えた。
「気をつけて下さいね、本当に」
「わかっている。心配するな」
「はい」
そしてキョウスケ達も動いた。三人一斉に攻撃に取り掛かる。
「これでどうかしら」
まずはエクセレンがライフルを放つ。それに合わせてアクアも攻撃に入る。
「落ちなさいっ!」
だがその二つの攻撃はあえなくかわされてしまった。リヒカイトはその禍々しい姿からは想像もできない程素早い動きを見せたのだった。
「惜しかったですね」
「う~~~ん、やっぱりそうそう簡単には当たらないみたいね」
「悠長なこと言ってる場合じゃないですよ、エクセレンさん」
アクアがエクセレンを注意する。
「そんなこと言ってる間にもう」
「大丈夫よ、少尉」
「大丈夫って」
「もうヒューゴ君とキョウスケが言ってるから。それよりフォローお願いね」
「は、はい」
アクアはそれに頷く。そしてまた攻撃に入る。
「ヒューゴ、そっち出過ぎよ!」
「俺にとってはの位がいい」
アクアは今度はヒューゴに言う。しかしヒューゴはそれを聞き入れようとはしない。
「前に出なければ。敵を倒せはしない」
「無鉄砲と攻撃は違うわよ」
「アクア、御前は黙って見ていろ」
「そういうわけにはいかないのよ」
アクアもムキになってきた。
「撃墜でもされたらどうするのよ」
「その時はその時だ」
「その時はって・・・・・・」
「それよりフォローを頼むぞ」
「え、ええ」
ヒューゴにも言われてまたハッとする。
「わかったわ、それじゃあ」
「頼むぞ」
「何ていうかなあ」
アクアの様子を見てイサムが言う。
「ケントルム少尉ってのは初々しいねえ」
「そうなのですか」
それにミスティが応える。
「ああ。胸はおっきいのにな。新兵って感じでな。やっぱり若い女の子はいいねえ」
「あら、じゃあ私達はどうなんですか?」
レトラーデがむくれた声で尋ねる。
「私もミスティさんも。まだ若いですよ」
「それとも場慣れした女は嫌ってことかしら」
「おいおい、そんなことは言ってないだろ」
イサムは慌てて取り繕う。
「俺はだな。そもそも」
「どうせ私は胸もアクアさんみたいにないですよ」
「レトラーデ、そういう問題じゃないんじゃ」
「いや、胸はだな」
イサムはさらに取り繕おうとする。
「そういう問題じゃなくてな」
「胸がどうしたのかしら」
シルビーも参戦してきた。
「ダイクン中尉、セクハラは駄目ですよ」
「今度はセクハラかよ。いい加減いじめないでくれよ」
「だってダイクン中尉いやらしいんですもの」
「ちょっとはお灸を据えないとね」
「ったくよお、何か俺だけいつもこんな感じだな」
「日頃の行いが悪いからだ」
ガルドがそんな彼に対して言う。
「おいおい、御前まで言うのかよ」
「少しは口を慎め。口は災いの元だ」
「ちぇっ」
「けれど確かにケントルム少尉は初々しいな」
ネックスも言った。
「何て言うか。実戦経験が少ないっていうかな」
「それは仕方ないんじゃないか」
それに対してヒビキが言う。
「やっぱりさ。士官学校を卒業したばかりだし」
「というとエリートさんなんだな」
柿崎がそれを聞いて言った。
「そういうことになるな。あの若さでな」
「若いっていっても実は」
「歳の話はしないでよ」
アクアはバルキリーのパイロット達のモニターにも出て来た。
「おおっと」
「私だって気にしてるんだから」
「一応私も同じ歳だったりして」
エクセレンも出て来た。
「だから気をつけてね」
「二十三か」
「はいそこ、それ以上の話は厳禁」
霧生に対してクレームをつける。
「女の歳はトップシークレットなんだから」
「了解」
「気をつけてね。さもないと女の子にもてないわよ」
「そういうことだ霧生」
フォッカーがここで言った。
「用心しておけよ」
「用心ですか」
「バルキリーのパイロットには女難の相を持ってるのが多いそうだからな。なあ輝」
「えっ、俺ですか」
輝は話を振られて戸惑いを見せる。
「そうだ。御前はそうした経験が多いからな」
「そうですかね」
「何言ってる、御前が女難じゃなくて何だっていうんだ」
「それは」
「フォッカー少佐」
しかしここで早瀬がフォッカーのモニターに出て来た。
「今は戦闘中だということをお忘れなく」
「そして怖いお姉さんに怒られるってな」
それでもフォッカーは変わらなかった。そんな話の途中でも戦いは行われていた。
「うおおおおおっ!」
キョウスケが拳を繰り出す。だがそれもアルフィミィにかわされてしまった。
「ムッ!?」
その動きを見てキョウスケはあることに気付いた。
「この動き・・・・・・まさか」
「中尉、危ないぞ!」
しかしここでヒューゴの声がした。
「ヒューゴ」
「後ろに跳べ!今すぐだ!」
「・・・・・・わかった!」
キョウスケはそれに従った。すると彼が今までいた場所をリヒカントの刃が切り裂いた。間一髪であった。
「見事です」
「まさかそう来るとはな」
キョウスケはその刃を見て言った。
「俺の攻撃をかわした直後にか」
「何が来るのかわかっていましたから」
抑揚のない声で語る。
「わかっていたら避けるのは簡単です」
「そうか。では俺も本気でやらせてもらう」
キョウスケの拳に力が入った。
「どの様な動きだろうとも」
アルトアイゼンを闘気が覆った。
「俺のこれはかわせるか」
身構えると激しい動きに入った。そしてそこから攻撃を繰り出す。
「!?」
アルフィミィはその動きを見て一瞬目を奪われた。
「その攻撃は」
「かわせはしまい」
「バルマーのどのマシンよりも」
攻撃が命中した。クレイモアがその胸を切り裂く。
「うっ・・・・・・」
「急所はかわしたか」
キョウスケはその傷を見て言った。
「俺の攻撃から急所を外したのは。御前がはじめてだ」
「シヴァー様よりも手強い」
「シヴァー!?」
その名を聞いたヴィレッタが声をあげる。
「あの娘、まさか」
「けれど私もここを退くわけにはいきません」
だがアルフィミィはそれでも戦場から離れようとはしなかった。
「それが私の仕事ですから」
「まだ戦うというのか」
「はい」
キョウスケの言葉にも澱みなく答える。
「ですから。来て下さい」
「わかった。では次で決める」
そしてまた攻撃に入ろうとする。だがここで戦場に一機の戦闘機が姿を現わした。
「あれは」
「アルフィミィ、もう下がりなさい」
それはゼーロンであった。それに乗っているのはロゼしかいなかった。
「副司令」
「マーグ司令からの伝達です。我が軍は既に安全な場所まで撤退しました。これ以上の戦闘は無意味とのことです」
「では私も下がっていいのですね」
「はい。その為にここに来ました」
ロゼは言う。
「貴女を迎えに」
「私を」
「司令が行かれると言ったのです。しかしここは私が来ました」
「そうだったんですか」
「さあ、戻りなさい」
ロゼは命令した。
「いいですね」
「わかりました。それでは皆さん」
ロンド=ベルの面々に対して挨拶をする。
「御機嫌ようです」
そして彼女は姿を消した。それを見届けたロゼも去る。それを以ってロンド=ベルとバルマーの戦いは終わったのであった。
「シヴァーか」
キョウスケはアルフィミィの言葉を口にしていた。
「バルマーの者かな」
「ええそうよ」
ヴィレッタがそれに答える。
「ヴィレッタ大尉」
「彼はバルマーの宰相にして十二支族ゴッツォ家の長」
「じゃあかなりの大物だな」
「そしてバルマーの一切を仕切る者。その彼が関わっているとなれば」
その鋭い美貌に陰が差していた。
「あのアルフィミィって娘には何か重大な秘密があるわね」
また一つ謎が生まれた。ロンド=ベルはこうして多くの因果に自分達を導いていた。だがそれは彼等自身はまだ気付いてはいなかった。謎は謎のまま、そしてまだ気付かれてはいなかったのであった。
そしてもう一つの謎も。戦場から帰って来たダバは暗い顔をしていた。
「あの時のオリビーは」
彼は言った。
「何故、ポセイダルに」
「ポセイダルの奴がクワサンに出て来たんだよな」
「ああ」
彼はキャオに応えた。
「その通りだ。けれどどうして」
「バイオセンサーかも知れないね」
「バイオセンサー」
ダバ達はレッシィのその言葉に反応した。
「それは一体」
「ポセイダルが持っている技術の一つさ。洗脳してね、自分の意識を潜り込ませられるようにしたものさ」
「そんな技術まで持っているのか、ポセイダルは」
「多分バルマーの技術なのでしょうね」
ヴィレッタも話に入って来た。
「バルマーも洗脳は得意としているから」
「レビのことか」
イルムがそれに対して言った。
「ええ。彼女だけじゃないかも知れないけれど」
「そのクワサンって娘もね。それを施されたのよ」
「何故そんなことを」
「組織を内部から見る為でしょうね」
ヴィレッタは語った。
「上から見ただけではわからないこともあるから。そうして組織の中を見ることによって」
「支配し易くなるってことだね」
「クッ、ポセイダルめ」
ダバはそれを聞いて舌打ちした。
「何処までも。支配者の論理なのか」
「それがポセイダルさ」
レッシィは突き放した様に言った。
「あの女は支配する為なら手段を選ばない。誰が犠牲になろうともね」
「だからヤーマンも。そしてオリビーも」
「で、どうするんだ?ダバ」
キャオが問うた。
「クワサンはよ」
「救い出す」
ダバは顔を上げてこう断言した。
「何があっても。助け出してみせる」
「そうだな。そうしないとな」
キャオはそれを聞いて満足したように頷いた。
「ダバじゃねえよ。俺も協力させてもらうぜ」
「キャオ」
「あたしも。何かあったら任せて」
「あたしも入らせてもらおうかな。何かポセイダルが余計に許せなくなったしね」
アムとレッシィも。彼等はやはり仲間であった。
「私達もいるしな」
「ヴィレッタ大尉」
「ダバ=マイロード君、後ろは任せろ」
イルムもいた。
「俺達にな」
「すいません、何か迷惑かけてるみたいで」
「おいおい、そんなのは言いっこなしだぜ」
ブリットが言った。
「俺達だってダバにはいつも助けられてるし」
「こうした時はお互い様だ」
「リンさん」
リンもそこに来ていた。彼女はイルムと一緒にいたのだ。
「いいな、ダバ=マイロード君」
「はい」
「それじゃあお姫様の救出も頑張ろうぜ」
最後にキャオが言った。
「王子様を護衛してな」
「もう、キャオったら」
そんな彼にリリスが声をかける。
「またふざけて」
「ふざけちゃいないぜ、本当にダバは王子様なんだからな」
「あっ、そうか」
「よしてくれよ、そんなの」
ダバはそんな二人に苦笑して言った。
「俺はダバ=マイロードなんだから。前と同じさ」
「けれど下着は変わったよな」
「何だ、ダバもトランクスになったのか」
ブリットがふと口にする。
「うん。色は一緒だけれど」
「じゃあ青か」
「何かここじゃ皆トランクスなんだよな」
「穿いてみると結構いいものだよな。最初は抵抗があったけれど」
「ヤマガタケさんは褌だけどな。武蔵さんも」
「まあそういう人もいるってことで」
「結構汚れも目立たないしな」
「そうそう」
最後は下着の話で和んでいた。だがすぐに次の戦いが彼等を待っているのであった。そしてそれへの備えももうはじまっていたのであった。

第八十一話完

2006・3・17 
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