| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第39話 新組織、デストロン

 薄暗く不気味な部屋。
 周囲には不可思議な機材が置かれておりモニターには小難しい文字が刻まれ続け、その周囲ではボタン等が光り続けている。
 広さはそれ程広くはなく、ざっと見積もってもせいぜい十畳程度の狭い部屋だ。その部屋の中に先ほどの怪人ハサミジャガーは居た。
 そのハサミジャガーは壁に掛けられたマークの前に方膝を付き頭を垂れていた。目上の物に対し尊敬と忠誠を表すかのようにそのハサミジャガーはその姿勢を保っていた。
 そんなハサミジャガーを見下ろすかのように壁に掛けられた彫絵がそれを見ていた。毒サソリをモチーフにした彫絵だ。
 その彫絵の中央には紅い点滅するランプが取り付けられておりそれが点滅すると同時に野太い声が響いてきた。ずんと重低音で凄みのある声だ。

【姿を見られたようだな、ハサミジャガーよ】
「はっ、申し訳ありません。ですが、その男と女の行方を今追っております。必ずやこの手で八つ裂きにして参ります!」

 念を押すようにハサミジャガーは言う。
 只取り逃がしたのであっては自分は処分されるのが落ちだ。
 それ以前に逃げられたままと言うのは彼のプライドが許さない。必ず見つけ出して八つ裂きにしなければ気が済まないのだ。
 そんなハサミジャガーの性格を声の主は知っていた。
 知ってて当然だ。彼等を作ったのはこの声の主なのだから。声の主が命令を送り作り出し命令を送る。この関係こそショッカーと似ている。
 再びランプが点滅した。野太い声が部屋中に響き渡ってくる。

【待て、ハサミジャガー、男は殺して構わんが女は捕えろ!】
「は? 一体何故ですか?」

 意味が分からなかった。この新組織の掟としては、姿を見られたら誰であろうと殺す掟がある。
 にも関わらず目の前に居るその首領は女を捕えろと言う。一体何故?

【その女、恐らくかつて我等に歯向かった時空管理局とか言う組織の人間に違いない。捕えてその女から情報を聞き出すのだ】
「成る程。分かりました、このハサミジャガーにお任せあれ!」
【吉報を待っているぞ、ハサミジャガーよ】
「シザァァァァァス!」

 首領と呼ばれる絵に向かいハサミジャガーは諸手を振り上げて叫んだ。其処へ一人の戦闘員が走り寄って来た。
 敬礼のポーズを取りハサミジャガーの前に立つ。
 黒い覆面を被っている為目でしかその戦闘員の心情を察知できないで居た。
 が、その戦闘員の目はギラギラと輝いていた。恐らく何か吉報を持ってきたのだろう。
 「ギー!」と掛け声を上げた後戦闘員は報告を始めた。

「報告致します。女の身元は不明ですが、男の身元が判明しました。男の名は”風見志郎”。城南大学在学の学生です」
「城南大学だと? あの本郷猛と同じ大学か……丁度良い。我等デストロン設立の祝いとしてその風見志郎とその家族を皆殺しにするぞ! そいつの家に案内しろ!」
「ギー!」

 恐怖の新組織。
 かつて世界を震え上がらせた悪の秘密結社【ショッカー】
 彼等は世界中から優れた人間を誘拐し、動物、昆虫、植物などの生き物の優れた能力を人間に組み込む事で凶悪な怪人を作り上げ世界征服を目論んだ恐ろしい組織だ。
 そのショッカーすら凌駕する恐ろしい組織が現れた。
 その組織の名は【デストロン】
 彼等の怪人とショッカーの怪人の決定的な違いは、彼等の怪人には機械の一部が組み込まれている事だ。
 それ故今までの恐怖以上に脅威がその怪人から感じ取れるようになったのである。
 果たして、仮面ライダーはこの恐るべき新組織デストロンを倒せるのか。そして、青年風見志郎の運命はどうなってしまうのか?




     ***




「ただいま」

 自宅に辿り付いた志郎は玄関で靴を脱ぎながらそう言った。最早御馴染みの言葉だ。
 この年まで生きてきて何度となく家に入る度に口にした言葉である。すると玄関の方に向かい元気の良い足取りが聞こえてきた。足音は近づきやがて玄関に現れた。
 やってきたのは一人の少女だった。外見から判断して丁度中学生位の年頃と思われる。艶の出た肌と黒い長髪の綺麗な少女だった。
 そんな少女が目を輝かせながら二人を出迎えてくれた。

「お帰り、お兄ちゃん…あれ? 隣の女の人、誰?」
「あぁ、雪子…実はこの人はなぁ…」
「え? もしかしてお兄ちゃんの彼女? あのお兄ちゃんが彼女を家に連れてくるなんて…」

 志郎の説明を聞くよりも前にその少女”風見雪子”は口元を両手で覆い驚愕の顔をしだした。そして何を言い出すかと思えば風見志郎が連れてきたリーゼアリアを志郎の彼女と誤解しだしたのだ。
 年頃の少女らしくこう言った話題には敏感に反応するのが常であろう。しかし、それが誤解の場合誤解された方は溜まったもんじゃない。

「はぁ? 違う違う! この人はそう言うのじゃなくてだなぁ…」
「お父さん、お母さん! お兄ちゃんが彼女連れて来たよぉ!」

 志郎の弁解を無視して雪子はリビングの方へと走り去っていった。それを見た志郎は更に誤解されるとかなり厄介に思えると感じたのかバツの悪い顔をしだす。

「だ、だから違うって言ってるだろうが、コラァ、雪子ぉ!」

 必死に靴を脱ぎながら叫ぶ志郎。そんな志郎を見て後ろでアリアがクスクスと笑っていた。志郎がアリアの方を向いた。少し不機嫌そうな顔をしていた。
 アリアが笑ったせいかと思っていたが、恐らく雪子が不機嫌の原因であろう。

「元気な家族ね」
「あ、いやぁ…普段はこんなんじゃないんだけどね。雪子待てぇ! 父さんと母さんに変な事言うと承知しないぞ!」

 すぐさま室内用のスリッパに履き替えた後、志郎もまたリビングへと駆けて行く。そんな中、アリアは誰も居なくなったのを確認した後、暗い顔をしだした。

(結局見つからなかった。この辺で魔力を感じたんだけど…一体何処にあるのかしら)

 どうやら彼女は何かを探しているようでもあった。
 魔力と言っているが一体何なのであろうか。それを明かすのはもう少し後になりそうである。
 家の中で志郎と雪子の追いかけっこをしている足音が響く。だが、途中でその足音が止んだ。恐らく捕まえたのだろう。代わりに少女の甲高い声が響く。

「おぉい、アリアさん。アリアさんも説明してくれないかぁ? 雪子の奴完全に誤解しちゃっててさぁ」
「はぁい、今行きますよ」

 再び明るい顔になり、アリアもまた用意された室内用スリッパに履き替えてリビングへと歩いて行く。
 其処には何処にでも有る温かい家庭があった。テーブルに座り新聞を読む父。そんな父にお茶を注ぎそっと差し出す母。そしてじゃれあう二人の子供。正しく何処にでもある平和な家庭である。

「ほら、見てよお父さんお母さん。お兄ちゃんがこんな綺麗な女の人連れて来たんだよ。あのお兄ちゃんがねぇ」
「だから違うって言ってるだろ雪子! この人は偶々怪人に襲われてた所を俺が助けたんだよ」
「またまたぁ、お兄ちゃんはホラ話が美味いわよねぇ。で、何処まで行ってるの? 彼女と」
「ゆ~~き~~こ~~」

 流石に堪忍袋の緒が切れたのか拳を震わせながら妹の雪子を睨んでいた。
 勿論本気で殴るつもりなどない。
 そんな事をするほど志郎も子供じゃないのは自覚している。
 しかし、そんな志郎の心境を知ってか知らずか思雪子はわざとらしく飛び上がり、そのままアリアの背後に隠れる。

「キャッ、暴力反対!」
 
 アリアの背中に隠れながらチラリと視線を出す雪子。
 その顔は正しく悪戯好きのやんちゃ娘その物であった。
 目元しか出してないが恐らく見えない部分、口のところでは舌を出してアッカンベーしているに違いない。
 
「ちぇっ、調子の良い奴」

 アリアの背後に隠れられては手出しが出来ない、志郎も拳を収めた。兄の辛いところである。
 それを見て部屋の中でドッと笑い声が響く。そんな感じで一悶着あった後、志郎は彼女と知り合った経緯、そして恐ろしい怪人の事を家族に話した。
 志郎の話を両親は最初は冗談交じりにそれを聞いていたが、徐々にその話が眉唾物じゃないと言う事を理解した。
 そして同時に風見志郎が連れてきた女性がその怪人に狙われていると言う事も理解してくれた。話を聞き終えた風見家一同は最早これが他人事ではないと頷く。

「そうか、大変な目にあったんですねぇ。今外に出ると危ないでしょう。狭い家ですがどうぞ自由にしていて下さい」
「本当にすみません。すぐに出て行きますんで」
「いえいえ、気にしないで下さい。人間困った時は助け合うものなんですから。どうぞくつろいでて下さい」

 とても優しい一家であった。こんな温かい家庭で育ったお陰で、この風見志郎は優しい青年に育ったのだろう。アリアはそう思えた。

「そう言えば志郎。お前今日本郷さんと待ち合わせがあるんじゃなかったのか?」
「あ、いけねぇ! 忘れてた」

 うっかり忘れてたのか、志郎は腕時計を見る。
 待ち合わせの時間はかなり過ぎていた。
 幾ら温厚な本郷先輩でも此処まで遅れたらきっと怒るに違いない。これ以上遅れるとどんな仕置きをされるかと考えると背筋が凍る思いがする。

「御免アリアさん。俺ちょっと用事があるんで。暫くは家でゆっくりしてて下さい」
「はい、志郎さんも気をつけて」

 志郎の身を気遣うアリアに笑みを返し。風見志郎は自宅を出て行った。今から急げばまだ何とか間に合いそうだ。
 そう思いながらも志郎はヘルメットを被りバイクに跨る。エンジンを掛け周囲を確認し、すぐさま目的地へと急いだ。
 だが、志郎が自宅を出た丁度その頃、風見家を遠くから見つめる複数の目があった。それは以前風見志郎とリーゼアリアを取り逃がしたデストロン怪人ハサミジャガーと複数の戦闘員達であった。総勢で十数人は居るであろう。その全員が眼下に居る風見家を見下ろしていた。そのどの視線もが狂気と殺意に満ちていた。

「ギー! あれが風見志郎の家です」
「あれがそうか。今日よりデストロンは活動を開始する。まずその手始めに! 風見志郎とその家族を皆殺しにするのだ!」

 ハサミジャガーの号令と共に全員が一斉に動き出す。しかし、その迫り来る脅威に対し、風見志郎は全く気づく事はなかった。思えばそれこそが後に風見志郎の運命を左右する事になろうとはこの時は思いもしなかった事だった。




     ***




 勢い良く扉が開く音がした。見ると、息を切らせて風見志郎が来ていたのであった。
 いきなりやってきた物騒な若者に対し店内に居たであろう本郷達は半ば呆れるような不満そうな表情を浮かべてそれを見た。本郷に至ってはかなり呆れた様子らしく苦笑いを浮かべながらこちらを見ていた。
 しかし、目元は決して笑ってない。

「お、遅くなりました」
「おいおい、待ち合わせ時間より1時間も遅刻だぞ風見。大学だったら欠席扱いになってるだろうよ」
「すみません、ちょっとトラブルにあってしまいまして」

 気づかれないように愛想笑いを浮かべる志郎。だが、そんな笑みの奥にある真相を本郷は見抜いた。何か巨大なトラブルに巻き込まれたのでは? 同じ城南大学の先輩としては後輩の危機を見過ごす事は出来ない。

「ほれ、とりあえず水でも飲んで落ち着け」
「あ、有難う御座います。おやっさん」

 おやっさんから水を受け取り一気に飲み干す。喉を初めに体全体に冷たい水の感触が駆け巡り心地よさを感じた。
 とりあえず一息ついた所で本郷が志郎に尋ねた。

「風見、お前一体何があった?」
「え? いやぁ、信じて貰えないでしょうけど、実はコースの練習中に女の人が怪人に襲われてましてねぇ。それを助けたせいでちょっと時間食っちゃいまして。嫌、嘘じゃないんですよ! これ本当なんですよ本郷先輩」

 普通の人に言えばホラ話と思われるだろう。だが、それを聞いていた本郷の顔つきが突如変わった。そして隣に居る一文字と視線を合わせる。一文字もまた本郷と同じ顔つきとなった。これは只事じゃない。そう告げる顔つきであった。

「本郷、もしかして…」
「あぁ、もしかしたら一連のショッカー残党惨殺事件と何ら関係が…ところで風見、その助けた女の子は何処に匿ってるんだ?」
「家ですけど…」

 突如、本郷は立ち上がった。奴等がもしショッカー以上の組織だと言うのなら、風見志郎の家を突き止めるなど容易い。今此処に居る風見志郎は安全だが、自宅に居る彼の家族やその女性はどうなる? 少なくとも一般の人間に怪人と戦える力などない。彼の家族が危ない!

「風見、すぐにお前の家に行くぞ!」
「えぇ? 急にどうしたんですか!?」
「急げ! お前の家族の身に危機が迫ってるんだ!」

 それを聞いた途端、風見志郎もまた立ち上がった。家族に危機が迫っている。一体どう言うことだ? まさか――
 脳内に映りだした嫌な予感を振り切るように、風見志郎は喫茶店アミーゴを飛び出した。
 それに続いて本郷と一文字も同様に飛び出していく。
 間に合え、間に合ってくれ!
 最悪な考えが脳裏に過ぎる中、祈る気持ちで志郎はバイクを走らせた。そして、それに続いて本郷と一文字もまたバイクに跨り移動を始めた。




     ***




「こちらアリア…ロッテ、聞こえる?」
【聞こえるよ姉さん】

 その頃、アリアは風見家のトイレの中に居た。片方の耳を抑えて何かを呟いている。嫌、正しくは遠方に居る何者かと通信を行っているのだ。
 但し普通の通信ではない。魔法を使う事が出来るミッドチルダならではの通信技術である念話を使っているのだ。これならば他の人間に聞かれる事はない。少なくとも魔力を持たない一般の地球人には聞かれる事はだが。

「そっちで収穫はあった?」
【全然なし。姉さんの方は?】
「それがちょっとトラブルに巻き込まれちゃって、身動き取れない状況なのよ」
【一体どうしたの?】

 声の主はアリアの身を案じるような言葉を発した。姉と言っている所から察するに彼女は妹なのだろう。
 そして、姉妹は揃って何かを探しているようだ。

「大丈夫よ。後少ししたら動き出すから。貴方は引き続き捜索をしてて」
【了解。必ず見つけてみせるからね】
「勿論よ。絶対に見つけてみせるわ! 何故ならあれは――」

 言葉の途中でアリアは硬く拳を握り締めた。その探し物とは彼女にとっては曰く付きの物なのだろう。
 突如、ガラスの割れる音がした。その他に女性の悲鳴が響いた。声色からして志郎の母親の悲鳴だ。そして、それに続いて少女の悲鳴と男の叫び声が響いた。
 更にそれに続いて奇妙な雄叫びが複数聞こえてきた。聞き覚えのある奇声だった。奴等だ、奴等が此処までやってきたんだ!

【何? 一体どうしたの?】
「御免ロッテ。一旦切るね」

 半ば無理やり念話を中断する。今から移動をしたのでは恐らく間に合わない。
 此処を出た直後に見つかってしまう。
 いちかばちかの賭けだった。アリアは自身に不可視の魔法を掛ける。
 これで魔力を持った者以外は見つける事が出来ない。
 奴等が魔法関連に対して疎ければの話だが……
 直後、勢い良くトイレのドアを開けてきた者が居た。先ほど自分を追いかけた怪人の片割れ、全身黒タイツの上にサソリの絵が書かれたスーツを着ている。
 俗に言う戦闘員だろう。その戦闘員が仕切りにトイレの中を見る。
 不可視の魔法を使っているとは言えアリアは緊張が止まらなかった。少しでも物音を立てれば見つかってしまう。心臓の鼓動ですら危うい。

「どうだ? 居たか」
「嫌、居ない…恐らく逃げたんだろう」

 其処へ別の戦闘員が駆けつける。
 どうやら見つからなかったようだ。トイレのドアをそのままにして戦闘員達はリビングの方へ走り去っていく。
 見つからずに済んだとアリアはホッとした。だが、その後すぐに疑問が生まれた。
 先ほど聞こえたのはガラスの割れる音と女性の悲鳴であった。恐らくこの家の住人。
 まさか! 奴等はあの家族を狙って此処に……
 嫌な予感を胸にアリアはリビングへと向った。
 其処には先ほどの怪人と複数の戦闘員達が風見家の家族を取り囲んでいた。

「ギー! 風見も女も見当たりません!」
「逃げたか…まぁ良い。こいつらだけでも良しとするか」

 鼻を鳴らし、ハサミジャガーは一箇所に集めた志郎の両親と雪子を睨む。両手に供えられた刃先を不気味に光らせながらこちらを見てくる。まるで狂人だ。

「わ、私達をどうするつもりなんですか?」

 震える口調で志郎の父が言う。その横で志郎の母がしがみつき、雪子は涙目になって震えていた。

「お前達は我等デストロンの栄えある生贄に選ばれたのだ! 貴様等は今から俺様の手に掛かって死ぬのだ! 光栄に思うが良い!」
「ふ、ふざけるな! デストロンだか何か知らないが、そんなの理不尽だ!」
「問答無用! 死ねぃ!」

 次の瞬間、アリアの目に映ったのは目を覆いたくなる光景であった。つい先ほどまで温かな家族であった此処風見家が、凄惨な地獄と化したのだ。
両手が刃物になっているジャガーの姿の怪人の手により、両親も、そして妹の雪子も、一撃の元に串刺しにされてしまった。
 三人の倒れた床一面が赤い血で汚れていく。部屋一面に鉄臭い匂いが充満していく。
 その匂いはとても不快で、それでいて恐怖を煽るには充分であった。

「げははは、処刑完了。よし! 後は風見志郎を殺せ! そして女を捜せ!」
「ギー!」

 処刑を終えた後、家から撤収しようとする。もうこの家に用はない。後は風見志郎を抹殺し、アリアを捕える事だけだった。その丁度その時、家のドアを蹴破る音がした。何事かと首を傾げる怪人達の前に息を切らせながら風見志郎がやってきた。額は汗ばんでおり目を大きく見開いている。

「父さん! 母さん! 雪子!」

 目を血走らせ、息咳切らせた状態で志郎が目にしたのは、既に事切れた家族と血溜まりのリビングであった。
 部屋中に鉄臭い匂いが充満しているのが志郎の嗅覚に伝わってきた。普通の鉄とは違う嫌な匂いだ。そして、それを目にした途端、風見志郎の心が完全に砕ける感覚を感じたと同時にその場にへたりこんでしまった。
 目から大粒の涙を幾度も流し目の前の惨劇が夢であって欲しいと何度も願った。
 だが、それは紛れも無い現実であったのだ。風見志郎は今、この場で今日この日、自分の家族が死んでしまった事を悟る。
 そんな風見に向かいハサミジャガーが歩み寄る。

「風見志郎。我等デストロンの崇高なる生贄に選ばれた事を誇りに思うが良い!」
「デストロン…お前達が俺の、俺の家族を殺したのか?」
「そうだ、こいつらは我等デストロンの崇高なる生贄となったのだ。感謝するが良い!」

 ハサミジャガーは笑いながら言った。それを聞いた風見志郎の中に芽生えたのは激しい怒りと憎しみであった。
 こんな理不尽な事の為に自分の家族は死んだと言うのか? そんな事を認めて良いのか? 嫌、良くない!

「許さない、許さないぞハサミジャガー! 許さないぞデストロン!」
「ほざけ! 人間如きに何が出来る! このハサミで家族仲良く地獄へ行くが良い!」
「待てぇぇい!」

 今正に志郎に向かいハサミが振り下ろされようとした時、今度は本郷と一文字の二人がやってきた。そして、二人もまた凄惨な殺戮が行われた現場を目撃する。既に手遅れであった。風見志郎の家族は皆、既に息絶えていた。
 遅かったのか!
 内心で本郷は毒づいた。またしても犠牲者が出てしまった。あれだけ出さないと誓ったのにまた出てしまった。

「何だ貴様等! 此処に来たと言う事は貴様等も生贄になりたいのか?」
「へっ、お断りだね。てめぇら悪党の慰み者になんざなりたくもねぇや」
「その通りだ! お前達の悪行を許しはしない!」

 二人がそう言い、互いに構えを取る。自分の姿を仮面を被る正義の戦士へと変える構えを取った。

「変身!」

 その叫びと共に二人の腰に巻かれたベルトの風車が高速で回転していく。二人の姿が瞬く間に変わった。その姿はかつてショッカーや幾多の悪を壊滅させた正義の戦士の姿であった。

「仮面ライダー! 本郷先輩が仮面ライダーだったんですか!」
「すまなかった風見。俺達がもう少し早く気づいていればこうならなかっただろうに…」

 本郷は静かに謝罪した後、ハサミジャガーを向いた。これ以上犠牲者を出す訳にはいかない。その為には目の前に居るこいつを片付けなければならない。そして、今度こそ悪の根を絶やすのだ。

「これ以上犠牲者を増やしたくない。そう思っていた…だが、結果はこれだ。俺は今日程自分の無力さを呪った事はない。だから俺はお前達を許さない! 覚悟しろ!」
「ほざけ! 貴様等こそ我等デストロンの恐ろしさを知る事になるだろう!」
「そうかい、だったら教えてくれよ」

 フェイティングポーズをとりながら一文字が挑発する。だが、その挑発にハサミジャガーは乗らなかった。

「生憎だが、我々には崇高な目的があるのだ。此処で時間を無駄にする訳にはいかんのでな。また会おう! 仮面ライダー」

 突如、ハサミジャガーがそう言うと、周りに居た戦闘員が懐から手に納まるサイズの物を取り出し地面に叩き付けた。その瞬間激しい閃光が部屋全体を覆い尽くす。閃光手榴弾か! 眩しい閃光が辺りを包み込む。改造人間となり超人的な視力を持つ本郷と一文字でさえ目を眩まされる辺り、特殊な閃光手榴弾だったのだろう。
 視界が回復した頃には其処には既にデストロンの怪人達の姿は何処にもなかった。

「逃げられたか…」
「安心しな。念のために奴等に発信機をつけておいた。奴等の足取りはすぐに掴めるさ」

 流石は一文字であった。これならば例え見失ったとしても安心である。だが、問題は風見であった。

「父さん…母さん…雪子…」

 家族を殺された志郎はその亡骸を抱えて悲しみにくれていた。無理もない、愛する家族をこうも無残に殺されてしまったのだから。

「許さないぞ、デストロン! 俺は、俺は今日限り人間である事を捨てる! 復讐の鬼となって、奴等を根絶やしにしてやる!」

 今の風見志郎の中に宿っているのは怒りと憎しみの炎であった。その炎を胸に宿したまま、志郎は立ち上がり、本郷と一文字を見た。

「仮面ライダー、お願いだ! 俺を……俺を改造人間にしてくれ!」

 怒りと憎しみ、そして悲しみの涙を流しながら志郎は仮面ライダーに頼んだ。だが、その頼みにライダーは首を縦には振らなかった。

「風見、お前の気持ちは良く分かる。だが、個人の復讐の為に力は貸せない」
「しかし!」
「死に急ぐな! 改造人間は俺と本郷の二人だけで充分だ。これ以上は要らないんだよ」

 尚も迫る志郎に対し一文字が冷たくあしらった。彼なりに志郎を気遣ったのだ。改造人間になる事。それは即ち人間である事を捨てる事になる。
 人として生きる事を許されず、孤独に生きる存在。それが改造人間なのだ。
 その辛さを志郎に与えたくなかったのだ。

「闘いは俺達に任せろ。行くぞ一文字」
「あぁ!」

 ダブルライダーは風見邸を飛び出した。例の発信機を頼りにサイクロンを走らせる。志郎は一人部屋に取り残される形となった。そんな志郎の背中をアリアは見つめた。志郎の悲しみがアリアの胸を強く打つ事となった。

(志郎さん…)

 悲しみにくれる志郎の背中をアリアは黙って見つめていた。未だに不可視の魔法を使っている為彼等にはアリアの姿は見えない。
 その時、再びアリアの脳内に念話が入りだした。先ほど突然切ったのに心配したのか妹のロッテが再び念話を送ってきたのだ。

【姉さん。大丈夫? 何かあったの?】
(何でもないわ。それより今は一旦合流しましょ。色々と報告しないといけない事が出来たしね)
【そうなの? 分かったわ。待ってるね】

 半ば歯切れの悪い受け応えの後、ロッテの方が通信を切った。そして、再びアリアは志郎を見る。

(志郎さん…御免なさい)

 一言、そう告げた後、アリアは静かにその場を後にした。自分には使命がある。今は私情に浮かれてる場合ではない。それは分かっていた。だが、やはり辛かったのだ。
 一人、残された志郎は固く拳を握り締めた後、何かを決意したかの様に顔を上げる。

「俺は諦めない! 必ずこの手で家族の仇をとってやる!」




     ***




 ダブルライダーは取り付けた発信機を頼りにデストロンのアジトを見つけ出した。其処は人里離れた地にある建物であった。その入り口には数名の戦闘員が警備をしていた。人里離れた場所だから目立たないのだが、返ってそれが二人には目立つ格好の姿であった。あれではみすみすこちらにアジトの場所を教えて居る事になる。

「此処がデストロンのアジトか……」
「もうこれ以上犠牲者を出すものか! その前に叩き潰してやる!」

 二人の仮面ライダーがアジトの入り口に近づく。警備をしていた戦闘員は未だに気づいていない。背後にそっと近づき、急所へ一撃を放つ。突然の急襲に警備をしていた二人はどうする事も出来ずあっさりと意識を刈り取られてしまった。気絶した警備の戦闘員をその場に置いて、ダブルライダーはアジト内へと侵入した。
 しかし、途中数人程度の戦闘員が居ただけで、中は殆ども抜けの空状態であった。しまった、奴等は既にこのアジトを引き払った後だったか。

「遅かったか、既に奴等アジトを引き払った後だったか」
「ちっ、相変わらず素早い奴等だぜ!」

 その素早さは相変わらずと思えた。その時、突如何処からか声が聞こえてきた。それは聞き覚えのある声だった。野太い重みのある声。間違いなくあいつだった。

【久しぶりだなぁ。本郷猛! そして一文字隼人!】
「その声は…ショッカー首領!」
「ちっ、しぶとい奴だぜ! とっくの昔にくたばったと思ってたのによぉ!」
【ハッハッハッ! ワシは死なん! 貴様等を倒し世界を征服する為に、最後の組織、デストロンを作り上げた。その手始めとして、貴様等仮面ライダーに別れの言葉を贈ろう】
「別れの言葉だと?」
【そうだ、貴様等はこの基地諸とも死ぬのだ!】

 首領がそう告げる。
 その直後、突如として七色の光線が部屋一杯に放たれた。その光線内に包まれたダブルライダーが突如苦しみだす。
 この光線は只の光線じゃない。体全身が引き裂かれるような激痛が二人を襲う。

「ぐぁっ、この光線は…」
「か、体が…バラバラになっちまう…」
【その光線は我等デストロンの科学陣が開発した改造人間分解光線だ! それを浴びてれば数分後には貴様等の体は溶けてなくなってしまうだろう! もう二度と貴様等と会う事はあるまい。そして、貴様等の仲間達もいずれは同じ地獄へ贈ってやろう!寂しがる事はない】

 部屋全体に首領の笑い声が響く。この光線の威力は本物であった。このままでは後数十秒で肉体は溶けてしまうだろう。だが、身動きが取れない今の二人ではどうする事も出来ない。
 このまま骨も残さず消え去ってしまうのか? 奴等を滅ぼす前に俺達は此処で朽ち果ててしまうのか?
 その時、部屋の中に誰かが入ってきた。風見志郎であった。

「せ、先輩!」
「く、来るな風見!」
「先輩を見殺しに出来ません!」

 本郷の制止を無視し、風見志郎は飛び出した。
 そしてダブルライダーを突き飛ばし、光線の届かない部屋の端へと移動させた。
 その為、志郎は体一杯に分解光線を浴びてしまった。
 改造人間である二人でさえ激痛を感じる光線だ。生身である風見志郎ではそれは自殺にも等しい行為であった。

「うわああぁぁぁぁぁぁ!」
「風見!」
「あいつを殺させるか!」

 一文字が光線の発射台を発見しそれを破壊する。
 光線は放たれなくなった。しかし、光線を体一杯に浴びた風見志郎は瀕死の重症を負ってしまった。
 動かなくなった風見をそっと本郷は抱き上げる。体中ボロボロになりこのままでは彼の命は危うい。

「このままではこいつは死ぬぞ」
「風見は命がけで俺達を助けてくれた。死なせたくない」
「だったら、方法は一つしかない」

 重症を負った志郎を抱えて、ダブルライダーがやってきたのは、デストロンアジト内にある手術室であった。
 幸いな事にアジト内は破壊された形跡がなく殆ど無傷にも近い状態だった。恐らく自分達を誘き寄せる為に急遽引き払った為だろう。そっと風見志郎をデストロンの改造室の手術台の上に乗せる。
 志郎を救う方法。
 それは最早彼を改造人間にする他なかったのだ。一文字も本郷も苦い思いのまま風見志郎の改造手術を行った。
 あれほどまでに自分と同じ人間を作りたくないと誓ったのに、結果はこれだ。自分達が不甲斐ないばかりにこの男にも同じ運命を背負わせてしまったのだから。
 だが、他にこの男を救う手立てはない。
 デストロンの改造人間分解光線をその身で浴びてしまった為、このまま放っておけば確実に死に至る。現代医学では到底治せない傷だ。
 となれば彼を改造し、新たな改造人間にする他に救う方法はなかったのだ。それが二人にはやりきれなかったのである。

「行くぞ、一文字!」
「あぁ、ライダーエネルギー全開!」

 手術も最終段階に入る。
 最後には風見志郎の両手をそれぞれダブルライダーが持ち、その手を通じて自分達のエネルギーを送り込む。
 志郎の手を通じてダブルライダーのエネルギーがその体の隅々にまで流れ込んでいく。
 その証拠に風見志郎の体から微弱な発光に似た現象が見られた。これで手術は終了した。
 後は、風見志郎の覚醒を待つだけである。
 だが、目覚めた時、果たして風見志郎は己の運命を享受出来るだろうか? 
 誰からも分かってもらえない孤独の化け物になった事を知り、彼はそれでも正義と平和の為に戦っていけるのだろうか? 
 それが二人の不安だった。
 だが、その時突如激しい振動がアジト内を襲った。それも一回じゃない。
 数回は起こっている。そしてこの規則正しいリズムで振動が起こるのは明らかに自然の現象じゃない。かすかに火薬の匂いがする。恐らくは爆発。それも爆撃に近いものだ。

「本郷、外だ!」

 外に飛び出した二人を待ち受けていたのは、全く別の怪人であった。外見は一言で言うなら亀を模した改造人間だ。しかしその背中には人の握りこぶしよりも一回り位大きな口径を持つバズーカを背負っている。爆発の原因はどうやらあいつの様だ。

「出たな仮面ライダー! このカメバズーカ様が貴様等を地獄へ叩き落してやる! ズゥゥゥカァァァァ!」
「また別の怪人だと!?」
「デストロンめ、もう本格的に動き出したってのかよ!」

 平和を壊すかの様に現れた新たな組織、デストロン。
 その恐るべき魔の手から人類を、世界を守れるのか? そして、預言者に言っていた脅威とは何か? 更なる危機が人類を襲う。だが、それに挑むヒーロー達は、未だ傷の癒えぬ状態であった。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

突如として世界各国が謎の機械獣により壊滅状態にされてしまった。今度は東京が危ない!
急げマジンガーZ。東京を守るのだ!

次回「激突! 七つの軍団」お楽しみに 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧