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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第十九話~同調~

 
前書き


前回約9000字という暴挙に出てしまったので今回は抑え気味の約4000字です。
では、本編どうぞ

 

 

機動六課・格納庫


 ホテル・アグスタの一件から二日が経った。
ホテルで猛威を振るったナイトメア、ランスロットは現在その巨体を機動六課の格納庫に鎮座させていた。その姿は元の騎士のような力強さは無く、フェイトの放った一撃により胴体の部分に大きな損傷を受け残骸のようになっていた。
 その近くにはランスロットを調べるように見ている三人の姿があった。

シグナム「これか、ランペルージとテスタロッサが破壊した機体は。」

シャリオ「そうです。」

ヴィータ「見た目は今までのやつよりもハデだな。中身も違うのか?」

シャリオ「はい。今まで確認した月下タイプの倍近くのスペックがあります。しかもフィールド型のAMFを一か所に収束する機能と、武装に纏わせる収束型に切り替えられるようにできる機能も実装されていました。」

 AMFをフィールド型や収束型に切り替える機能を持っていることは蒼月から渡されたデータでハッキリしていた。グロースターの方は調べた結果、その機能を有してはいなかった。

シグナム「ふむ…ならば近接戦闘の性能は?」

シャリオ「今までのナイトメアよりも動作限界は高いので、かなり人間に近い柔軟な動きも機械だからできる特殊な動きもできるようです。」

シグナム「厄介だな。ガジェットだけでも物量という武器が相手にはあるというのに…」

ヴィータ「でもライはそれでもコイツを倒したんだ。アイツにできてあたしらができないことじゃないはずだ。」

 ライの名前を聞くとシャリオは一瞬眉を潜めた。残りの二人はそれに気付かぬまま話を進める。

シグナム「ああ。そういえばそのランペルージは?まだ寝ているのか?」

シャリオ「はい。でもシャマル先生が言うには、体の傷は魔法治療である程度回復しているそうです。」

ヴィータ「“あんな”動きしてたんだ。精神的にもまいってんだろ。」

 「あんな」という部分を強調して呟くヴィータ。シグナムはそれに同意するように頷いていた。



隊長室


 隊長室には一つの映像が流れていた。
 それを流しているのはライのデバイスである蒼月。そしてそれを眺めるのは隊長である三人、なのは、フェイト、はやて。そして蒼月のそばに座っているリインフォースであった。
 流れている映像を見ている四人の表情は驚き八割、呆れが二割という表情であった。
 動画の全てが流れ終わり開かれていた画面が閉じられる。

はやて「……これはまた…」

なのは「なんていうか…」

フェイト「うん…」

 それぞれ微妙な表情を浮かべながら口を開く。
 先ほど流れていた動画はライとランスロットの交戦時の映像記録である。任務終了後、クロスミラージュに残っていた映像記録からランスロットが他のナイトメアとはかけ離れたような機動を有しているのは分かっていた。
ならそれを無力化したライはどのように戦ったのか。それを疑問に思った三人が蒼月の映像記録を引っ張ってきたのである。
 しかし―――

はやて「いや、まさかここまで参考にならんとは思わんかったわ。」

 少し疲れているような声ではやてはそう口にする。
 残っている映像記録というのはライの視点に近いものである。だがそれははやての言った通り全くと言っていいほど参考にならないものであった。

なのは「フェイトちゃん。高速戦闘したときあんなに視点ぶれる?」

フェイト「ほとんど……というよりありえないと思うよ?」

 残っていた映像には確かにライがランスロットを無力化するまでが残されていた。だがそれはほとんどぶれていてランスロットが映ったとしても一瞬だけというものであった。
 ライの高速戦闘は彼の持ち前の反射神経を最大限活かしたものである。しかしそれは常人をはるかに超えているもの。ライの元いた世界でもそれについていけるのはスザクやナイトオブラウンズのような、生まれ持った才能をさらに昇華させたひと握りの人だけである。
そんな視点の映像を見せられても一般人が訓練して手に入れた程度の動体視力や反射神経しか持たない彼女達には、コマ落ちの映像を見ているようなものなのだ。
 そんな映像を分かる範囲で考察する三人が話し合っている中、リインフォースが蒼月に話しかけていた。

リインフォース「蒼月さん、あのシステム使ってましたけど大丈夫でしたか?」

蒼月「心配していただいてありがとうございます。けれど調整前とはいえ負荷自体は許容範囲内です。」

リインフォース「それは良かったです。」

 その会話が聞こえたのか話し合っていた三人が尋ねた。

フェイト「二人共、“あのシステム”って?」

リインフォース「映像の中でライさんが言っていたチューニングシステムのことです。」

なのは「そういえば聞き覚えのないシステムだけどそれってなんなの?」

リインフォース「ライさんが考案した新システムです。」

はやて「それはどんなシステムなん?」

蒼月「先ほど映像で気になる点はありませんでしたか?」

 そう言われ三人は首を傾げる。やがて何かに気付いたのかなのはが口を開く。

なのは「魔法の発動や体を動かす時の動作の繋ぎが短かった。」

蒼月「その通りです。チューニングシステムとは私の演算処理システムとマスターの思考領域を同調(チューニング)して魔法の発動時間の短縮、効率化を向上させるシステムです。」

 通常、魔法を発動させる場合は魔導師がデバイスに声をかけるか、もしくはデバイスが自己の判断で自動発動をさせるかの二択である。だが前者はともかく後者はマスターの意図を最大限汲み取って発動させるには二つ条件がある。一つはインテリジェンスデバイスであること、もう一つはそのデバイスを長時間使用することである。
 だが前者はともかく、後者の条件をライと蒼月は満たしていなかった。そのため今回ライはそのシステムを使うことでそのハンデを解消した。
 チューニングシステムはマスターの思考を直接デバイスに伝えることで発動するのではなく、思考した瞬間に発動するようにするものである。これならばどんな場合でも魔法の発動を即実行できる。

フェイト「そんなことしてライは大丈夫なの?」

 蒼月からシステムの説明を聞いてからフェイトはそんなことを言った。
 蒼月の説明の通りであれば、考えただけで魔法を発動することができる。だが人間の思考は常に単一ではない。戦闘中は特に複数の選択肢がありそれを常に選択していく。つまり思うだけで魔法が発動するのなら複数の選択肢を思い浮かべた時点でその思い浮かべた魔法全てが同時に発動する事になるのだ。
 なのはとはやてもその考えに至ったのか疑問を浮かべた視線を蒼月に向けた。しかしその疑問に答えたのはリインフォースである。

リインフォース「私もそう思って最初は止めたです。でもライさんは『マルチタスクの思考を一つ一つ区切りを付けることで問題を解決できる。』と言ったです。」

はやて「思考を区切るって……マルチタスクなら当たり前とちゃう?」

リインフォース「えーと、チューニングシステムと同調させる思考をAとすると、その思考Aにどういう思考をさせるか考える思考をB。さらに場の状況を把握したりするのを思考Cと言った具合に分けて、蒼月に読み取らせるのは思考Aだけに絞ることでさっき言っていた問題を解決したそうです。」

なのは「ちょっと待って!じゃあライ君は戦闘中のマルチタスクを全て意識的に処理してるの?!」

蒼月「そうです。」

なのは「そんなのできるわけ……」

蒼月「現にできています。それにマスター曰く『僕の親友の方が僕よりも複雑で正確な思考処理ができていた。僕のは彼の真似事みたいなものだよ。』だそうです。」

 その場にいた三人の隊長は今度こそ開いた口が塞がらないようなポカーンとした表情をしていた。
 本来、魔法を発動する時に行う魔法術式などの演算はデバイスが自動的にしてくれる。だが、ライの場合それを自分の意識下で一括管理し、そして自身でその演算を行っている。いくら優秀な魔導師であっても常にコンピュータと同じ速度の演算を行うことはできない。しかしライはそれを常に行い、さらに戦闘も同時にこなしているのだ。
確かにライ一人で全てを演算しているのでは無く蒼月も演算をしている。やろうと思えばここにいる三人もできるかもしれない。だが高速戦闘を行える程の精度を出せるかと問われれば、答えは「NO」である。
 三人が再び、ライの事について話始めた横で蒼月は呟いた。

蒼月「本来の使い方以外の方法で使用した、マスターの発想力の方が私は驚きました。」

 この呟きは三人の耳には届かなかった。



医務室


 目を開くと、どこか見覚えのある天井がそこにあった。

ライ「……うっ…」

 身を起こそうとするが、体に走る鈍い痛みのせいでそれは叶わなかった。
 体が動かないと分かると、ライは状況を整理し始めた。そしてランスロットと交戦してから気絶したところまで思い出し、今の状況に納得した。
 そこまで考えたところでベッドの周りを囲んでいたカーテンが開かれる。開いたのはこの部屋の主であるシャマルである。彼女は体を拭くためのタオルとお湯を入れた洗面器を持っていた。
 彼女は目覚めていたライを見ると驚いたような顔をした後、安心したような表情を浮かべた。

ライ「おはようございます、シャマルさん。」

 どこかズレた挨拶をしてくるライにシャマルはクスクス笑った。気恥ずかしくなったライは少し顔を朱に染める。そこで一旦笑うのを止め、シャマルは医者としての仕事を始めた。

シャマル「ライ君、気分はどう?」

ライ「体は痛いけど、気分は悪くないです。あの戦闘からどの位経ちました?」

シャマル「二日程よ。あの後、すぐに治療を施したから大事にはいたらなかったわ。でも失血量が多かったから、二、三日は安静にしていてください。」

ライ「はい。」

シャマル「体の怪我も、治癒魔法の使用であと二日程で完治するわ。だから今日から三日間は休暇だと思って休んでいてね。」

 それからはアグスタでライが気絶した後どうなったか、そして移動だけなら松葉杖を使ってできるなどについての会話をした。そして一段落するとはやてにライが目覚めたことを報告するためにシャマルは退室していった。
 いきなり暇になったライはこれからどうするか悩んでいた。機動六課に参加してからライはほとんど時間を持て余すことがなかった。もし時間が空いてもはやての書類仕事を手伝ったりしていた。
 どうしようか悩んでいるとふと日差しが差し込んできた。そちらを見ると青く澄んでいる空が窓から見える。それを見て外の空気が吸いたくなったライはベッドの横に立てかけてあった松葉杖を手に取り医務室をあとにした。



機動六課・中庭


 機動六課の中庭には幾つかの植物が植えられている。そして機動六課の隊舎は海に囲まれている。その海を挟んだ向かい側には近代的な都市が広がっている。
 中庭に移動してきたライは中庭の木の一つにもたれ掛かり芝生の上に腰掛け、そこから見える街の風景を眺める。心地よい日差しとたまに吹くそよ風が頬を撫でる。その心地よさを全身で感じながらライは自然と目を閉じ寝息を立て始める。

フリード「キュク?」

 少し時間が経つとライの近くにフリードが飛んでくる。ライの姿を見つけるとライに近づいていく。ライが寝ていることに気付くとフリードはライの膝の上で丸まり同じように昼寝を始めた。


 
 

 
後書き

というわけで蒼月の切り札その1でした。
書いていて思ったのですが、自分が書いているライが技術屋になってきている気がします。
もう少し、戦闘で暴れさせてもいいですか?

例の模擬戦は次の次くらいになると思います。
ぶっちゃけると、本編の中で一番展開を迷ってると言っても過言ではない部分です。
それが読者の皆様の期待通りになるかはわかりませんが頑張っていきます。

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