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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第二十話~お見舞い~

 
前書き
更新遅れてサーセンした!m(_ _;)m

 

 
機動六課・訓練場


 機動六課が保有する訓練場に、自主訓練に励む若者がいた。その人数は二人。片方は息が上がっているが、クールダウンをするだけの余裕があるのか柔軟体操をしている。そしてもう一人は余裕がないのか両膝に手をつき肺に酸素を送るのに必死になっていた。
 そんな中、柔軟体操を終えたスバルがもう一人、ティアナに声をかける。

スバル「ティア、そろそろライさんのお見舞いに行かない?」

 アグスタの一件から、この二人は教導訓練を受けた後、自主訓練をするようになっていた。それはライが怪我をしたのは自分に原因があると思い込んだティアナが始め、そしてそれに続くようにスバルも参加していた。
 しかし、自主訓練には積極的な二人ではあったがライの病室に足を運べずにいた。正確にはティアナが行こうとせずに自主訓練を続けているため、それに付き合う形のスバルも行くことができなかったのだ。

ティアナ「…ハァハァ―――、行きたいなら、あんただけでも行きなさい。私はもう少し自主練していくから。」

スバル「…うん。」

 この二日間、寝たきりのライの姿を見る勇気をティアナは持っていなかった。この時点ではライは既に目を覚まし中庭で寝ているのだが、今の二人に知る由はなかった。
 ティアナがあの襲撃の後に抱いたのは無力感と罪悪感。あの時自分がもっと冷静なら、それ以前にあの誤射を成功させていればと何度も悔やんでいた。

ティアナ(今の私は覚悟や信念以上に力が無い。だから今は!)

 汗を吸収し体に張り付く訓練着や、頬に掛かる髪がまとわりついてくる不快感を振り払い自分に喝を入れ、顔を上げる。そして再び訓練を再開する相方の背中をスバルは見送るしかできなかった。



機動六課・病室


 ライが目覚めて一日が経つ。その間、ライはフォワード陣からの個別にお見舞いをされている。隊長陣からは少しお叱りも受けてしまっていたが、皆が最初にライの起きている姿を見て「良かった。」と口にすることにライは感謝していた。

ライ「君にも心配かけたね、蒼月。」

 そう言うとライのベッドの横に備え付けられている棚の上の蒼のペンダントが光を発しながらそれに答える。

蒼月「マスターが約束を守っていただけたので、私はそれが嬉しいです。」

ライ「そう言ってもらえると助かるよ。さて、今日も始めようか。」

 ライは蒼月に手を伸ばし、掴むとさらに蒼月を置いていた棚の引き出しからビー玉ぐらいの大きさの玉を3つ取り出した。



病室前


 ライの病室の扉の前には異様な光景があった。
 病室の扉の前に立ち、扉に手をかけては離すを繰り返す。そんな奇行とも取れることがされているのだ。
それをしているのはようやくライと会う決心が着いたティアナである。だが彼女はいざ病室の前まで来ると思うところがあるのか尻込みしてしまっていた。
永遠に続くかと思われたそれは病室から聞こえる音によって破られることになった。

ティアナ「……何この音?」

 それは何かがぶつかり合う音。少し気になったティアナは思い切って目の前の扉をノックした。勇気を振り絞り逃げ出したくなるのを堪え返事を待つ。しかし帰ってくるのは先程から聞こえてくる音のみである。

ティアナ「?」

 いつまでもこのまま立っている訳にもいかないと思い、取り敢えずライがいるのかいないのか確認しようと病室の扉を開ける。

ティアナ「え」

 彼女は部屋の中を見た瞬間、正確にはライを見た瞬間に目を奪われた。
 先程から聞こえていた音の正体はビー玉程の大きさの玉同士がぶつかり合う音である。なぜそれがわかったのか。答えは簡単、目の前で弾かれているからである。ただそれは普通とは違う。ぶつかる場所は空中。さらにベッドで上半身を起こして座っているライの周りを囲むように弾かれている。
 ライの周りを舞っているのはその玉だけではない。その玉と同じぐらいの大きさの魔力球が同時に舞っている。
 玉は時に魔力球に弾かれ、時に他の玉とぶつかる。それを繰り返し行い、ライを囲うような軌道を描いていく。

ティアナ「綺麗……」

 自然とそんな言葉が溢れる。無意識に漏れた言葉に彼女自身も気づかない。いつまでも見続けていたくなるその光景を見ていると、ライが右手少し持ち上げ、手のひらを上に向ける。そしてそれと同時に魔力弾以外の玉が3つ同時にライの手のひらの上でぶつかる。いやぶつかるはずであった。しかし3つの内の1つだけタイミングがズレ、ライの右手には玉は収まらずそのまま床に落ちる。

ライ「まだ甘いか。」

 その結果に不満なのか、ライは1つため息をつく。
 ライの言葉でハッとしたティアナはライに声をかける。

ティアナ「ライさん。」

ライ「うん?ティアナ、いつからそこに?」

 よほど集中していたのかそんなことを言ってくる。

ティアナ「今来たばかりですけど、ノックしても返事が無くて勝手ですけど入らせてもらいました。」

そう言いながら、床に落ちている玉を拾いライに手渡す。

ライ「ありがとう。それとごめん、ノックに気づかなくて。」

ティアナ「いえそんな……ところで今のは何ですか?」

 ティアナはここにライと会うことに悩んでいたことすら忘れ尋ねる。尋ねられたライは苦笑しながら答える。その表情は恥ずかしいものを見られたのを取り繕うとするような笑顔。

ライ「マルチタスクと魔力制御の練習をしていたんだよ。失敗しちゃったけど。」

 ライの言葉にティアナは驚く。あれができることもそうであるが、最後のあれだけで失敗とみなし満足を一切していないそんな彼の感性に。
 ここでティアナは思ってしまう。「ライと自分の努力は質が違う。」と。そして最近感じる劣等感などもありティアナは自然とライに訪ねていた。

ティアナ「どうして貴方はそんなに強いんですか?」

ライ「え?」

 虚を突かれた表情をするライ。

ティアナ「あ、えと…その……」

 自分が何を言ったのか理解したティアナは口ごもるが、ライは右手を顎に添え真剣に考えている。ライの真摯さを感じ、ティアナはじっとライの答えを待つ。

ライ「譲れないものがあったから……かな。」

ティアナ「譲れないものですか?」

ライ「うん。守りたいもの、貫きたい信念、なすべき使命…細かい理由は置いておくとして、それを果たすために必死になっているだけなんだと思う。」

ティアナ「それがあるからライさんは強いんですか?」

ライ「……僕は強くなんかないよ。」

ティアナ「…それは嫌味ですか。」

ライ「少なくとも僕は自分を強くないと思っているよ。」

 その時のライの表情は一言では言い表せないほど複雑な表情をしていた。自嘲、後悔、未練。そんな負の感情を織り交ぜた笑顔。その表情があまりにも痛々しくてティアナはさらに尋ねていた。

ティアナ「何故?」

ライ「僕は守るために傷つけるしかなかったから。」

 ライの口から自然とついて出た言葉。そこにどんな気持ちが込められていたのかティアナには読み取ることができなかった。
 その後、二人は特に言葉を交わすことなくティアナのお見舞いは終了した。
 ティアナが退室した後、今まで静粛を保っていた蒼月がライに語りかける。

蒼月「大丈夫ですか、マスター?」

ライ「……」

蒼月「マスター?」

ライ「蒼月、君には全て話しておきたい。」

蒼月「……」

ライ「それを聞いた後、僕のことが信じられなくなったら僕のパートナーをやめてもいいだから――」

蒼月「マスター。それ以上は怒りますよ。」

ライ「……ありがとう。」

 そしてライは語りだす。自分が歩んだ道のりを。



機動六課・訓練場


 ライの病室にティアナが訪れてから数日が経った。今ではライの怪我も完治し訓練に参加している。今は模擬戦でライとシグナムが剣を交えている。
 鉄を打つ澄んだ音が剣を交えるたびに響く。ライは冷静な判断と戦略を頭の中で組み立てていくため表情はあまり変化していない。それと比べシグナムの表情は笑顔。しかしそれは女性が浮かべるような物ではなく戦士が浮かべる笑み。強者と一秒でも長く打ち会えることへの歓喜。そんな気持ちがにじみ出ている表情であった。

シグナム「ハアーーー!」

 気合の掛け声と共に繰り出される斬撃。それをライは蒼月のフォルム・セカンド、日本の刀で受け流す。
 受け流されることに特に驚きもせずにシグナムはさらに斬撃を重ねていく。ライはその斬撃を時には一本で、時には二本で受け流し反撃していく。
 加速していく斬撃の押収。それは訓練時間の終了まで続くのであった。

ライ「ハァハァ…」

シグナム「ハァハァ…」

 訓練が終了し、今はお互いに呼吸を整えるために休憩していた。

シグナム「やはり、ランペルージとの模擬戦は充実したものになる。」

 満足顔のシグナムはある程度息が整うとそんなことを言ってくる。

ライ「僕もシグナムさんとの訓練は得るものが多いので助かっていますよ。」

 この二人の訓練の域を超えている模擬戦は既に当たり前の日常の様になっていた。
 訓練が終了し、隊舎に戻ろうとする二人。歩き始めてすぐにライの視界に二人の姿が映る。それは訓練の後の自主訓練を始めたスバルとティアナである。
 二人がその自主訓練をしていたことにライも復帰してからすぐに気づいていた。だがスバルはともかく、ティアナの方は疲労が取れていない様に見受けられたためにライは少なからず気にしていた。

シグナム「どうした?」

ライ「…ティアナのことですけど……」

シグナム「気になるのは分かるが、それを教えるのは高町の仕事だ。」

ライ「……」

シグナム「そう心配せずとも彼女の教導は優秀だ。信頼してやれ、高町もティアナのことも。」

 そこまで言われて、ライは二人を信じるしかなかった。だが本音の部分ではもっと気にしていたほうがいいと感じていた。
 ライは知っていたのだから。優秀だからこそ間違えることを。どんな関係であれ信頼し続けることの難しさを。
 そしてライは知ることになる。自分の危惧が現実になることを。そして自分やルルーシュやスザク、そしてナナリーが求めていた理想を彼女たちが体現していたことに。
 
 

 
後書き

ということで次回は例の模擬戦です。

最近、メッキリ感想が減って少し寂しく感じている作者です。
まあ自分の話の展開の仕方が感想の書きにくいものという自覚はあるのであまり図々しいことは言えないのですが(--;)
でも質問でも構いませんのでできるだけ多くの意見がいただけたらと思います。

ご意見・ご感想をお待ちしております。
 
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