大阪のミンツチ
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第四章
「どなたか」
「川の方から声がするし」
「一体」
「わしだ」
川の方を見た二人に川の中から河童に実によく似た姿の者がいた、上半身を出して腕を組んでいる。
「ミンツチのシャクインという」
「ミンツチって何よ」
杏は彼に問うた。
「河童?」
「本土で言うそれだな」
ミンツチも否定しなかった。
「妖怪だな」
「それはわかるけれどね」
「わかるわ」
「わかるわよ、というか何で大阪にいるのよ」
杏はミンツチにこのことを問うた。
「一体」
「うむ、蝦夷から大阪に移住する者に混ざってだ」
「ああ、こっちに来たので」
「それで百年位こっちにおる」
「そうなのね」
「蝦夷には二百年おってな」
そうであってというのだ。
「北海道よりもな」
「そっちの呼び方なのね」
「今もな」
「そのことはわかりましたけれど」
今度は玲那が言ってきた。
「ですが」
「どうした」
「熊のお話ですが」
「そのことか」
「襲われたことありますぞ」
「そんなもの何度でもあるぞ」
ミンツチはまさにと答えた。
「わし等妖怪もな」
「そうですの」
「中にはな」
玲奈にさらに話した。
「大きくなり過ぎて冬眠し損ねてな」
「羆嵐ですの」
「それだ」
まさにというのだ。
「人もそれで襲われたな」
「はい、何でも三毛別で」
「あの話はわしも聞いておる」
ミンツチもというのだ。
「大変な事件だな」
「何人も犠牲者が出た」
「そうだ、大きくなり過ぎてな」
そしてというのだ。
「冬眠する穴がなくてな」
「それで、ですわね」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
「寝れなくて餌もなくてな」
「狂暴化しまして」
「そしてな」
「人も襲いましたわね」
「もう目に入るものを襲ってな」
そう鳴る様になりというのだ。
「わし等妖怪もだ」
「襲いますの」
「その時は急いで川の中に入ってな」
そうしてというのだ。
「避けておった」
「そうですの」
「熊は怖いぞ」
ミンツチはまた言った。
「妖怪よりもな」
「では狩ることは」
「さもないと死ぬぞ」
返事は一言だった。
「冗談抜きでな」
「襲われて」
「熊を守って人が死ぬのか」
「それは」
「こんな馬鹿なことがあるか」
こう言うのだった。
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