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西遊記

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第九回 易者龍王を占うのことその十五

「あの香りも味もな」
「お好きで」
「よく飲む、しかもな」
 悟空はさらにお話します。
「わしだけでなくな」
「皆もですね」
「飲んでな」
 そうであってというのです。
「楽しんでおる」
「花果山で」
「何でも人界では民は然程飲んでおらぬな」
「人界では然程出回っていないので」
「そのせいでだな」
「はい、ですか茶を飲みますと」
「うむ、酒と同じだけ好きになるな」
 茶はというのです。
「実にだ」
「美味いものです」
「香りもいいしな」
「だからですね」
「山に戻ればな」
「皆で、ですか」
「茶も飲むぞ」
 お酒だけでなくというのです。
「そうするぞ」
「お茶の時は甘いお菓子がいいですね」
「おお、わかっておるな」
 悟空は土地神の言葉にまた笑顔で応えました。
「左様、酒には塩気や香辛料の強いものでな」
「お茶には甘いものです」
「そうだ」
「それで、ですね」
「わしもな」
 まさにというのです。
「お茶の時はな」
「お菓子ですね」
「甘いものも好きでな」
 そうであってというのです。
「お茶はそうした意味でも好きだ」
「そうですか」
「いや、楽しみだ」
 舌なめずりまでして言います。
「お茶を飲む時がな」
「お菓子も合わせて」
「実にな」
 そうだというのです。
「わしはな」
「では私もです」
 土地神もというのです。
「お役目が終わりましたら」
「茶を飲んでか」
「菓子も食べます」
 そうするというのです。
「是非」
「そう思うとわしと別れても寂しくないな」
「おっと、そこでそう言われますか」
「違うか」
「やはり寂しいです」
 土地神は真面目な悲しいお顔で答えました。
「大聖殿は楽しい方なので」
「だからか」
「はい」
「そう言ってくれるのだな」
「お茶やお菓子はいいですが」
 それでもというのです。
「お別れとなりますと」
「寂しくなってか」
「残念です」
「しかしそれも運命だ」
 悟空は実際に寂しがる土地神に言いました。
「だからな」
「受け入れるしかないですね」
「そうだ、それを言うとわしもだ」 
 悟空自身もというのです。
「ここから出られることは嬉しいが」
「それでもですね」
「お主と別れると思うとな」
 そうすると、というのです。
「やはり寂しい、しかしな」
「それでもですね」
「わしにも運命があるからな」
「それに向かわれますね」
「そうする、そしてだ」
「そして?」
「一生の別れではないのだ」
 悟空は笑ってこうも言いました。
「我等は神、永遠の生の中にある」
「それではですね」
「決してだ」
「これが今生の別れではないので」
「また機会があればな」
 その時はというのです。
「また会えるからな」
「では再会の時を楽しみにして」
「別れることだ」
「確かに」 
 土地神もそのお話を聞いて頷きました。
「その方がです」
「遥かにいいな」
「全く以て」
「そしてだ」
 悟空はさらに言いました。
「人は別れる時の顔を忘れないものだ」
「お互いの」
「再会の時までな、それならな」
「笑顔で、ですね」
「別れよう」
「その通りですね、では」
「間もなくな」
「笑顔でお別れしましょう」
 笑顔で言い合いました、そして悟空は自分の運命が来るのを待つのでした。それが間もないことを確信しつつ。


第九回


                   2025・4・15 
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