スーパーヒーロー戦記
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第26話 怪獣殿下
ガーディアン設立から3日経過した現在。未だに発動したジュエルシードの捜索が行われているが一向に発見出来ずに居た。
地球上に散らばったジュエルシードの総数が21個。うち時の庭園に10個行っており、3個が粉砕されており、残っているのと言えば後8個だけなのだ。
しかしその残り8個が中々見つからない。何せ大きさ的にはビー玉位の大きさでしかない。それをレーダーも無しに目視で探すのだから大変である。しかし探さなければならない。
あれが全て暴走したら取り返しのつかない事態に陥るからだ。
「こちらアラシ、依然ジュエルシードらしき物は発見出来ず。そちらはどうか?」
「こちらフルハシ、こっちも駄目だ。一面何もないや。そもそもレーダーもなしにあんなビー玉見つけるの無理があるって!」
現在外回り中のアラシとフルハシが通信を送っている。幸いなのは通信が生きている事だ。レーダーも転移魔法も封じられた中、通信手段が残っているのは心強かった。
結局、その日もジュエルシードの発見には至らず、何の収穫も無しに二人は帰還する事となった。
丁度アラシがとある島の上空を通過した際、真下で異変が起こった。突如激しい振動と共に山の一角が崩れたのだ。
「何だ?」
異変を感じたアラシが周囲を飛び回りながら見る。崩れた一角から一体の怪獣が現れたのだ。頭部に巨大な角を生やし、太い尻尾を有した怪獣だ。その怪獣が雄叫びを挙げる。
「か、怪獣! こんな時に…」
攻撃を開始しようとしたアラシだったが、ふと、怪獣の異変に気づいた。何と、その怪獣起きて出てきたは良いが再びその場で横になり眠ってしまったのだ。その光景を見たアラシは拍子抜けしたような顔をした。今まで出会ってきた怪獣で現れた直後に居眠りをした怪獣など出会った事がない。かなり稀な怪獣と言えた。
「な、何だぁあいつ?」
「どうしたアラシ?」
通信機から声が聞こえてきた。今度はムラマツキャップの声だ。
「あぁ、キャップ。目の前に怪獣が現れたんです。ですが、そいつ出てきたは良いんですがまた眠っちまったんですよ」
「ふぅむ、とりあえず害は無さそうだな。その怪獣の写真を撮った後帰還せよ」
「了解!」
アラシは上空から眠りこけている怪獣の全体像を何枚か写真に収めた後帰路についた。眠っているのなら得に害はない。返って下手に刺激した方が面倒になる。触らぬ神に祟りなしとはこの事だ。
だが、この時アラシは気づかなかった。嫌、もしビートルを地上に着陸させていれば恐らく気づいたかも知れない。
眠りこけている怪獣のすぐ側で怪しく光り輝く宝玉の存在に…
***
「これが、突如現れた怪獣の全体像です」
現像した写真を持ち帰りアラシが科学特捜隊本部へと戻ってきた。それを一同が見つめる。見れば見るほど特称な怪獣だった。
全体像と言えば以前多々良島で戦ったであろうレッドキングとほぼ同じ位の大きさを誇っているが何より皆の視線を奪ったのは頭部に供えられた二本の立派な角と太い尻尾だ。
「ふぅむ、これはもしかして1億数年前に生息していたゴモラザウルスじゃないのか?」
「ご存知なんですか? キャップ」
「いや、私も詳しくは知らんが、確か白亜紀の頃に生息していた肉食怪獣だと言う情報しか知らん」
そう呟きムラマツはパイプを咥える。
「ですが現れたのは絶海の孤島です。目を覚ましたからと言って我々の居る国に来る危険性はないと思われますがねぇ」
「そう願いたい物だ。今の我々は目を潰されたも同然の状態だ。余り揉め事は増えて欲しくない物だ」
それがムラマツキャップの正直な意見だった。人畜無害な怪獣なら放っておいても問題はない。寧ろ今問題とすべきなのは世界各地に散らばったジュエルシードだ。
あれを封印しなければレーダーも転移魔法も一向に使えないままなのだ。
「フジ君、直ちにこの写真とデータをウルトラ警備隊とアースラに転送してくれたまえ」
「了解」
科学特捜隊から転送された写真とデータは間もなくして、ウルトラ警備隊並びにアースラへと転送された。
「隊長、こりゃ間違いなくゴモラザウルスですよ! まさか生きた姿を見れるなんて、僕ぁ感激だなぁ」
アマギは感激していた。が、他の人間からしてみれば冗談じゃない。出来れば一生眠ってて欲しかった程だ。
「馬鹿言ってんじゃないよアマギ。こんなのが町に出てみろ。それこそ大パニックだ」
「心配ないですってフルハシ先輩。このゴモラザウルスが現れたのは絶海の孤島ですし、第一ゴモラザウルスは泳ぐ習慣がないんですよ。きっと今頃呑気に昼寝でもしてますって」
「そうであって欲しいものだ。無駄な闘いは出来る限り裂けて通りたい」
写真を眺めながらキリヤマは呟いた。無害な怪獣ならなるだけ放っておきたい。無駄な労力はなるだけ避けたかったのだ。
「そう言えばガーディアンズのメンバーは今何してる?」
「はっ、それなら今頃…」
此処はウルトラ警備隊に設置された訓練スペース。其処では今各々のメンバーが特訓を行っていた。
「さぁさぁ甲児君。この柔道5段、空手6段の一文字隼人さんを投げられるもんなら投げてごらんなさいって!」
「望む所だ! 銀河系の彼方までぶん投げてやらぁ!」
白帯を巻いた柔道着を着た甲児と黒帯びの一文字隼人が互いに組み合った。甲児が何度も必死に隼人を投げようとするがその度に隼人に返し技を食らい逆に投げられている。
「ぐぇっ!」
「はっはっはっ、修行が足りんぞ若者よ」
畳の上に叩き付けられた甲児を前に一文字がゲラゲラ笑う。反対に倒れた甲児は笑う一文字を見て大層憎たらしそうな顔をした。かなり屈辱的だったからだ。
だが、相手は有段者。対して甲児は無段者である。力と技の差は歴然と言えた。
「何やってんだよぉ甲児! この巴武蔵様がコーチしてやったんだから一思いにホン投げちまえよぉ!」
「わぁってるっての! 見てろよぉ今度こそ!」
そう言って再び組み合う甲児と一文字。その横ではジャージ姿のなのはとフェイトが居た。その前には同じくジャージ姿のハヤタと本郷が居る。
「あの、ハヤタさん。私達魔導師ですから魔法の特訓とかするんじゃないんですか?」
「それもそうだがまず君達は基礎体力を付ける必要がある」
「基礎体力?」
フェイトが首を傾げる。
「如何に強大な魔力を持っていようと中身はまだ9歳の子供だ。連戦に耐えられるように体力をつけておく必要がある。そうすれば自ずと魔力も上がってくだろうしね」
「特に君達の年齢は体の基礎を作る上で一番重要な時期なんだ。それを分かって欲しい」
ハヤタと本郷の言い分は最もらしい事でもあった。確かに魔法での戦いである以上魔法や魔力の特訓も必要だがそれ以上に体の基礎を作らねばどうしようもない。魔力があったって途中でヘバッてしまっては元も子もないのだ。
「それで、ハヤタさんと本郷さんがコーチしてくれるんですか?」
「嫌、俺達もするがもう一人適任の人が来る」
本郷がそう言うと二人の間から現れたのは同じくジャージ姿の立花籐兵衛であった。
「立花さん?」
「おやっさんは俺のコーチを務めてくれた人だ。おやっさんが居た方が特訓がはかどるからね」
「そう言う訳だ。二人共私の教え方はちょっと厳しいが、頑張るんだぞ!」
「「はい!」」
二人は強く頷いた。それから見て分かる通りガーディアンズは今各々特訓に励んでいたのだ。通報が無い以上無駄に時間を浪費する訳にもいかないので自主鍛錬に励んでいたのだ。
来るべき闘いに備えて各自レベルアップに努める為である。
その間、科学班はこの状況下で使用出来るレーダー装置の開発を急ぐ。しかしかなり強力なジャミングの為完成はかなり時間が掛かりそうでもあった。
その科学班の中には神隼人とダンの姿もあった。
「全くお手上げだぜ。これだけの強いジャミングの中使用できるレーダーを作るなんざ無茶も良い所だからな」
「だが、作らなければならない。そうしなければ待っているのは破滅だけなんだ」
ダンの言う通りだった。一刻も早くジュエルシードを全て封印しなければならない。それらが一斉に暴走したら地球など粉々になってしまうからだ。
***
ゴモラの出現から数日後。此処は太平洋沖の海原、其処を一隻のタンカーが泳いでいた。
「しかし船長、大変な事になりましたねぇ」
「全くだ、レーダーが使い物にならなくなったせいで魚群探知機も使えない始末。これじゃ漁業が大打撃を食らっちまうよ」
「だから俺達輸送船団が頑張らないといけないんですよねぇ。あ~ぁ、やぶ蛇やぶ蛇」
等と船員達が愚痴っている時であった。突如海の流れが荒れだした。荒れた海を見て船長は不審がった。
妙だ。この荒れ方はおかしい。
長年の経験から船長はそう察した。明らかにこの揺れは自然の揺れじゃない。何か悪い予感がするのだ。
「海が荒れている……だが、何でまた?」
「そうですか? 大した事ないみたいですけ……」
その言葉が言い終わる直前であった。輸送船のどてっ腹に巨大な何かが突き刺さったのだ。その巨大な何かは貫いた輸送船を上空へ持ち上げた後、真っ二つに切断してしまった。
破壊した後、海原から一体の巨大な怪獣が姿を現し雄叫びを挙げる。
輸送船が爆破された報せは直ちにウルトラ警備隊に通報された。通報を受け、ガーディアンズメンバーが皆集められる。
「諸君、聞いての通りだ! 昨晩巨大な何かによりタンカー船が爆破されたと報せが来た」
「どんな怪獣か検討はついてるんですか?」
「全く分からん。だが、生き残った者の話によると此処に記載されているゴモラザウルスだったと言うそうだ」
「そんな馬鹿な! ゴモラザウルスには海を渡る能力がない筈です!」
アマギが早速異議を唱える。
「幾ら此処で議論した所で時間の無駄だ。今我々に必要な事は一刻も早くその怪獣を倒す事だ。ガーディアンズ、直ちに出動せよ!」
キリヤマ隊長の号令と共にガーディアンズ最初の任務が与えられた。
なのははハヤタと共にビートルに乗り、フェイトとアルフはダンと共にウルトラホーク3号に乗り、甲児はマジンガーZ、ゲッターチームはゲッターロボに乗り、本郷と一文字はサイクロンに乗りそれぞれ怪獣の調査、発見に乗り出したのであった。
***
太平洋上の輸送船爆破地点に辿り付いたビートルはその凄惨な光景を目の当たりにしていた。それは、全長200mはあるであろう巨大な輸送船が真ん中から真っ二つに引き裂かれていたのだ。
それも、力任せに引き裂かれたのではなく、一点集中で貫かれた後自然崩壊した物と見受けられる。
「酷い……あんな巨大な輸送船が」
「あれだけの巨大な輸送船を真っ二つにするなんて…だが、そんな事あのゴモラザウルスに出来る事なのか?」
ハヤタの脳裏に一抹の疑問が浮かんだ。あれだけの巨大な輸送船を真っ二つにするだけの事をする怪獣など居るのだろうか。あの輸送船の大きさは最大で200mはある。それだけの巨大な輸送船を真っ二つにする事が出来る怪獣が居るのだろうか。しかも、形状からしてこれは明らかに尻尾だ。尻尾の一撃で巨大な輸送船が破壊されたのだ。
「ハヤタさん……もしかして」
「間違いない、あの多々良島と同じ様に、もしかしたらそのゴモラザウルスにもジュエルシードが宿っているとしたら、それは恐ろしい事になる! 何としても見つけ出さなければ」
ハヤタとなのはの脳裏に焦りが募りだす。もしそのゴモラザウルスの身にジュエルシードが内臓されたのだとしたら、とんでもない事になる。以前のレッドキング同様手のつけようのない大怪獣と化してしまうのだ。しかもゴモラの戦闘力は未知数である。危険極まりない。そんな時、突如ビートルに通信音が鳴り響いた。
「聞こえるかハヤタ! こちらムラマツだ。応答せよ」
「キャップ! 何事ですか?」
「大変だ! 巨大な怪獣が大阪に現れた! 至急迎撃に向え! 今マジンガーとゲッターが戦ってるがてんで話しにならない」
「なっ、あのマジンガーとゲッターでも敵わない相手だと言うんですか!?」
もしそれが本当なら恐るべき事態だ。マジンガーもゲッターも日本の誇るスーパーロボットである。その二体が揃ってても勝てない程の驚異的な怪獣だと言うのであれば早急に対処しなければならない。
さもなければ大阪は瓦礫の山と化してしまうだろう。
***
大阪で怪獣の迎撃をしていた甲児と竜馬達は正直度肝を抜かれる事となった。
「何て奴だ。俺達の武器がまるで効いてないなんて」
「今まで戦ってきた怪獣とは比べ物にならない強さだ!」
今、二体のスーパーロボットの前に居る怪獣。その姿は正しく強大さを露にしていた。
全身の甲殻が鎧の様に特化されておりその力はかつてウルトラマンとウルトラセブンが戦ったレッドキングを遥かに凌駕していた。
何よりも驚かされたのはその巨大で太い尻尾だ。まるで槍の様に鋭利で更に伸縮自在なのだ。その為リーチを計り辛くそれがまた厄介さを招いていた。
其処へ遅れてビートルとウルトラホーク3号が辿り付いた。
「やはり、あれはゴモラザウルスだ! だが、写真とは全く別物に変わっている」
「やっぱり、あれはジュエルシードのせいでしょうか?」
「そう思って間違いないだろう。それもかなり厄介な相手だ! 僕はウルトラマンで迎撃する。なのはちゃんはその間にジュエルシードを封印してくれ」
「分かりました」
直ちにビートルを着陸させ、ハヤタはベータカプセルを天に掲げてウルトラマンに変身した。それと同時にウルトラセブンも現れる。
二体のウルトラマンがそろい踏みで変貌したゴモラザウルスを前にした。
(奴の脅威は尻尾だ。気をつけろ)
(分かってる)
互いに頷き会いウルトラマンとセブンはゴモラに向い突進した。首筋と胴体に鉄拳を放つ。しかしそれらもゴモラの硬い甲殻の前では無意味に終わる。相当なまでの堅牢さだった。並の攻撃では全く歯が立たない。見ればゴモラは全く応えた様子が見られない。かなりのタフな怪獣だ。
其処へ伸縮自在の尻尾が唸りを上げて襲ってきた。先端がこちら目掛けて襲い掛かってくる。間一髪でそれをかわすウルトラマン達。だが、その一撃は戦慄を感じさせた。
まともに食らえばウルトラマンとて無事では済まない。体を貫通させられて絶命する事は必死だ。それにパワーも以前多々良島で戦ったレッドキングの比ではない。凄まじい程のパワーを有している。
「あの怪獣、凄く強い」
「ちゃっちゃと封印して怪獣をやっつけちゃおうよ」
「分かりました!」
なのはとフェイト、そしてアルフの三名は急ぎゴモラからジュエルシードを回収する為にゴモラに攻撃を仕掛ける。封印をする為には母体からジュエルシードを取り出さねばならない。だが、その為にはダメージを与える必要がある。しかし目の前のこのゴモラにダメージを与えるのは至難の業であった。
ウルトラマンの攻撃ですら涼しい顔で受けるゴモラに対して魔導師の攻撃など蚊が刺した程にも感じてないだろう。
現にフェイトのハーケンセイバーやなのはのアクセルシューターを食らってもゴモラは全く意に返さない。それどころか更に激しく暴れまわるだけであった。
其処へ防衛軍の援護射撃が行われた。砲弾の雨がゴモラ目掛けて降り注ぐ。爆発と衝撃に溜まらずゴモラも唸る。流石に砲弾の雨霰を食らえば多少は応えるようだ。
「良いぞ良いぞぉ! その調子でぶっ潰しちまえぇ!」
「甲児君、俺達も続くぞ!」
勢いに乗りマジンガーとゲッターも遠めから攻撃を行った。ウルトラマンもセブンも格闘戦から光線技へと変更して攻撃を仕掛ける。幾ら伸縮自在の尻尾を持っていたとしても相手がこうも多いと狙いが定まらずゴモラも苦戦状態になっていた。
今が好機。そう思い二人の魔導師が構えた。
「あ……」
だが、その時なのはは見てしまった。
それは、ゴモラの目から零れ落ちる一滴であった。ジュエルシードに支配され破壊の化身と化したゴモラの目から一筋の涙が零れ落ちたのだ。
それを見た瞬間にになのはとゴモラの中の時間が止まる。居るのは自分とゴモラだけであった。他の景色や人は一切消えてしまっており二人が互いに見合う形となった。
(痛い……痛い……)
聞こえてきた。それは恐らくゴモラの声だった。とても悲しげな声であった。まるで、この声を聞こえている者に助けを求めているかのようであった。
「これって…あのゴモラの声?」
(助けて……助けて……)
ゴモラの声は更に悲痛さを増している。ジュエルシードにより体を乗っ取られ、今心までもが支配されようとしている中、渾身の力を振り絞って叫んでいるのだ。その叫び声がなのはに届いたのだ。
「ゴモラが助けを求めてる……本当はこんな事したくなかったんだね」
なのはは知った。ゴモラの心の叫びを。本当はゴモラとて暴れたくない。だがジュエルシードの力により強制的に暴れさせられているのだ。止めなければならない。あんな悲しい目をした怪獣をこれ以上悲しませたくない。ならば一刻も早くジュエルシードを取り出さなければならないのだ。
確信したと同時に双方の時間が動き出す。またゴモラは暴れだす。
が、なのはは冷静にレイジングハートを構える。やる事は既に分かったからだ。
「レイジングハート。ジュエルシードの場所を教えて! 一点集中で撃ち抜くから」
【既に確認済みです。ジュエルシードは怪獣の胸部にあります】
レイジングハートからの情報は正確だった。しかしその場所と言うのがゴモラの最も堅牢な胸部にあると言う。此処を撃ち抜くには拡散型では意味がない。収束型で貫通させるしかない。それも寸分も違わぬ様にだ。正しく細い針に糸を通す作業と言える。
「フェイトちゃん、皆! 私がジュエルシードを取り出すから下がってて!」
「なのは、出来るの?」
「収束型で撃ち抜けば行ける筈だよ。任せて!」
地上から降りたなのははレイジングハートの穂先をゴモラの胸部に向ける。集中する為他一切の魔力を切っておく。こうする事で射撃にのみ集中出来るからだ。ゴモラが目前まで迫ってきている。他のメンバーが足止めしようとしたがその度なのはの睨みが利かされる。
まるで「邪魔するな」とでも言ってるかのようだった。各々が固唾を呑んで見守っている。もし失敗した時は何時でも突っ込んで行く為だ。
また、封印に成功したとしても相手は怪獣。またすぐに暴れだす可能性が高い。それでもジュエルシードが無くなれば幾分か戦いやすくなる。その時がチャンスだった。
「待っててね、すぐに助けるから……」
囁くように言った後、なのははトリガーを引いた。今までの巨大な魔力砲とは打って変わり、細い針の様な魔力砲が放たれた。その一撃は正確にゴモラの体内にあるジュエルシードを撃ち抜いた。
打ち抜かれたゴモラの背中から結晶状態に戻ったジュエルシードが姿を現す。
「フェイトちゃん、確保お願い」
「任せて!」
収束型を撃った溜か思うように動けない状態のなのはに変わりフェイトがジュエルシードを確保する。高速でゴモラの背後から摘出されたジュエルシードに近づき、バルディッシュでこれを封印する。これにて無事に事は収まった。残るはゴモラの処理だけである。現在ゴモラはジュエルシードの支配から解放された直後な為かとても大人しい。仕留めるなら今しかない。
「よし、後はゴモラを始末するだけだ。協力して叩くぞ甲児君!」
「任せろ! 一気に叩き潰してやらぁ!」
「待って下さい!」
一斉攻撃しようとした甲児達に対しなのはが叫ぶ。その声を聞き皆が動きを止める。
「何だよなのは! 相手は怪獣だぞ!」
「それでも待ってて下さい。私が何とかしてみます」
「何とかって! 馬鹿な事言ってんじゃねぇ! 食われちまうぞ!」
なのはが優しい性格だと言うのは理解していた。だが、今回は相手が違い過ぎる。彼女が救おうとしているのは道の端っこでいじめられてる子猫や子犬じゃない。40メートル以上はある怪獣なのだ。その気になれば人間など一息で殺せてしまう。そんな相手を救おうなど無謀も良い所である。
「冗談じゃねぇ! こいつが暴れださない内に始末しねぇと大変な事になるぞ! 其処を退け! 俺とマジンガーで叩き潰す!」
「甲児君の言う通りだ! これ以上被害を出さない為にも今此処で…」
甲児と竜馬の言葉はなのはの睨みで消えうせた。
今までなのはが見せた事のない怖い顔だ。鋭い目線でこちらを睨んでいる。其処には強い意志が込められている。
下手に手を出せばかなり痛い報復が来るのは明白であった。
「おいお二人さん。此処はあいつに任せてみたらどうだ?」
「隼人!」
「どの道何か策があるんだろう? それに、何かあったら無理やりにでもアイツを引っぺがしてゴモラを仕留めりゃ良いだけだ」
簡単に言ってくれる。しかし、現状はなのはに一任するしかない。
「フェイト。もしゴモラが暴れだしたらなのはを遠くまで離れさせてくれ。その直後に俺達がしとめる」
「分かりました」
皆が身構える。何時ゴモラが暴れだしても良いようにだ。今ゴモラはジュエルシードの影響から抜け出した直後の為に大人しくなっている。しかし、何時また暴れだすか分からない状況だ。皆に緊張が走る。二体のウルトラマンも黙って見ている。だが、余り時間がない。暴走したゴモラとの激戦のせいでかなりエネルギーを消耗してしまった。残りエネルギーが少なくなっている。
そんなゴモラの目の前になのはが近づく。
「もう大丈夫だよ…誰も君を傷つける事はないよ…だから、もうお帰り」
そっと語り掛ける。ゴモラは黙ってそれを聞いていた。そう言いながら何となのははゴモラの額にそっと手で触れる。
すると、突如としてゴモラは皆に背を向けて歩き出して行った。まっすぐ何もせずに歩いて行く。
故郷に帰って行ったのだ。驚くべき光景であった。怪獣と言えば皆見境無しに暴れまわる存在だとばかりに思われていたのだ。それが今こうして大人しく帰っていく。それが信じられなかった。
「すげぇ…あの怪獣が大人しく帰っていくぜ」
「あぁ、だが一体何故?」
誰もが驚いていた。今まで怪獣を倒す事しか考えられなかったのが、今こうして怪獣を大人しくさせてしまったのだ。まるで夢を見ている気持ちであった。
「やった…やったよ! 皆」
「ったく、無茶やってくれるぜあいつ」
「だけど優しい子だ。俺達に戦うだけじゃないって事を教えてくれたんだからな」
誰しも戦わずに済むのならばそれに越した事はない。しかし、怪獣と語り合うなんて勇気ある行動を今まで誰が出来ただろうか。そんな事が出来るのは恐らく、彼女しかいないだろう。
彼女のその優しさが最大の武器なのだ。されど、その優しさが、最大の武器でもあると同時に、最大の欠点でもあると言う事を、この時はまだ誰も知る由は無かった。
また、これは余談ではあるが、故郷に帰って行ったゴモラは、後にある青年と共に幾多の戦いを経ていく事になるのだが、それについての真偽は誰にも分からない事である。
つづく
後書き
次回予告
起動前のジュエルシードを回収出来たガーディアンズ。
しかしそれは異次元に済む怨念の集合体の仕組んだ罠であった。
次回「異次元の死闘」お楽しみに
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