西遊記
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第九回 易者龍王を占うのことその六
「素晴らしく御仁、では酒や肴も」
「そうしたことならです」
贈りものならというのです。
「受け取りません」
「清貧ですな」
「人生意気に感ずで」
龍王に微笑んで述べます。
「私はそれで充分です」
「唐朝に認められているので」
「満足です」
「では宴では」
龍王はそれならと言いました。
「酒や肴は」
「それでは。しかしこれは夢ですね」
魏徴はもうこのことに気付いていました。
「左様ですね」
「夢ですがこの世界のことです」
まさにというのです。
「我等神仏が贈ったものなら」
「現実のものにもなりますか」
「先程出したものも」
銀や金、財宝もというのです。
「そして酒や肴も」
「そうなのですか」
「では贈りものではなく」
「宴として」
「どうぞです」
酒や馳走を出して言います。
「遠慮なく楽しまれて下さい」
「それでは」
「はい、それでお願いですか」
魏徴と共に宴に入りその場であらためて言います。
「実は私は意地悪を企みまして」
「それで、ですか」
「不始末をしまして万歳老からお叱りを受けそうなのです」
「龍王様がですか」
「はい、そうです」
「一体何かは聞きませんが」
魏徴は肴の鮒の刺身を食べつつ言いました。
「万歳老にそうされますと」
「困りますな」
「私は如何に言われてもそうしてはならないすべきと思えば」
その時はといいますと。
「申し上げますが」
「魏徴殿はそうされますね」
「それが臣の務め、私の役職なので」
「そうされますか」
「全ては唐朝天下万民の為」
魏徴は確かな声で言いました。
「私はそうします、しかし他の方には難しいこと」
「万歳老からの叱責に耐えるには」
「それが多少のこと、それこそ人の命や天下に関わるものでなければ」
「よいですか」
「万歳老には慈悲も必要です」
その心もというのです。
「龍王様が何をされたか知りませぬが」
「それでもですか」
「はい」
それでもというのです。
「とりなしをさせて頂きます」
「そうしてくれますか」
「お任せ下さい。万歳老にはです」
魏徴は唐朝のこの人のことを思いつつ言いました。
「申し上げさせて頂きます」
「それでは」
「はい、しかし」
魏徴は龍王にあらためて言いました。
「まさかです」
「私がお願いするとはですか」
「龍王様程の方に」
こう言うのでした。
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