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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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雷鎖:第二話 Dragon Slayer

 
前書き
皇神未来技術研究所のボスは彼女にやってもらいますか 

 
ソウとGVによる皇神崩壊騒動から更に年月が経ち、山奥にある大型施設から離れた所に生えている木の上で様子を伺う少女の姿があった。

「あれが再建された未来技術研究所…。奇跡の復活を遂げた企業・皇神グループ。その最先端技術の全てが集う英知の園。あれを隠すには、うってつけの場所、か…気持ちは分からなくはないけど、良く自分達を破滅させた奴の力を使おうとか考えるもんだわ…」

正面からの接触は、私の所属する組織"裏八雲"がとっくに済ませてる。

けど、皇神側の回答は、知らぬ存ぜぬの一点張り…。

皇神内部で味方をしてくれるのは“雷の一族”とその側近の“翼戦士”だけだ。

かつて、皇神が崩壊して全てを知った国民からの信用を失い、それを好機として襲ってきたテログループを打ち倒した一族。

国民は一族を歓迎し、一族は持ち前のカリスマで皇神の残っていた人員を取り込んで皇神を再建した…のだが、やはり根付いていた隠蔽体質は簡単には改善されなかったようで彼女達からの依頼もあって私が来たと言うわけだ。

「恨まないでよ、皇神さん。そっちが一族さん達にも隠してるのが悪いんだからさ。裏八雲所属。戦巫女が"きりん"…行くよ!!」

きりんは用意していたバイクに乗り込んで研究所のある場所から更に奥へと突き進む。

「何だ…?第七波動能力者?お前!どこの所属だ!」

「ごめんね。命までは取らないから。恨むなら、一族さん達にもアレを隠してる管理者を恨んで」

バイクで途中まで強行突破し、後は皇神兵を適当に伸しつつ突き進む。

向かうは下の階層……一族さん達からの情報からしてそこにアレはいるはずだ。

「もし、この施設が“白”なら裏八雲(うち)の大失態だけど…」

私の所属する"裏八雲"は、代々宝剣の鋳造や流通を取り仕切っている組織だ。

宝剣…能力者の能力因子を摘出し、剣に埋め込む形で隔離することで、第七波動を抑制する霊的制御装置。

一族からリークされたのは、その使い道と量。

今、本来あり得ない量の宝剣がこの場所に一極集中している。

「そんなの、十中八九“黒”でしょ」

そんなことを言った直後、かなりの広さを持つはずの山全体を揺るがす振動が起こった。

「どうやら、"アレ"はご機嫌斜めみたいだね…一族の…あの人も気の毒だよね、大切な人が利用されてるのかもしれないなんて」

皇神が崩壊した時、裏八雲も相当な大打撃を受けたけどあの人が皇神を再建したことで大分救われたのは事実。

勿論彼女の正体を知る者からすれば納得いかない者もいるのだが。

「あの人にはお世話になったし、恩返しくらいはしないとね…そう言えばあの人っていくつなんだろ?私が小さい頃からずっと姿が変わってないような…止めよ、藪をつついて蛇を出したくないし…下手したら殺されそうだし」

更に奥へと進むと大量の宝剣が突き刺さった場所に出る。

「この大量の宝剣…間違いない。もう、これだけの宝剣造るのがどれだけ大変か、あいつら全然分かってないんだから…」

ぼやきながら走ると……目的のアレはすぐに見つかった。

「やっぱりここにいた…!」

「はぁ!?何ですか!?あなたは!」

この件に関わっているであろう皇神の人間をスルーしつつ歩み出る。

私の眼前にいるのは…。

「第七波動を超越し、覚醒した化け物…能力者の行きつく先…"暴龍"。最強の第七波動・蒼き雷霆を超越する究極の第七波動・紅き雷霆…あの人達以上の威圧感(プレッシャー)…正直、信じられないくらいの化け物だね…」

それは、無数の宝剣で封じられた赤龍(せきりゅう)。

紅き雷霆が暴走した結果生まれた大いなる厄災だ。

「はっきり言ってこんな状態の相手の力を利用して利益を出そうと考えるあんた達に尊敬するわ…悪い意味でね」

「い、いきなり押しかけてきてなんたる無粋。無粋千万ですよあなた…。一体全体、何なんですかー!?」

「私は裏八雲のきりん。ここに来たのは、あんた達の尻拭い。死にたくなかったら、さっさと離れた方が良いよ」

「裏八雲?宝剣の鋳造元の…?もしや、この間の返答が虚偽であるとバレて…?い、いや!それは悪いと思ってますがねぇ。これだけの宝剣が無ければ、これの封印は…」

「宝剣なんかじゃ、この力は抑えきれない。皇神はもう少し一族の声に耳を傾けるべきだったね。かつての自分達を滅ぼした人物の血筋とは言え、国の救世主様達に良くも恩を仇で返せたもんだわ」

その時、封印によって眠らされていた暴龍が動いた。

周囲を見渡して自分を縛る何かに気付いた暴龍は身動ぎをしただけで宝剣の封印に亀裂が入る。

「来るっ!!」

脆くも砕け散る宝剣。

そして、先程の威圧感すら遥かに超越する威圧感に私は冷や汗を流し、男に至っては泡を吹いて失禁した挙げ句に失神してしまう。

「少し身動ぎしただけなのに…っ!」

これを相手にしないとならないのかと能力の都合とは言え、貧乏くじを引かされた私は震える体を叱咤して錫杖に手を掛けた。

『誰だ?』

「え?」

暴龍の口から放たれた理性的な声。

固さはあるが、私を見て幾分か柔らかくなった声と視線を合わせるような動きに私は思わず目を見開いた。

『誰だお前は?俺に構うな…怪我をしたくないのならこの場から去れ』

まるで小さな子供に語り掛けるような穏やかな声に驚きと安堵が同時に押し寄せた私は深く息を吐いた。

「驚いた…そんな姿で理性があるんだね…凄い精神力…」

私が一族から聞いた暴龍達は理性がなく、あっても支離滅裂な行動や発言をすることが多いらしく、目の前の暴龍のようなケースは初めてだ。

「理性があるなら、話が早いかな…究極の第七波動能力者…紅き雷霆・ソウ…あんたに頼みがあって来たの」

『頼みだと?話してみろ』

理性のある相手だと話が進んで助かる。

私はここに来た事情を説明する。

皇神がやったことに関しては表情は分からないが雰囲気で何となく呆れてるのが分かる。

『なるほど、皇神の馬鹿共がここに隠れ住んでいた俺の雷撃エネルギーを利用した結果、能力者の暴龍化…暴走が進んでいると?』

「そう言うこと…暴龍を止めるためにあんたの力を貸して欲しいんだ」

『断る』

私の頼みを一刀両断するソウ…まあ、これに関しては仕方ないだろう。

私だって無断で能力を利用されたら思う所はある。

「…やっぱり?」

『何故俺が皇神の馬鹿共の尻拭いをしなければならん。そもそも俺達はこの姿になってから人里から離れたここで暮らしていた。それをずかずかと入り込んで俺の力を利用していた皇神に責任があるだろう。長きに渡る戦いの末…第七波動を超える新たな段階(ネクストフェーズ)に覚醒してより凶悪になった紅き雷霆のおこぼれを貰おうとするとは…考えなしの馬鹿だと思っていたがここまでとはな』

「そ、それを言われると何も言い返せな…“達”?あんた以外にも暴龍になった人がいるの?」

『俺の妻だ』

「お、奥さん…そ、そうだよね…あんたはあの人のお父さんなんだから奥さんいるだろうし」

『?』

「じゃ、じゃあこれならどう?私があんたの奥さんの暴龍化を鎮めてあげる。私の第七波動・鎖環(ギブス)は封印の力…あんたの奥さんを人に戻してあげられる…これで協力してくれない?」

あの人からの情報ではソウは愛妻家だったらしいので、ソウの奥さんを救えば力を貸してもらえるのではないかと思ったのだ。

『……可能なのか?本当に?』

「まあ、少し戦って消耗させる必要はあるけど…」

『…頼む…乗れ、小娘』

屈んで私に乗るように促すと私は四苦八苦しながらも何とかソウに乗り、ソウは紅い羽を出しながら飛翔した。

私は非常事態であるにも関わらず上空から生身で見る景色に目を奪われた。

ソウのいた場所から大分離れた場所に桃色が特徴のソウよりも一回り小さい暴龍がいた。

何かを待っているかのように、暴龍の口から漏れる声は寂しげだ。

その暴龍はソウを見た時に甘えた声を出したが、私を見た瞬間に獣の如き殺気を解放した。

『グルアアアアッ!!』

「ちょ!?さっきまで甘えた声出してた癖に!!」

『恐らくあいつのヤキモチと言う奴だろう。まあ、頼むぞ小娘』

私に面倒事を全て押し付けてソウは飛翔した。

「わ、私に全て押し付けていった…!まあ、離れて過ごしていた旦那がいきなり可愛い女の子連れてきたら怒るか…」

私も女の端くれだからソウの奥さんの気持ちは分かる…相手はいないけど。

「来なよ、紅き雷霆の片翼!その力、私の鎖環で縛り上げる!あんたに真の封印を!!」

暴龍の角から反射する性質の光弾が発射され、頭上に無数の鏡が展開されて私に鋭利なトゲが降り注ぐ。

攻撃をかわしながら私は斬撃を浴びせる。

近くにソウがいるためか激しい攻撃はしてこない。

理性のない状態になっても旦那を愛してるなら同じ女として尊敬する。

「正直、そんな風に想える相手がいるのって少し羨ましいな…安心して、私の鎖環で元に戻してあげるからさ!」

途中で世界が反転したことに驚く。

どう言う第七波動なのか知らないけどこんな出鱈目なことまで出来るなんて、慣れるまで時間がかかってしまった。

旦那が旦那なら奥さんも奥さんで出鱈目だ。

私はこれ以上戦いを長引かせないために奥義を放つ。

「行くよ、斬入ること雷霆の如く!迸ること百華の如し!裏八雲が奥義!!九十二式・乱れ夜叉砕きっ!!」

裏八雲の奥義。

神速の抜刀術で周囲の空間ごと斬り刻む私のSPスキル。

これを受けたソウの奥さんはダメージによって倒れ伏した。

「よし、力が弱まった!これなら!」

私は鎖環の力を使ってソウの奥さんを人の状態に戻す。

髪の色や肌色を除けば“あの人”に似ている女性の姿になる…あの人はお母さん似なんだ。

『感謝するぞ小娘…お前の頼みを聞こう』

私は最高とも言える結果に拳を握り締めた。

取り敢えず私は奥さんが目を覚ます前にソウを人の状態に戻した…奥さんに殺されたくないし。 
 

 
後書き
ソウ自身結構長生きしたことで大分丸くなってます。 
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