蒼と紅の雷霆
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蒼き雷霆ガンヴォルト鎖環
雷鎖:第一話 逆鱗
前書き
鎖環って凄く年数が経過してるけどきりんの設定を考えると爪から多少時間が過ぎたくらいじゃ出せんキャラだわ。
一応鎖環の主人公はきりんだから第一話でのスタートです
第七波動能力者… 。
数十年前から人類に現れるようになった超能力者の総称・第七波動と呼ばれる超常的な能力を生まれながらに備えた新人類…。
それにいち早く目をつけたのが、当時新エネルギーの研究を進めていた“皇神グループ”だった。
皇神は、電力会社を中心とした巨大複合企業体だが、国のエネルギー供給を一手に担う彼らをこの国の影の支配者と呼ぶ者も少なくはない。
事実、当初は大きな混乱を呼ぶと思われた能力者達の出現も、彼らの統制によってこの国は、他国とは比べ物にならない治安レベルを維持していた。
…しかし、皇神のもたらした平和とは能力者の犠牲によって成り立つものだった。
“能力者の保護”を名目とした強制収容…。
“エネルギー研究”の過程で行われる数多くの人体実験…。
それらの非人道的な行いは、皇神によって巧妙に隠蔽されていたが、その中でいち早く真実に気付き皇神に抵抗を始めた組織があった。
そう、この僕…ガンヴォルトも…兄さんと共に皇神と戦ったその組織に所属していたテロリストだったのだから…。
エデンの事件から10年後…。
あれからその間に色んなことが起きた。
オウカの屋敷に身を寄せていた僕と兄さんとシアンの存在が皇神にバレてしまい、電子の謡精欲しさにシアンを狙う皇神の部隊が押し寄せてきた。
しかし、シアンにはもう電子の謡精の力は失われていると説明しても戯れ言だと断じられてしまい、迎撃することになる。
僕はもうここにはいられないとオウカに告げて屋敷を後にしようとするが、オウカの立場を思い出した。
桜咲財閥の庶子である立場と世間的にテロリストである僕達を匿っていたことを考えると残されたオウカの未来が明るくないのは明らかだ。
そして長年支え続けてくれた彼女に僕は愚かにも愛しさを覚えていた。
彼女の“自由”を奪ってしまうかもしれないと思うと躊躇が生まれてしまうが、皇神の部隊の増援が来たのでもう迷っている時間はない。
僕は手をオウカへと手を伸ばし、そしてオウカは僕の手を掴んでくれた。
僕達は必要最低限の物を持って屋敷から逃げ出した。
そこからは本格的な逃亡生活だ。
変装をしながら各地を転々とする生活。
お嬢様だったオウカには辛い生活をさせてしまっている罪悪感に僕は何度も押し潰されそうになってしまうが、オウカはそんなことをおくびに出さず、楽しそうに幸せそうにしていた。
幸運にも蒼き雷霆によるハッキングとテーラの夢幻鏡、万が一のために知識を蓄えていたことが幸いして戸籍を捏造するのは容易かった。
そして最終的に山奥の山村で暮らすことになったが、まさか皇神も僕達がこんな所に隠れ住んでいると思わなかったのか、それともテーラの能力によるおかげか、僕達は皇神に見つかることなく平穏に暮らせていた。
フェザー時代に稼いでいたお金とオウカの屋敷で過ごしていた時に万が一のためにミッションを受けて稼いでいたお金もあってかあまりお金に困ることがなかったのは幸いだった。
しかし、平穏に暮らして歳を重ねていく度に僕はあの時、歌姫プロジェクトを止めたことが本当に正しかったのか疑問に思うようになった。
無能力者に虐げられていた能力者による叛乱は収まることはなく、僕と兄さんが戦いに赴くことは少なくない。
大人に近付くにつれて自由よりも平和を望むべきだったのではないかと思うようになってしまった。
勿論、僕はあの時の皇神のシアンの意思を無視したやり方を今でも許すつもりはないが、もっと他のやり方があったのではないか?
もっと紫電と話し合うべきだったのではないかと思い始めていた。
「どうした?」
外で考え込んでいると兄さんが赤ちゃんを抱きながら歩み寄ってきた。
この子は兄さんとテーラの子供のアリス…顔立ちはテーラにそっくりだけど他は兄さんの血を色濃く受け継いでいる。
結構元気な子で僕が抱っこした時、髪や頬を引っ張られて結構痛かったのは記憶に新しい。
兄さんが父親をしてるなんて昔のフェザーの仲間が見たら腰を抜かすなんてレベルじゃないだろうな。
「兄さん」
「大方、昔の自分のしたことが正しかったのか考えていたんだろう?」
兄さんは第七波動とは違う意味でのエスパーなんだろうか?
どうして何も言っていないのに僕の考えが分かるのか。
「兄弟としてどれだけの付き合いだと思っている…確かに俺達が歌姫プロジェクトを阻止したことで能力者の叛乱は起こっている。だが、仮に歌姫プロジェクトが行われていたとしてもまともに機能するのは紫電が生きている間だけだ。紫電の後を継いだ者が紫電の意思を理解しているかは分からんし、下手をしたら今以上に能力者への差別が行われていただろう。こう言うのはあれだが、紫電のあれは紫電が生きている間だけの間に合わせの策だ。まあ、本人の発言からして紫電も間に合わせの策なのは理解していたようだがな。」
紫電自身も歌姫プロジェクトが最善策だとは思っておらず、時間も足りないあの時の状況での妥協策と言っていた。
しかし仮に紫電が僕達に勝てたとしても疲弊している状態でアシモフに勝てたとは思えないのでどう足掻いても歌姫プロジェクトの完遂は不可能だったろう。
その場合、アシモフによる能力者のための理想郷創立は避けられないので現状よりも悲惨な状況になる可能性がある。
アシモフと戦った僕からしても万全の状態の紫電ならまだしも自分達と戦って疲弊していた紫電がアシモフに勝てるとは思えないのも事実だ。
歌姫プロジェクトによる無能力者優位の未来か、アシモフによる能力者のみの未来か、どちらに転んでもどちらかが不幸になるのは決まりきっていたのかもしれない。
「それに当時の俺達に対話すると言う余裕などなかった。どちらもな」
僕達は皇神への不信とシアンを拐われていたことによる怒りと焦り、皇神も僕達がテロリストであることと時間がない故の余裕のなさによって対話すると言う選択肢はないに等しかった。
「………」
「GV、お前はまず理想よりも自分の幸福を考えろ。理想が生きる手段になるなどあってはならないんだからな……お前も父親になったんだろう?」
「……父親か…」
僕はオウカとの間に子供…娘を授かった。
当時は僕のような人間が親になることに思うことがなかったわけではないけれど、みんなが祝福してくれた時、胸に温かいものが満ちたのは今でも覚えている。
記憶に残っているアシモフの背中。
彼の本性を知るまで、僕にとって父親のような存在と言えたアシモフの背中はとても大きくて安心感すら覚えていた。
僕にアシモフのような安心感を与えるような背中を子供に見せることは出来るのだろうか?
「お前だけが不安になる必要はない。困ったら俺達を頼れ…それが家族だろう?テーラも言っていたろう?困ったら義姉である自分を頼れと」
「そ、そうだね…」
そう、僕には兄さんだけじゃない、テーラやシアン…そしてオウカが、家族がいるんだ。
1人で背負い込む必要はない。
ただ、最近はエネルギー不足が深刻化しているらしく、皇神の勢いがないのはその対応に追われているからと聞く。
僕の第七波動・蒼き雷霆は元々エネルギー不足を解決するための力。
もし、子供が一人立ちしたら僕の力を皇神に提供しても良いのかもしれない。
しかし、ある事件が起きた。
皇神によるオウカと娘の誘拐。
皇神の狙いは僕の投降だった。
エネルギー不足の深刻化により、僕の蒼き雷霆によるエネルギー確保を目論んだ皇神上層部により、僕の妻子は誘拐された。
僕は妻子を助けるために投降しようとしたが、オウカはそれを止めようとした。
仮に大人しく投降したとしても僕の未来が明るい物ではないと分かっていたからだろうが、オウカを捕らえていた人物がオウカと泣きじゃくる娘を殴打したのを見た瞬間、僕の頭の中が真っ赤に染まり、かつてない程の力を解き放った。
壊滅した皇神の部隊、そして本社を兄さんが壊滅させた上にテーラが皇神の行ってきた非人道的な実験などをネットに流したことでこの国の無能力者・能力者からの皇神の信用が失墜し、この国の実質的な支配者だったかつての栄光は見る影もない程に衰退した。
もう僕は皇神を信じることが出来なくなった。
かつて戦ったテーラの兄さんのテンジアンもこんな気持ちだったのだろうか?
オウカの傷を見る度に僕は胸が締め付けられた。
そんな僕をオウカが優しく抱き締めてくれた時だけは荒んだ心が和らいだ。
皇神は失墜した信用の回復と皇神本社の復活のために走り回っていると聞いているが、もう僕はそれを聞いても何も感じなかった。
あれから更に年月が過ぎて、僕の体は老化によって体が言うことを利かなくなっていく…逆に兄さんとテーラは若いままだ。
例え僕が死んでも2人が生きてるなら安心する。
最期は家族に見守られて安らかに眠ることが出来たけど、これが新たな戦いのきっかけになるとはこの時の僕は思いもしなかった。
後書き
GVは老いてソウとテーラは老いていない。
良くも悪くも弟より動く兄貴の方が影響でかいと言う。
GVの相手はオウカになりましたけどシアンと一体化してもシアンの好意を家族愛と思う辺り、女性を感じさせるオウカになるだろうなと思う。
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