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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第260話:月からの帰還

 地球で異変が起こっている事は月遺跡からも確認できた。青い水の惑星である筈の地球が赤い光を放つという異常事態に、何かを知っている様子の動揺しているシェム・ハを颯人は直ちに問い詰めた。

「おいシェム・ハ、ありゃ何だ? お前何か知ってるのか?」

 赤く染まった地球の様子に唖然としていたシェム・ハは、颯人に声を掛けられるも尚目の前の光景が信じられないのか目を見開きワナワナと体を震わせている。流石にこのままでは話が進まないと、内面の未来もシェム・ハに呼び掛けて再起動させ現状の説明を促した。

(シェム・ハさん、しっかりッ! あれは何が起こってるんですかッ!)

 外からの颯人の声と内からの未来の声に、漸く思考が再起動したシェム・ハはハッとなって肩を震わせると我に返った様子で今地球に起きている事を話し始める。

「あれは間違いなく、ユグドラシルシステムが起動している……!」
「ユグドラシルシステム?」
「何だい、そいつは?」

 聞き慣れない単語に翼と奏が首を傾げるので、シェム・ハは掻い摘んで自身が地球に仕掛けていたユグドラシルシステムについて話し始めた。

「ユグドラシルシステムとは、我が嘗て地球に仕掛けた惑星環境改造装置だ」
「惑星環境改造装置ッ!? 何だその明らかに物騒な名前の装置は……」
「嘗て我はあのシステムを使って、地球と人類を改造した後、同胞の銀河へ攻め入る事を計画していたのだ」
「お前、物騒且つ傍迷惑な事を……」

 壮大だが傍迷惑極まりないシェム・ハの計画を聞かされた奏が顔を引き攣らせる。幸いな事にそのシェム・ハは今神の力を失っている為その計画が実行に移される事は無い訳だが、にも拘らずああしてユグドラシルシステムが起動しているという事は、神の力を横取りしたワイズマンがシステムを起動し惑星環境改造に着手し始めたという事。

(でも何でワイズマンさんは、環境改造なんて……?)
「話を聞くだに、あの男は全人類の精神を繋げて一つの強力な賢者の石を作ろうとしているのであろう? 本来であればバラルの呪詛を解き、相互理解を復活させた上で行う予定であったそれを、奴はユグドラシルシステムを代用する事で成そうとしているのだ」
「ユグドラシルシステムってのは、全人類を繋げることも出来るのか?」

 一見すると独り言を口にしている様にしか見えないシェム・ハだったが、内面の未来と話しているのだと理解している颯人達はシェム・ハの言葉の内容からどのような会話がされているのかを察して気になった事を問い掛けた。

 結論から言えば、ユグドラシルシステムで全人類を繋げるという芸当は可能であった。ユグドラシルシステムの目的は地球の環境と人類を始めとした地球生命を改造する事を目的とした装置。つまりは地上の人類に直接手を加える事が出来るという事である。そしてどんな形であれ全人類に干渉する事が出来るなら、ワイズマンからすれば態々バラルの呪詛を解く必要性は無かったのだ。

 ただユグドラシルシステムが起動している事に関して、当事者であるシェム・ハが理解できない事が幾つかあった。

「しかし、分からぬ……ユグドラシルシステムはもともと全人類を生体端末ネットワークとすることでフルドライブ稼働させる予定だった筈。一体どうやってあそこまで動かしているのか……」

 つい最近まで封印されていた状態のシェム・ハは、現在の地球に関する知識が足りていなかった。だからワイズマンがどうやってユグドラシルシステムを稼働させているかが分からなかった。その彼女の疑問に答えたのは、忌々し気に頭上に見える地球を見ている颯人であった。

「大方、コンピューターネットワークを利用したんだろ。現代はネットワーク社会、目には見えなくても地球全土がネットワークで繋がってる状態だ。地球上のコンピュータネットワークを全部繋げて演算処理しちまえば、あれくらいは出来ちまうんだろ」

 本来であればそんな事は不可能なのだろう。地球全土のコンピュータネットワークを繋げるなどと言う芸当は、そう簡単にできるものではない。ワイズマンは魔法と神の力の併用でそれを掌握し強引に全てのコンピュータネットワークを繋げたのである。地球上の全てのコンピュータを接続すれば、スーパーコンピューターなど凌駕する演算処理も可能となるに違いない。

 ワイズマンがユグドラシルシステムを稼働させられた絡繰りは分かった。だがそもそもの問題として、ワイズマンが何故ユグドラシルシステムを動かす事が出来たのかが分からなかった。
 その疑問を口にしたのは、それまで黙って話を聞いていた翼であった。

「素朴な疑問なんだが、何故ワイズマンはユグドラシルシステムの事を知っていたんだ? ワイズマンが奪った腕輪には、その手の事に関する知識も備わっていたのか?」
「いや……そんな事は無い。奴が我から奪ったのは飽く迄も力だけだ。知識なんてある訳がない」
「じゃあ、何だってワイズマンはユグドラシルシステムを……」

 不可解な現状に唸る奏達だったが、それを中断させたのは颯人が叩いた手の音であった。強めに叩いたのか弾けたようなパンと言う甲高い音が周囲に響き渡る。

「「「ッ!」」」
「んな事今話し合っててもしょうがねえだろ? 重要なのはこのままだとワイズマンが地球規模のどでかいサバトをおっ始めて人類が全滅しちまう可能性があるって事だ。そうなれば俺達のこれまでの戦いが全部パァだぞ?」

 颯人に言われて、奏達もこんな所で議論している場合ではないと気付かされた。それもそうだ。ワイズマンがユグドラシルシステムを知っていた事は気になるが、今はそんな事よりもワイズマンの凶行を止める事の方が優先であった。

 取り合えず情報共有の為、颯人達は急ぎ管制室へと向かった。そこには既に他のメンバーが集まっており、制御盤を通して聞こえる通信と頭上の窓から見える地球の姿に凡その状況は理解していた。

「ハヤト、皆!」
「未来ッ!」
「響ッ!」

 無事全員合流出来た事を束の間喜び合うが、直ぐにそんな暇はないと思い直し状況確認と次の行動の為の情報共有を行った。

「――――って訳だ」
「つまり今の地球の状態は、洒落にならない位悪いって事か……」
「あんな地球の姿、ガガーリンには見せられねえな」

 颯人達が行った情報共有は、管制室の端末を通して地球の本部にも届いていた。シェム・ハの話と颯人の推察から、今最も効果的なのはワイズマンが掌握しているコンピュータネットワークの遮断と言う結論に達した。

『こちらは急ぎ、八紘兄貴に連絡してファイアウォールを設置しネットワークからユグドラシルの機能の低下を狙ってみる。奴がコンピュータネットワークを利用しているのなら、こちらが逆に利用できない道理はない』
『問題は颯人さん達の地球への帰還の足です。今キャロル達が必死にワイズマンを倒そうとしてくれていますが、戦況は芳しくなく……』

 颯人達からはあちらの戦闘の状態が分からないが、今正にキャロルはダウルダブラを犠牲にしてワイズマンを消滅させようとしてそれが失敗し窮地に陥っていた。ユグドラシルの機能は低下させられても、このままだとキャロルや輝彦達の命が危ない。

 この状況下で、地球への帰還方法に関して颯人にはある当てがあった。

「その事だが、もしかすると何とかなるかもしれねえ」
「えっ!?」
「どうやってですかッ!」

 その場の全員の視線が集まる中、颯人が目を付けたのはこちらにやってきたジェネシスの魔法使い達であった。

「メデューサ達だ。アイツらもここに来るには、きっとワイズマン製のテレポートジェムを使ってる筈だ。流石のワイズマンも、メデューサ達幹部を月にほったらかしにはしないだろうから、帰還用のジェムは用意してる筈。それを頂戴するんだ」

 颯人の作戦に他の装者や魔法使い達は盲点だったと顔を見合わせる。そうだ、ジェネシスの魔法使いだってここまで来るのは簡単ではない。そして颯人達と違いあちらは機関の準備を整える事が出来るだけの余裕がある。テレポートジェム一個でこの場の全員が月と地球を行き来できるのなら、一個くらいくすねても問題ない筈だ。

 ただ一つ問題があるとすれば、颯人達が先に地球に帰還する訳にはいかないという点である。ここで急いで颯人達が地球に帰還してしまえば、残されたジェネシスの魔法使いが改めてバラルの呪詛を破壊してしまう。そうすれば相互理解が復活し、結局ワイズマンによる全人類を纏めてのサバトが行われてしまう。

 この問題と、そもそもメデューサ達の居場所を突き止める為、マリアはエンキに現在のメデューサ達の所在を訊ねた。

「ねぇ? 今私達以外の侵入者が何処にいるかは分かる?」
『可能だ』

 エンキの姿を模した管制システムは、即座に遺跡内部のセンサーを用いてメデューサ達の現在地を割り出しマップに表示した。幸いな事に現在メデューサ達も一か所に固まっているらしく、管制室から離れた部屋に集まっていた。これは好機だ。

「連中の居場所さえ分かってれば、こっちで殴り込みを掛けられる。あとは戦闘のどさくさに紛れて奴らが持ってるテレポートジェムを頂戴して……」
「ペテン師が連中に使って強制的に地球に返した後、アタシらが帰ればいいって訳だなッ!」

 そうと決まれば話は早い。颯人、ガルド、透の3人がそれぞれ転移魔法を使いメデューサ達が集まっている部屋の傍に向かい、その部屋に間違いなくメデューサ達が居る事を確認したらそれぞれ変身して一気に部屋に雪崩れ込む。

「ん? なっ!?」
「ハッ!」

 どうやら再攻撃の為の準備を整えようとしていたらしきメデューサ達は、変身を解き休息をとっている様だった。如何に悪の魔法使いと言えど、彼ら彼女らも休息を必要とするらしい。その事に僅かながら安心感を覚えながら、颯人達は速やかにメデューサとリヴァイアサン、その他メイジだったのだろう魔法使い達を拘束していく。
 流石に不意打ちを喰らっては対応が間に合わなかったのか、メデューサ達はあっという間に縛り上げられていく。そして動けなくなったメデューサ達から、颯人はテレポートジェムを回収するとそれを早速メデューサ達に使って地球へと強制送還した。

「んじゃ、一足先に月旅行からの御帰宅だ。あっちでワイズマンに宜しく伝えといてくれ」
「くっ!?」

 颯人がメデューサ達に向けてテレポートジェムを投げつけると、割れたジェムから魔法陣が広がりジェネシスの魔法使い達を地球へと強制送還させた。これで後顧の憂いは無くなったと安堵し次は颯人達の番……と言うところで、セレナがある魔法使いの姿が見えなかった事に気付く。

「あれ? ちょっと待って! ねぇガルド君、ソーサラーに変身してたドレイクって魔法使いが居なかったよッ!」
「ッ!! そういえば、アイツ何処に……まさかッ!?」

 どうやらドレイクだけは別行動をしていたらしい。恐らく彼は颯人達が襲撃を掛けてきた段階で1人この部屋から逃れて拘束される事を免れたのだろう。そして今何をしているかと言えば、彼らの当初の目的であるバラルの呪詛の破壊に向かった筈。

 それに気付いた瞬間、颯人は奏達を一足先に地球へと帰還させた。

「チッ、皆は先に地球に戻ってろ。そのドレイクって魔法使いは俺が何とかしておくッ!」
「颯人ッ!?」
「早く行けッ! ここでもたついてる場合じゃねえだろうがッ!」

 彼も少し焦っているのだろう。珍しく声を荒げた彼に一瞬圧倒された奏達は、互いに顔を見合わせて頷き合うと覚悟を決めた顔になった。

「分かった。颯人……待ってるからな」
「あぁ、安心しろ。魔法使い一人程度ならさっさと片付けて地球に帰るからよ」

 颯人と奏は軽く拳をぶつけ合わせると、改めて颯人以外一纏まりとなる。テレポートジェムの範囲内に全員が収まったのを見ると、颯人はテレポートジェムを彼女達の足元に投げつけ奏達を地球へと送還した。

 1人残された颯人は、遺跡の中に訪れた静寂に寂しさを覚えながらも、すぐさま再び転移魔法で管制室へと戻っていった。

 彼が管制室へと向かうとそこには、今正に制御盤をハルバードで破壊しようとしているソーサラーに変身したドレイクの姿があった。颯人はそれを見て一飛びで接近すると、飛び蹴りを放ちドレイクによる破壊を中断させた。

「させるかっ!」
「くっ!? 貴様……!」

 自身の策が読まれ邪魔された事にドレイクが忌々しそうに呻く。颯人は手にしたウィザーソードガンを弄び、切っ先をドレイクに向けた。

「悪いが、この後予約が入ってるんだ。ちゃっちゃと終わらせてもらうぜ」 
 

 
後書き
と言う訳で第260話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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