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ああっ女神さまっ 森里愛鈴

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6 友達から親友へ

 私はアカネ。聖神学園の小学部1年生。
 彼女、森里愛鈴を目にしたのは転校初日だった。
 その時の愛鈴にはなにか「近寄りがたい雰囲気」があったけど、私は空気読まずに手を伸ばして「友達」になった。
 「空気をよなない」のはいつものことだったし。
 話してみればなんのことはない「普通」の子だったけれども、どこか達観している雰囲気だけはいつもあった、
 柊 ユリ=ユリもあたしたちの輪に積極的に入ってきて三人の仲の良い友だち関係は続いた。
 結構なんでも喋ったし、その中で馬鹿笑いもした。
 一年生の冬。
 前の日の夜に突然雪が降った。寒いと思ってたんだけどやっぱりかと思った。標高15センチ。微妙な高さの積雪は雪を想定していない都心では。後で知ったことだけどいくつもの事故が起きてたらしい。
 授業を受けて下校時、それは突然おこった。
 坂の下、住宅街の角から、雪で制御を失ったトラックが──飛び出してきた。
 数歩前に出ていたユリ。
 その時、世界が止まったように思えた。
 ユリの笑い声が、次の瞬間には風に散って──
 どん!
「ユリ!!」
 私の声が届くより先に、音が響いた。
 トラックのブレーキ音。空気を裂くようなタイヤの悲鳴。
 そして、肉が鈍く地面に叩きつけられる音。
 見てしまった。
 ユリの体が宙に浮いて、何メートルも先のアスファルトに転がるのを。
 現実だって理解してるのに、脳がそれを拒否した。
 喉が震えて、声が出ない。体も、動かない。
 助けなきゃ。
 でも、どうすれば? 私、何も── あ、とにかくスマホで救急車!
 だけど愛鈴はなにか決意した瞳で呟いていた。
「……やるしか、ないじゃない……!」
 声が、聞こえた。
 小さな声だった。
 でも、その響きは私の全身を震わせた。
 見れば、愛鈴がユリの傍らに両膝をつき震える両手を前に出していた。
 目は見開かれて、瞳の奥に──何かが灯っていた。
 恐怖? 覚悟? 祈り?
 それとも──それを超えた、なにか。
「今、使ったら……戻れないかもしれない……」
「でも、もう……誰にも……死んでほしくないんだ……!」
 彼女の指先が、光った。光は指先から全身へ広がり、ユリの身体に流れ込んで行く。
 ユリの体が、光に包まれた。
 一瞬だった。
 あたりの空気が震えて、風が逆流するような感覚。
 私の髪がばさりと舞い上がったと思った次の瞬間──
 温かくて、やさしくて、でも底知れない。
 あれが“神の力”だと、私は知る由もなかった。
 ただ──
 それが、「奇跡」としか呼べないものだということだけは、わかった。
 ユリの体が回復していった。
 赤黒い血の海が──縮んでいくように、消えていった。
 傷口が塞がって、肌の色が戻っていく。
 そして、彼女が──
「……う、ん……?」
 ゆっくりと、まばたきをした。
 私は、息をするのも忘れていた。
 涙がどこからともなく溢れて、声が出せなかった。
 愛鈴が、その場に崩れ落ちた。顔は青ざめていて、でもその口元には、かすかな──安堵の笑みが浮かんでいた。 
 彼女は、自分の意志で選んだ。
 ただ、“友達を救いたい”という、たった一つの想いだけで。
 それが、どれほどの覚悟を必要とするのか、私にはわからない。
 でも私は、きっと一生、忘れない。
 あの瞬間、あの光、そして──あの背中を。
 小さな少女が、神様みたいだった日のことを。
 そう、だぶん愛鈴は人間じゃない。
 だからどうした。その日友達は親友になった。 
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