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ああっ女神さまっ 森里愛鈴

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4 罪と誇りと

私は、父様を――二度も殺した。
一度は命を、もう一度は心を。

3歳のあの日
何が起きたのか、最初はわからなかった。
ただ、私の目の前で、父様の身体が崩れ落ちたの。
ふわりと、音もなく。
夢みたいで、でも、全身のどこかが、ひどく痛かった。
わたしが……やったんだって、わかったのは、そのあとのこと。

母様が泣きながら私を抱きしめて、
「大丈夫、大丈夫よ、愛鈴」と言ったとき。
母様の声が震えていて、私はもう泣かなかった。
泣いちゃいけないって、思ったの。
泣いたら、もっと壊れてしまいそうで。
父は母の力で戻ってきた。
そこが「特別な場所」だったから。

「力は制御してこその力」
母様がそう言ったとき、
私は「制御」ってことばの意味もよくわからなかった。
でも、わかったのは、
それが「これからのわたし」を決める言葉だということ。
父を殺した記憶は胸の奥底で忘れてしまった。
制御された封印の力のためだったのか・・・


二度目は――もっと静かだった。
5歳のとき、人と神の力のバランスが取れなくなってきていた。従来での封印では対応できなくなっていた。
蘇る忌まわしい記憶。
自己嫌悪と暴走する力で私は昏睡状態になった。
治す方法は一つ「もっとも近しい神属の肉親が神気で心を優しく包み込み、「想い」を伝えること」
母は女神だが父は──
父様は天界に昇り「神」になった。
他の誰でもない私と母様の為に。
方法がそれしかなかったとはいえ、現実を直視すれば、私は「人としての森里螢一を殺した」ことになる。
それを知ったとき、
胸がきしむように痛んだ。
「わたしのせいで、父様は――」
あの人が背負った代償の重さに、
幼い私の心は、崩れそうになった。
「ごめんなさい」って、
本当は言いたかったのに、
「もう、大丈夫だから」って笑ってしまった。
父様の手が、そっと宙で止まって、
それから――笑ってくれた。

だから、私は、
父様を二度、殺した。

そのことを、忘れてはいけない。
胸の奥の奥に、暗い穴みたいなものがある。
ときどき、痛む。
呼吸が苦しくなって、
目の前の世界が、少しだけぼやける。

けれど、母様の言葉が、
父様の背中が、
その穴に光を注いでくれた。

強くなくていい。
自分を見失ってはいけない。
でも、まっすぐに、
誰かを守れるように。

それが、
父様と母様が教えてくれた「赦し」であり、
わたしのなかに残った「傷」の、
本当のかたちだった。
罪は消えない。
二度も、大切な人を壊した私は、
この先も、その記憶を消すことはできない。
けれど、その罪が、
少しずつ形を変えていくのを感じていた。

罪は、傷となった。
その傷は、
私を支えてくれるたくさんの愛に包まれて、
痛みながらも、
ゆっくりと――「誇り」になっていった。

私はまだ、小さな女神。
未熟で、間違ってばかりで、
強がりで、臆病で。

でも、もう知っている。
過ちから逃げないこと。
愛されたということ。
誰かを、大切に想うということ。

この胸の傷は、
消えないままでいい。
だってそれが、
私が、私である証だから。

私は、前に進む。
愛され、赦されて、
ようやく少し、強くなれた気がする。

胸に罪と、誇りを抱いて――。

あの傷は、もう、
私の「誇り」になった。
すこしずつ、すこしずつ。
いつか本当に、胸を張って言える日が来るように。
わたしは、前に進む。
何度転んでも。
たとえまた間違えても。

だって、私は――
森里愛鈴。
父様と母様の娘だから。

 
 

 
後書き
愛鈴の「特別な場所」とは「ベルダンディーが愛鈴の出産の時」「どうしても螢一のそばで生みたい」珍しくわがままを言って 天界公認でつくった分娩室のこと やがてこの部屋は 神力の波長がものすごくあうため、愛鈴が自室として使っています。出入り口は「旧螢一の部屋」 
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