俺様勇者と武闘家日記
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第3部
オリビアの岬〜海賊の家
閑話・ドリスの店を後にして
ドリスさんの店を出た後、私たちはすぐに皆と合流するために、ビビアンがいるアッサラームの劇場に向かうことにしたのだが――。
歩き始めた途端に私のお腹が鳴り、前を歩いていたユウリの足が止まった。
「……今のはお前の腹の音か?」
「…………はい」
恥ずかしげもなく鳴った自分のお腹を恨みながら、私は素直に答えた。
微妙な沈黙に耐えながらユウリの毒舌を浴びる覚悟を決めていると、ユウリは露店が集まる大通りの方を指さしながら尋ねた。
「何か食べていくか?」
「え? いいの?」
急に声のトーンが上がる私の言葉に、ユウリは呆れながら答えた。
「そんな反応されたら駄目とは言えないだろ」
「う……、ごめん」
「冗談だ。俺も腹が減っていた」
そう言うなり大通りに向かって歩き出すユウリ。気を遣わせちゃったのでは、という申し訳無さはあったが、それ以上にお腹が空いていたので私はそれに素直に従うことにした。
大通りは初めてここを訪れたときと同じくらい活気に満ちていた。一時は入国規制で冒険者や旅人の数が減っていたようだが、規制も緩和されたのか、また以前の活気に戻っている。
しばらく歩いていくと、以前通ったアクセサリー屋さんの前まで来た。そう言えばあの頃は、アクセサリーそのものよりも、それを作るための工房が欲しいとか言ってたっけ。今思えば随分と子供っぽいことを考えたものだ。
そんな小さな思い出に浸りながら通り過ぎていくと、今度は以前買った串焼きのお店にたどり着いた。ここではユウリに串焼きをごちそうしたんだった。だけどその串焼きが辛かったのか、真っ赤な顔で彼に怒られて、結局途中で機嫌が悪くなって別行動したんだ。
あまりいい思い出じゃないな、と私はそそくさと通り過ぎようとした。けれど前にいるユウリが立ち止まったので、私も慌てて足を止めた。
「どうしたの? ユウリ」
「お前の好きな肉の串焼きが売ってるぞ。食べるか?」
「え……」
何でよりによってこの店を勧めてくるのだろう。ユウリだってあまりいい思い出ではないはずなのに。だけど、もしかしたらユウリにとっては些細な出来事で、単に忘れているだけかもしれない。私一人だけ覚えているのもなんだか癪なので、ここは渋々了承することにした。
「……じゃあ、食べる」
すると早速ユウリは以前私が買ったものと同じ鶏の串焼きを二本購入した。店主も私たち客のことなどいちいち覚えているはずもなく、以前と同じような売り文句をつけながら、ユウリに出来立ての串焼きを二本渡した。
そのまま私に手渡すのかと思いきや、ユウリは串焼きを私の口元に持ってきてこう言った。
「ほら、口開けろ。間抜け女」
「は!?」
その瞬間、ぽかんと開けた私の口に、串焼きが押し込まれた。熱い、と思う間もなくユウリが皮肉な笑みを浮かべた。
「どうだ? 美味いか?」
「!!」
こ……、この人、絶対確信犯だ!!
以前私がユウリにしたことを、そのまま彼は再現しているのだ。あのときのことを覚えているだけでなく、仕返しまでするなんて、目茶苦茶根に持ってるじゃん!
あれ? でもこの串焼き、熱いだけでそんなに辛くない?
ならなんであのとき、ユウリは顔を真っ赤にしてたんだろう?
問い正したいが、口の中に詰め込まれたお肉のせいで何も喋れない。これもユウリの作戦のうちなのかと思うと、無性に腹が立つ。
そんな私の心のうちなど知る由もなく、ユウリはもう一本の串焼きに齧りつきながら一人でさっさと歩いている。飲み込んだら絶対一言文句言ってやる。そう決意した私は急いで咀嚼したのだった。
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