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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
オリビアの岬〜海賊の家
  再びドリスの店へ


 幽霊船での出来事、そしてテンタクルスの襲撃のあと。エリックさんから託されたペンダントをエリックさんの恋人であるオリビアさんのところに渡すため、アッサラームの北にある港町へと船で移動することにしたのだが――。

「ミオさん。私は長年世界中の海を回ってきましたが、アッサラーム大陸の北に港町なんて見たことないですよ」

 船の進路を変えるために船長室に集まった私たちに対し、ヒックスさんはこう言い放った。

「で、でもエリックさんは確かにアッサラームの北の港町って言ってたんですよ!」

 普段頭の回転が鈍い私でも、幽霊だったエリックさんの話を聞き間違えるはずがない。ユウリに乗り移っていた彼は、確かにユウリの声で言っていた。

「シーラたちも聞いてたよね?」

 ユウリ以外はあのときその場にいたので聞いているはずだ。頷くと期待して皆の方を振り向いたのだが――。

「待ってミオちん、聞いたのは間違いないけど、もしかしたら『今』のことじゃないのかも」

「え?」

「エリックさんが乗ってたあの船って、奴隷船だったんだよね? 奴隷船は少なくとも今から50年以上前に廃止されたから、エリックさんの話は50年以上前のことになると思う」

「……あ!!」

 エリックさんの生きていた時代はあったのかもしれないが、なにか事情があって今その町はないかもしれないということだ。

「あいにく私は歴史には疎くてですね。その町があったのかどうかもわかりません」

 何年も船に乗っているヒックスさんも知らないなんて、エリックさんが生きていたのは相当前だったのだろうか。

「……だったら、アッサラームに行ってその町のことを聞いてみたらどうだ?」

 ポツリとそう提案したのはユウリだった。自身は関わらないと言いながらさり気なく助け舟を出してくれる彼の意見に、私は頷いた。

「そうだね。もしかしたらドリスとか知ってるかもしれないし、聞いてみよーよ☆」

 シーラも声を弾ませながら言った。ルカの商売の師匠であるドリスさんなら、何か情報を持っているかもしれない。

「アッサラームに行くのか? なら、ビビアンちゃんにも会いに行ってもいいか!?」

 突然そんなことを言い出したのはナギだ。彼は踊り子であるビビアンの熱狂的なファンであり、以前アッサラームを訪れたときも彼女の姿を一目見るなり卒倒したほどだ。

「ビビアンちゃんって?」

 この中で唯一彼女のことを知らないルークが傍にいる私に尋ねる。簡単に彼女のことを説明すると、ルークはどこか同情めいた目でナギを眺めた。

「ああ……。サマンオサの酒場にもそういう女の人いたなあ。その人たちに熱を上げてる人たちも」

 それから「結局相手にされてない感じだったけど」と、私にしか聞こえない声で付け足した。

「別にいいんじゃない? わざわざ全員でドリスさんのところに行く必要もないし」

 なんとなくナギに同情してしまった私は、彼の提案を了承した。その横ではシーラが、呆れたようにため息をついている。

「ヒックス。一度ポルトガに戻ってくれ。その間に俺たちはアッサラームに滞在する」

「わかりました。もしポルトガに戻られましたら、お声がけください」

 進路を決めると、早速ヒックスさんは部屋を飛び出し操舵室へと向かった。船の準備が整うと、私たちは一路ポルトガを目指したのだった。



 バハラタでもそうだったが、アッサラームも私たちには縁のある場所だ。

 何度も足を運んだこの町は、相変わらず季節関係なく暑い。私たちは慣れてきているが、今回初めて訪れたルークはこの独特の暑さに慣れてないのか、ここに来る少し前からぐったりとした顔をしていた。

「皆……、よくこの暑さで平気でいられるね」

「まあ、慣れじゃね?」

 そう軽く言ってのけるナギはちゃっかり上着を一枚脱いでいる。シーラはもともと薄着だし、実は私もここに来る前に薄手のインナーに着替えてきていた。ユウリはいつもと変わらない姿で平然としているが、もしかしたらなんらかの暑さ対策をしてきているのかもしれない。

「ごめん、ルーク。こんなことならもっとちゃんと説明しとけばよかったよ」

 船でポルトガに戻り、ヒックスさんたちに暇を与えたユウリはすぐにアッサラームへ向かうと言い出した。こういうときはせっかちな彼に皆誰も文句は言えず、ろくにアッサラームの気候についてルークに説明できないまま、彼のルーラであっという間にここに到着した、というわけである。

「ああ駄目だ! 我慢できない」

 そう力なく言うと、ルークは突然上着を脱ぎだした。彼の着ている服はやや厚めの武道着なので、それを脱ぐのはわかる。しかしそれだけではなく、なんとインナーまで脱ぎだした。

「るっ、ルーク!?」

 いきなり上半身裸になったルークの姿に、私は思わず目を覆う。

「わぁ、るーたんたら、だいたーん☆」

 慌てふためく私とは対象的に、全く動じないシーラ。そんな女性二人の反応を交互に見ながら、ルークは不思議そうに首を傾げる。

「何でミオ、そんなに恥ずかしがってるの? シーラは平気なのに」

「だっ、だっていきなり人前で脱ぐから……。シーラはこの町に住んでたから見慣れてるかもしれないけど、私は慣れないの!」

 気候上、アッサラームで上半身裸で歩いてる男の人は実は珍しくない。現に今通りかかった数人の男性も皆、上半身裸だ。けれどそれはそういうものなのだと割り切って考えてるだけであり、突然目の前で仲間が上半身裸になれば、驚くのは当然である。

「はは、顔が真っ赤だよ。もしかして意識してる?」

「してない!!」

 私はムキになって言い返した。温和なルークが実は脱いだら鍛え抜かれた体をしてるのは、今までの戦闘を見ていれば想像の範囲内だ。だからこれは突然のことでびっくりしただけであり、何か意識をしているということではない……と思う。

 すると、今まで静観していたユウリが、いきなり私の方に近づくと、強引に私の手を取った。

「露出狂はほっといて、早く町に入るぞ」

 早く町に入りたいのか、私の足がおぼつかないのもお構いなしに町の中に入っていく。

「あー、待ってよユウリちゃん!」

 シーラの呼び止める声に反応したのか、くるりと後ろを向くユウリ。そして背筋が凍るような冷たい視線を送りながら、

「俺たちは先にドリスのところに行ってくる。お前らは勝手にあのピンク女のところでも行ってろ」

 と言い放ち、さらに早足で3人の前から去ったのである。

 背後では3人が何やら騒いでいるようだが、強い力で私の手を引っ張るユウリに抗える勇気もなく、私はただ黙ってついていくしかなかった。

 町のメインストリートを離れ、ドリスさんの店がある路地裏へと真っ直ぐ向かう。ユウリは何度も足を運んでいるからか、地元の人かと思うほど迷いのない歩き方であっという間に店に到着できた。

 その間ずっとユウリは私の手を引いていたが、あまり気にしている素振りはなかった。一方私は、以前から時々強引に手を握られることはあるが、幽霊船の件もあり、彼から触れられることに多少の気恥ずかしさを感じていた。

「誰もいないみたいだな」

 店の入口に足を止めると、扉に貼り紙が貼ってあった。

『急用につき、少しの間外します』

 店は開いているが、店主のドリスさんは外出中らしい。どうしようかとユウリの様子を窺い見ると、扉の前でじっと立ったままでいる。どうやらここから離れる気はないようだ。

「あ、あのさ。せっかくなら壁際で待たない?」

 眩しい日差しが照りつける中でずっと立っているのはなかなか辛い。軒下にいれば日陰になり、多少は涼しくなるだろうと思い、私はユウリに提案した。するとユウリはハッとしたような顔をし、返事もしないまますぐに私を連れて軒下へと移動した。

 その間も、ユウリは私の手を握ったままだった。そろそろ向こうから手を離してくれるのではないかと思っていたが、一向に彼の手が離れることはない。手の中はずっと熱を帯びていて、グローブ越しでも彼の体温が伝わってくる気がした。

――もしかして、気にしてるのって私だけなのだろうか?

 私が勝手に一人で悶々としている中、店の反対側からドリスさんがやってきた。それでようやく彼が手を離すと、私は呼吸を忘れたかのように一気に息を吐いた。

「なんだい、またあんたたちかい」

「会っていきなりご挨拶だな」

 すっかり軽口を叩くような仲になっていたユウリとドリスさんは、私を置いてさっさと店の中に入ってしまった。取り残された私はなんとなくもやもやとした気持ちのまま、二人の後についていく。

 店に入ると以前訪れたときと変わらない景色に、懐かしさを感じた。カーテンを締め切った店内は相変わらず薄暗いが窓は開いているので、ときおり吹く風が店内のこもった空気を入れ替えてくれる。

「それで、今回は何の用だい?」

 ランタンを灯して明るくなった店内に、ドリスさんが尋ねた。

「装備を新調したい。戦士用と武闘家用の防具はないか?」

 すぐに港町のことを聞くのかと思いきや、ユウリはまず買い物を始めた。しかも自分の分だけじゃなく、私の装備も考えてくれているらしい。

「前に一人で来たときもそんなこと言ってたね。あのときは入荷がなかったけれど、今回はいい防具を仕入れたよ」

『……!!』

 そう言ってドリスさんが取り出したのは、目を見張るほどに洗練されたデザインの鎧だった。青鈍色に光る金属製のハーフプレートメイルには、ところどころに金色で縁取られた装飾が施されており、無骨なイメージの鎧とはかけ離れた気品さえ感じられる造りになっている。さらに上下セットなのか、同じ色味の腰当ても用意されており、こちらもシンプルかつ使い勝手の良さを重視したデザインとなっている。

 一緒に見ていたユウリも思わず息を呑むほど、その防具は異彩を放っていた。一方、ユウリとその鎧を見比べた私は、彼が鎧を身に着けている姿を想像して思わず呟いてしまった。

「これ、ユウリが着たらものすごく似合いそう……」

 無意識だったのか、言い終えた後で羞恥心に襲われた。当然二人にも聞こえてたようで、ユウリは私からわざとらしく顔を背けているし、目の前にいたドリスさんの口元には思い切りシワが寄っている。

「これは『魔法の鎧』と言ってね、とある行商人から手に入れたのさ。かなり貴重なものだから、売るときは人を選べと言われたんだが、どうやら私の見る目は間違ってなかったようだね」

 ランタンの灯りに照らされたドリスさんの目が、ギラギラと輝いている。そこから二人の値段交渉が始まった。

「――本当にその提示金額が相場なのか? 材質の原価と工賃を考えたらあと二割は安く済ませられるだろ」

「何言ってんだい! こんな見事な装飾が施されている事自体、並の鍛冶屋じゃ務まらないほどの価値があるんだよ! これでも安すぎるくらいさ!」

「――呪文によるダメージを3分の2程度軽減すると言ったな。本当にその確率で合っているのか?」

「そもそも生産量が絶対的に少ないんだ。ある程度の誤差があるのは当然だろう。冒険者の数自体減っている今の時代、確実な数字を提示できるのは難しいのさ。それよりも呪文ダメージを軽減できるという希少価値が高い効果に注目してほしいね。この唯一無二な個性は他に追随を許さないほどの強力な付加価値を持っていて……」

 などと、言葉の応酬が繰り広げられること小一時間。結局ユウリは魔法の鎧を定価の一割引きで購入することに成功したのだった。

「ふう、ここまでセコい……いや値切りに真剣な人間はなかなかいないよ。しかも前よりもタチが悪……いや辛抱強いなんてね」

 ところどころ引っかかるセリフを吐きながら、ドリスさんは魔法の鎧をユウリに渡した。

「ふん。やはりルカを指導しただけのことはあるな。あいつもあんたに負けず劣らず商売上手だったぞ」

「そりゃあ商人冥利に尽きるねえ。ところで最近ルカの様子はどうだい?」

「商人としての仕事よりも、町作りにいっぱいいっぱいという感じだったな。取り敢えず助言はしておいたから大丈夫だとは思うが」

「そうかい。それなら心配することもないだろう。あの子は地頭がいい。ただ集中すると周りが見えなくなってしまうのが玉に瑕だがね」

 さすがドリスさん。ルカの性格をよく把握している。

「ところで武闘家用の防具もあればと言っていたね。身につけるもので良いのなら、これなんかどうだい?」

 続いてカウンターの奥から取り出してきたのは、一抱えほどの小さな宝石箱だった。

 どういうことかと疑問に思いながら二人でその箱を覗き込む。ドリスさんが箱を開くと、中には銀色に輝く髪飾りが入っていた。

「うわあ、綺麗……」

 精緻な銀の装飾に、ところどころ小さな宝石が散りばめられており、まるで星屑を纏っているような美しいアクセサリーだ。

「え、これって本当に防具なんですか?」

 疑うようにドリスさんに尋ねると、彼女は自信あり気に頷いた。

「ああ。この『銀の髪飾り』も魔法の鎧と同様、なかなか出回らないレア物さ。女性専用の装備品で、安価で軽量な割に防御力も高い。装備の種類が限られているあんたみたいな武闘家にはおすすめだよ」

 眺めれば眺めるほど、虜になってしまいそうになるデザイン。今まで色んな国の防具屋さんで装備品を見てきたが、こんなに欲しいと思った商品は他になかった。

 さらにドリスさんは私に購買意欲があると悟ったのか、値段を提示してくれた。金額もそんなに高くない。これなら私にも買えそうだ、と財布に手を伸ばそうとしたときだった。

「わかった。その値段で買ってやる」

「え!?」

 即答だった。私がぽかんとしている間に、ユウリはさっさと自分の財布からお金を取り出し、ドリスさんに手渡した。これには私だけでなくドリスさんも呆気にとられていたようで、彼女もまた、ただ黙ってお金を受け取っていた。

 ドリスさんが宝石箱から取り出した銀の髪飾りを受け取ったユウリは、何の一言もなく私にそのまま渡した。

「え、あ、ありがとう」

 戸惑いながらも、私は恐る恐る銀の髪飾りを受け取った。さっきまで自分の装備を一割引きで購入していた人が、私に装備品を定価で買ってくれるなんて。確かに魔法の鎧よりは安価だが、それでもプレゼントという意味合いで捉えれば単純に嬉しかった。

「せっかくだから、ここで装備していきな」

 そう言ってドリスさんは鏡まで用意してくれたのだが、自分でつけようと鏡を覗き込んだ瞬間、ユウリに髪飾りを奪われた。

 思わず彼の方を振り向くと、目を合わす前に彼の手が私の髪に触れた。

 驚いて声も上げずにいると、それが彼の手ではなく髪飾りだったことに気づいた。

「おい、じっとしてろ」

 慣れない手つきで懸命に私の頭に髪飾りをつけるユウリの姿は新鮮だった。その間私はと言うと、恥ずかしさと緊張のあまり、彼に言われるまでもなくずっと体を硬直させていた。

――今日のユウリは、何だかちょっと変だ。

 そんな彼に影響されてか、私まで調子が狂ってしまう。けれど決して気分を害するものではなく、むしろ温かい気持ちにさせてくれる。心臓の鼓動も早くなり、時々胸が苦しくなることもあるが、このままずっとこうしていられたら良いのにと思うことのほうがずっと大きかった。

「出来たぞ」

 ユウリが私から離れると同時に、気を利かせてくれたドリスさんが私に鏡を向ける。鏡を覗くと、左の側頭部に髪飾りが挿さった私が映っている。自分で言うのも何だが、アクセサリーを一つ身につけるだけで人はこんなにも印象が変わるのかと驚かされた。

「……良く似合ってる」

「え!?」

 今のは誰が言った言葉なのかと、一瞬耳を疑った。エジンベアでドレス姿を披露したときは何も言ってくれなかったあのユウリが、私を褒めるなんて。

「はいはい。これ以上いちゃつくのは店の外でやってくれ。商売の邪魔だよ」

 鬱陶しそうに手を叩くドリスさんに、お互いハッとなる。そして買い物だけが目的ではないことに今頃になって気づいた。

「すまないがもう一つ、あんたに聞きたいことがあって来たんだ。昔、アッサラームの北に港町があるという話を聞いたんだが、何か知っているか?」

 強引に話を切り替えるユウリに、ドリスさんはキョトンとした顔をした。

「なんだい。もしかしてそっちが本題かい? まあ、今回は買ってくれたしね、特別にタダで情報提供してやるよ」

 ドリスさんの話によると、やはりアッサラームの北に港町はあったそうだ。今から約六十年ほど前に大災害が起こり、町の大部分の家や建物が崩壊、生き残った人々も近隣の町やここアッサラームに移り住むようになり、間もなく町は滅びたと言う。

「かく言う私もその港町出身でね、まだ少女だった頃その災害で家族を亡くして、あちこち移動しながらここに移り住むようになったのさ。この辺じゃあ私らの世代なら誰でも知ってる、有名な話だよ。それで、その町がなんだってんだい?」

「実は色々あって、その町に住むオリビアさんという人に渡したいものがあるんです。もし町がないのなら、せめてオリビアさんという人のことだけでも知りませんか?」

「『オリビア』か……。懐かしいね。私は彼女とは直接会ったことはないが、噂で聞いたことはあるよ。なんでも恋人が奴隷船に連れて行かれて、絶望のあまり町の近くの岬に身を投げたって聞いたけど」

『!!』

「それから一年も経たないうちに、町に大津波が襲ってきて、多くの人々が命を失った。当時囁かれていたのは、その大津波を引き起こしたのは、オリビアの呪いなんじゃないかって話だ」

 そう語るドリスさんの表情は、いつになく険しかった。彼女もまた、多くの苦労を経験してきたのだろう。

「まあ、確たる証拠がない以上、憶測でしかないがね。ともあれ、オリビアはもうこの世にはいない。ちなみにあんたたちが渡したいってものは何なんだい?」

 私たちは幽霊船でエリックさんに会ったときのことを簡潔に話した。

「これがそのペンダントで、中に彼女に贈るはずだった指輪が入ってるんです。あと、伝言も預かってるんですけど……、どうすればいいんでしょうか」

「恋人の方はともかく、オリビアはもう天に召されてしまったかもしれない。だったらもう、伝える術なんてないじゃないか。それでもまだあんたたちは、関わろうとするのかい?」

「……確かにそうだな。もうこれ以上関わっても、意味がない可能性が高い」

 ドリスさんの意見に、ユウリも賛同する。確かにもう亡くなっているのであれば、エリックさんの伝言を伝えることは不可能だ。

 けれど、もしオリビアさんに未練があって、まだこの世にとどまっていたら? 未だ二人の心が通じ合うこともないまま、私はこのペンダントを持っていていいんだろうか?

「すみません、ドリスさん。せめてオリビアさんが身投げしたという岬の場所だけでも、教えてくれませんか?」

「……まあ、教えるのはタダだしね。いいよ」

 万に一つの可能性があるのなら、後悔する選択はしたくない。たとえ徒労に終わっても、それで良かったと言えればいいのだから。
 
 
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