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ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ

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白き極光編
第1章
  エラディケイション・ザ・ドマ

 本国から増援として送られたニンジャ3人を投入してのドマ城攻撃失敗は、帝国軍に大きな衝撃を与えた。
 加えて魔導アーマーも今回の8機損壊で計17機が失われ、配備された40機も半数近くまで減っている。

「ふむ…ドマ軍の力、見誤っていたか」

 ドマ城攻略作戦本部としているテントの中、テーブル上に広げられた作戦図を見下ろす数人の軍人。
 最初に発言したのは、緑系統の色で纏められた軍服を纏う、浅黒の肌にモヒカン状の金髪を持つ男。

「退却して来た兵の報告によると、ドマ側にも手練れのニンジャが残っていたとの事です、レオ将軍」

「ニンジャか…」

 そう、この男こそガストラ帝国軍にあって数多の戦場を勝利で彩り、その名を轟かせた将軍、レオ・クリストフである。
 個の武勇にも優れ、忠義に篤く、兵1人1人への気配りも欠かさぬ人格者故、将兵からの信望も集めている逸材だ。

「我が軍に降伏したニンジャ達には存在を悟らせていなかった…という事か。しかし、ナイトメア殿をも討ち取るとは…」

 帝国に与するニンジャの中でも、ナイトメアはレオが知るニンジャとしては指折りの実力者だった。
 こと真っ向からの白兵戦で、彼が負ける姿などは想像すら出来なかった。

「討ったのはドマのサムライだとか…」

「魔導アーマーを壊滅させたのもサムライだったな。やはり恐ろしい戦力だ」

 そのサムライにニンジャも加わっているとなると、残る23機のアーマーを投入したとて良い結果にはならないであろう。
 実際、先の戦いではニンジャ3名、魔導アーマー8機を失い、兵も死傷者合わせ43名が戦闘続行不能となり、捕虜となった者も10名いる。
 対するドマ軍は、サムライ11名中、5名負傷、4名が死亡した。
 双方の被害の差は一目瞭然であろう。

「頭の痛い話だ」

 レオと側近の士官は、外気を吸って思考をクリアーにしようとテントを出て歩き始める。 

「ドマ軍は破損した城壁を補修し、防備を固めるつもりのようです」

「お得意の籠城戦というわけか。ニンジャもアーマーも撃破された上であの堅牢な城壁を盾にされては、兵の士気が心配だな」

 ここからでは見えないが、レオはドマ城のそびえる西方へと首を回す。

「将軍、敵が補修を終える前に、再度攻撃に移りましょう! 私以下、将軍の為とあらば死を厭わぬ者も多く…」

「よせ。迎撃に成功し、士気の上がった敵へ強行を仕掛けても、本来であれば不要だった犠牲が増えるだけだ。この私に、お前達の剣を持って祖国で待つ家族に会いに行けと言うのか」

 レオは逸る士官の肩に手を置いて落ち着かせると、ゆっくりと諭した。

「良いかエイド。軍人は軍人である前に人間だ。命は1人に1つしか無いのだぞ。生きて家族や仲間と喜びを分かち合ってこそと思ってくれ」

「…はっ…! 勿体無いお言葉…!」

「うむ。敵が籠城するならば、こちらは補給線と兵の英気維持が肝要。まずは兵達を休ませよう」

 エイドと呼ばれた士官は、方針の変更に合わせたレオの作戦計画を聞いてメモすると、敬礼してその場を立ち去った。

「ニケアは軍事力には乏しいから、直接ドマへ援軍を出す事は無いだろうが…リターナーと組んで海路を遮断されては厄介だな」

 1人残ったレオが顎に指を添え思考していると、別の兵が駆けて来た。

「レオ将軍! 皇帝陛下より伝書鳥です!」

「うん?」

 伝書鳥による書面での命令など古風と思われるかもしれないが、ガーゴイルらが使用していた大気中の魔力を媒介とする無線機は、魔力に満ちたこの世界では距離が開くほどノイズが増えて使い物にならなくなる。
 それ故に短距離通信でしか使用出来ない試作品なので、本国から海を隔てたこの地では機能しないのだ。
 渡された書簡を開いたレオは、眉間に皺を寄せる。

「むぅ…このタイミングで召還とは…私は一時本国へ戻る。今後の作戦はエイドに引き継いでいるので、彼の指示に従ってくれ」

「はっ!」

 レオは急遽帰国の荷物を整えるべく、将官の生活テントへと向かった。



「あれがレオ将軍…敵ながら噂通りの傑物だな」

 テント脇に置かれた木箱の蓋が開き、マッシュとシャドウが隙間から外を窺う。

「兄貴から名のある帝国軍人の話を何人か聞いてたが…なるほど、ありゃ敵に回すと厄介そうだ」

 帝国に属しているが故に立場上は自分達の敵であるが、その高潔な人柄は傍目に見ていても敬意を表するに値するものだ、とマッシュは思った。
 つくづく敵としておくには惜しい人物である。

「…隠れろ」

 シャドウに促され、マッシュも共に蓋を閉じる。
 直後、レオの物とは別のテントから現れたのは、派手で奇怪な出で立ちの道化師めいた男…ケフカだ。

「ヒッヒ…ドマの連中、今頃は束の間の勝利に浮かれてるだろうねぇ…今日限り全滅するとも知らずに…ヒヒヒ…」

 ケフカは自身の出て来たテントの中を一瞥する。
 暗いテント内では、全身に長布を巻き付けている事こそ分かるが、光源の乏しさからその全貌は窺えぬ人物が胡座をかいて瞑想している。

「ケフカ」

 帰還準備を終えたレオが、背後からケフカへ声を掛ける。
 ケフカはあからさまに不機嫌そうに、レオへと視線を向けた。
 彼はこの実直な軍人が嫌いなのだ。

「私は本国へ戻るが、くれぐれも早まった真似をするなよ」

「ヒヒ…なぁに、心配しなさんな。お前さんよりも手際よーく進めておいてやるよ。敵に情けはいらないからねぇ、ヒヒッヒ…」

 歪な笑みを浮かべるケフカに、レオは一抹の不安を覚えたが、皇帝直々の召還命令に背くわけにはいかない。
 後事をエイドに託しはしたが、この対ドマ遠征軍にあってレオに次ぐ権限を有しているのは、この皇帝直属魔導士たるケフカなのだ。

「敵もまた人間なのだ。それを忘れないでくれ」

「人間…そうだな人間だ。分かっているとも」

 レオにはこの男の思考を理解する事は出来なかった。
 だから釘を刺すに留めて本国への帰路についてしまった。
 どんなに悪辣に見える人間でも、越えてはならぬ一線は決して越えぬ理性と良心はあるはずだと考えてしまったのだ。
 人間という生き物の善性を信じ過ぎてしまったが故、未来の惨劇を止める機会を失ってしまったのである。

「ふん、良い子ぶりやがって…」

 レオが陣地を出て船へと乗り込むのを確認したケフカは、早速行動を起こした。

「おい、出番だ」

 テント内に待機していた人影が立ち上がり、陽光の下に姿を晒す。
 ナムアミダブツ!
 現れたのは、皮膚の無い筋繊維剥き出しの上半身を、全身に巻き付いた黄土色の布で覆った男だった。

「SYHHH…」

 閉じた上下の歯の隙間から瘴気が漏れる。

「邪魔な奴が消えた。やっとお前の力を見せる時だ」

「…ケフカ=サン。再三申シ上ゲタガ…私ノジツハ取リ返シハツカナイゾ…向コウ数年ハ…人ガ住メル環境デハナクナル」

 地獄の悪鬼めいた掠れ声で、男は…ゾンビーはケフカに最後の警告をした。

「構わん、やれ」

 ゾンビーはしばしケフカを凝視すると、川へ向けて歩き始めた。
 ドマ城内の水堀にも水を送り、水源にもなっているこの付近で最大の川だ。

「待てっ!」

 その背に熊めいた大声が投げ掛けられた。
 ゾンビーが緩慢な動作で振り向く動作を見せるが、完全に首が回る前に頬へ膝蹴りが叩き込まれた。

「なんだお前!! …ん? その顔どこかで…」

 吹っ飛ばされて地面に突っ伏したゾンビーと、アンブッシュ者の顔を交互に見比べるケフカ。
 ケフカとゾンビー、どちらも視界に収められる位置取りをしたモンク…マッシュは身構える。
 ゾンビーの放つただならぬアトモスフィアに、放置は危険と判断し飛び出したのだ。
 少し遅れてシャドウとインターセプターも追いついて臨戦態勢に入る。

「無茶をする」

「あいつはヤバい。俺の嗅覚がそう言ってる」

 ゾンビーはのっそりと起き上がり、マッシュ達へ向き直ると、両の掌を合わせ、腰を曲げてアイサツした。

「ドーモ…ナックラヴィー…デス…」

「呑気に挨拶してんじゃない! さっさとドマをやってしまえ!」

 アイサツを邪魔するケフカへ、ナックラヴィーは濁った瞳をギョロリと向ける。

「…ヨカロウ」

「行かせるか!」

「それはこっちの台詞だよ筋肉くん! ブリザド!」

 再度川へ向かうナックラヴィー。
 それを追おうとするマッシュ。
 だが、その足元へ突如として冷風が吹きつけられ凍結!
 マッシュの足も巻き込まれ、動きを封じられる!

「な、なんだぁっ!?」

 地面に足を縫い付けられ前のめりに倒れそうになるマッシュだったが、その足首までを覆う氷に手裏剣が刺さり、亀裂と共に砕け散った。

「っととと…! わ、わりぃシャドウ!」

「サービスだ。ふっ!」

 次いでケフカにも手裏剣を3枚投擲!

「うひっ…!?」

 ケフカは表情こそ驚愕のそれだが、腰から抜いたナイフで手裏剣2枚を切り払い、1枚を頬の薄皮を犠牲に回避!

「いっ………たぁーーーーい!! いたーい! いたーい!!」

 頬の傷口から赤い血が流れ出し、ケフカはピョンピョンと飛び跳ねながら痛みを訴える。
 明らかにオーバーリアクションであるが、その声は周囲のテントに待機していた兵達を呼び寄せるには十分だった。

「ケ、ケフカ様、どうし…あぁっ!」

「敵だ! 侵入者だ!」

 続々と剣を抜いて兵達が駆けつける。

「くっそ…! 邪魔するな! うりゃあっ!」

 マッシュの回し蹴りが側頭部を打ってヘルメット粉砕!

「…ふんっ!」

 シャドウの投げた手裏剣2枚が兵士2人の眉間へ吸い込まれる!
 インターセプターが目にも止まらぬ速度で駆け抜け、敵兵の頸動脈を噛み千切る!

「どけっ! なんか知らんが、あいつを止めなきゃまずいんだ!!」

 裏拳!
 手刀!
 貫手!
 正拳突き!
 続々と斬り掛かって来る兵達を薙ぎ倒すマッシュだが、その喧騒がさらなる増援を呼び、敵が減る様子は見えない。
 そうこうしている内に、ナックラヴィーは川にその身を浸し、両腕を水中へと突き立てていた。

「…ハカバ・ハンド」

 すると、川は腕を浸した水面から波紋の如く七色に変色していき、その異常は川下へ見る見る内に伸びていった。



「カイエン殿、帝国はまだ諦めないつもりでしょうか?」

 城壁の上から彼方の帝国陣地を観察し、ドマ兵が呟いた。

「まず諦めまい。敵は確かに大きな被害を出しはしたが、それ故にただ尻尾を巻いて帰るだけでは済ませぬはずでござる」

 失った物が大きいが故、その損失を取り戻すだけの成果を出せねば、国家の面子すら危ぶまれる。
 複数の国々を併合して今の勢力を築き上げたが為に、僅かな綻びから内部崩壊しかねないのが軍事国家としての欠点と言えるだろう。

「…む?」

 視線を落としたカイエンが訝しげに目を細める。
 隣に立っていた兵もそれに倣って彼の視線を追った。

「…? 水の…川の色が…?」

 川が、そして城内へ張られた水路が七色に変質し始めたのだ。
 同時に、城の廊下から大声が聞こえ始めた。

「全員水に触れるなっ!! 水場から離れるんだっっ!!」

「あの声はシルバーカラス殿…?」

「!! カイエン殿! あれを!」

 シルバーカラスの声に反応して城内へ目を向けたカイエンの背に、ドマ兵が叫んだ。
 指し示した指の先では、水路の脇を巡回していた別のドマ兵が突然倒れ込み、全身を掻きむしりながらもがき、やがて身動ぎ1つしなくなっていた。

「…! もしや毒!?」

「ど、毒ですと!? ひ、卑劣なっ!」

「鼻と口を押さえろ! 屋内へ入れっ!! っ! カイエン=サン! 毒だ!」

 警告の声を上げながら城内を走り回っていたシルバーカラスが、カイエン達の姿を認めて駆け寄る。
 このニンジャがここまで取り乱す姿は初めて見た。
 メンポのガスマスク機能をONにしているらしく、僅かな駆動音がする。

「揮発した水蒸気すら有害だ! とにかく城の中へ!!」

「しょ、承知した! …はっ! 陛下…!」

 口元に手拭いを巻いたカイエンは、真っ直ぐに王座へと走った。
 城の至る所に水路が張り巡らされていた事が仇となり、既に城内にも悶え苦しむ者や、物言わぬ骸となった者が倒れ伏していた。

「陛下っ!!」

 扉を開け放つと、玉座からそのまま倒れ込んだかのようにドマ王がうつ伏せになっていた。

「陛下! 陛下っ!!」

 カイエンは敬愛する王を抱えて助け起こす。

「…おぉ…その、声は…カイエン…か…? すまぬ…目が…もう…ゴホッ…うむむ…帝国、めぇ…!」

 口の端から血を垂れ流した王は、もはやその動作すら億劫であるかのようにカイエンへ手を伸ばす。

「カ、カイエン…私はもう…ダメ、だ…お主の…お主の…家族の…元へ…! 走れ…!」

 もはや子供ほどの力も出せぬ腕でカイエンの身体を押し、そのまま息絶えてしまった。

「へ、陛下…くっ…!」

 最期の瞬間まで家臣を案じてくれた主君へ頭を下げたカイエンは、その遺命通り、近くに部屋を与えられていた自身の妻子の元へと急いだ。

「ミナ! シュン!」

 蹴破るかの如き勢いでカイエンは部屋へ飛び込む。
 だが。

「…っ!! そ……そん…な……」

 何かに足首を掴まれたかのような重い足取りでカイエンは歩を進める。
 身体は左右へ大きくぶれ、視界が揺れる。

「…ミナ…」

 喉に両手を添えたまま床に横たわる妻。

「…シュン…」

 ベッドに眠ったままの息子。
 だが、本来上下に動いているべき胸は静止したままだった。

「…なぜ…何故だ…! 何故だ…!! あぁぁあぁあああぁぁぁーーーっっっ!!!」

 その場に崩れ落ちたカイエンは、行き場の無い感情を拳に乗せてひたすら床を打った。

「カイエン=サン! っ!」

 遅れて現れたシルバーカラスは、部屋の中の惨状に全てを察した。

「(……ふざけんな…こんなもんはイクサじゃねえ…!)」

 シルバーカラスは、元は兵器メーカーなどからの依頼を受けて試作兵器のテストを行っていたサイバーツジギリストだ。
 その標的の多くはモータルであり、万一目撃者がいればそれも消した。
 決して他人に誇れるような仕事ではなかった。
 だが、そんな彼にも一定のポリシーは存在し、女子供、後ろ暗い所の一切無い善良サラリマンなどが初めから標的に設定されているような依頼は受けない事にしていた。
 その彼からすれば、老若男女、戦闘員非戦闘員の別無く皆殺しにするも同然のこの所業は憤りを感じざるを得ないものであった。

「………シルバーカラス殿…他の…者は…?」

「…80人ほどは辛うじて助けられた。だが、非戦闘員が多い…こんな状態で攻められでもすりゃ、イクサにもならねえ」

 シルバーカラスは申し訳無いという風情で頭を下げるが、そもそも彼が警告を発しなければ全滅もあり得たのだ。

「カイエン殿! ご家族は…あっ…」

 カイエン同様に鼻から下を手拭いで塞いだドマ兵が駆けつける。

「…陛下も…ご家族も……くっ、帝国…!」

「…シルバーカラス殿、皆を連れて船でニケアへ。拙者は…やらねばならぬ事がある…!」

 カイエンは刀を強く握り、踵を返す。
 その背を見送ったシルバーカラスは、追う前にもう1度部屋の中へ視線を送り、指先を伸ばした右手を顔の前で立てた。

「ナムアミダブツ」



「カイエン殿! 帝国軍に切り込むのであれば我らも!」

「カイエン殿! 共に! 共に参ります!」

 生きて城を出た者82名。
 内、将兵は37名。
 その全員が、帝国陣地へ向かおうとするカイエンに同行しようとしたが、当のカイエン自身がそれを止めた。

「ならん! お主らまで来ては、誰が戦う術を持たぬ民を守るのだ! 誰がドマの血を残すのだ!」

 そう言われてしまっては、兵達も不承不承ではあるが納得せざるを得ない。
 結局彼らは、シルバーカラス指揮の元、ニケアへ向かう船を確保しに走った。
 不幸中の幸いだったのは、人数がそう多くない為に足の速い小型船を使える事だ。
 帝国軍が用いるのは、魔導アーマー8機を搭載可能な重量級の輸送船であり、船足であればこちらに分がある。

「イヤーッ!」

 シルバーカラスがカタナを一閃し、使わない船を破壊する。
 同型の船を奪われて追撃される事を防ぐ為だ。

「よし、乗り込め! 急げ!」

 全員の乗船を確認したシルバーカラスは、港まで護衛をして来たカイエンと視線を交わす。

「行くのか」

「拙者は陛下に絶対の信を置かれていながら、お守りする事叶わなかった。その責、妻子の無念と共にぶつけて参る」

 説得は無駄である…と、シルバーカラスはすぐに理解した。
 今は自分や兵、民の前だからこそ自制しているが、その瞳には表現する言葉の見当たらぬほどの怒りと悲しみ、そして憎悪が宿っているのだ。

「死ぬなよ」

「約束は出来かねる。御免」

 それだけ言うと、カイエンは港とは逆方向…帝国軍陣地へと走って行った。

「…許さん…許さん許さん許さん! 許さんぞ帝国…!」

 手にした抜き身の刀は、カイエンの怒りが伝播したかの如く青白く輝く。

「1人でも多く道連れにしてくれる!!」



「えぇい! まだ奴らは見つからんのか!」

 帝国陣地内で喚き立てるはケフカ。
 兵達が探すはマッシュ一行。
 帝国の毒攻めを阻止出来なかったマッシュ達は、一時身を隠してドマの生き残りを救助しに行くつもりなのである。

「ケフカ様! 何故毒などを使われたのですか!? レオ将軍からは…」

「レオがいない以上は俺がここの指揮官だ! 敵を速やかに倒す! 戦争の基本に則っただけだ!」

 エイドの苦言などまるで聞こうとはしない。
 否、そもそも彼には他者の意見を聞くという選択肢自体が初めから存在していないのだ。

「で、ですがレオ将軍からは今後の作戦については後任への引き継ぎが…」

「ぼくちんそんなの聞いてないから知りませ~ん」

 耳に小指を突っ込みどこ吹く風。

「(くっ…レオ将軍になんと申し上げれば良いのだ…!)」

「そんな事よりとっとと侵入者を殺せ! まだ逃げてはいないはずだ!」

 その時、にわかにドマ方面が騒がしくなる。

「ケ、ケフカ様! ドマのサムライが奇襲を!」

「なんだとっ!?」



「うおぉぉぉっっっ!!」

「あぎゃあぁっっ!!」

 振り下ろされた刀は、甲冑などそこに存在せぬかのように帝国兵をトーフめいて両断した。

「拙者はドマ王国剣士カイエン・ガラモンド! 大将出でませぃ!!」

 既にその周囲には30もの骸が転がり、さながら血溜まりの池の真ん中に立っているかのよう。
 刀は刃こぼれするどころか血を吸いなおも鋭さを増している。

「ドマの生き残りだ! かかれ! 斬り捨てろ!」

 重装備を纏った士官が斧槍を振るい兵達をけしかけるが、そのオニめいた獅子奮迅の暴れように腰が引けて誰も動けない。それは士官自身も同じ事だ。

「ぅ…な、なんという気迫…」

「くおぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 彼を隊長格と見たカイエンは、刀を一振りして血糊を払いながら突っ込んで来る。

「ぬぅっ!」

 逃げるにも足が動かない彼は、タワーシールドによる防御を試みるが、憤怒に燃えるカイエンの刀はそのシールド、そして重厚な鎧ごと水平にスライスしてしまった。

「イィーーーヤァーーーッッッ!!」

 と、攻撃を終えた直後のカイエンの頭上からシャウト!
 極限状態で研ぎ澄まされた第六感が危機を予知し、カイエンは見上げるより先にサイドステップでその場を離れる!
 間一髪、カイエンが立っていた場所には鋭い鉄槍が突き刺さった!
 1本の槍を両手でしっかと握るは白い流線形メンポを着けたニンジャ!

「ドーモはじめまして! アルバトロスです!」

 アンブッシュを仕掛けたアルバトロスは、スプリング機構を備えたゲタで飛び跳ね、再度上空からカイエンに狙いを定める。
 ニンジャ同士のイクサであれば、自分からアイサツをしながら返礼を待たずに攻撃態勢に入るのも、アイサツしながら攻撃するのもシツレイだが、カイエンは非ニンジャなので問題は無い。

「ヌハハハハ! この俺の槍でケバブめいた死体になるが良い、カイエン=サン!」

 彼に宿るモズ・ニンジャクランのソウルは、上空から急降下しての鋭い一撃で標的を仕留める戦法を得意とする。
 位置エネルギーと体重を乗せた攻撃の前には半端な防御は意味を為さず、実際驚異と言えるだろう。

「…必殺剣…」

 カイエンは鞘に納めた刀を頭上に掲げる奇妙な構えを取る。

「死ね! カイエン=サン死ね!」

「…牙っ!!」

「え?」

 カイエンがその構えの状態から抜刀し、振り下ろすと同時に、アルバトロスは自身の周りを空気が駆け抜けて行くのを感じた。
 直後。

「グワッ!?」

 アルバトロスの左腕と左脚が胴を離れて宙を舞う。
 加えて全身のニンジャ装束にも無数の刃物が刺さったが如き裂傷が刻まれる。

「グワーーーッッ!!?」

 右の手脚のみでウケミなど取れるはずもなく、アルバトロスは顔面から地面へ叩き付けられた。

「アバッ…!」

 手を離れた槍がその真横へ突き立つ。

「バ、バカな…」

 アルバトロスは右側の手脚でどうにかうつ伏せ状態から寝返りをうつと、自身へ向けて歩みを進めるサムライを凝視する。

「帝国に与する者…滅すべし…!」

「ヒッ…!(コ…コイツの目…アイツと…あの死神と同じ…!)」

 その脳裏に過るは、自身を惨たらしく殺した赤黒の死神。
 痛めつけられ、指を折られ、手脚を切られ、眼球を抉り出される凄惨なインタビューで洗いざらい組織の情報を吐かされた上で殺されたのだ。

「ま、待てカイエン=サン! ど、毒はケフカ=サンの連れて来たニンジャの仕業だ! 俺は何も…」

「問答無用っ!!」

 言うが早いか、刃が空気を裂く。

「アバーッ! サヨナラ!」

 アルバトロスは首と胴が分かたれ、爆発四散。
 だが、ニンジャの相手をしている内に周囲を帝国軍が固めてしまっていた。

「むぅっ…!」

 魔導アーマーは勿論、戦闘ドローンのサテライトも投入され、兵も50人は下らない。

「…はぁっ…はぁっ…す、全て斬る…!」

 元より斬り死にするつもりで乗り込んで来たカイエンは、肉体の疲労感を強靭な精神力で捩じ伏せ、その切っ先を向けて威圧する。

「魔導レーザーと魔導ミサイルの飽和攻撃で圧倒しろ! サムライとて1人では捌ききれんはずだ!」

 魔導アーマー隊の後方からエイドが叫ぶ。
 カイエンの鬼気迫る闘気を目の当たりにしたケフカは、ナックラヴィーを伴って既に陣を後にした。

「単身でここまで奮戦した覚悟と技量は見事…だが、こちらも戦争なのだ、悪く思うな」

 エイドは攻撃合図の為に右手を高く掲げる。
 振り下ろされるその直前、待ったを掛けるかのように、側面から飛来した青い光線が魔導アーマーの1機に着弾し、爆発を起こした。

「なんだ!?」

 その場の全員が、光線の飛んで来た方を直視する。
 見れば、魔導アーマーが2機、照準もつけずに魔導レーザーを乱射して近付いて来るではないか!
 乗っているのは…どちらも帝国兵!

「迎撃…いや、散開しろ! 各自遮蔽物へ!」

 横からの奇襲攻撃を受けて被害を出してしまった以上、すぐに態勢を立て直すのは、物理的にも心理的にも難しい。
 そう判断したエイドは、展開していた部隊に退却を命じた。
 魔導アーマーの厄介さを自分達が良く知る帝国軍は、我先にと離れた場所に置かれた木箱やテントの陰へと退避を始めたのだ。
 2機のアーマーの内1機は呆気に取られるカイエンの前で停止、もう1機は隠れた敵への牽制に魔導レーザーを放ち続ける。

「あんたそのナリ…ドマのサムライか?」

「お、お主らは…? 帝国軍ではないのか?」

 そう言われた兵士は、目深に被ったヘルメットを親指で軽く持ち上げて見せた。

「俺はマッシュ! マッシュ・フィガロだ! 助けに来た!」 
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