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故郷は大空にあり

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第三章 忘れられないもの
  第二話 いつでも待ってる

時間が経ち、無線もレーダーも沈黙したまま。
捜索が始まり、そして――打ち切られた。

「……もう、これ以上の捜索は困難だ」

上層部の判断は冷たかった。地形、天候、戦況。全てを勘案しての結論。

ヒナは受け入れられなかった。

整備データには、エラーは一切なかった。
出撃前の最終チェックも完璧だった。
彼女はただ、空のどこかで――まだその先輩が帰ってくるのを待っている気がしてならなかった。

その夜、ヒナは無人の倉庫にいた。
灯りはすでに消され、静寂だけが広がっている。

中央に眠っているのは、T-4改修型試験機「EF-T4B」。
テスト機体であり、配備予定のない特別モデル。
軽量で高機動。実戦にはまだ不安があるが、彼女にとっては特別な存在だった。

この機体は、ツバキと一緒に作った、特別な艤装だった。

「先輩……」

声は震えていた。涙が頬を伝う。

「帰ってこないなら、私が──見つけに行きますよ」

迷いはなかった。

彼女は整備士として、訓練補佐として、多くの機体に触れてきた。
この機体の起動シーケンスも、癖も、全部把握している。

ヒナはコクピットへ登った。
整備コードで機体を起動し、パーソナルIDを一時書き換える。
全ては“テスト起動”として処理されるよう、操作は抜かりなく。

夜の滑走路が静かに開かれる。
月明かりに照らされた海が、遠くで揺れていた。

「私、飛びますね……先輩…」


滑走、離陸。エンジンは小さく唸り、機体は軽々と宙に舞った。

ヒナは風を受けながら、まっすぐ東の空を目指した。

「……この方向だった」

先輩が飛んだ方角。通信記録と気象データを参考に、可能性の高いルートを選んでいた。

だが、予想は外れた。海の上には何もない。
ただ風と星の光だけが、ヒナの機体を包んでいた。

「……どこですか……先輩……」

その時だった。

――ピィイイイッ!

警告音が鳴る。燃料系統エラー、電圧異常。

「うそ……なんで!?」

試験機ゆえの不具合。燃料容量は想定より少なかった。
シミュレーターとは異なり、現実の空は甘くない。

ヒナは緊急着陸用プログラムを起動したが、追いつかない。

エンジン出力が低下、操縦不能に近づいていく。

「……まだ、空にいたいのに」

彼女は、空を諦めきれないまま、海に機体を預けた。
その時だった。
遠くに、滑走路の着陸灯がうっすらと出てきた。
整備兵の地図には必ず乗っていた、オスカー・ミットン隊の鎮守府。

「聞こえ…ますか、こちらは…ヒナタです。……着陸許可を要請します」

「ヒナちゃん!?なんで!?エマージェンシー受理しました」

「yak-131…?」

「そうだよ!ヒナ、着陸したら話聞かせてよ」


滑走路に近づくにつれて、機体は警告を鳴らし続けた。左エンジンの温度が限界に近く、バランスもわずかに崩れている。油圧制御も不安定だった。

だが、ヒナは諦めなかった。

「大丈夫……行ける……これなら……!」

最後のフラップ操作。脚部を降ろし、姿勢を正す。

衝撃。滑走路にタイヤがぶつかる。火花が散る。

体を強く打った。

しかし、機体は横転せず、そのまま滑るように滑走路を走りきった。

確かに着陸は成功した。だが、ヒナの身体には大きなダメージが
入っていた。

世界が暗転した。

───────────────────

◇◇◇

「ヒナっち!?……EF-2A、ヒナ!」

「何よこの夜遅くに…」

「ヒナだよ!エマージェンシーコール」

「ふぇ~了解、妖精に救命派遣するね…滑走路でいい?」

「うん。」

私は管制塔から出て、走った。
距離的に着陸までは間に合わないだろう。
EF-2Aの派遣した妖精が待機している。

エンジンが停止しているのか、
とても静かだった。
遠くで煙が上がったかと思えば、

そこから火花が上がった。
そこまで激しい訳では無いが、
どうか爆発しないでくれ…そう思った。

爆発はしなかった。
火花を上げながら滑走路の端まで滑った。

「今だ!」

妖精が出動した。
私も急いで走った。
まだ距離はある。
その距離が、今は永遠のように思えた。


「はぁ…はぁ…」

私が着いた頃には、ヒナは意識を失っていた。
付けていた艤装は、ヒナからも聞いた事のない、
特殊な艤装。形からしてT4がベースだろうとは思ったが、
それがどのような戦闘機かまでは分からなかった。

「yak-131!…っ、なにが」

遠くから走ってきたEF-2Aがそう言った。
私は、何も言えなかった。
ただ、涙が頬を伝った。

「EF…T4B?」

私は、何も言わなかった。
でも、私の糸を読み取ったように、EF-2Aは言った。

「訓練機T4を改造した艤装…ヒナと先輩で作った大切なもの。
そうヒナはこの前言ってたよ。」

私は泣いてるだけではダメだと思った。
艤装を触り、取り外した。

「EF-2A…私はヒナッちを運ぶよ。」

「わかった。艤装は任せて。工廠まで運ぶ。」

EF-2Aは冷静だった。
焦らず、丁寧に事を進めた。

私もゆっくりと、地面に倒れ込んだヒナをゆっくり持ち上げた。
お姫様抱っこ?と言った体制だ。

「ヒナが起きてれば、嬉しかっただろうに…」

そうEF-2Aが言った。重そうな艤装だが、
どうやら余裕らしい。

私は鎮守府内の医療室に運んだ。
妖精たちがすぐ治療に取り掛かっていた。
私は、とてもヒナと目を合わせれなかった。
妖精たちに引き渡してから、すぐ医療室を出てしまった。


「っ……」

何故こんなことを…

「EF-2A…!」
 
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