故郷は大空にあり
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第三章 忘れられないもの
第三章第一話 見送るものの辛さ
「ふんふふ~ん」
晴天の青空を見上げながらドライバーでネジを締めていく。
くるくると回して締まるはず…あれ?
「あー…ドライバー、さっきのと違う……えーっと……たぶん大丈夫……たぶん……」
「ヒナちゃーん、それ“プラスの2番”じゃなくて“3番”だよー」
「ふえ!?先輩、いつの間に!ありがとうございます」
私やっぱり整備士向いてないのかもな…
ドライバーの区別は大事だな…
先輩に微笑んで返した。
「先輩って観察力凄いですよね…空の目かな?」
「それを言うなら鷹の目じゃないの?」
「そうでしたっけ…?」
「これからは空の目先輩って呼びますね!」
「そんな名前で呼ばれたの、初めてだよ。……あんたがのんきすぎて、つい目に入るんだって」
お互いに会話を交わしながら、
工具を使いネジを締め、
制作していく。
「えへへ、誉め言葉として受け取っておきますっ」
「……ほんと、あんたみたいなのが一緒だと、空も近く見えるな」
「この空、先輩がいつも飛んでる空なんですね……今日みたいな日は、空も気持ちよさそうにしてますよ?」
「そうだね。……でも、気持ちいい空ほど、なぜかちょっと怖いんだよな」
「そうですか?綺麗なら綺麗な方がいいと私は思いますよ」
2人で一緒に空を見上げた。
とても綺麗な空。平和で、青い。
「……今度、一緒に飛べたら嬉しいです」
「じゃあ、ちゃんとプラス2番と3番の区別つけられるようになったら、ね」
そう言いながらも、先輩は空を見上げていた。その横顔は、今日の空よりもずっと澄んでいた。
「ヒナちゃん。あんた、今のままでいいよ。
のんびりしてて、でもちゃんと見てる。そういう子、貴重だから」
思い返したように、はっと、言葉を放った。
それに応じて私も同じように返した。
「……そうですか? なんだか褒められた気がする……!」
「ふふっ…」
先輩が私の頭を撫でてから、こういった。
「じゃあ、飛んでくるよ。」
「え? もう?」
「今日の任務、急に決まったの。ちょっと長めになりそう」
「分かりました」と言葉を出したが、なにかモヤモヤしていた。
「待って!」
「?」
「御守りでも、持って行って。」私の御守りを、代わりに差し出した。
先輩と手をしっかり握った。
「じゃあ、帰ってきたら教えてくださいよ、2番と3番の見分け方。
その鷹の目でね」
「ははっ…いいよ!覚えるまでみっちりやるから、着いてきてね!」
「待ってる」
「へへっ、着いてくんなよ?バックブラストでぶっ飛ばされる」
「ロケットランチャーじゃないんだから。」
「じゃあね」
先輩が滑走路に停止し、スロットルを上げて、
煙を残しながら高度を上げて行った。
その背中を見ていながら、
澄んでる青空を、綺麗に見ていた。
────────────
もぐもぐ…
キコキコクルクル…
「時間が今日もない…」
艤装を作り、メンテナンスを行い、
気づけば空は夕暮れ頃になっていた。
昼先輩と会話を交わした
場所で、今回は夕暮れを見ながら
艤装を作っている。
「帰り遅いけど…」
一瞬頭の中をよぎったのは、
『墜落』
その二文字だった。
でも、きっと長距離ミッションなのだろう。
そう思って、不吉な二文字を振り払った。
澄んだ空で夕暮れを見るというのは、とても綺麗だが、
今の私には不吉な予感しかしなかった。
そういや今日は満月だな、そう思った。
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