| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

故郷は大空にあり

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章 忘れられないもの
  第三章第一話 見送るものの辛さ

「ふんふふ~ん」

晴天の青空を見上げながらドライバーでネジを締めていく。
くるくると回して締まるはず…あれ?

「あー…ドライバー、さっきのと違う……えーっと……たぶん大丈夫……たぶん……」

「ヒナちゃーん、それ“プラスの2番”じゃなくて“3番”だよー」

「ふえ!?先輩、いつの間に!ありがとうございます」

私やっぱり整備士向いてないのかもな…
ドライバーの区別は大事だな…

先輩に微笑んで返した。

「先輩って観察力凄いですよね…空の目かな?」

「それを言うなら鷹の目じゃないの?」

「そうでしたっけ…?」

「これからは空の目先輩って呼びますね!」

「そんな名前で呼ばれたの、初めてだよ。……あんたがのんきすぎて、つい目に入るんだって」

お互いに会話を交わしながら、
工具を使いネジを締め、
制作していく。

「えへへ、誉め言葉として受け取っておきますっ」

「……ほんと、あんたみたいなのが一緒だと、空も近く見えるな」

「この空、先輩がいつも飛んでる空なんですね……今日みたいな日は、空も気持ちよさそうにしてますよ?」

「そうだね。……でも、気持ちいい空ほど、なぜかちょっと怖いんだよな」

「そうですか?綺麗なら綺麗な方がいいと私は思いますよ」

2人で一緒に空を見上げた。
とても綺麗な空。平和で、青い。

「……今度、一緒に飛べたら嬉しいです」

「じゃあ、ちゃんとプラス2番と3番の区別つけられるようになったら、ね」

そう言いながらも、先輩は空を見上げていた。その横顔は、今日の空よりもずっと澄んでいた。

「ヒナちゃん。あんた、今のままでいいよ。
のんびりしてて、でもちゃんと見てる。そういう子、貴重だから」

思い返したように、はっと、言葉を放った。
それに応じて私も同じように返した。

「……そうですか? なんだか褒められた気がする……!」

「ふふっ…」

先輩が私の頭を撫でてから、こういった。

「じゃあ、飛んでくるよ。」

「え? もう?」

「今日の任務、急に決まったの。ちょっと長めになりそう」

「分かりました」と言葉を出したが、なにかモヤモヤしていた。

「待って!」

「?」

「御守りでも、持って行って。」私の御守りを、代わりに差し出した。
先輩と手をしっかり握った。

「じゃあ、帰ってきたら教えてくださいよ、2番と3番の見分け方。
その鷹の目でね」

「ははっ…いいよ!覚えるまでみっちりやるから、着いてきてね!」

「待ってる」

「へへっ、着いてくんなよ?バックブラストでぶっ飛ばされる」

「ロケットランチャーじゃないんだから。」

「じゃあね」


先輩が滑走路に停止し、スロットルを上げて、
煙を残しながら高度を上げて行った。
その背中を見ていながら、
澄んでる青空を、綺麗に見ていた。

────────────

もぐもぐ…

キコキコクルクル…

「時間が今日もない…」

艤装を作り、メンテナンスを行い、
気づけば空は夕暮れ頃になっていた。

昼先輩と会話を交わした
場所で、今回は夕暮れを見ながら
艤装を作っている。

「帰り遅いけど…」

一瞬頭の中をよぎったのは、

『墜落』

その二文字だった。
でも、きっと長距離ミッションなのだろう。
そう思って、不吉な二文字を振り払った。

澄んだ空で夕暮れを見るというのは、とても綺麗だが、
今の私には不吉な予感しかしなかった。
そういや今日は満月だな、そう思った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧