蒼と紅の雷霆
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紅白:第十一話 スラム街3
前書き
昔のあいつならもっと早くに殲滅させようとするもんですけど、技術不足なのかその考えに至らなかったのか…
スメラギの重要施設から集めてきたデータを解析していたアキュラだが、解析が終わるのと同時に解析の手を止める。
「データの解析完了……だが、これは…」
『え?この場所って…』
「灯台下暗しとは良く言ったものだな」
「バタフライエフェクトがこのような場所にあったとは」
『なるほどね、一度探した場所をもう一度探すなんてないし。これは見つからないわけだわ』
「みんな、どうかした?」
解析結果を見たソウとパンテーラとモルフォが険しい表情で呟き、コハクは不思議そうに5人を見つめた。
「…バタフライエフェクトの秘匿場所が判明した。」
「ほんと!?やったね、みんな!それで、どこなの?」
「それは…」
アキュラが言おうとした時、走ってきた誰かがドアを勢いよく開ける。
「皆さん!外に出て下さいっ!!」
慌てて入ってきたのはジンのようだが、顔色が悪い。
「どうしたのジン君?」
「敵が…敵が攻めてきました!」
コハクの問いに対する答えは最悪な物だった。
『何だって!?』
『またマイナーズ狩りなわけ!?少しは休みなさいよ!!』
「言っている場合ではありません。急いで外に出ましょう!」
ロロとモルフォがまたマイナーズ狩りが行われているのかと思ったが、状況把握のためにパンテーラがそう言うと全員が外に向かって駆け出した。
そして外で見た物にほとんどの者が驚く。
『うわっ!何あれ!?』
「おっきい…ロロちゃん?」
「私達の所に送り込まれていた兵器ですね。大分細部が異なっていますね…あれが完成形…?未完成品にしろ本当に悪趣味な見た目をしています。愛らしくないです…名付けてジャイアントロロですかね?」
『僕はあんなんじゃないよ!!それからパンテーラ、それどういう意味かな!?むぐっ!?』
「少し黙れポンコツ…確かこのポンコツはマイナーズにとって一応希望だったな。希望に似せた兵器を造るとはずいぶんと悪趣味だな」
ソウは喚くロロの顔面?を掴んで強引に黙らせる。
『ロロを無駄に巨大化させたらあんな風になるのかしら?ロロのポッド形態って小さいから可愛げがあったのね…でかくすれば良いってわけじゃない良い見本だわ』
「怖いのです…」
「もしかして、この場所がバレちまったのか!?」
『そうじゃないと思うわ、寧ろあんなでかい兵器を大量に投入してきたんだから今までが非効率だったってことに気付いたんでしょ』
キョウタの言葉に対してソウとパンテーラの冷静さを持つモルフォは何故この時点でいきなり大量の兵器を投入してきた理由を推測する。
スメラギからすればマイナーズは生かしておく価値もない下等生物であり、変に遠慮をする必要などないも思い至ったとしても何ら不思議でもない。
『全テノ マイナーズ共ニ 告ゲル。私ハ スメラギノ 全統括管理AI・“デマーゼル”。 オ前達ノ 生存ノ時ハ 今コノ時ニ終ワッタ。スメラギハ 大規模攻撃ヲ以テ オ前達ヲ イジェクト スル。 タッタ今 スメラギノ管理区画外“全テ”ニ ニューウェポンヲ 投下シタ。 動キ出シタ ギアハ 止マラナイ… 最期の瞬間マデ 足掻イテ見セルガイイ…』
耳障りな合成音声にソウとアキュラの表情が不快げに歪む。
『無茶苦茶だあいつら!世界中にアレを送り込んだんだ!』
『予想通り、マイナーズ狩りに本腰を入れたってことね…!』
「そんな!だとしたら…逃げ場なんてない!?」
「…私達を、ついに滅ぼそうっていうの…?」
「させるものか…あの紛い物を破壊するぞ、ロロ!」
『うん!行こう、アキュラ君!』
「お前達は基地に戻れ、あのガラクタを処分してくる」
「すぐに片付けてきますから」
『良い子に留守番してるのよ!』
アキュラとロロ、ソウとパンテーラとモルフォがスメラギの最新型兵器の元に向かっていく。
「みんな…どうか…気をつけて…!」
スラム街を駆け抜けるアキュラとロロ、ソウとパンテーラとモルフォは別の場所のジャイアントロロを破壊しに向かった。
アキュラとロロはこちらに迫るジャイアントロロの前に立ち塞がる。
「来たか…歪な偽物め…この場でケリをつける!」
ジャイアントロロと仮称された戦車は翼戦士のセプティマのデータがインストールされているのか、ロロと同じように疑似セプティマの武装を使うことが出来るようだ。
スパークステラーを除いた武装を使ってくる。
『偽物にしたって、こんなの全然似てないよ…』
アンカーネクサスを起動し、ジャイアントロロの額のセンサーを捕捉すると一気に突撃し、上空からのロックオンショットでの連続攻撃を浴びせる。
対空攻撃のドラフトスパイラルにさえ気を付ければ後はどうとでもなる。
アンカーネクサスを起動しながら何度も突撃とロックオンショットを繰り返していくとジャイアントロロの顔面装甲が崩れ落ち、グロテスクで悪趣味な素顔を露出するとダークネストリガーを発動した。
『うひゃあ!何これ!?』
暴走しながらエネルギー弾を連射してくる。
「ダークネストリガーまで再現しているとはな…だが、先程よりも隙だらけだ」
確かに攻撃は激しくなったものの、対処は容易であった。
『アキュラ君!このままじゃ基地まで巻き込まれちゃう!早くケリをつけよう!!』
「ああ、行くぞロロ」
戦闘を長引かせないようにSPスキルを発動し、ジャイアントロロの巨体をエネルギーを纏ったビットが切り刻み、最後に2人の同時攻撃が決まる。
それによりジャイアントロロのボディが爆発し、沈黙したかと思ったが、悪魔のAIが送り出した兵器はアキュラの予想を超えていた。
今まで使ってこなかったアンカーネクサスが起動し、拘束されてロックオンされてしまう。
「ぐっ!」
フェイクカゲロウが発動しないので、恐らくリベリオのSPスキルとほぼ同等の出力なのだろう。
『アキュラ君!』
エネルギーの糸で編まれたドリルがアキュラに迫ろうとした時、紅い雷撃が迸った。
「はあっ!!」
「受けなさい!!」
ソウのチャージセイバーとパンテーラの放った光弾がジャイアントロロに叩き込まれて今度こそ爆散した。
『間一髪ね…!』
「こんなポンコツ以下のガラクタに手こずるな」
「あなた達がジャイアントロロの気を引いてくれたおかげで私達は容易く破壊出来ました。感謝しますよ」
夢幻鏡の幻覚と紅き雷霆の雷撃の前では自動兵器は大した敵ではないのだろう。
救われたのは事実だが、機械と雷撃能力との相性の悪さを改めて突き付けられた気分だ。
「…それでどうするつもりだアキュラ。このガラクタ共は世界中に送り込まれている。このままでは他のガラクタも来るぞ……」
「分かっている…バタフライエフェクトとデマーゼル…この2つをどうにかしない限り、この戦いは終わらない…こちらから打って出るべきだろう。」
つまり敵の本拠地に殴り込む時が来たのだ。
念のため、周囲に敵がいないことを確認してからアキュラ達は基地へと帰還したのであった。
「大丈夫だった!?みんな!」
「俺達は無事だ。…それよりも、1つ提案がある。」
「提案…なのです?」
アキュラの提案という言葉にマリアは首を傾げる。
「これから、スメラギの管理AI…デマーゼルを破壊しに向かう。」
「確かに管理AIを破壊すれば、スメラギの軍機能は麻痺し、当面の間、攻撃は止むでしょうが…けど、そのデマーゼルが、どこにあるのかも…」
確かに管理AIを破壊すれば立て直しの時間を考慮してもしばらくは大丈夫だろうが、肝心のデマーゼルの居場所が分からないのではどうしようもないのではないだろうか。
『場所なら実は分かってるんだ。僕らが捜していたバタフライエフェクトの秘匿場所のデータ…偶然だけど、同じデータに“デマーゼル”って単語があった。』
「以前潜入した、スメラギ第拾参ビル。その地下に、バタフライエフェクトも、デマーゼルも存在している。灯台下暗しとは、よく言ったものだ…」
「場所さえ分かれば後はどうとでもなる。主力の翼戦士のほとんどが壊滅した今、強行突破が可能なはずだ」
「私のセプティマもありますから、より安全に潜入出来るはずです」
『いざとなったら私の歌でパワーアップさせるわ』
「け、けどよ兄貴達!あのビル、イクスの兄貴が潜入してから、さらに警備が厳重になってるってきいたゼ?前に使った列車も、今は動いてねーし…」
相手が同じセプティマホルダーである以上、翼戦士ほどの敵はいないかもしれないが感知系のホルダーがいないとも限らないので、パンテーラのセプティマでの安全性も確実とは言えない。
「…だが、やるしかない。元より、バタフライエフェクトは俺の目的だ。」
「デマーゼルの破壊は俺とテーラの長年の悲願だからな。今更退けん」
「………分かった。私も行く!」
『コハクちゃん!?』
『ええ!?本気なの!?』
コハクの予想外な言葉にロロとモルフォは思わず驚愕する。
「無茶ですよ!僕達はただの子供…イクスさんのように戦えるわけでは…」
「それでも、囮くらいにはなれるよ!大人達が遺してくれた銃や弾丸だってある!私は…もう…お姉ちゃんを…大切な人を見殺しにしたくない!」
「…コハクさん…」
「お、俺も行くっ!!…ここでじっとしていたって、危険なのは変わらねーんだろ?だったら俺は、兄貴達の役に立ちてぇ!」
「マリアも…マリアも行くのです!キョウタだけじゃ、コハクが心配なのです。」
「2人共……いえ、確かにその通りですね…イクスさん達が敵の新兵器を撃退したおかげで、この場所もすぐに特定されてしまうでしょうし…ここは、一か八かの賭けに出るべき時なのでしょう。」
ここに隠れていようが戦おうが危険なのは変わらない。
危険ならば賭けに出るべきだとジンも思ったようだ。
「そうだよ!みんなで戦おう?じっとしていて、手に入る未来なんてない!もう、誰かに全部押し付けて、安全な場所に引きこもるのは止めるんだ!」
『みんな…』
「やれやれだ…だが、寧ろ外の方が安全かもしれん。まさかスメラギの連中もマイナーズのこいつらが外に出て応戦しようなど予想外なはずだ。」
「確かに…寧ろ近くにいれば私のセプティマである程度の安全は確保出来ます」
「危険を感じたら、すぐに逃げるんだぞ?」
「うんっ!…そうだ!アキュラ君!これ、持って行って!私のお姉ちゃんが大事にしてたお守りなの。ずっと預かってたんだけど…きっと、アキュラ君を守ってくれると思う!」
コハクが渡してきたのはペンダントだった。
家族との大切な品を他人のアキュラに渡すのは余程の想いがあるのだろう。
「…分かった。ありがたく借りて行こう。」
「アキュラ君…お兄さん…絶対にお互い、生きて帰ろうね?」
「ああ…約束だ。」
「スメラギのガラクタを処分するだけだ。すぐに終わる…お前達こそ死なないように気を付けるんだな……行くぞ」
ソウ達は準備を整えてから基地を飛び出して最後の戦いに臨むのであった。
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