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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第20話 スーパーロボット対決!マジンガーZ対キングジョー

「それは本当ですか?」

 その日、モニター越しに甲児の声が跳ね上がったのを聞いた。今甲児はアースラにある通信機で誰かと話している。
 相手はご存知弓教授であった。更にその横にはさやかやシロー、そしてボス達も揃っている。彼等と最後に会ったのは竜ヶ森のキャンプの後である。それ以降は甲児もなのはも揃って科学特捜隊へと向かい、その後はアースラと共に激しい戦いに身を投じていた為彼等とは結構ご無沙汰となっていた。

「あぁ、今世界各国でこの案が出されている。皆君達に期待しているんだ。その為の今回の計画なのだよ」
「へへっ、しかしマジンガー強化計画か。でもなんでそんな急に?」
「君もなのはちゃんから聞いた筈だと思うよ。Dr.ヘルがとうとう飛行型機械獣を完成させた事を」

 その話は甲児も知っていた。空飛ぶ機械獣。それは以前なのはがバードス島から脱出する際にその逃げ道を塞ぐようにして現れた機械獣達である。
 今まで機械獣は陸地を走るのが主であったのに対しあの時の機械獣は皆空を飛んでいたのだ。そして、今のマジンガーZに空を飛ぶ手段はない。これは正しく致命的であった。
 それを見越して弓教授は世界各国から有能な科学者を招集してマジンガーZの強化計画を立案したのだ。今やマジンガーは世界の平和を守る為に重要な存在となったのだ。

「最終的にはマジンガーの性能を更に向上させる事を目的としている。その為のまず第一段階としてマジンガーZの飛行計画を立案しているんだよ」
「え? マジンガーZが空を飛ぶんですか!?」

 甲児の目が子供の様に輝いた。今この時それほど嬉しい知らせはない。マジンガーが空を飛べるようになればもう空を飛ぶ敵に遅れを取る心配はない。

「それで、その計画は何時開始されるんですか?」
「今世界各国から科学者たちが集まっている。開始されるのは彼等が光子力研究所に集まってからだよ」

 弓教授の言葉を聴き甲児は嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。そのせいか思わず顔に出てしまっていたのにハッと気づいたが、その時には既に遅く、皆がにやけた甲児の顔を見ていた後であった。

「何ニヤニヤしてんだよ兄貴、情けねぇぞ!」
「シローの言う通りだわよぉ兜ぉ。お前はもう日本の顔なんだからしゃんとしねぇと俺様が恥ずかしいだわさ」
「ははっ、悪い悪い…」

 頭を搔いて笑いはしたがそう簡単に笑みが消せる訳がなかった。結局甲児は通信が終わるまで終始笑いっぱなしであった。




     ***




 マジンガーZ強化計画が立案された日から数日。その間、奇怪な事件が相次いで起こった。世界各国の有能な科学者を乗せた乗り物が突如何者かに襲撃されて撃破されたと言う報せが来たのだ。そして、それは宙に浮かぶ四基の円盤の仕業だと言う知らせが届いた。

「畜生! 何処のどいつだ!」

 甲児は苛立っていた。折角マジンガーが強化されると言う話が持ち上がったと言うのにこういった邪魔が入るのは心底苛立つ。

「もしかしてDr.ヘルの仕業でしょうか?」
「それはないな。もし奴の仕業だと言うのなら科学者を狙うなんて無駄な事はしない。一気に光子力研究所を襲う筈だ。それが科学者だけを狙った。これはもしかしたら俺に対する警告、もしくは挑戦かも知れない」

 甲児は唸った。何者かがマジンガーZを倒そうとしている。Dr.ヘル以外の何者かが。
 だが、一体何者なのか? 其処までは分からなかった。4基の円盤。それだけが情報原でもあった。

「何にせよ、このままではマジンガーZ改造計画が滞ってしまうわね。どうしたものかしら…」
「後残っているのと言ったら、ドロシー・アンダーソン教授だけだな」
「ドロシー? 本郷さん、その人って一体誰なんです?」

 聞いた事のない名前だった。最も、甲児は基本的に趣味以外は疎いので当たり前なのだが。

「ドロシー・アンダーソンと言えばロケット推進学に秀でた科学者だ。マジンガーZを空に飛ばす為には彼女の協力が必要不可欠になる。絶対に彼女を死なせる訳にはいかない」
「よっしゃぁ! そんじゃ早速その人の元へ向おうぜ!」
「慌てる事はないよ甲児君。彼女は今先ほどキリヤマ隊長の通信で無事に光子力研究所に向ったと報告があったんだ」
「本当ですか! そりゃ良いや」

 どうやらマジンガーZの飛行計画は無事に成功出来そうだ。これには安堵と同時に喜びも感じられた。

「それじゃ、早速甲児君は光子力研究所に向った方が良いわね」
「分かりました。そうだ、折角だしなのはも来るか? シローやさやかさん達もお前に会いたがってるだろうしさ」

 甲児の誘いになのはは断る気はなかった。彼女にとって光子力研究所の人達には色々と助けて貰った事がある。それに彼女にとって甲児はとても親しみ易いもう一人の兄でもあったのだ。

「それじゃ二人共行って来ると良い。その間俺達が守りを気にしておくから心配しなくて良いさ」

 竜馬がそう言ってくれた。心強い限りである。早速、甲児となのはの二人はマジンガーZ改良計画を実行させる為一路光子力研究所へと向った。
 アースラから時空ゲートを通り富士山麓近くに出てきた。マジンガーZはそのままアースラから直送で光子力研究所に送られ、其処で即座に改良計画が実行されるとの事だった。

「へへっ、いよいよマジンガーZが空を飛ぶ日が来たってもんだぜ」
「これでマジンガーZも無敵になりますね」
「あぁ、マジンガーZが空を飛べるようになりゃ空飛ぶ機械獣なんざ目じゃねぇぜ!」

 移動中のパイルダー内でなのはと甲児はそんな話に華を咲かせていた。そんな時だった。突如けたたましい音でパイルダー内の通信機が発せられる。

「はい、兜甲児です」
「甲児君。大変だ! ドロシーアンダーソン教授が何者かに狙われている。至急彼女を救ってくれ!」
「何ですって! 分かりました」

 甲児は焦った。彼女を今此処で失えばマジンガーZが大空を飛ぶ計画はおじゃんになってしまう。何としても助け出さねばならない。

「甲児さん! あそこに…」
「うん!?」

 なのはが真下を指差す。其処は光子力研究所へ向う途中の木々の中であった。その中を金髪の女性が走って逃げており、その後ろを黒髪の少年が追いかけていた。その少年の手にはなのはのと同じデバイスが持たれていた。恐らく彼の着ている服はバリアジャケットなのだろう。

「私が助けに行きます!」
「頼む!」

 なのはがパイルダーから飛び出し直ちにデバイスを起動させる。その手にレイジングハートを持ちドロシーと少年の間に降り立つ。

「待って下さい! 彼女を殺させはしません!」

 なのはが少年に対しレイジングハートを構える。それを見た少年は立ち止まる。

「退いてくれ! 彼女をどうしても倒さなければならないんだ!」
「どうしてそんな事をするんですか? 彼女が一体何をしたと言うんですか?」
「今は話しをしてる場合じゃないんだ! 退いてくれ、今彼女を逃がす訳にはいかないんだ!」
「出来ません。彼女には甲児さんの夢が掛かっているんです! どうしても聞かないんだったら……」

 なのはがレイジングハートの穂先に魔力を集中させる。彼女を此処で失う訳にはいかない。彼女にはマジンガーZが大空を飛ぶ為の希望が詰まっているのだ。彼女を失うわけにはいかない。

「くっ、やるしかないのか…」

 少年は苦虫を噛む顔をしながらなのは同様デバイスの穂先に魔力を集中した。互いに一触即発の空気を発している。少しでも動けばそれが闘いの合図となる。そんな緊張の空気が発せられていたのだ。
 だが、その時、背後に居たドロシー・アンダーソンが懐から何かを取り出した。その姿はなのはには見えないが、少年には見えた。

「危ない!」

 咄嗟に少年は飛び出した。なのはは思わず魔力弾を撃った。少年はそれを片手で払い除け、同時になのはを地面に押し倒した。それと同時に背後から光線が発せられる。

「え?」

 振り返ったなのはが見たのは光線銃を手に持ったドロシー・アンダーソンであった。倒れた二人に向かい微笑みながら銃を構えている。

「形勢逆転ね。お人好しな執務官さん」
「ぐっ…」
「あの時その子の事を放っておいて私を撃って置けば良かったのに、貴方達人間はその甘さが弱点なのよ」

 勝ち誇った顔をしながらドロシーが言う。その顔がとても憎らしく見えた。

「ど、ドロシーさん、何でこんな事をするんですか!」
「彼女はドロシー・アンダーソンじゃない。偽者だ!」
「え?」

 少年が言う。ドロシー・アンダーソンは偽者? では彼女は一体何者なのか?

「まさか貴方がこんな所に来るなんて予想外だったわ。後少しで光子力エネルギーと超合金Zを手に入れられたのに。そうすれば私達ぺダン星人のスーパーロボットはもっと強くなれた筈なのよ」
「ぺ、ぺダン星人?」
「ウフフ、お嬢さん。貴方には本当に感謝しているわ。貴方のお陰で邪魔な執務官さんを葬れるんだから」

 まんまと騙された。今の状態では二人共デバイスを構えるには時間が掛かる。その頃には彼女の持っている光線銃が火を噴き、二人は殺されるだろう。どうする事も出来なかった。
 その時、突如突風が巻き起こった。上空に居たパイルダーが風を巻き上げて降りてきたのだ。その突風がドロシーの視界を塞ぐ。

「今だ!」

 その隙を突き少年はなのはから離れてデバイスを構えてドロシー・アンダーソンを撃ち抜いた。ドロシーの胴体に野球ボール位の大きさの風穴が開く。その箇所から見えたのはバチバチと火花を散らす機械の部分であった。やはりそうだった。彼女は偽者だったのだ。

「なのは、大丈夫か?」

 ドロシー・アンダーソンが倒れたとほぼ同時に甲児がパイルダーから降りて来てなのはと少年の下へやってきた。そして、倒れたドロシーを見た。

「こいつは…ロボット?」
「甲児さん、それはぺダン星人が連れて来た偽者なんです!」
「なんだって!」

 甲児は驚愕した。なんてこった! 結局ドロシーまでもがやられてしまったというのか。だが、其処で問題が生じた。では隣に居る少年は何者なのか?

「君は一体何者なんだ?」
「僕は……あ!」

 少年は空を見た。其処には4機の円盤が飛来していた。今まで科学者達を殺してきた円盤であった。その円盤が一つに合さると、何と一体のロボットとなったのだ。身長は約40メートルはある。巨大なロボットだった。

「野郎! 光子力研究所を怖そうったってそうはいかねぇ! なのははアースラに連絡を入れてくれ。俺はマジンガーであいつを叩き潰す!」
「気をつけて下さいね。甲児さん」
「おう!」

 甲児はなのはと少年に向かいグッと親指を立てる。そしてパイルダーに乗り込み急ぎ研究所へ向った。
 なのはは甲児に言われた通りアースラに向い通信を行おうとした。だが、通信しようとした際に耳に聞こえてきたのは耳障りな雑音だけであった。

「あれ? 通信が出来ない! 何で?」
「あのロボットから妨害電波が発せられてるんだ。あのロボットをどうにかしない限り通信は出来ない」

 してやられた。これではアースラに救援を頼む事が出来ない。それは即ちあの謎のロボットをマジンガーと自分たちだけでどうにかするしかないと言う事になる。




     ***




「マジーンGO!」

 光子力研究所内に設置されていた排水用プールの水が無くなり底が開き、その中からマジンガーが姿を現す。

「パイルダーON!」

 出てきたZの頭部にパイルダーがドッキングし甲児とZが一心同体になる。

「さぁ行くぞ! てめぇらにマジンガーZの強さを教えてやらぁ!」

 勇み足でマジンガーが巨大ロボットの前に躍り出る。大きさの差は歴然であった。パッと見ても二倍近くはある。だが、大きさで闘いが決まる訳ではない。現に今までだってあれと同じ大きさの怪獣と戦ってきたのだ。今更自分より大きなロボットを相手にビビる事はない。

「これでも食らいやがれ!」

 最初に右拳を巨大ロボットに放った。だが、Zの豪腕は巨大ロボットの分厚い胸板の前に防がれてしまった。恐ろしく硬い。殴った本人がそう思えた。

「だったら何度でも殴ってぶち破ってやらぁ!」

 何度も何度もZは拳を放つ。だが、その都度Zの拳は巨大ロボットの分厚い装甲の前には無意味であった。幾ら殴っても傷一つつかない。

「か、かてぇ……何て野郎だ…だったら武器を使うまでだ!」

 一旦ロボットから距離を離し、甲児はスイッチを押した。
 Zの両目が光り輝き光線が発射された。光子力ビームだ。そのビームが巨大ロボットに向って走る。
 その時、巨大ロボットの周囲に稲妻に良く似た現象が起こる。その現象がZの放った光子力ビームを弾いた。

「くそっ、バリアーか!」

 甲児が毒づいた。ビーム兵器は効き目が薄いようだ。だったら高熱で溶かすまで。
 Zの胸から熱線が放たれた。ブレストファイヤーだ。しかし、その熱線もまた巨大ロボットの前に無意味に終わった。何てことだ。このロボットにはマジンガーの武器が通用しない。恐らくあのロボットにはルストハリケーンも無駄だろう。だが、諦める訳にはいかない。自分が諦めたら光子力研究所が破壊されてしまう。それだけは何としても阻止しなければならない。
 最早やけっぱちにもZが巨大ロボットに掴み掛かった。今度は巨大ロボットがその大きな手を振るってきた。互いの手がぶつかり合いレスリングのつかみ合いの様な形になる。

「んがぁ……凄いパワーだ……マジンガーが押されてる」

 徐々に後ろに下がるマジンガーZ。信じられなかった。おじいちゃんの作ったマジンガーは無敵だ。どんな相手にだって負けない。だが、そのマジンガーZが今目の前に現れた巨大ロボットの前に手も足も出ない状態だったのだ。

【フハハハ、無駄な事は止めろ地球人。我等ぺダン星人の誇るスーパーロボット。キングジョーは無敵だ】
「キングジョー。それがそのロボットの名前なのか!」
【そうだ。スーパーロボットの名は我等キングジョーにこそ相応しい。それ以外のロボットがスーパーロボットを名乗るなど許さん。故に破壊する】
「ざけんじゃねぇ! そんな理由で俺達の星を侵略なんざさせっかよぉ!」

 甲児が叫んだ。敵もスーパーロボット。こちらもスーパーロボット。スーパーロボット同士の戦いとも言えた。

【貴様等下等な地球人にその合金とエネルギーは惜しい。よって我々が頂く。同時にこの星もだ。この星は我等ぺダン星の前線基地として生まれ変わるのだ】
「冗談じゃねぇ! そんな事を俺達がさせるか! 必ず叩きのめしてやる!」

 立ち上がりZがキングジョーに立ち向かう。いかに圧倒的なパワーがあっても何処か弱点がある筈だ。其処を突けばきっと勝てる。微かな希望を胸に甲児は立ち向かった。だが、その都度軽くあしらわれるかの様に投げ飛ばされるZ。その光景は見る者の胸を痛めつけるには充分過ぎる光景だった。




     ***




 あのロボット…凄く強い。
 目の前でマジンガーZが苦戦を強いられているキングジョーになのはが思った。今までマジンガーがあそこまで苦戦した事はない。そのマジンガーZが今あのキングジョーに苦しめられているのだ。

「助けなきゃ!」
「待て、何をする気だ?」
「甲児さんを助けるんです!」
「無茶だ。あのロボットの強さは君も知ってるだろう? 僕達の武器が通じる相手じゃない」

 少年の言い分は正しかった。マジンガーの武器が通じない相手に自分たちの魔力が通じるとは考えられない。だが、だからと言ってこうして黙って見ている訳にはいかない。このままではマジンガーZが、そして甲児が危ない。

「私は行きます。通じなくたって、援護位は出来る筈です!」
「自分から死地に行くようなもんだ! 君は死にたいのか?」

 少年の目はとても厳しかった。その年で幾多の辛い試練を乗り越えてきた事を安易に予想させられた。だが、だからと言ってなのはは引き下がらなかった。

「甲児さんは…甲児さんは私にとってもう一人のお兄ちゃんなんです! 絶対に死なせたくないんです!」
「……分かった。僕も手伝う」

 根負けしたのか少年は頷く。それを聞いたなのはもニッと笑った。

「有難う。えぇっと…」
「クロノ。クロノ・ハラオウンだよ」
「私、高町なのはって言います。宜しくね、クロノ君」
「こっちこそ、行くよ! なのは」

 二人はデバイスを手に飛び上がった。
無闇に攻撃してもあの装甲の前には無意味に終わる。となれば一点集中で脆い箇所を撃ち抜くしかない。しかし何処が脆い。

「必ず何処か弱点がある筈だ。其処に一点集中して放つしかない」
「うん!」

 二人はキングジョーの体を見ながらも魔力を限界まで収束させた。下手な攻撃は無駄弾になる。一発勝負で決めるしかない。

「狙いは……頭部だ!」
「いっけぇ!」

 クロノとなのははほぼ同時に魔力砲を放った。それを見た甲児のZが一旦距離を開ける。完全に予想だにしてなかった攻撃の為キングジョーはそれを諸に食らってしまった。しかしダメージはない。全くの無傷だった。
 だが、その時キングジョーがおかしな行動を起こした。先ほどの魔力砲の威力があったのか仰向けに倒れる。すると手足をバタバタとばたつかせたのだ。その光景を甲児は見ていた。まるで最初にマジンガーを動かした時の自分を思い出させるのか少し嫌味に感じた。

「こいつ、遊んでるのか?」

 一瞬蹴りを入れようかと思った時、キングジョーは突如4基の円盤に分離した。そして空中へ飛び上がるとそのまま大空へと飛び去って行ってしまったのだ。

「何だ? 何で逃げていくんだ?」

 訳が分からなかった。あんなに形勢が有利だったのに尻尾を巻いて逃げてしまったのだから。しかし、そのお陰でどうにか危機を脱する事は出来た。ホッと安堵する甲児。
 だが、問題はまだあった。ドロシー・アンダーソンが姿を消した今、マジンガー強化計画は白紙同然である。このままではマジンガーが空を飛ぶ事など夢のまた夢である。

「畜生……折角マジンガーが空を飛べるって言うのによぉ」

 悔しがりながら甲児は拳を叩き付けた。それとほぼ同時に光子力研究所上空にアースラが転移してきた。連絡が無いので心配になって駆けつけて来たのだ。甲児は、苦い思いを胸に現れたアースラを見ていた。




     ***




「まさかドロシー・アンダーソンが誘拐されていたとは。あと少しで研究所を異星人に占拠される所でした」

 研究所に入り、弓教授は自身の甘さに毒づいた。わざわざ敵を中に入れてしまったのだから。あの時クロノが来なければ今頃ぺダン星人に超合金Zと光子力エネルギーを奪われていた筈だ。
 そうなればもうあのキングジョーに勝てる方法はなくなってしまう。

「そう言えば、あの時一緒に居た子はどうしたんだ?」
「一緒に居た子? 誰なんだいその子は?」
「クロノ君って言う人でした。私より多分四つ位年上だと思います」

 なのはが問いに答えた。それを聞いた時、その中に居たリンディの顔色が変わった。

「クロノ! なのはちゃん、本当にクロノに会ったの?」
「え、えぇ…あの、もしかしてクロノ君とは…」
「クロノは…私の息子なの。以前地球周辺に起こった謎の時限変動を調査させる為に単身派遣させたの。でも、その後突然音信不通になってしまって…でも、無事だったのね」

 先ほどまでの顔色から一転して安堵の表情を浮かべている。管理局の誇る時空航行船の艦長で有ると同時に彼女は一児の母親なのだ。母親が息子の身を案じるのは当たり前の事だ。
 しかし、では一体何故彼は何も言わずに去ってしまったのだろうか。

「薄情な息子だぜ。おっかさんに何も告げずに姿を消しちまうなんてよぉ」
「そんな事はないと思いますよ隼人さん。クロノ君だってきっと何か訳があるんですよ」
「おっかさんをないがしろにしてもか? そんなのある筈ない!」

 何時もの隼人とは違っていた。普段は何時も冷静でクールな筈の隼人が母親の事になると感情を露にしたのだ。一体隼人と彼の母親に何があったのだろうか。
 しかし、それについて今は語るべきではない。今はぺダン星人のロボットをどう攻略するのかが重要なのだ。

「問題はあのキングジョーだ。マジンガーの武器が一切効かないとなると…こりゃ厄介な話だぜ」
「キングジョーの装甲にはぺダン星にしかない特殊合成金属が使われています。あれを破るには相当な威力を持った武器でなければ…」
「って、何でダンさんがそれを知ってるんだよ?」
「そ、それは…」

 言葉に詰まった。下手に言えば自分がウルトラセブンだと感づかれてしまう。しかし、此処に既にウルトラマンの正体を知ってる少女が居るのだが。

「ハヤタさん、どうすればキングジョーを倒せます?」

 なのはがそっとハヤタに耳打ちする。

「君の証言からするに、恐らく僕のスペシウムでも厳しいかもしれない。それにキングジョーにはビームを無効化するバリアの一種があるようだ。倒すなら物理攻撃しかない。しかしどうやって破る物か…」

 ハヤタもお手上げであった。ウルトラマンの武器と言えば光線系が主だ。しかし今回のキングジョーには光線系が効かないと来ている。となるとキングジョーを倒す決め手は物理攻撃を持つマジンガーしかない。だが、マジンガーの武器は一切効かない事が立証済みである。

「次に現れた時はアースラ隊全員でキングジョーに当たる他ありませんね」
「待ってくれ! あいつは俺とマジンガーが倒す! 今度こそ叩きのめしてやりたいんだ!」
「甲児君…」

 甲児の目は本物であった。彼にとってマジンガーは誇りその物だ。それを貶されては彼にとって死活問題になる。

「甲児君、気持ちは分かるが遊びじゃないんだ。次は僕達全員でキングジョーに当たるべきだ!」
「本郷さん、俺にとってマジンガーは命その物なんです。あのマジンガーはお爺ちゃんが残してくれた無敵のスーパーロボットなんだ。それをあんな異星人のブリキ人形に負けたんじゃ死んだお爺ちゃんが浮かばれませんよ!」
「いい加減にするんだ甲児君! 闘いは君一人でどうにかなる物じゃないんだ」

 珍しくダンが怒った。普段ならない事だ。

「ダ、ダンさん」
「甲児君、君がマジンガーに只ならぬ感情を抱いているのは分かる。だが、その為に皆を危険に晒して、それで本当に君のお爺ちゃんは満足なのかい? 君のお爺ちゃんが望んでいるのはマジンガーで世界を救う事だ。だが、マジンガーにだって限界はある。人間一人では限界があるんだ。だから僕達がこうして集まってるんじゃないか」
「ダンの言う通りだよ甲児君。気持ちは分かるが僕達の事を頼ってくれ」
「皆…我儘を言ってしまってすいません」

 甲児は素直に皆に謝罪した。この闘いに掛かっているのは人類全体の運命なのだ。それを個人のプライドの天秤に掛けて良い筈がない。




     ***




 目の前では焚き火の火が轟々と燃えている。その周囲には串に刺した魚が焼かれている。その魚をクロノは見ていた。すると、何処からかギターの音色が聞こえてきた。

「よぉ、しけた面してんじゃねぇか」
「早川さん」

 クロノがやってきた早川健に対して笑みを浮かべる。そうして、クロノとは対照的な位置に座り立て掛けてあった焼き魚を手に取る。

「早いもんだな。お前と会ってからどれ位経ったもんか」
「もう半年になりますよ」

 クロノは内心思い出していた。それは、突如地球近辺で起こった謎の時空変動の調査の為単身地球に降り立った際の事だ。



     半年前…




 
「これが地球と言う星か…僕の星と同じで綺麗な星だ」

 地球に降り立ったクロノが抱いた最初の感情がそれであった。今目の前に広がっているのは彼の母なる星に良く似た光景であった。そんな光景を見ていた時であった。目の前を突如一機の円盤が飛行するのが見えた。

「円盤? 妙だな、地球の文明はまだあんな物を作れるレベルじゃない筈なのに?」

 彼は此処に来る前に地球の文明や文化についてある程度は勉強していた。その過程で地球の科学文明はそれ程発達してない事が分かった。だが、今クロノの前を通り過ぎた円盤は明らかにそれを超えた科学力の結晶である。疑問に感じたクロノはその円盤を追い掛ける事にした。
 だが、その円盤を追っているとその周囲に更に三基の円盤が姿を現す。4基の円盤は自分達を追っていたクロノの周囲を囲むように飛び回る。どうやらつけられているという事は彼等には分かっていたようだ。

「こいつらは…一体?」

 周囲を飛び回る円盤を見た。何処となくその円盤が人間の部位にも見て取れた。
 突如、円盤から光線が放たれた。突然の事であった。その為回避する事が出来ず四方から放たれた光線の直撃を受けてしまう。

「うわぁぁぁぁ!」

 体に激痛が走る。光線を受けたクロノはそのまま高度を維持出来ず真っ逆さまに地面に落下してしまった。落ちていったクロノの生死を確認せず、円盤は過ぎ去っていった。どうやら彼等にとって彼の生死など気にしてないようだ。




「う…うぅ…」

 目を覚ますと其処は粗末な布の上であった。体を見ると応急処置を施された後のようだ。しかし一体誰が?
 傷ついた体を起こそうとするが、そうすると体中に激痛が走った。とても起きられる状態じゃない。

「う、ぐぅ…」
「おいおい、無理して体を起こすもんじゃねぇよ。折角拾った命をむざむざ捨てるつもりか?」

 誰かの声がした。その方を見ると、其処には黒いレザージャケットにジーンズ、そして白いギターを背負った青年が立っていた。どうやら彼が助けてくれたのだろう。

「あ、貴方は…貴方が僕を?」
「ま、そう言うこった。しかし驚いたぜ。いきなり空の上から降ってくるんでなぁ、てっきり美人かと思ったらこんなお子様だったとはな」

 若干皮肉がかった笑みを浮かべながら青年はクロノの前に腰を下ろした。

「俺は早川健。しがない私立探偵さ。此処にはちょいとした観光で来たみたいなもんさ」
「クロノ・・・クロノ・ハラオウンと言います」

 クロノは名前だけを教えた。下手に自分が異世界の住人だと言う事を言う訳にはいかない。そのせいで戦争の火種になる訳にはいかないのだ。それを理解していたのか早川はフッと笑みを浮かべていた。

「どうやら此処へ来たのは訳有りみたいだな。ま、その様子だと聞いても答えてはくれまい」
「すみません」
「良いって事よ。それよりその体じゃ満足に動けそうにあるまい、暫くは安静にしてな」
「そ、そうはいかないんです。早く…早く通信を入れないとかあ…艦長が心配します」

 早川の言い分を無視してクロノは待機状態のデバイスを取り出す。だが、取り出したデバイスは何の反応も示さなかった。どうやら先ほど浴びた光線のせいでデバイスの機能が破壊されてしまったようだ。これでは救援を頼む事も出来ない。

「ん? 見た所それはデバイスみたいだな。壊れちまってるみたいだが」
「え!? 貴方は、デバイスを知っているんですか?」

 驚いた。この星の住人がデバイスを知っているなんて。

「ちょっと貸してみな」

 早川の言い分を聞き、クロノは彼にデバイスを渡した。早川は慣れた手つきでデバイスを触り、懐から幾つかの工具を取り出し、修理を始めた。それは僅か数分で終了した。

「ほらよ、通信機能は直せなかったが他はどうにか直せたぜ」
「凄い、貴方は一体何者なんですか?」
「前にも言ったが、只の私立探偵さ。但し、何をやらせても日本一だがな」

 本気か冗談か、早川がそんな事を言って来た。それを聞いたクロノは半ば苦笑いを浮かべてしまった。




     ***




 アースラ隊は誘拐されたドロシー・アンダーソンの捜索と同時にスパイ対策の為に警備の強化を行っていた。光子力研究所に訪れ・ドロシー・アンダーソンが偽者であった為、本物のドロシーを探す必要があったのだ。そして、その間マジンガーZは来るべきキングジョーとの再戦に備えて新武装の開発が行われていた。

「弓教授、ぺダン星人のロボットを破る武器は出来ますか?」
「奴等は光線をバリアで跳ね返す。となれば決め手はマジンガーのロケットパンチに限られる。問題はそのロケットパンチでどうやってぺダン星人のロボットの装甲を破るかなんだが…」

 其処が悩みであった。ぺダン星人のロボットの装甲は恐ろしい程硬い。並大抵の武器では弾き返されるのがオチだ。一体どうした物か…
 皆が悩む。そんな時であった。

「兄貴ぃ、何しけた面してんだよぉ」
「シロー!」

 部屋に入ってきたのはシローだった。どうやら暇なので兄貴に構って貰いに来たのだろう。しかし、今はとてもシローと遊んでいられる場合じゃない。そんな気持ちになれないのだ。

「悪いなシロー。今ちょっと忙しいから後でな」
「ちぇっ、何だよ兄貴ぃ。折角買ったベーゴマで遊ぼうと思ったのにさぁ」

 そう言ってシローが懐から取り出したのは六角形に象られたベーゴマであった。しかも昔懐かしい紐で回すタイプだ。今の様にブレードで回すのとは違いこれにはかなり技術が要る。

「お、ベーゴマじゃねぇか。懐かしいなぁ。これ紐の結び具合とか回転とかで強さが変わるんだよなぁ」
「回転? そうか、回転だ!」

 突如、弓教授がベーゴマを見て何かを思いついたようだ。しかし、その発言に甲児とシローは首を傾げる始末であった。

「な、何を思いついたんですか弓教授」
「あぁ、とっておきの秘策を思いついたんだよ。もしかすればこれで敵を倒せるかも知れないよ甲児君」
「ほ、本当ですか!」

 甲児の目も輝いた。もしそれが本当ならとても嬉しい事だ。そして、それを閃いた弓教授の元急ピッチで作業が行われる事となった。全ては、ペダン星人の誇るスーパーロボットを倒す為に。



     ***




「ウルトラ警備隊に……まさか私達と同じ宇宙人が居るとはねぇ」

 時刻は夕暮れ、神戸港付近を調査していたダンが波止場でドロシー・アンダーソンを見つける。ダンは即座にドロシーの元を訪れる。互いに笑顔を浮かべた後、すぐさま話題に入った。

「何故君達ぺダン星人が地球を攻撃する? お前たちも地球侵略が目的なのか?」
「そのつもりはないわ。だけど、あのマジンガーZの存在を許す訳にはいかないわ」
「どう言うつもりだ?」

 訳が分からなかった。彼等の侵略の目的があのマジンガーZだと言うのだから。

「あれを作った目的は分かってるわ。あれを使って全宇宙を侵略しようとしているのでしょう? そうはさせないわ。私達の星は絶対に守り抜いてみせるわ」
「それは誤解だ。マジンガーZを作ったのは世界の平和を守る為の物だ。決して侵略の為に作られたんじゃない!」
「そう言える証拠があって? ないわ! 人間は己の欲望には正直なものよ。あれだけの力があれば人は必ず侵略を行う筈。その前に牙をへし折って置く必要があるのよ」
「その心配ならない。あれを操縦している兜甲児君は正義と平和を愛する少年だ。彼に侵略する意志も野望も持ってない」

 ダンはぺダン星人に弁明した。しかし、目の前に居るぺダン星人は頑として首を縦には振らなかった。

「口からでは幾らでも言えるわ。私が知りたいのは真実よ」
「どうすれば信じて貰える?」
「簡単よ、彼に合わせて頂戴。彼を直に見て、それで判断するわ」
「…分かった」

 ダンは頷き、通信用に配給された腕時計型の装置を目元に近づけて通信を送る。それから数分の後、二人の元に真紅の小型機が下りてきた。兜甲児の操るホバーパイルダーである。それが地上に降りた後、甲児がパイルダーから降りてきて二人の前にやってくる。

「貴方が兜甲児ね?」
「あぁ、そうだ」

 甲児は事前にダンから彼女がぺダン星人だと告げられた。その為腰のホルスターには光子銃を携帯している。いざと言う時には即座に引き金を引けるようにする為だ。

「まさか、あの黒いロボットを操っていたのが貴方みたいな子供だったとは驚きだわ」
「あんたと御託を並べるつもりはねぇよ。それより本物のドロシーさんを返せ!」
「それなら目の前に居るでしょう?」

 彼女の言葉に甲児もダンも眉を顰めた。一体彼女が何を言っているのか。

「一体どう言う意味だ? 目の前って…もしかして」
「そうよ、貴方達の前に居るこの私こそが本物のドロシー・アンダーソンよ。但し、意識は私達ぺダン星人が操っているけどね」

 驚きであった。まさか目の前に居る彼女が本物のドロシー・アンダーソンだったとは。

「改めて聞かせて貰うわ、兜甲児君」
「一体何を聞くってんだ? マジンガーの事についてなら死んでも話す気はないぜ!」
「安心して。私が聞きたいのは貴方の事よ」
「俺?」
「貴方はマジンガーZを用いて何をするつもりなの? あのマジンガーZを用いて宇宙を支配しようと企んでいるの?」
「……」

 甲児は黙っていた。しかし、彼の顔は呆れたような、はたまた鼻で笑うような顔をしていた。そして、今一度ドロシーを見ると一辺して強張った顔つきになってドロシーを見た。

「俺はマジンガーを悪用するつもりはない。確かに、お爺ちゃんは言った。マジンガーを使えば神にも悪魔にもなれるって。だけど、俺は神様になんかなれないし、悪魔になんかなるつもりはない。只、あのマジンガーZを使って、俺はこの地球、嫌、この宇宙の平和を守りたいんだ! それだけだよ」
「宇宙の平和…フフッ、随分大きく出たものね。それはつまり、貴方のマジンガーZでこの宇宙に住む全ての生命を守ると言うの?」
「そのつもりだ」
「フッ…ウフフ…アハハハハ」

 突如、ドロシーは声を上げて笑い出した。一体俺は何かおかしい事でも言っただろうか? そう甲児はダンを見た。が、そのダンも微かにだが甲児を見て笑みを浮かべている。

「な、何だよ二人して、俺を笑いものにしたかったのかぁ?」
「そうじゃないわ。貴方はとても変わってるわよ。普通の人間ならあれだけの力を持っていれば侵略に用いるのが普通だと私達は思っていたわ。でも貴方は違う。その力を使ってまさか宇宙の平和を守るなんて…」
「そんな素晴らしい考えは君にしか出来ない事なんだよ。兜甲児君」
「あ、あれ? これって俺喜んで良い事なのか?」

 褒められてるのか貶されてるのか分からない現状であった。

「良いわ。貴方のその純粋な意見に免じて、本物のドロシー・アンダーソンを返すわ」
「ほ、本当か?」
「でも、気をつけた方が良いわ。一部のぺダン星人はこの星を手に入れようとしている。その場合、貴方に勝ち目はあるの?」
「有るさ! 俺のマジンガーは無敵のスーパーロボットだ! 誰にも負けやしないぜ!」

 言い切った辺りで甲児はハッとした。今目の前にはぺダン星人が居る。そんな者の前で大口を叩いたら全てが水の泡になるのでは? そう心配していたのだ。が、そんな甲児の心配とは裏腹にドロシーは笑っていた。

「頼もしい限りね。ならば倒してみせなさい。私達ぺダン星の誇るスーパーロボット、キングジョーを。キングジョーは、明日の正午、神戸港を襲撃するわ」
「あぁ、地球とぺダン星のスーパーロボット対決だな! 今度は俺達が勝つ!」

 拳を握り締めて甲児は言い切った。何とも強い目だ。それ程までにあのマジンガーZに信頼を寄せているという事なのだろう。その底知れぬ信頼が時としてとてつもないパワーを生み出す。それを後にぺダン星人は理解する事になるのだ。




     ***




 翌日の正午、ドロシーの言った通り、神戸港に突如キングジョーが現れた。キングジョーは付近の輸送船を破壊し、港を火の海に変えている。が、其処へ再びマジンガーZが躍り出た。今度は誰も援護がない。純粋な一対一の闘いだ。

「さぁ来い! 第2ラウンドの開始だぜ!」

 腕を振り上げてマジンガーZがキングジョーを指差す。神戸港を舞台にマジンガーZ対キングジョーのスーパーロボット対決が今開始されたのであった。



 その頃、アースラでは殆どのメンバーがマジンガーZの闘いを見守る形で集まっていた。

「頑張れ甲児さん!」
「頼むぞ、甲児君!」

 皆がマジンガーZの勝利を祈りながら闘いを見守っていた。

「それにしても、君が素直に彼の意見に応じるとは思ってなかったよ」

 ハヤタが隣に居たダンにそう語りかけた。その事についてはダン自身も笑みを浮かべていた。実は神戸港にキングジョーが現れると言う事前の情報を貰ったことにより、アースラ隊は一斉攻撃でキングジョーを倒そうと試みたのだ。だが、その案を甲児は却下した。
 彼はあくまでキングジョーとの一対一の決着を望んでいたのだ。本来ならダンは真っ先に否定する筈だったのだが、不思議とダンは何も言わなかった。昨日のぺダン星人の想いに答える為でもある。それと同時に、コレに勝利すればぺダン星人は恐らく以降地球に来る事はなくなると思えたからだ。総攻撃で沈めるよりも一対一で倒される方が衝撃が大きいからだ。
 ダンは昨日の出来事を思い出しながら胸ポケットに仕舞ってあるウルトラアイに触れた。もしマジンガーZが負けそうになった場合、即座に駆けつける為だ。今マジンガーを失う訳にはいかない。例え、甲児から恨まれようともダンは戦いに乱入するつもりで見守る事にした。




     ***




 神戸港でマジンガーZとキングジョーの激しい戦いが開始された。

「先手必勝!」

 叫ぶなり、Zの両目が輝いた。光子のビームが唸りを上げて飛んでいく。しかしやはり光線系はキングジョーには効き目が薄い。分厚いバリアに守られている為に決定打にはならなかった。
 やっぱ駄目か。毒づきながらも甲児はすぐさまキングジョーに突っ込んで行った。そして胴体に鉄拳を叩き込む。
 ガツン! 分厚い鉄板を叩いたような音と共にキングジョーが後ろに下がった。
あれ? どうなってんだ? 殴った甲児自身も首を傾げた。今までは何度も殴っても効き目が無かった筈なのに今回殴ったらあっさりキングジョーが下がったのだ。
 甲児は念の為に先ほど殴った箇所を見た。其処は丁度キングジョーが合体した際に連結する継ぎ目部分であった。

「そうか、継ぎ目か!」

 甲児はひらめいた。合体連結するロボットや乗り物にとってその連結部分は比較的脆いのだ。そして、それはぺダン星のキングジョーもまた同じであった。
 となれば狙いは決まったも同然だった。後はどのタイミングでアレを出すかだった。

「うおわぁっ!」

 突如、Zの体が持ち上がった。キングジョーがZの腰を掴んで高く持ち上げたのだ。そしてそのまま後方の海面に向かい放り投げた。投げられたZが水しぶきを上げて海に飛び込む。其処へすかさずキングジョーは動いた。
Zが飛び込んだ地点に向かいその巨体をダイブさせたのだ。
 キングジョーもまた激しい水しぶきをあげる。数万トンの巨体を誇るキングジョーのダイブをまともに食らえば例えZが無事でも中の甲児がもたない。
 モニター越しに皆が緊張する。海面ではキングジョーがダイブした際に起こった激しいみずしぶきが今だに起こっている。やがて、キングジョーがゆっくりと海面から姿を現した。Zの姿はない。まさかやられたのか?
 だが、その直後、キングジョーの背後からZが現れる。振り返った時には既に遅く、硬く握りこまれたZの鉄拳がまたしてもキングジョーの連結部に叩き込まれる。
 バキッ金属が砕ける音がした。先ほどの連結部に亀裂が走り出したのだ。
 あそこだ! あそこに叩き込めば勝てる!
 甲児は確信した。後は叩き込むだけだ。バッとZの巨体が海面から港の大地に降り立つ。それを追ってキングジョーがゆっくりと海面を走る。

「今だ! これでも食らえ!」

 Zの黄色い角から青白い光線が放たれた。その光線はキングジョーではなく、キングジョーの足元に向かい放たれた。すると、その海面が瞬く間に氷付けになってしまったのだ。
 冷凍ビームだ。氷点下数百度の冷凍光線が海面を凍らせ、同時にキングジョーの両足を凍らせてしまった。両足の自由が効かず二進も三進も行かない状態に追い込まれたキングジョーが空しく上半身を動かす。
分離しようにも連結部に亀裂が入ってしまい出来ない。絶好のチャンスだった。

「今しかない! 行くぞ!」

 Zは構えた。両足を大地に押し当て、仁王立ちで立ち、そして右腕を回転させたのだ。その回転速度が徐々に速くなっていく。どんどん…どんどん…

「もっと、もっとだ! あの装甲を完全に破るには相当の力が要る…この一発に俺とマジンガーZの全てを賭ける」

 Zの腕の回転が更にスピードを増していった。轟音を上げて巨大な竜巻が起こっていると錯覚される程の音がZの回転する腕から発せられている。
 バキバキ! キングジョーの足元の氷が砕けだした。何時までも凍ってはいない。もう間もなくキングジョーは自由になる。
 だが、それよりも早くZの豪腕が唸りを上げた。

「これでトドメだ! 大車輪ロケットパァァァンチ!!!」

 高速で回転する腕が激しい唸りを上げて真っ直ぐにキングジョー目掛けて飛んで行った。その一撃はキングジョーの亀裂の入った胸部連結部に叩き込まれた。メキメキと音を立ててキングジョーの装甲がひしゃげ、胴体を貫き背中を貫通した。
 貫通した腕は弧を描き、やがてZの腕に戻ってきた。普段のロケットパンチよりも戻って来るのに時間が掛かった。それが今回の武器の威力を物語ってもいた。
 胴体に巨大な風穴の開いたキングジョーはそのまま静かに神戸港の海の中に沈んだ。それから間もなく、激しい爆発が起こった。

「勝った、勝ったぞぉ! 見ててくれたかぁお爺ちゃん! マジンガーZはやっぱり無敵のスーパーロボットだったぜぇ!」

 勝利を手にした右腕を遥か空に突き上げて甲児は歓喜の声を上げた。マジンガーZは勝利を収めた。その勝利を見てモニター越しに居たアースラ隊のメンバーも喜びの声をあげる。
 それから数刻後、本物のドロシー・アンダーソンが無事保護された。ぺダン星人はキングジョーの破壊の報を知り地球圏から撤退していったとの報せもあった。
 宇宙は果てしなく広い。もしかしたらその宇宙の何処かにはマジンガーZを遥かに凌駕する恐ろしいロボットが居るかも知れない。だが、これだけは間違いなく言える。地球の誇るスーパーロボット。それはこのマジンガーZなのだと。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


ドロシー・アンダーソンの協力の元、マジンガーの飛行計画が開始された。
しかし、丁度その頃、多々良島の調査を行っていた調査員の消息が絶ったとの報せが届いた。
直ちに調査に向ったアースラ隊。
しかし其処で目にしたのは怪獣達が闊歩する無法地帯であった。


次回「怪獣無法地帯」

お楽しみに 
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