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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第19話 悪質宇宙人

 高町なのはが無事に仲間の元に帰ってこれたその日から実に数日が経過していた。
 その間特に変わった事もなく穏やかな日が続いていた。ジュエルシードを全て時の庭園に居た女性に渡してしまったと言った時には正直怒られると不安になっていたが、そんな思いとは対照的に皆無事に帰ってきた事を素直に喜んでくれた。
 そして今、なのははハヤタに連れられて国際平和連合の合同演習場に来ていた。其処では各国の飛行部隊が空中で華麗な動きを見せていた。訓練を受け卓越したパイロット達が大空に絵を描く様に空を自在に飛び回っている。
 そして、その中に三機の特殊なマシンが見られた。イーグル号、ジャガー号、ベアー号の三機のゲットマシンだった。彼等も国際平和連合の合同演習に参加していたのだ。
 来るべき闘いに備えて飛行技術の向上の為に今回の演習に参加する事にしたのだ。動きは多少ぎこちないのだがそれでも必死についていっている辺りは凄さを感じられた。

「凄い、まるで空がキャンパスみたい」
「少しは気晴らしになったかい?」

 合同演習を見て目を輝かせているなのはを見てハヤタもまた笑みを浮かべた。なのはがアースラに戻ってこれてから数日。長い検診や尋問が続き心休まる時間が余りなかった。その為今回の合同演習を知り気晴らしになればとつれてきたのだ。
 どうやら彼女は楽しんでいるようだ。空ではいよいよ今回の演習の目玉とも言える華麗な飛行が展開していた。その飛行に大層ご満悦だった時、

【こんな物が面白いのかい?】
「え?」

 声がした。一瞬ハヤタが言ったかと思い彼を見たが、とうのハヤタは空を飛んでる飛行機郡を見ているのでとても話し掛ける雰囲気には見えなかった。では一体誰が? そう思っていた時。

【飛行機が空を飛ぶのは当たり前の事だ。ちっとも面白くない。私がもっと面白いのを見せてあげよう】

 それを最後に声は途切れた。かと思うと、こちらに向かい一隻のタンカー船がやってきたのだ。しかも、空を飛んで…

「タ、タンカー船!?」
「タンカー船が空を飛んでるだと!?」

 なのはだけでなくハヤタもそれには驚かされた。これだけの事が出来る者と言えばそれは最早人知を超えた科学力を持つ異星人しか居ない。
 その時、タンカー船が空中で爆発を起こした。それと同時に眩い閃光が辺りを照らし出した。それは地上に居た二人は元より、空に居た殆どの者達の目を眩ますには充分であった。

「くっ、閃光弾か!」
「隼人、武蔵! すぐに合体するぞ!」

 三機のマシンは閃光が発せられて視界がない中でゲッター1に合体した。彼等は既に視界がない状態でも合体出来る程に合体錬度を上げていた。その為彼等に目眩ましは通用しなかった。
 合体を終え、地上に降り立ったゲッター1が見たのは、閃光と共に忽然と姿を消したなのはとハヤタだった。




     ***




 国際平和連合の合同演習の際に生じた謎の空中タンカー爆破事件から翌日。アースラ隊は行方不明となったハヤタとなのはの捜索を行っている真っ最中であった。しかし、あの爆破の中に高密度なレーダー妨害電波が混ぜられていたらしく捜索や追跡は困難を極めていた。

「どうだった甲児君」
「駄目だ。爆破が起こった地点の周囲半径100キロ範囲を捜索したんだけど何も見えなかった」

 モニター越しに会話しあう双方。結果は相変わらずのようであった。収穫なし。それは今に始まった事じゃないのは分かっているが、やはり苛立ちを感じさせる。
 またしてもなのはが何もかに連れ去られたのだ。しかも今度はハヤタも一緒。一体何がどうなっているのか?
 巨大なタンカーが飛来して爆発して、そして爆発と同時になのはとハヤタが姿を消した。
 
「まるで神隠しだぜ」

 隼人が呟いた。それに頷く一同。的を射ていると言った想いであった。

「こちら本郷。こっちも駄目だ。穴と言う穴を探したんだが何も見つけられなかった」
「僕の方も同じでした。探せる箇所を探したのですが…」

 同様にモニター越しに報告をする本郷とダンも結果は同じであった。
 こうなると最早これ以上探し回るのは時間の無駄とも言える。

「分かりました。捜索は一度打ち切りましょう。皆様一度帰還してください」

 艦長のリンディがそう言うのに、皆は頷く。甲児とゲッターチームは半ば不満そうであったが命令には従う事にした。

「え? 何これ!」

 そんな時、オペレーターのエイミィが声を上げる。明らかに何かあったような言葉である。

「どうしたの? エイミィ」
「緊急事態です! ウルトラマンが現れました!」
「ウルトラマンが? まさか怪獣が!?」

 ウルトラマンが現れる理由といえば今の所怪獣が出現するか人間の力ではどうしようもない時に限られる。
 しかし今の所怪獣が出たと言う知らせはない。では一体何故?

「エイミィ、ウルトラマンが現れた理由は何?」
「そ、それが…ウルトラマンが原子力発電所を破壊しているんです!」
「なんですって!」




     ***




 目の前に映るのは全てが真新しい光景ばかりであった。全てが白一色で統一されている。思わず目が眩みそうになった。そんな空間の中、なのはは用意されていた椅子の上で目を覚ます。

「こ、此処は?」

 また見知らぬ場所であった。つい先ほどまで国際平和連合の合同演習を見ていたと言うのに、気がつけばこんな場所で目を覚ます。訳が分からない。未だに寝ぼけている頭を無理やり覚まして身を起こす。
 此処が何処なのか? 一緒に居たハヤタは何処に行ったのか。どうすれば出られるのか? それを知る必要があった。

【お早いお目覚めのようだね。高町なのはちゃん】
「!!!」

 またあの声がした。タンカー船が来る際に聞こえた声だ。だが、声の主は相変わらず見えない。それがまば不気味さを搔き立てていた。

「だ、誰ですか?」
【そう構える必要はない。すぐに其処に顔を出そう】

 声の主がそう言う。すると、なのはの丁度目の前に用意された台座の箇所から突然姿を現した。
 その姿は人間のそれとはかけ離れた姿をしていた。全身黒い体に猫の様に尖った耳を持ち、青い眼光をした異星人を思わせる姿であった。

「い、異星人!」
【君達地球人は皆そう言うのであろう? だが、我々から見ても君は充分異星人であるがねぇ?】

 目の前に現れた異星人はクスクスと笑いながらなのはを見ていた。が、なのはは未だに緊張を解かなかった。今まで出会った異星人の殆どが地球を侵略する為に来たのが殆どだったからだ。
 なのはは咄嗟に首飾り状に取り付けていたレイジングハートに手を掛ける。

【止め給え。そんな事をしても君の為にならんよ】
「え?」

 だが、それを見越していたのか異星人が手を翳して止める。

【此処は私の宇宙船の中だ。即ち私に手を出せばどうなるか?…幼い君でもそれ位は理解出来る事だろう?】

 それを言われたなのはは何も出来なかった。此処はあの異星人の宇宙船。即ち敵のテリトリーに当たる。其処で持ち主であるあの異星人を傷つければどうなるか?
 壁の周囲から突如高出力のレーザー砲が発せられ蜂の巣にされる。または、人間にのみ効く毒ガスが噴出され毒死。他にも可能性はあった。
 なのはは自然とレイジングハートから手が離れた。こうなってしまった以上下手に出たら即命に関わってしまう。悔しいが今は何も出来ない。そう判断したのだ。

【懸命な判断だ。流石は今まで幾多の脅威からこの星を守ってきただけの事はある】
「貴方は一体何者なんですか? 何が目的で私を此処に?」
【そう言えば自己紹介が遅れていたねぇ。うっかりしていたよ。これは失礼】

 あくまでとぼけた感じに言う異星人。だが、まだ油断は出来ない。此処はあの異星人のテリトリーなのだ。何をするにもあの異星人が優勢に立てる。それに引き換え自分は劣勢。明らかに分が悪い。

【私は、メフィラス星人。君を此処に連れてきたのは、まぁ君と話がしたかっただけの事だよ】
「私と話が?」
【そう、私の目的は今まで此処に来た異星人とほぼ同じ事と思ってくれて構わない】

 つまりは同類と言う事になる。この異星人も侵略者の仲間と言う事だ。

【だが、私は暴力の類が嫌いでねぇ。他の異星人やこの星にいる野蛮な者達の様に何でも力で解決するのは好ましく思わないのだよ】
「それじゃ、この星の代表と話しをすれば良いじゃないですか。何で私なんですか?」
【君がその代表だからだよ】
「!!!」

 その言葉には驚かされた。何を言い出すかと思えば自分が地球の代表として連れて来られたと言うのだから。しかし何故自分なのだろうか?

「地球の代表でしたら。国際平和連合の方々の方が適任なんじゃないんですか?」
【それは君達の星でのことであろう。我々からして見ればそんな者達とは話に値しない】

 メフィラス星人はさも残念そうに首を振った。確かに、彼等異星人からして見れば地球の法律など当てはまらない。それは彼等の話す相手を選ぶ場合も同じ事が言えた。

【私が話しをしたかったのは純粋で清らかな心を持ち、他人の為に動ける者…つまり君の事なのだよ】

 なのはは何処かくすぐったく感じた。例えを言われているのは分かるのだが何故か妙にくすぐったく感じる。他人に褒められるとそんな感じになるのだろうか。まだ幼い故に分からない事も多い。

「それで、何をお話するんですか?」
【単刀直入に申し上げよう。高町なのはちゃん…この私に地球をくれないかね?】




     ***




 アースラに戻ってきた甲児達は信じられない光景を目の当たりにしていた。それは、ウルトラマンが原子力発電所を破壊している光景であった。
 発電所は完全に破壊され、辺りには高密度の放射能で汚染されている。

「一体、何がどうなってるんだ? 何であのウルトラマンが発電所を破壊するんだよ」

 皆は信じられない面持ちでそれを見ていた。特にダンは今までにない緊迫の顔をしている。

「現在、市民の避難は順調ですが、放射能の蔓延スピードが速くて追いつきません。このままでは多数の被害者が出ます!」
「不味い事になったわ。このままじゃ日本全土が放射能に汚染されるのも時間の問題よ」

 そうなれば日本列島は人の住めない死の島となってしまう。それだけは阻止せねばならなかった。

【お困りのようですなぁ】

 そんな時、何処からか声が聞こえた。一同の視線が声のした方を向く。すると、其処から突然姿を現したのは人ならざる姿をした異星人であった。茶色の肌に銀色の顔、十文字開きの唇に窪んだ目をした異星人である。

「てめぇ、一体何者だ? 堂々と殴りこみたぁ中々根性座ってるじゃねぇか!」
【誤解されては困るなぁ。私は君達を助ける為にやってきた言わば、親善大使なのだよ】
「けっ、異星人風情が何言ってやがる! 寝言は寝てから言いやがれ!」

 甲児が吐き捨てるように言い放つ。皆も同じ面持ちであった。異星人を相手に油断は出来ない。今まで出会った異星人の殆どが地球を侵略しに来た異星人ばかりなのだ。その為異星人と聞くとどうも身構えてしまう癖がついたようだ。

【やれやれ、異星人が皆地球を侵略しに来る野蛮な者と思われるのは悲しい事だなぁ】
「君は一体何者なんだ? 何が目的で僕達の前に現れたんだ?」

 本郷が尋ねる。其処は流石に大人なのか大人の対応をしている。それを聞いた異星人は今度は本郷の方を向いて満足気に顔を前後する。

【勿論、この不足の事態を収拾させる為にやってきたのさ。ご存知、ウルトラマンが引き起こした事態にね】
「何!?」

 その言葉に真っ先にダンが反応した。が、その反応を特に気にせずに異星人は続ける。

【君達はウルトラマンについて何を知っている? 何も知るまい。我々ザラブ星人は知っている。ウルトラマンはそれはとても凶悪な宇宙人なのだよ】
「なんですって!」
【ウルトラマンはまず侵略に適した星を見つけると、その星で英雄的行いをする。それで民衆からの信頼を一身に得た後に、侵略を開始すると言う大変狡猾で残忍極まる悪質な宇宙人なのだよ】
「出鱈目だ! そんな筈がない!」

 やはり其処でもダンが反論した。それを聞いたザラブ星人がダンの方を向く。

【君の言い分も分かるが、現実を見たまえ。現にウルトラマンはこうして原子力発電所を破壊したんだ。そのせいで今漏洩した放射能がどんどん広がっている。このままではあの島国は人の住めない地になってしまうのでは?】
「確かにその通りね。貴方はあの事態をどうにか出切ると言うの?」
【我々の力を用いれば放射能を除去する事など容易い事。試しに見せてしんぜよう】

ザラブ星人がそう言う。すると、破壊された原子力発電所の上空を一機の円盤が舞い降りてくる。その円盤から奇妙な色の光線が放たれた。その光線は忽ち漏れ出していた放射能を除去分解していった。やがて10分も経たない内に蔓延しだしていた放射能は綺麗に消え去ってしまった。

【これで信じてくれたかな? 我々の誠意が】
「感謝します。それで、貴方は本当に只の親善大使として来ただけなのですか?」
【勿論、こうして同じ宇宙に住む者同士互いに手を取り合いたくてこうして来たのさ】
「……」

 皆がザラブ星人を信じきっていた中、ダンだけは疑いの眼差しを向けていた。

「そうだ、あんた俺達の仲間を知らないか? 今必死に探してるんだけどさぁ」
【仲間? それは誰なんだい?】


 甲児が身振り手振りで行方不明になったなのはとハヤタの事について話す。すると聞き終えたザラブ星人が納得したように頭を前後する。

【成る程、それも恐らくウルトラマンの仕業だろう。彼は自分の侵略の障害になる者を事前に処理する傾向がある。恐らくその仲間は今頃……】
「ふざけんな! そんな訳ねぇだろう!」
「落ち着け、甲児君!」

 ザラブ星人に掴みかかろうとした甲児を本郷が止める。

【兜甲児君。気持ちは分かるが現実は悲しい物だよ。全てはウルトラマンが招いた結果とした言いようがない。諦めるしかない】
「ち、畜生…」

 悲しい現実を突きつけられた甲児は力なくその場にうなだれた。そんな甲児の肩をザラブ星人がそっと手を乗せる。

【君の無念の気持ちは痛い程良く分かる。もし今後ウルトラマンが現れたら私も一緒に戦おう。君の友達の弔い合戦を手伝いたい】
「あぁ、ウルトラマンの野郎め! よくもなのはやハヤタさんを殺しやがって…今度会ったら怒りの鉄拳を叩き込んでやる!」

 甲児は怒りを露にしてモニターに映っている先ほどのウルトラマンを睨んでいた。今の甲児の中にあるのはウルトラマンんに対する憎しみしかない。
 だが、この時誰も気づかなかった。背後で不気味な笑みを浮かべるザラブ星人に。




     ***




【やはり、その返事をするようだね】
「当然です! いきなり地球を下さいなんて図々し過ぎます!」

 一方、此処はメフィラス星人の円盤の中。其処でなのははメフィラス星人と二人だけで話しをしていた。
 内容は彼に地球を明け渡すと言う事実上降伏宣言にも似た事でもあった。
 そんな事を断じてさせる訳にはいかない。

「地球は私達人類の星です! 絶対に誰にも渡しません!」
【だが、その地球人類がその星を滅ぼすとしたら?】
「え?」
【これを見たまえ】

 メフィラス星人が合図すると、先ほどまで白一色だった空間が変化し、其処は一面宇宙空間となった。そして、目の前にあるのは自分たちが住んでいる母なる星地球であった。だが、その地球は自分が知ってる星とは何処か違う。とても薄汚れているのだ。あちこちで爆発が起こり、砂漠となった箇所が多く、青い海も所々汚れていた。

「こ、これは?」
【君が生まれる丁度100年前の地球だよ】
「こ、これが…100年前の地球」

 それは正に地獄絵図であった。あちこちで人間同士は激しく争い続け、大地は汚れ、生命は続々と死に絶えている。

【地球人と言うのは本当に愚かな種族だよ。同じ種族同士で無駄に殺し合い、母なる星を己の手で汚し続けている。実に嘆かわしい】
「で、でも…今の地球はとても綺麗になってますよ! それに国際平和連合が出来たお陰で世界から戦争はなくなりました!」
【それも、一時の事でしかないのだよ】

 今度は今の地球に姿が変わる。決して綺麗とは言えないがそれでも緑が蘇り青い海が現れている。

【人間とは同じ過ちを繰り返す生き物だ。やがて些細ないさかいが生じ、やがて人はまた争いを起こす。そうなれば、近い将来地球は死の星となるだろう】

 そう言って最後に現れたのは一面荒野となった星であった。それが未来の地球だというのだろうか。緑の大地も、青い海もなくなり、あるのは死の荒野だけとなった悲しい星。それが未来の地球だというのだろうか。

【だが、私は違う。私はこの星を青く美しい星のままに出来る。地球人に任せていては地球の命は後100年もないと私はそう思っている】
「でも……でも、それじゃ人類はどうなるんですか?」
【君以外の人類には興味などない。邪魔するのであれば不本意だが…】

 其処から先の意味は分かった。恐らく人類を全て排除するつもりだ。確かにそうすれば地球は再び元の自然の世界に戻る筈だ。だが、そうなれば地球から人類がいなくなるということになる。なのはの家族も、友達も、知らない人達も、近い将来会うであろう人達も皆この世から消え去ってしまう事になってしまう。

「そんなの…そんなの嫌です! 絶対に嫌だ!」
【君は私の星で永遠に生きられるのだよ。それすらも要らないと言うのかね?】
「要りません! 私一人が生きても辛いだけです!」
【では、地球がこのまま滅びるのを、君は黙って見ていると言うのかね?】
「そ、それは…」

 言葉に詰まってしまった。友達を失うのは嫌だ。だが、地球を失うのも嫌だ。なのはは、とても辛い選択を迫られた。どちらかを選ばねばならない。だが、どちらも失いたくない。

「私は……私は……」

 返答が出来なくなってしまったなのははやがて蹲り頭を抑えて激しく悩みだした。純粋が故にどちらも選べないのだ。それを見て察したメフィラス星人は映像を止め、そっとなのはの肩に手を置いた。

【君は純粋で優しい。が、優しすぎる。それは時に君の判断を鈍らせる要因となる。少々答えを急ぎ過ぎたようだ。部屋を用意しておいたからゆっくり考え給え】

 そう言って指を鳴らすとなのはの姿が忽然と消えてしまった。恐らく転移させたのだろう。残ったのはメフィラス星人只一人となった。

【今度は君とも話さねばならんようだな】

 メフィラスがそう言う。すると部屋の奥からそっと誰かが現れた。それはハヤタであった。ハヤタもまたこの円盤の中に居たのだ。

「メフィラス星人。君の目論見は外れるだろう。地球人は愚かではない」
【それは君の見方による。私から見れば彼女以外の地球人は皆愚かだ】
「違う! 地球人は互いを思いやり支えあえる種族だ! お前の思っている程愚かではない」
【君は理想論過ぎるのだよ。物事はもっと現実を見なければ駄目だ。ハヤタ隊員……嫌、ウルトラマン】




     ***




 用意されていたのは簡素なベットと小さなテーブルと椅子。そして小型のテレビであった。来客用と言うには余りにも、寂しい感じがする。それもそうだ。此処は来客を泊める為の部屋ではない。牢獄に近い場所なのだから。
 そして、そんな部屋の中になのはは居た。彼女は悩んでいた。地球と友達。そのどちらかを選べと言われて返答に困っていたのだ。
 そんな時、目の前にあったテレビが勝手に映りだした。映ったのは先ほど自分が居た部屋の映像だ。其処にはあのメフィラス星人も居る。それだけなら大して気にもならなかった。だが、その後メフィラスの前に現れた人物を見てなのはは映像に釘付けになった。

「ハヤタさん!」

 其処に居たのは紛れもなくハヤタであった。先ほど一緒に国際平和連合の合同演習を見ていたハヤタが今メフィラス星人の前に立っていた。
 すぐに助けなければ―――
 今のハヤタにあの異星人に対抗する手段がない。あのままではハヤタが殺されてしまう。焦りだすなのは。だが、その直後異星人とハヤタが話しを始めた。そして、そのメフィラス星人の口から驚きの言葉が放たれた。

【君は理想論過ぎるのだよ。物事はもっと現実を見なければ駄目だ。ハヤタ隊員……嫌、ウルトラマン】

 一瞬頭の中が空白になった。その後、冷静になった頭で再び先ほどの言葉を繰り返した。何度繰り返しても結果は同じだった。メフィラス星人の言った言葉はそれ程までに衝撃的であったのだ。あのハヤタ隊員がウルトラマンだったなんて。
 衝撃の想いにかられる中、モニターの中で二人の会話は続いた。




「僕が理想論を言っているとでも?」
【その通りだよウルトラマン。人間の歴史を振り返ってみたまえ。愚かな歴史の繰り返しではないか。そしてその度に地球を傷つけてきた。何とも嘆かわしいと思わないかね?】
「確かにその通りだ。だが、人間の過去ばかり見てて結論づけるとは君にしてはいささか軽率過ぎるのではないか?」

 ハヤタの言葉にメフィラスが若干揺らいだ。ハヤタの言い分も確かに正しいからだ。幾ら過去の人間の行いが愚かだったからと言って未来の人類が同じ過ちを繰り返すかどうかは分からない。従って彼の言い分は軽率な言い方だとハヤタは言える。

【だが、同じ過ちが起こってからでは間に合わないのだよ。私はあの美しい地球が死の星になってしまうのを黙って見ている訳にはいかないのだ。私ならこの星を美しいままに出来る】
「地球は人類の物だ。僕や君達が手前勝手にして良い物じゃない」
【君も彼女と同じ事を言う。だが、その人類がかつて犯してきた過ちは拭いきれない代物だ。そして、人間が居る限りその過ちは繰り返される。私の言い分も間違いではないのではないかな?】
「だからと言って、侵略を許すつもりはない! この地球には僕の他にも多くの仲間が居る。彼等が侵略者を許す筈がない!」
【では、その仲間に君の真実を知られたとしたら?】

 その言葉を聞いた時、今度はハヤタが青ざめた。ウルトラマンである事は秘密にしていたのだ。知れば仲間が危険に晒される事になる。その為に今の今まで秘密にしていたのだ。それが、今誰かに知られてしまった。
 メフィラスが合図を送ると二人の間に誰かが現れた。それはなのはであった。彼女がハヤタとメフィラスの前に現れたのだ。

「な、なのはちゃん…」
「ハヤタさん…」

 互いに気不味い空気になった。知ってはいけない事を知ってしまった。その事に対する申し訳なさがなのはの中にあったのだ。
 また、それはハヤタも同じであった。誰にも何も言わずずっと秘密にし続けていた事。互いに後ろめたさがあったのか互いに視線を合わせ辛くなった。
 そんな時、円盤全体にけたたましい警報が鳴り響いた。それになのはとハヤタは勿論、メフィラス星人ですら驚いていた。

【一体何事だ?】

 折角の場面を邪魔されたかの様な面持ちでメフィラス星人はコンソールを操作する。目の前に巨大なモニターが映りだし、其処に映ったのはウルトラマンが町を破壊する光景があった。

「ウ、ウルトラマンが!? でも、何で?」

 なのはは仕切りに映像の向こうに居るウルトラマンとハヤタを交互に見ていた。ウルトラマンの正体がハヤタだと言う事は先ほど知った筈だ。では、今目の前のモニターの奥で暴れているウルトラマンは一体何者なのか?

【フッ、ザラブ星人らしい狡猾な戦法だな。今や地球の英雄的存在であるウルトラマンになりすまして暴れまわるとは】

 驚くなのはとハヤタの横でメフィラス星人がせせら笑っていた。彼は目の前に居るウルトラマンを知っているようだ。

【やれやれ、無粋な輩が現れたようだな。どうするかね? ウルトラマン。君としてはあんな不届きな偽者を放ってはおけないのではないかね?】

 メフィラス星人が意地の悪そうな笑みを浮かべながらハヤタ隊員を見る。本来なら今すぐにでも現場に行って偽のウルトラマンを倒したい。だが、此処はメフィラス星人の円盤内である。
 妙な動きをすれば何かされるのは目に見えていた。

【行きたければ行くが良い】
「何!?」
【この奥の通路を行けば外に出られる。すぐに行って懲らしめて来たまえ】
「何故、わざわざ逃がそうとする?」

 ハヤタは疑問に感じた。彼からして見れば折角捕らえた敵をわざわざ逃がす行為に他ならない。普通なら考えられない事でもあった。それに対してメフィラス星人の答えは明白であった。

【簡単な事だよ。彼がこのまま暴れ続けていたらあの青く美しい星が荒れ果てた星になってしまう。私としてはそれは我慢出来ないのだよ】
「要するに君が侵略する地球を守れと言いたいのか?」
【好きに取りたまえ。それよりどうするんだい? このまま地球が滅ぼされるのを黙ってみてるつもりかい?】

 ハヤタは答えなかった。今あの通路を行けば外に出られる。そして今町で暴れているウルトラマンに闘いを挑みに行ける。
 だが、其処でハヤタはハッとした。なのははどうする?

「彼女も逃がしてくれるのか?」
【それは出来ない。彼女からはまだ答えを聞いてないのでね】

 ハヤタの願いはアッサリと否定された。それを聞いたハヤタは動けなかった。外の偽のウルトラマンは放ってはおけない。だが、なのはを敵の下に置いておくことも出来ない。辛い選択を迫られた。
 そんな時、なのはがそっとハヤタの服の裾を掴んだ。

「ハヤタさん、行って下さい。私なら大丈夫です」
「なのはちゃん…」

 彼女の覚悟は相当な物だった。今の自分が置かれている状況より外の身を案じているのだ。普通ではこんな事を言える筈がない。

「分かった。必ず迎えに行く。それまで待っててくれ」
「うん!」

 ハヤタの言葉になのはは強く頷く。それからハヤタは視線をなのはからメフィラス星人に移す。

「メフィラス、僕は戦いを選ぶ。だが、もし彼女に傷一つでも付けた時は…その時は僕と彼が命がけで君に挑む」
【肝に銘じておこう。早く行きたまえ】

 ハヤタは頷き、一人部屋を後にした。残ったのはなのはとメフィラス星人だけだ。

【さて、また二人だけになったねぇ…では答えを聞かせて貰おう】
「答えは変わりません。地球は私達人類の物です。貴方が地球を思っている事は理解しました。でも、それでも貴方に地球は渡せません」

 なのはの答えは依然として変わらなかった。地球は渡さない。それだけであった。
 だが、それを聞かされてもメフィラスが別に怒るような素振りは見せなかった。寧ろ納得したかの様に頷いていた。

【成る程、君は地球の未来より友を選んだ…と、言う事なのだね?】
「いいえ、違います」
【なに?】
「私はまだ子供です。ですから難しい事は分かりません。だから、私は地球の未来と友達、その両方を選んだんです」
【……】

 メフィラスは黙った。流石にそんな答えは予想していなかったのだ。正しく度肝を抜かれた想いであった。

【全く、君には驚かされたよ。まさか両方を選ぶとは…だが、そんな事が出来ると本気で思っているのかい?】
「はい、出来ます! 私はそう思ってますから」
【大層な自信だ。その言葉を他の者が言った所でハッタリだと思えるが、君が言うと何故か本当に思えてしまう】

 そうメフィラスが言った。その直後、モニターの奥ではもう一人のウルトラマンが姿を現せた。




     ***




 現場では騒然としていた。突然ウルトラマンが二人現れたのだから。それにはアースラ隊も困惑していた。

「ど、どうなってんだ? ウルトラマンが二人居る?」

 甲児は困惑していた。ウルトラマンが出たと聞いたので怒りを胸に出撃したは良かったが、出てみたらウルトラマンが二人居るのだ。二人のウルトラマンが互いに睨みあい構えていた。

「甲児君、此処は我々は手を出さない方が良い」
「どうしてだよリョウ君!」
「相手はウルトラマンだ。下手に挑んで無事で居られる保障がない。それに、ウルトラマンの相手はウルトラマンがすべきだ」

 竜馬の言う事は最もだった。偽者に勝てる者は本物しかいない。となれば此処はウルトラマンに任せる方が吉とも言える。
 そんな彼等の前で二人のウルトラマンは激しい戦いを始めた。双方激しい打撃戦に入った。拳には拳を、蹴りには蹴りをと言った応酬が繰り返される。
 だが、そんな中で徐々に鍍金(メッキ)が剥がれてくるのが居た。先ほど町で暴れていたウルトラマンだ。徐々に後から現れたウルトラマンに押されていく形となっていく。
 最後にはウルトラマンに対し背を向けて逃げ出そうとしだした。しかしそんな不届き者を逃がす筈もなく、背中に向かいウルトラマンの容赦ないスペシウム光線が放たれた。
 それを食らい地面に倒れるウルトラマン。だが、その姿が徐々に変わっていく。最終的には其処に倒れていたのは先ほどアースラに現れたザラブ星人であった。

「あの野郎! あの時の言葉は出鱈目だったってのか!」
「成る程な。どうやら狡猾で卑怯だったのは奴だったって事か」

 甲児は騙された自分と騙したザラブ星人に対して怒りを露にし、隼人はニヒルに笑みを浮かべていた。
 そんなザラブ星人に向かいウルトラマンが近づいてきた。

【な、何故だ…貴様はメフィラスが監禁していた筈。何故出てこれた?】
【彼が逃がしてくれたんだ。これ以上貴様に青い星を傷つけられるのは嫌だと言ってな…】
【おのれ…裏切ったな…メフィラス…】

 最後にそう言い残してザラブ星人は息絶えた。そして、その巨体は風に揺られ粉となりその姿を消した。
 闘いはウルトラマンの勝利に終わった。ほっと安堵する一同。だが、その時ウルトラマンの背後に突如として巨大化したメフィラスが現れた。

「な、また宇宙人だと!」

 振り返ったウルトラマンは直ちに構えた。

【待て、ウルトラマン】

 だが、それに対しメフィラスは手を翳して止めた。その様に疑問を感じたウルトラマンは拳を下げた。

【ザラブ星人をけしかけたのは貴様だったのか? メフィラス】
【その通りだ。本来なら人間と貴様等の信頼を壊す事が目的だった。だが、奴はやり過ぎた。その為君に粛清を頼んだと言う所だ】
【彼女は無事か?】
【案ずるな】

 顔を前後に揺らしながらメフィラスが笑う。そしてそっと手の平を見せる。すると其処に光が集まりやがて一つの形をなした。
 なのはだった。メフィラスの手の上になのはが現れたのだ。なのはは振り返りメフィラスを見る。

「どうして、逃がしてくれるんですか?」
【最初に言ったと思うが、私はただ君と話がしたかっただけだ。確かに侵略の為にこの星に来たが、私は暴力が嫌いだ。其処で君を招きいれ地球を手に入れようとした。だが、私が思っていたより地球人の絆は深いようだ】

 メフィラスが静かにかぶりを振った。彼の予想に反し地球人は愚かではなかった。そう決定付けたのだ。その結果が彼女、高町なのはなのであろう。
 ウルトラマンがゆっくりとメフィラスの前に歩み寄る。互いに距離からして拳の届く範囲内である。

【話は終わった。受け取りたまえ】

メフィラスがそっとなのはを乗せた手を差し出す。ウルトラマンもまた手を差し出し、なのはを受け取る。そして、そっと彼女を地面に降ろした。

【今回は私の負けだ。素直に引き下がるとしよう】
【侵略を諦めたんだな?】
【いいや、私はまだ諦めてはいない。何時の日か必ずこの青い星を手に入れてみせる。そして、彼女の心も必ず手に入れてみせる】
【何!?】
【フッフッフッ、それまでせいぜい平和の為に頑張ってくれたまえ。私が手に入れるその時まで……な】

 その言葉を最後にメフィラス星人は姿を消した。今度こそ敵は居なくなった。
 それを確認したウルトラマンは空へと飛び去っていった。人々の心から悪のウルトラマン疑惑は消え去った。再びウルトラマンは正義のヒーローとなったのだ。




     ***




 地上に戻ってこれたなのははあの時のメフィラスの会話の一部始終を聞いていた。

「地球と彼女の心を手に入れる…また、あの人が来るって事なのかなぁ?」
「そうだと思うよ。奴は地球を手に入れる事を諦めたわけじゃないからね」
「ハヤタさん!」

 振り返れば其処にはハヤタが居た。何時もの優しい笑顔をこちらに向けている。どうやら無事だったようだ。
 だが、

「あの、ハヤタさん…」
「なのはちゃん、すまないが僕がウルトラマンだと言う事は皆に秘密にしていてくれないかい? 悪い事だとは分かっているけど」
「……分かりました。私とハヤタさんだけの秘密ですね?」
「そう、分かってくれて嬉しいよ」

 そう言ってなのはの頭を優しく撫でた。それを受けたなのはが嬉しそうに微笑む。すると其処へアースラ隊の仲間達が駆けつけて来た。
 皆なのはとハヤタを心配して来たのだ。特に甲児などは号泣しながら走ってきている。余程心配していたのだろう。

「帰ろう。なのはちゃん」
「はい、ハヤタさん」

 互いに頷き、二人は仲間の元へと帰って行った。
 恐らく、近いうちにメフィラス星人はまた訪れるだろう。だが、何度来てもなのはの答えは変わらない。
 そう、地球は絶対に渡さない。そして、友達も失わない。それが、なのはの答えであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

来るべき闘いに備えてマジンガーZの強化計画が立案された。
だが、その直後世界各国の科学者を乗せた乗り物が突如として謎の襲撃を受ける。
そして、国際平和連合前に現れたのは凶悪な宇宙人が生み出した悪のスーパーロボットであった。

次回「スーパーロボット対決!マジンガーZ 対 キングジョー」

お楽しみに 
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