ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ
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白き極光編
第1章
ザ・シーフ・アンド・ジェネラル
コルツ山を強行突破したコールドホワイトは、ロックとソルヴェントをサウスフィガロ近郊に降ろし、自身は付近の帝国軍へ散発的な攻撃を開始した。
その騒ぎに乗じ、ロック達は帝国の占領下に置かれたサウスフィガロへの潜入に成功していた。
「おう、なんの騒ぎだ」
1人の帝国兵が、街の外が慌ただしい事に気付き、入口で見張りをしている仲間に声を掛けた。
「ニンジャが暴れてるそうだぜ。フィガロ王国配下のニンジャらしい」
「フィガロぉ? ああ、そういやフィガロ城は砂漠に潜ったままなんだったか」
「そうなんだよな。手が出しにくいったらねぇや。でもまぁ、その為にもうすぐアレが届く予定だ」
世間話をする帝国兵達へ、商人が1人近付く。
「どうも、お役目ご苦労様です。ポーションでもいかがです? お安くしときますよ」
が、押し売りと見られたか帝国兵は虫でも追い払うように手を振る。
「あー? いらんいらん、店ん中で大人しくしてろ。シッシッ」
「へぇ、すんません」
商人はそそくさとその場を後にして路地裏へと入った。
「…ちっ、やっぱそう上手くは行かないか」
目深に被っていた帽子を親指で持ち上げたロックが舌打ちする。
彼の隣の石畳が液状化して盛り上がり、そこからソルヴェントが現れる。
通常、ドトン・ジツはその名の通りに土の中に潜るジツだが、彼の使用するそれは固い地盤、果ては石にすら潜行可能な強化ドトンなのだ。
自身の肉体の触れている範囲に限定されるが、液状化させて潜り込み、離れればまた元の地面に戻って痕跡を残さない、まさに潜入任務にうってつけのジツだ。
「ロック=サン、こっちは収穫ありだ。魔導アーマーの予備部品を保管した倉庫の扉を、内側から塗り固めてやった。しばらくはアーマーの整備も修理も滞るはずだ」
「ナイスだソルヴェント。入ろうにも魔導レーザーなんかブチ込めば誘爆する。奴らも手作業で地道に扉を壊すしか無いだろうな」
2人は手の甲を軽くぶつけ合う。
ソルヴェントは少なくとも外見上はロックと年の頃は大差無い。
性格的にも馬が合うので、早くも悪友とでも言った間柄となっている。
「こっちはあいつらに睡眠薬入りのポーション飲ませて変装用の服でもブン取ろうと思ったんだけど、なかなか警戒心が強くってな…」
「お、それなら良い感じにチョロそうな奴を見たぞ。注意力散漫で、後ろをモータルの子供が駆け抜けても気付きゃしない。ありゃ多分正規兵じゃないな。他の帝国兵にペコペコしてたし、臨時徴用の下級兵士じゃないかな」
ソルヴェントはサウスフィガロの地図に印を付ける。
彼は既に至る所へ潜行と浮上を繰り返して偵察し、街の警備体制を把握しているのだ。
ソルヴェントの情報を頼りに、ロックは勝手知ったるサウスフィガロとばかりに路地裏を抜け、時には商人のふりをして民家の抜け道を使わせてもらい、ようやく件の兵士を発見した。
「…なるほど。目に見えてアホだなアレ」
「な?」
通常の帝国兵と異なる黄緑色の鎧を纏った兵士は、自分の見回り担当場所らしきルートをダラダラと歩いていたかと思えば、他の兵士が近くにいない事を確認すると、近くのベンチに寝っ転がって雑誌を読み始めたりしている。
誰がどう見ても正規の訓練と教育を受けた、規律正しい兵士のそれではない。
「よし、ちょっと行って来る」
ロックは改めて商人に扮して歩き出した。
「旦那、旦那」
「うおぉっ!? す、すみません! 持ち場に…あ? なな、なんだお前!?」
突然声を掛けられた兵士はベンチから転げ落ちるように頭を下げたが、相手がただの商人だったと分かると、情緒不安定なレベルで高圧的になる。
「き、気安く話し掛けるな! 俺は天下のガストラ帝国の兵士だぞ!」
「…よくも下っ端兵士でこんなに威張れるもんだ…」
ロックは相手に気付かれない小声でごちると、構わず言葉を続けた。
「すいやせん、ただぁ、旦那がお疲れのようだったんで…お役目が大変なんだろうと、疲労回復ポーションの差し入れを、と…」
「ほ、ほほー、自分の立場が分かってるじゃないか。よしよし、そういう殊勝な態度の奴は悪いようにはしないぞ。へへ、儲け儲け…入って良かったぜ帝国軍」
ロックの差し出したポーションの瓶をひったくるように受け取ると、兵士はその場で飲み干した。
そして当然、即効性のある睡眠薬入りなのでその場に崩れ落ちてイビキをかき始めた。
「おいおい…さすがに警戒心無さ過ぎて心配になるぜ…」
「上手く行ったな、ロック=サン」
2人は爆睡する兵士を担ぐと物陰に運び、服を剥いだ後は縛って木箱に押し込んだ。
「俺にはちょっと大きいけど…ま、良いか」
かくしてロックは無事に帝国兵に化ける事に成功。
下っ端らしいのであまり行動の自由度は無さそうだが、民間人や商人に比べれば怪しまれにくいだろう。
「ロック=サン、ここに警備網の穴があって、こっからなら街を出られそうだ。ただ、どうやらこの家の地下にでも抜け穴があるみたいで、他からは辿り着そうな道が見当たらないんだ」
ソルヴェントのジツは基本的に自分だけしか潜行出来ない為、ロックが街を脱出する場合は各自で脱出路を確保する必要がある。
「OK。…ここは確か街一番の富豪の家だな。防犯の為に非常通路でも作ったのかな?」
家主には悪いが、この帝国兵の横柄さであれば家に押し入ったとて咎められはしないだろう。
「待機状態だった何機かの魔導アーマーの配線を切って動けなくしたし、ニケア経由でリターナーが海路遮断に動いたってデマも流した。ソルヴェントがアーマーの予備部品を当面使えなくしたし」
「へへ、ついでに連中が船で運び込んだ食糧にちょちょっと下剤を混ぜてやったよ。無作為にな」
「…そいつはまた悪辣だなおい…まぁ、焼き払ったりしたら街の人達から食糧を徴発とかするかもしれないからな。そのくらいのが良いか」
ロックは運悪く“当たり”を引いてしまった兵士の姿を想像して心の中で合掌した。
「ともあれ妨害工作はこんなとこで良いだろ。そんじゃ後で合流しよう」
「よし来た! シマッテコーゼ!」
サムズアップしたソルヴェントが地面へと沈んで行った。
それを見届けたロックは、出来得る限りの威圧的な態度を取って富豪の家に入った。
「あー、突然だが見回りをさせてもらうぞ。リターナーのスパイが街に潜り込んでいるらしいんでな」
「えぇ!? は、はい…で、でもそんなのいても私は無関係ですよ!」
家主である小太りの金持ちは額に汗を浮かべながらしどろもどろ。
「そ、それに地下にはまだお宅のお仲間もいますし…」
「(地下に仲間…帝国兵?)うむ、そうか」
ロックはズカズカと家の中に入り、どこかからか吹いて来る隙間風を感じ取ると、そちらへ向けて歩を進めた。
「(ここか…)」
部屋の入口から死角になっている、壁と本棚の間に地下への階段を見つけたロックは、家人の目を意識して不遜な態度を崩さずに降りていく。
地下は想像よりも広く、通路もかなり奥まで続いている。
これを進んで行けば、ソルヴェントの示した脱出地点に辿り着くであろう。
「…?」
その時、通路脇の1室から殴打音と鎖の揺れる音が聞こえた。
ロックが窓から覗き込むと、帝国兵が2人。
1人は椅子に腰掛け、もう1人は拳を打ち合わせながら何か喋っている。
「裏切り者はこうなるんだ!」
その拳が向かったのは…女性だ。女性の顔だ。
壁から突き出た杭に繋がれた鎖で両腕を拘束された女性は、殴られた頬を赤く染めてなお兵士を睨み付ける。
正面から見ると、女性とは言っても20には届いていない、少女と呼んでも差し支えない顔立ちだ。
金のロングヘアーに碧眼、緑色のレオタードの上に純白のマントを両肩の金具で留めている。
頭には青いヘアバンドが見えた。
「(あれは…確か帝国の将軍…名前はセリス将軍だったはず…なんでこんな所に…?)」
ロックは帝国に関して様々な調査を行い、幹部クラスの多くは把握している。
その中の1人として彼女の事も記憶していたのである。
「ふんっ、常勝将軍とも呼ばれたセリス様も落ちぶれたもんだ。帝国の正義を信じきれない半端者め!」
兵士は彼女を嘲笑いながら、テーブルの上に置いていた水を飲んだ。
セリスは殴られた時に口を切ったのか、血を吐き出す。
「…落ちぶれた、か。力無き者を虫のように無慈悲に踏み潰す、お前達ほどとは思わないな…ぐっ…!」
気丈な態度を曲げず、逆に嘲笑するような彼女を、何度目か分からぬ拳が襲う。
「…っ…! 聞いているぞ…ケフカはドマ王国に毒を使うつもりらしいじゃないか。はっ、そんな殺戮を是とするとは、大した正義だな!」
「だ、黙れ!!」
動揺した兵士の拳が鳩尾に突き刺さった。
「かっ…は………」
セリスはか細い呻き声の後、項垂れて動かなくなった。
「…気絶したか。明日には処刑を待つ身だ、ぐっすり寝とくが良いさ。おい、逃げられやしないだろうが、しっかり見張れよ」
「ハッ、不眠不休で見張ります!」
腰掛けていた兵士の敬礼で見送られ、上官らしき兵士は部屋を後にした。
「…危なかった」
天井の梁にしがみ付いていたロックは、兵士が階段を昇って行くのを確認して床へ降りる。
ゆっくりと扉を開けて再び中を覗くと、残っていた兵士は椅子に座ったままうつらうつらと船を漕いでいた。
ロックは素早く部屋に入り込むと、兵士が起きないよう忍び足でセリスに近付き、トレジャーハンターとして鍛えた鍵開け技術を駆使して手際良く鎖を外した。
そのまま倒れそうになったセリスの肩を支えると、彼女が目を覚ました。
「…お前、は…? …処刑が早まったか…?」
「ん? …ああ、そうか。こりゃ失礼」
ロックは自分が兵士の格好をしている事に気付き、セリスを壁へもたれさせてから変装を解いた。
「俺はロック・コール。リターナーのメンバーさ」
「リターナー…? …そうか…私は…セリス。セリス・シェール」
「常勝将軍がなんだって囚われの身に?」
ロックの問いに、セリスは俯いた。
「………」
「…まぁ良いさ。とにかく脱出するぞ」
差し伸べられたロックの手を見たセリスは、一瞬事態を飲み込めていなかったらしく、しばし掌を凝視して視線をロックの顔へ移した。
「…私を連れてか? …無理だ。私は走れない」
セリスは自分の脚へと目を向けた。
刃物で切られた痛々しい傷跡が残っている。
「だったら担いででも連れて行く。俺は真っ当な人間じゃないが、これから殺されると分かってる奴を放置してくほど腐ってはいないつもりだ」
迷いも躊躇も一切宿らぬロックの瞳に、彼が譲るつもりが無い事を察したセリスは呆れたような溜め息を吐いて身を起こした。
「帝国の将軍がリターナーに助けられるとは」
「元将軍だろ。行こう」
「待て。その兵士は見張りだ。何か逃走に役立つ物を持っているかも」
セリスの制止と提案を受けたロックは、呼吸も最小限に抑えて慎重に兵士の服のポケットなどを探る。
「…? なんだこりゃ…ネジ…? この形は時計用か?」
「時計のネジ…そういえば、兵士達とこの家の家主が、時計だの隠し通路だのと話していたけど…」
わざわざこんな物をポケットに忍ばせていたのだ。何か意味があるのだろう。
ありがたくいただいておく事にする。
「…カレーライスが食べたい!!」
「!!!」
離れようとした瞬間、居眠りしていた兵士が大声を出し、ロックとセリスは身構える。
「…むにゃ…ハヤシライスも…」
が、傾いて目深に被る形になっていたヘルメットを直す事も無く、彼は再び寝息を立て始めた。
「…っふう…さっさと出よう。さっきの奴が戻って来るかもしれない」
扉を開け、左右の通路を確認したロックが、セリスを手招きして先を進む。
道中、乱雑に置かれた木箱が幾つかあったが、その上にミスリルソードが寝かされていたので、丸腰のセリスが拝借する事にした。
降りて来た階段と逆の方向へ通路を歩いて行くと、古ぼけた大時計が置かれており、その針は止まっていた。
ピンと来たロックが、時計を開いてネジをセットする。
すると、針は異様な速さで回り始め、ピッタリ12時で止まった。
直後、通路の袋小路と思われた壁が横へスライド、さらなる道が顔を覗かせた。
「近い。外の匂いだ」
ロックが先導して進む事10分。上へ向かう階段と、その先に扉が見えた。
ここもまた慎重に開き、隙間から外の様子を窺うと、確かにソルヴェントが地図に印を付けた場所らしい。
「オイオイ、ロック=サン。まさかの女連れとは驚きだぜ」
どこからか聞こえた声にセリスが剣を抜きかけたが、ロックが手で制した。
「味方だ」
地面が隆起したのはロック達の真正面だ。
「ドーモ、ソルヴェントです。まったく、イヤに時間が掛かってるなと思ったら、スミに置けないなロック=サン、ウィーピピー!」
「そういうんじゃない。こっちは元帝国将軍のセリスだ」
茶化すソルヴェントに真っ向から否定したロックがセリスを紹介する。
「ワケありか。ま、とりあえず街を出ようぜ、こっちだ」
おおよそは察したソルヴェントが道案内を買って出た。
なるほど、あの抜け道以外にここまでは来れないからか、見張りは殆どいない。
と、思っていたら、突然ソルヴェントが2人を制止した。
「どうした?」
「誰かいる…多分、ニンジャだ。なんとなく分かる」
樽の陰から覗くソルヴェントに、ロックとセリスも倣った。
その視界の先にいたのは、身長3mにも届かんばかりの巨漢。
頭は短く刈り込んだボンズヘアー(坊主頭)で、顔の下半分は無骨な金属メンポで覆われている。
「! あれはアースクエイク…!」
「アースクエイク=サンだと!?」
セリスとソルヴェントが同時に驚愕の声を上げた。
蚊帳の外なのはロックのみ。
「2人とも知ってるのか?」
ロックの問いにまず答えたのはソルヴェント。
「俺のいたザイバツの敵対組織はソウカイヤってんだけど…そこの幹部ニンジャがソウカイ・シックスゲイツ。中でも首領ラオモト・カンの信任厚い精鋭が『シックスゲイツの六人』。あのアースクエイク=サンは、『六人』でも一二を争う手練れらしい」
ソルヴェントは、ザイバツ在籍時に受けたインストラクションを思い出しながら続ける。
「ビッグ・ニンジャクラン特有の巨体から繰り出される尋常じゃない怪力と耐久力、そして何より恐ろしいのが、そこに高い知性と冷静沈着さが加わっているとこだ。俺達ニュービーニンジャなんかどう足掻いても勝ち目が無いから、運悪く遭遇したら死ぬ気で逃げろと教えられたよ」
「そんなにか」
「そんなにだ」
驚くロックと頷くソルヴェントの次に口を開いたのはセリスだ。
「その評に偽りは無いと思う。あのニンジャが帝国に協力するようになってから、アルブルグ侵攻の指揮官になるまでそう時間は掛からなかった。このサウスフィガロへの攻撃に際しても、レオ将軍と共に計画を詰めたのがあのアースクエイクらしい。しかしまさか直接ここに来ていたとは…」
3人は、アースクエイクとこの場で戦うのは得策でないという結論を導き出し、兵士と交わしている言葉を聞き取ろうと耳をすませた。
「馬鹿め、そのニンジャの動きは明らかに陽動だ。下手に追わず、ヘビーアーマー数機を前面に出して守りを固めろ。あれの装甲はニンジャのスリケンとて容易には抜けん」
アースクエイクは報告に来た兵士に指示を飛ばしている。
内容は街の外でゲリラ戦を展開しているコールドホワイトへの対処だ。
「接近して来たら魔導レーザーで牽制し追い払え。深追いはするな、近付けぬだけで良い。同様にコルツ山の入口にもヘビーアーマーを配置し、同じ指示を出せ」
目的はリターナー本部の捜索、そして制圧だ。
ニンジャ1人の対応に右往左往する暇など無いのである。
「コルツ山で鉢合わせた兵の報告によれば、奴のモービルには同乗者が2人いたそうだな。ここに潜り込んでいる可能性がある。巡回は最低でもスリーマンセルで行い、警戒を厳とせよ」
矢継ぎ早に出される命令を復唱した兵士が走り去ると、別の兵士が慌てた様子で駆け寄って来た。
「ア、アースクエイク殿! 問題発生!」
「落ち着け。報告は要点を述べねば意味があるまい」
「は、はい! 今朝方搬入されたディッグアーマーを、何者かが持ち出しました!」
その報告に、アースクエイクの眉が僅かに動いた。
「…持ち出した者の目星は?」
「5分ほど前、点検を終えた整備兵が側を離れる際、ブラム曹長が部下1人と共に様子を見に来るのとすれ違ったとの事! 入口を警備していた兵が、大通りを抜けて街の外へ出るディッグアーマーを目撃したのはその直後なので間違いないかと…」
「ブラム=サン…セリス=サンの拘束を命じていた男だな。…おい、大至急、地下室を確認しろ!」
ロック達は顔を見合わせた。既に脱走がバレたのだ。
「…いません! ブラム曹長も、セリス元将軍も!」
「ディッグアーマーの向かった先は」
「外へ出てすぐに地中へ潜行してしまったのですが…その際の機体の向きから西ではないかと…」
アースクエイクは近くの木箱へ拳を打ち付けて粉砕する。
「奴め…! 西はフィガロ城の潜伏する砂漠だ。独断でフィガロを落とし、その功績でセリス=サン脱走の失態を有耶無耶にするつもりだ!」
「ど、どうしますか…?」
未だ怒り冷めやらぬアースクエイクだが、彼は激情に駆られて判断を誤るニンジャではない。
「…今は放置せよ。どのみち潜行していては手が出せん。ディッグアーマー単機でフィガロを落とせるなら良し。戻ってから処遇を考えても遅くはない。今はそれよりもリターナーだ」
アースクエイクは自身の左側に立つ悪魔めいた石像を一瞥した。
「ガーゴイル=サン」
すると、石像の目蓋が開かれ、瞳に赤い光が灯る。
石めいて灰色だった身体は、見る見る内に彼本来の色に染まった。
全身を覆うカメレオン式ステルスニンジャ装束は、その色を濃緑色に固定した。
「スクラピュラスエミッサリー=サンが戻らん。定時連絡も無い」
ガーゴイルと呼ばれたニンジャが報告した。
「手柄欲しさに独断専行でもしてしくじったか? フゥ…ガーゴイル=サン、頼めるか」
「任されよう。…再び共にイクサの場に立てて光栄だ、アースクエイク=サン」
ガーゴイルの言葉を受けたアースクエイクは、メンポで口元は窺い知れぬが、纏うアトモスフィアが軟化したように見受けられる。
「俺もだガーゴイル=サン。シックスゲイツ随一の斥候ニンジャに今一度頼らせてもらう」
「フッ…イヤーッ!!」
ガーゴイルは家々の壁を蹴って屋根へ上ると、さらに大きく跳躍し、背中に装備した凧ウイングを空中で展開。
吹き寄せる風をコントロールして滑空し、コルツ山方面へと急行した。
ロック達の姿は既にそこには無かった。
ディッグアーマーの話題が出た辺りで、警備が厳重になる事を危惧してさっさと街を出たのだ。
目指すはサウスフィガロの洞窟、そしてその先のエドガーらとの合流ポイントであるナルシェ。
思わぬ所で得た思わぬ協力者は、リターナーに如何なる益をもたらすのであろうか。
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