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ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ

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白き極光編
第1章
  フラッグ・オブ・ストラグル

 コルツ山を下山した一向は平原を進む。
 幸いにしてまだ日は高い。サウスフィガロへ向かった時のような無茶をする必要は無いのだ。

「ツェン、アルブルグ、そしてマランダ。ガストラ帝国の武力侵攻で多くの国がその支配下に入った」

 道すがら、ロックが帝国とリターナーの情勢に関する話を始めた。

「ツェンとアルブルグへの電撃的な侵攻と占領を見て取ったマランダは、リターナーに接触を図ったけど…如何せん地理が悪かったんだ。何しろ帝国と地続きだったからな」

 印を付けた世界地図に、コールドホワイトは目を落とす。

「港町であるアルブルグを手に入れた帝国は、陸海両面から軍を展開して一気にマランダを落とした。残っている反帝国勢力は、フィガロ、ドマ、ニケアくらいさ」

「あとはナルシェのご老人達を説得さえ出来れば…だが、まだ交渉材料が足りない…」

 エドガーもロック同様に難しい顔をして地図を眺めている。

「1度帝国からの攻撃を受けてはいるが、彼らはまだ自分達の立場に驕っている。ナルシェは世界有数の鉱物資源の産出国だからな。帝国も無茶な攻撃はしないはずと思っているんだ」

「それもあのケフカって奴が指揮官になったら、どうなるか分かったもんじゃない。いきなり城に放火するような奴だからな。後先考えずに街を破壊し尽くすかもしれない」

 ロックはケフカの他者を嘲笑い見下す嫌味な顔を思い出してウンザリした表情。

「…まぁ、それを差し引いても魔導エネルギーを主軸にしつつある帝国がどこまで配慮してくれるか怪しいものだが…」

 当然、城に火を掛けられた当人であるエドガーも同じ表情である。

「ならばそのドマだのニケアだのが健在な内に帝国を討たねばなるまい。この配置は相手に多正面作戦を強いる事が出来る一方、距離が離れていて連携し辛いが為に各個撃破の恐れもある」

「ああ。フィガロが正式にリターナーと組んだ今、大きく動く時だ」

 ニケアの海上輸送能力とナルシェの資源をバックに、精強なサムライを擁するドマと発達した機械兵器を扱うフィガロ。
 そこに各地へ潜伏するリターナーの戦力を合流させるのだ。
 さらに帝国本土への攻撃に成功すれば、今は従っているマランダなどの帝国に滅ぼされた国々の敗残兵も、反旗を翻すかもしれない。

「そのプランを今から詰めようってわけさ。ニンジャも協力者に加わった事を知れば、バナン様も喜ぶだろうさ」

 5人が話しながら歩みを進める先は、コルツ山も含めたサーベル山脈と呼ばれる縦長の山脈、その北東部分である。
 山脈を外縁とした内側に僅かな平原地帯が存在しており、基本的にはコルツ山の山道を経由してのみ進入出来る、天然の要害と言えるエリアである。
 リターナー本部はそのエリア最奥部の洞窟を利用して築かれている。

「あそこだ」

 ロックの指差した先に山脈の内側に食い込むように窪んだ部分があり、目立たないが人工的に補強された洞窟の入口が見えた。



「おぉ、ロック! そちらはフィガロ王ですな? バナン様がお待ちです!」

 待ちわびたと言わんばかりの勢いで見張りのリターナー兵が内部へ招き入れる。
 リターナー兵は一様にゴーグル付きの茶色いヘルメットを被り、黒シャツの上に青いベストを羽織っている。
 案内された先に、その男はいた。
 ライオンの鬣を彷彿とさせる髪と、胸まで覆う程の立派な髭を蓄えたこの男こそ、リターナーの指導者、バナンであった。
 緑を基調とした神官服に薄茶色のマントを靡かせる威風堂々たる姿は、確かに指導者としての威厳を感じさせるものがある。

「よくぞ参られたフィガロ王。…そちらは?」

「ドーモ、バナン=サン、はじめまして。コールドホワイトです」

 コールドホワイトは両の掌を合わせてオジギした。

「これはご丁寧に…なるほど。貴公、ニンジャか。…そして、その少女が…」

 コールドホワイトに頭を下げたバナンは、次いでティナへ目を向けた。
 見定めるかのような気迫の宿る瞳に、ティナは一瞬気圧された。

「ティ、ティナです…」

「ふむ…氷漬けの幻獣と反応したと聞くが…」

 バナンの視線は鋭いまま。
 まるで視線その物を刃物として、そのまま突き刺さんとするばかりだ。
 無意識に1歩下がったティナを見かね、エドガーが間に割り込んだ。

「バナン様、彼女は帝国に操られて…」

「おおよそ聞いておる。僅か3分で帝国兵50人を皆殺しにしたという」

 その言葉を聞いた瞬間、操られている間に視覚が捉え、脳に保存されていた光景がフラッシュバックした。
 辺り一面の焼け野原、全身を炎に包まれて悶え苦しみ、のたうち回り、そして息絶えていく人間の姿。

「いやぁぁぁーーーっっっ!!」

 ティナは頭を抱えてその場にへたり込む。

「バナン様! そのような事を言わずとも!」

 ガタガタと震えるティナの肩をロックが抱き、エドガーはバナンに苦言を呈した。

「逃げるな、ティナよ! …こんな話を知っておるか?」

 エドガーの声をかき消すような一喝の後、バナンはティナへ歩み寄ってその隣にしゃがみ込んだ。

「…人々の中に邪悪な心が存在しない時代…そんな時、決して開けてはならぬとされた箱があった。だが、1人の男がその箱を開けてしまったのだ」

 立ち上がったバナンは、部屋の中をゆっくりと歩き回りながら言葉を続ける。

「嫉妬、妬み、独占、破壊、支配…ありとあらゆる邪悪な心が飛び出し…それ以来人々の心には邪心が巣くった。しかし…しかしじゃ」

 再びティナへ近付くと、右肩に手を置いた。

「全ての邪悪が飛び出した後の箱の奥には…まだ希望という1粒の光が残っていたのだ。よいか、ティナよ」

 ロックに支えられ立ち上がったティナの目を、バナンは真っ直ぐに見つめる。

「おぬしの力は呪いではない。希望だ。この世界に残された最後の1粒なのだ」

 ティナの青い瞳が見つめ返す。

「…バナン様。言わんとする事は分かります。ですが彼女は…」

 エドガーが改めて声を上げた。

「…いかんな、歳を取ると長話になってしまう。ここまでの旅で疲れたであろう。休んでくれ」

 咳払いをしたバナンは、部屋の外にいた兵士にティナ達を仮眠室へ案内するよう命じた。



「よく我慢したじゃないか」

 ティナを寝かせて部屋を出たロックが、コールドホワイトに声を掛けた。

「何がだ」

「バナン様がティナを焚き付けた時、拳を握ってたろ。殴り掛かったらどうしようかと思ったよ」

「馬鹿な。何故俺がそんな事をする」

 コールドホワイトは手をプラプラと振って否定するが、ロックの表情は真剣そのものだ。

「…利用する利用する言ってるけど、本当はティナに情が移ってるんじゃないのか」

「ニンジャが? 非ニンジャのクズにか? ハッ、冗談はよせ」

「ニンジャも大元は人間と変わらないって言ったのは自分だぞ。それは心も例外じゃないんだろ?」

「………」

 2人の間にしばしの沈黙。

「ロック=サン、お前はあの娘を守ると言ったな。自分の言葉に責任を持てよ。必ず守り抜け。奴は俺が戦後利用する大事な戦力だからな」

 コールドホワイトはそのまま背を向けて歩き去った。

「…自分にその資格は無いってか…」



 2時間後、バナンは改めて一同を作戦室に招集した。

「諸君。皆も知っての通り、帝国は魔導技術を背景に各地へ武力侵攻を繰り返している。しかしだ、そもそもにして帝国は如何にして失われた魔導の力を手にしたのか?」

 長テーブルに着いたメンバーを見回したバナンが問い、その視線を受けてエドガーが立ち上がった。

「ロックの調査の結果、ガストラ皇帝はある時を境に世界中から学者を集め、幻獣に関する研究を始めたらしい」

 次いでロックが立ち上がった。

「そんな時、ナルシェの炭鉱の奥から氷漬けの幻獣が発掘されたという情報がもたらされ、すぐに魔導アーマーとニンジャまで投入してのナルシェ攻撃が行われた」

「…魔導と幻獣…そこに繋がりがあると」

 コールドホワイト。

「そう、魔導と幻獣だ。コールドホワイト殿はともかくとして、我々にはこのキーワードから思い出される事があるはずだ」

「…魔大戦…ですか?」

 エドガーの眉間に皺が寄る。

「バナン様は…幻獣を利用して魔導の力を行使する帝国が魔大戦を…1000年前に世界中を焦土と化したあの惨劇を繰り返すと…?」

「…帝国は、何らかのルートで手に入れた幻獣から魔導の力を抽出し、それを人間に注入したという説もある」

 コールドホワイトはティナに同行していた帝国兵、ビックスとウェッジを思い浮かべる。
 あの2人は明らかに他の帝国兵よりも魔導アーマーの性能を引き出していた。
 ひょっとすると彼らも魔導の力を与えられていたのかもしれない。

「かといってこちらも魔導の力でぶつかり合えば、それこそ魔大戦の繰り返しじゃ。…そこで、だ。ワシは幻獣との話し合いが出来ぬか…と思っている」

 一同がどよめきの声を上げ、それぞれの顔を見合わせている。
 無理も無い。彼らは幻獣という単語を知ってこそいるが、それが厳密にはどのような存在なのかは知らないのだ。

「魔大戦の折、特に大規模な戦を繰り広げた2つの勢力は、それぞれに幻獣と人間が共闘して成り立っていたという。ならば、少なくとも幻獣には人間と同等かそれ以上の知性があると考えられる」

 バナンはティナへ視線を回した。

「…危険ではあるが…ティナとナルシェの幻獣をもう1度反応させる事で、幻獣が目覚めるやもしれん。…確かな事は言えんがな…」

 ティナは目を伏せる。
 少しだが、幻獣と接触した時の全身のざわめきを身体が覚えているのだ。

「…もし幻獣との交渉に成功すれば、帝国中枢を電撃的に叩く事も可能だろうし、それ以前に幻獣そのものを味方としたこちらからの和睦要請を帝国も無視は出来ないだろう。その交渉のテーブルで、占領国の解放などを取り付けるのだ」

「肝心の幻獣との交渉は?」

 エドガーが切り込む。

「もし、帝国が幻獣から魔導の力を取り出しているのが真実とすれば、ナルシェの幻獣にとっては仲間を傷付けられているも同然。対帝国に同意してもらえる可能性は低くはない」

 バナンは席に座ると、水を口に含んで一呼吸おいた。

「…無論、この計画には…ティナ、おぬしの協力が必要不可欠となる。どうであろうか?」

「ティナ…」

 ロックは肩の震えるティナへ声を掛ける。

「…やってみましょう。それで戦いを終わらせられる可能性があるのなら」

 それに応じ、ティナは決意を込めた瞳で顔を上げた。

「場当たり的だが…帝国との差を考えれば短期決戦にならざるを得ないからな…反帝国の国々が滅ぶ前に幻獣の力を借りられれば…」

 難しい顔をするエドガーの背中を、マッシュが叩いた。

「やろうぜ兄貴! 俺は難しい事は分からないが、帝国は早くどうにかしなきゃならないのは分かる!」

「…そうだな、マッシュ。ティナ自身も決心したんだ。我々が悩んでいる場合じゃないな」

 方針が固まった。
 ナルシェ住民の、そして幻獣の協力を得るべく、彼らはバナンと共に再びナルシェへ向かう事となったのだ。
 そのルートを協議している時だった。

「バ、バナン様…! 大変です…バナン様…!」

 1人の傷だらけの兵士が飛び込んで来たのだ。

「な、なんじゃ!? おい、どうしたのだ!」

 倒れそうになった兵士をバナンが支え、とりあえずテーブルの上に寝かせて手当てを急がせた。

「て、帝国がサウスフィガロを…占領しました…!」

「何っ…!?」

 エドガーの顔色が変わった。

「さ、さらに…そこを拠点に…この近辺にリターナー本部があると当たりを付け…部隊を派遣しています…!」

「むぅ…気付かれたか…作戦を急がねば!」

 サウスフィガロ方面から部隊が展開しているとなると、バナンを連れてコルツ山、そしてサウスフィガロの洞窟を通過してナルシェに向かう、ここまでの逆走ルートは使えない。
 危険だが、レテ川を下り、水路でナルシェ近郊へ向かうしか無いのだ。

「俺はサウスフィガロへ潜入してみる。あそこで騒ぎを起こして、後方撹乱をするんだ。流言、物資焼失、やりようはあるさ」

 ロックが進み出て提案した。

「…頼む、ロック。我々はバナン様を護衛してナルシェへ向かう」

 エドガーが頭を下げると、ロックは頷いてティナの肩を軽く叩いた。

「ティナ、俺が戻るまで大人しくな。特に手が早いので有名な某王様には気を付けてくれ」

「ロック!」

 エドガーが顔を真っ赤にして怒鳴る。

「兄貴は昔からそこは変わんないんだな…」

 マッシュは呆れ顔。

「待て、ロック=サン。俺も行く」

「コルディ?」

「川下りでは俺の得意戦術は使えん」

 コールドホワイトはスノーモービルのハンドルを握るジェスチャーをする。

「お前をサウスフィガロへ送り届けた後、俺は近辺で遊撃を行う。多少の足止めは出来よう」

 視線を交差させたロックとコールドホワイトは互いに頷き合い、外に出ようとした。

「コールドホワイト殿。それならば連れて行って欲しい者がいる」

 その背を呼び止めたのはバナンだ。
 振り向いたコールドホワイトは、バナンの隣の地面が隆起する様を目撃した。
 まるで液体になったかのような地面から出て来たのは…土色のニンジャ装束と、ゴーグル付き同色頭巾、18の呼吸穴が並んだメンポを着けたニンジャだ!

「ドーモ、はじめまして。ソルヴェントです」

「ドーモ、ソルヴェント=サン。コールドホワイトです。バナン=サン、これは?」

「隠していてすまなかったが、秘中の秘という奴でな。貴公より前に協力者となってくれていたのだ」

 バナンはソルヴェントの肩を叩いた。

「彼の能力は大きな助けとなろう」

「任せてくれバナン=サン。俺が得意なのは、見ての通りのドトン・ジツだ。よろしく頼むぜ、コールドホワイト=サン!」

 ソルヴェントは気さくにコールドホワイトの手を取って握手した。

「う、うむ…お前、元はどこだ?」

「元? あー、向こうでのな! 俺はザイバツだよ。ザイバツ・シャドーギルド」

「…俺はソウカイヤ…そしてアマクダリだ」

 ザイバツとソウカイヤ…元の世界では敵対関係にあった組織同士だ。

「気にすんなよ、そんな事! ここにはソウカイヤもザイバツも無いじゃないか。あっちでの関係をこっちに引っ張ったってしょうがないだろ?」

 地中潜行を行うドトン・ジツの暗いイメージとは随分とかけ離れた性格の男である。
 が、こうも裏表が無いと、気にしている自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。

「俺、こっち来てからしばらく1人で彷徨ってたんだけど、恥ずかしながら行き倒れちゃってさ…アハハ…通りがかったリターナーの連中に助けられたんだ」

「略奪などはせんかったのか」

「んー…なんか…そんな事をする気にならなかったんだよな…暴れたい衝動も湧かないって言うか…」

 やはり、この世界でニンジャソウルが弱まっているのは自分だけではないらしい、とコールドホワイトは確信した。
 しかし同時に、この男は元々そこまでの邪悪性を持っていなかった節もある。

「とりあえず行こうぜ。ロック=サン、コールドホワイト=サン。ここを帝国の連中に見つかる訳にはいかないしな」



「ふふふ…1人を生かしておいて逃がせば案の定よ。あれがリターナーとやらの拠点に違いない」

 茂みの中から顔を出した者あり。ニンジャだ。
 彼はガストラ帝国に与する斥候ニンジャ、スクラピュラスエミッサリー。
 ダークスーツめいたニンジャ装束を纏い、リターナー本部の位置を探っていたのである。

「すぐにでもサウスフィガロのアースクエイク=サンに報告を………いや、待て…」

 そこで彼は茂みの中へと身を隠して座り込んだ。

「それで送られた増援と共に陥落させたら、俺の手柄はどうなる…? 増援連中と均等に…?」

 左右の指を折って何やらロクでもない計算をしている様子だ。

「どうせ中にいるのは非ニンジャのクズばかり…それならば俺1人で手柄を独占出来るのでは…? リーダー格さえ生け捕りにすれば良いのだ。そうだ! 手柄は立てれば正しくなる!」

 スクラピュラスエミッサリーはカタナを抜くと、その刀身に己の顔を映し出して決意を固める。

「手柄だ! イサオシだ! イヤーッ! グワーッ!?」

 覚悟を決めて茂みから飛び出したスクラピュラスエミッサリーは、リターナー本部側から猛進して来たスノーモービルに撥ね飛ばされた。
 考え事に夢中になっていたが為に接近するエンジン音に気付かなかったのだ。

「イヤーッ!」

「アバーッ! サヨナラ!!」

 空中で踊るスクラピュラスエミッサリーへ、コールドホワイトがスリケンを投擲。
 しめやかに爆発四散!

「シャウトしながら飛び出すものだから反射的に殺ってしまったが、リターナーのニンジャじゃないよな?」

 コールドホワイトはモービルの速度を落とさずに後ろの爆煙を眺める。
 後部座席にロック、そしてモービルのボディに必死にしがみ付いているのはソルヴェントだ。

「あ、ああ。リターナーのニンジャは俺とあんただけだ」

「じゃあ敵の偵察ニンジャって事か。倒して正解だったなコルディ」

「まぁただの野良ニンジャかもしれんが…いずれにせよ近くにニンジャがいると困るからな」

 3人が向かっているのはコルツ山だ。

「あの山の地形は把握した。このまま駆け抜けてサウスフィガロ方面へ突破する」

 来る時にはスノーモービルを降りていたが、それは山道の構造が不明だった為だ。
 迂闊に疾走すれば、崖から飛び出して奈落に真っ逆さまなどもあり得る。
 だが、行きの道程で少なくとも通過したルートは完全に記憶したコールドホワイトは、この違法改造モービルのモンスターエンジンに物を言わせて一気に突き抜けるつもりだ。

「お前ら、しっかり掴まっておらんと谷底への紐無しバンジーだぞ」

「それは遠慮願いたいね!」

「右に同じ!」

 盛大に土煙を上げながら、山道をかけ上る鋼鉄の怪物!

「な、なんだ!? うわぁぁっっ!?」

 逆に下りて来ていた帝国兵達は、突っ込んで来る怪物の姿に、慌てて左右の岩壁に張り付くように避ける。

「ひ、ひえぇっ!!」

 最後尾にいた魔導アーマー兵は、迎撃も忘れて操縦席から飛び降りる。
 その判断は正しい。次の瞬間にはモービルの突進を受けた魔導アーマーは、大質量に耐えかね転がりに転がって、敢えなく奈落の底へと落下したからだ。
 くぐもった爆発音がコルツ山に響き渡った。 
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