蒼と紅の雷霆
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紅白:第八話 忌々しき過去
前書き
良く良く考えればGVが死んでたらそのままモルフォとなったシアンは消滅してたわけだからあのままではミチルに戻りっこなかった。
まだセプティマが第七波動と呼ばれていた時代。
広い訓練所らしき場所でまだ幼いソウが訓練相手を汗を流しながら睨み上げた。
“大分良くなってきたぞソウ。しかしお前は感情的になるせいでムーブが読みやすい。感情をコントロールすることさえ出来ればお前は更にグロースするだろう”
“うるさい…”
“××××…これはどうすれば良いの?”
反抗するソウに対して××××は溜め息を吐きながらソウの弟が第七波動の扱いを尋ねてきたので対応する。
“これは………こうすればいい。しかし、第七波動を使う時はオーバーヒートに注意しろ。カゲロウがあってもEPエネルギーが無くては意味がない、適度なチャージでパワーを補充することを心掛けるんだ”
“分かったよ××××”
“うむ…ソウもこれくらい素直になればいいものを”
“焼かれたいか××××?”
これは自分と弟が組織に入りたての頃だ。
慣れないことに四苦八苦していた時期で、苛つくこともあったが、それでも楽しかった気がする。
“安心しろ、お前達が一流のソルジャーになるまでは私がお前達を鍛え、守ってやろう”
この言葉を自分は反発しつつも、心のどこかで…。
「…夢か……今更こんな夢を見るとは…俺の中にまだ甘さがあったか…」
昔は過去の夢を見る度に怒りや…認めたくはないが悲しみで苦しかったが…。
「すう…」
常に傍にいてくれるパンテーラが自分を支えてくれており、もう1人の仲間とも言えるモルフォに対しても感謝しかない。
「………ありがとう」
寝ているパンテーラと引っ込んでいるモルフォに礼を言うと外に出た。
「…貴様か」
基地の外には既に先客がおり、アキュラがこちらを振り返ってきた。
「お前、こんな時間に何をしている?」
「それはこちらの台詞だ。パンテーラのセプティマとモルフォの力で存在を隠している貴様がパンテーラ達から離れていて良いのか?貴様のせいでコハク達の身に何かあっては困る」
バタフライエフェクトの影響をソウが受けないでいられるのはパンテーラの夢幻鏡で存在を隠し、モルフォの力で影響を阻害しているからだ。
その2人から離れるのはアキュラからすれば無用心でしかない。
「安心しろ、あいつらは見つかるようなヘマはしない。」
初めて会った時は互いに殺意を剥き出しで銃を向け合ったと言うのに今でも互いに思うところが山程あるはずだが、こうして銃を向けずに話し合っているのだから不思議なものだ。
「1つ聞かせろ…貴様は今でもマイナーズを嫌悪しているはずだ。」
「そうだが?」
「ならば貴様は何故スメラギと敵対している?過去のスメラギなら貴様が敵対するのは分かる。しかし今のスメラギは貴様にとって好都合のはずだ。」
過去のスメラギはセプティマホルダーに非人道的な実験や扱いをしたりマイナーズをセプティマホルダーにしたりと恨みを買っても仕方の無い部分があるので敵対するのは理解は出来る。
しかし、今のセプティマホルダー優位のスメラギに何故ソウが敵対するのかがアキュラには分からない。
「マイナーズだけの被害ならあまり気にはしないが、セプティマホルダーも相当な被害を受けている…一見するとセプティマホルダー優位な世界だが、スメラギの管理AI・“デマーゼル”によって優秀なセプティマを持つ者を“翼戦士”として無作為かつ強制的に徴兵するだけでなく、その巨大な権力を使って陰湿な根回しをし、後ろ盾を無くさせる…とまるで自分以外のセプティマホルダーを奴隷としか見ていないような扱い。管理AIらしく、人の心がない存在だ。」
「……少し待て…貴様の言い方…まるで人間を語っているように聞こえる。」
ソウの言い方に何か引っ掛かりを覚えたアキュラは尋ねる。
「ああ、管理AIとは名ばかりで実際は1人のセプティマホルダーがしていることだ。」
「何者だ…そいつは…」
「…お前も名前くらいは知っているんじゃないのか?…かつて存在していた組織…フェザーの創始者……アシモフだ。」
スメラギの管理AI・デマーゼルの正体には流石のアキュラも驚きを隠せない。
「…アシモフだと?かつて貴様も所属していたテロ組織の頭目だったな…ある日を境に名を聞かなくなったが…まさか、AIと偽って生きていたとはな…」
かつてのテロ組織の頭目であり、その組織最強の戦士と謳われたアシモフが管理AIの正体だったとは流石に予想外だ。
「AIと言うことにしておいた方が何かと都合が良いからだろう。かつてのスメラギが電子の謡精をそう偽っていたようにな……遥か昔、俺達は奴を…紫電を倒した後に地上に帰還しようとしていた。その際に奴が現れて俺達に本性を現し、戦闘になったんだが、俺は奴の初擊で負傷し、弟も紫電との戦いで疲弊していた。アシモフは弟と同じ蒼き雷霆のセプティマホルダーだったからな、同じセプティマを扱う以上は地力の差とコンディションで勝敗が決まる。弟は殺され、妹も弟の後を追うように殺され…俺はテーラが残りの力を振り絞ってセプティマの力で地上に転移し、テーラの仲間と合流して共にアシモフに掌握されたスメラギと戦い、限界が来ていた肉体を捨ててテーラのセプティマの力で構成された鏡の体でこうして存在している。」
「なるほどな、だからスメラギはあいつを狙ったのか…」
恐らくスメラギが彼女を狙ったのはソウの妹の代わりの調達なのだろう。
電子の謡精のセプティマ因子をソウの妹の遺体から回収し、代用品として彼女に目を付けたのだ。
彼女が電子の謡精のセプティマ因子に適合するかどうかは彼女の秘密を考えれば充分過ぎる程に可能性がある。
例えどれだけ本体から離れていた時期が長くてもだ。
ソウの妹から回収したセプティマ因子を彼女に移植して現在に至るのだろう。
「俺達と戦った後にスメラギを掌握して、自分が嫌悪するマイナーズを排除するセプティマホルダー優位の世界を創り上げたんだ」
「なるほどな…表向きはマイナーズとの融和を掲げていたスメラギが、突然意趣変えをするわけだ。敵対勢力に丸ごと乗っ取られていたとはな…」
曲がりなりにもマイナーズの安全は守っていたのに突然の意趣変えにアキュラも困惑した覚えがあるが、ようやく納得した。
「…俺にも聞かせてもらおうか…?バタフライエフェクト…お前の関係者が関わっているな?」
「…っ」
「図星か…昔のお前を考えれば装置よりもセプティマホルダーの抹殺に力を注いでいたはずだ。そして、セプティマホルダーの抹殺よりも尽力を注ぐと言うことは…お前の血縁者だな?昔、テーラから聞いたことがあるが、お前…妹がいたそうだな?唯一血を分けた肉親…お前の妹が関わっているんだろう?大方、以前のあいつのように…いや、アシモフのことだからより悪辣なやり方で機械に繋げているのか?」
アキュラは顔を顰めながらいくらかの沈黙の後に拳を握りしめながら口を開いた。
「……そうだ、バタフライエフェクトは俺の妹…ミチルの脳を生体パーツとして組み込んだ…悪魔のマシン…ミチルは電子の謡精の本来のセプティマホルダーだった。」
「なるほどな、本来の電子の謡精のセプティマホルダーを知ったアシモフはそいつを拐ったのか。アシモフはあいつが機械に繋がれていた時のことを知っているからな。他者の介入によって逃げられないようにするためと、単純に年月が経ち過ぎたため、生命を維持するのに最低限必要なパーツだけ残すためか…ふん、エデンの時と言いあいつらしい悪辣な考えだ」
「エデンは確か、スメラギの旧本社への強襲の際にほぼ一網打尽にされたと聞いているが」
「ああ、偽情報を掴まれてな…本当に質が悪く…苛つく奴だよ。あの宇宙人が騙された時点でどうしようもなかったんだが…」
「…アシモフは管理AIとして今も生きているのだな?」
「ああ、間違いない。」
「そうか…妹を拐い、道具のように扱うそいつを…俺は許さん…!」
この世界を巣食う悪魔となった男への殺意を燃やす永い時を生き続けてきた2人が天を見上げた。
「アキュラ君!お兄さん!朝ご飯だよー!」
お玉を持ったコハクの明るい声に殺意で熱くなっていた心が冷えていくのを感じた。
「コハク…俺は…」
「駄目、アキュラ君も一緒に食べよう?」
困ったようにソウの方を見る。
しかし、いくら情報交換したとは言え、スメラギ同様に散々迷惑を掛けられてきた側であるため、アキュラを助けてやる義理はソウにはなかった。
「いい加減に諦めろ。食えないわけじゃないなら大人しく食え」
ソウはアキュラの延命方法について気付いていた。
食事の必要性は確かに無いのだろうが、人間としての尊厳に拘っていたアキュラのことだから食事は出来るはずだ。
もし無理で異常が出たら嘲笑ってやろう。
「貴様…貴様はやはり全てが終わった時に討滅する…!」
「やってみろガラクタボディが」
「仲良しだね、2人共!」
「「断じて仲良しではない(じゃない)」」
ハクの言葉にアキュラとソウの声が被った。
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