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砲兵工廠

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第三章

「そちらか」
「あれは号だしね」
「漱石というのはな」
「それで本名はね」
「金之助だ」
「金之助さんでいいかな」
「構わんぞ」
 早乙女に笑顔で応えた。
「それではな」
「じゃあ金之助さんでね、僕は早乙女広樹っていうから」
「広樹君でいいか」
「うん、早乙女でもいいけれど」
「広樹君と呼ばせてくれ」
「それじゃあね」 
 早乙女もラーメンを食べている、そのうえで答えた。
「宜しくね」
「うむ、ではゆっくり話そう」
「飲んで食べながらね」
「そうしよう」 
 二人で居酒屋の二人用の席に向かい合って座ったうえでこう話した、そしてそのおじさん夏目金之助は言うのだった。
「こころで書いたが」
「野球?正岡子規さんが好きだった」
「それは知っていたがこころの話だ」
「あの小説の」
「砲兵工廠がどうとか書いていたな」
「ああ、あそこは」
「そうだ、今はな」
 まさにとだ、金之助は早乙女に話した。
「東京ドームだが」
「僕の大嫌いな」
「あそこは昔それがあったのだ」
「そうだったね」
「もっと言えばあちこち変わっている」
「あの頃と今だと」
「東京もな、わしは明治に生きたが」
 この頃の日本にというのだ。
「本当にあの頃とはな」
「東京も変わってて」
「あの場所もそうだった」
「むかつく巨人の本拠地じゃなかったんだ」
「あんた本当に巨人が嫌いだな」
「大嫌いだよ」
 早乙女はワインを一口飲んでから答えた、そこでおかわりを注文した。
「あんなチーム」
「わしの頃には職業野球はなかったからな」
「皆楽しむだけだったね」
「大学でもな」
 そちらでもというのだ。
「部が出来るか出来ないか」
「そんな頃だね」
「グローブもバットも粗末でな」
 そうであってというのだ。
「ユニフォームもな」
「随分違ってて」
「今とはな、あんなドーム球場はな」
「なくて」
「最初見た時これは何だと思った」 
 そうだったというのだ。
「砲兵工廠だった場所がこうなるとは」
「夢にも思わなかったね」
「軍隊の場所が野球の場所になるとは」
 金之助は神妙な顔になり述べた。
「全く以てな」
「信じられないんだね」
「うむ」
 そうだというのだ。
「わしにとってはな」
「明治の頃を考えたら」
「全くな、しかし実際にな」 
 金之助はさらに話した、見ればカルピスを美味そうに飲んでいる。
「そうであった」
「昔はだね」
「軍隊の場所だった」
「むしろ僕の方が想像出来ないよ」
 早乙女はおかわりのワインをラーメンをすすってから答えた。 
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