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砲兵工廠

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第二章

「ふざけた球場だよ、何様なんだか」
「いや、場所は関係ない」
 おじさんはこう返した。
「それはな、まあここで立ち話もよくない」
「うん、何処かで飲んでお話する?」
 早乙女はそれならと提案した。
「東京交通の便はいいからね」
「わしが生きていた頃よりも」
「山手線に地下鉄に私鉄にね」
「電車ばかりだな」
「うん、僕鉄道マニアだからね」
「マナーは守る様に」
「悪質な撮り鉄じゃないから」
 そこは断った。
「鉄道模型だよ」
「そちらか」
「そうだよ、それで何処でお話しようか」
「そうだな」
 おじさんは早乙女の言葉を受けて考える顔になって述べた。
「志那そばを食べながら話すか」
「志那そば?ラーメンだね」
「今はそう言うな」
「うん、おじさんの頃の言葉だね」
「今は使わないな」
「志那って表現もあまりね」 
 これ自体もというのだ。
「志那って中国のことで」
「そうだ、清からな」
「志那になったね、じゃあラーメンを食べて」
「アイスクリームも食べたい」
 おじさんは笑ってこちらもと言った。
「ジャムもあれば尚よし」
「どっちもあるっていったら」
 早乙女はそれならと応えた。
「居酒屋だけれど」
「ああ、酒となると」
 おじさんは困った顔になって応えた。
「わしはな」
「弱かったね」
「麦酒、ビールでも少し飲むと」 
 そうすると、というのだ。
「顔が真っ赤になってな」
「ふらふらになるんだったね」
「下戸なのだよ、わしは」
 自分から言った。
「これが」
「そうだったね、けれど今はそうしたお店でもね」
「ノンアルコールがあるな」
「ジュースでも烏龍茶でもね」
「そちらを貰おう」
「カルピスとか」
「甘いものは好きだ」
 こちらはというのだ。
「かなりな」
「じゃあそっちを飲んで。僕はワインを飲むよ」
「ワイン派か」
「そうなんだ、葡萄酒だね」
「最後に飲んだな」
 おじさんは早乙女の話を聞いてしみじみとして述べた。
「葡萄酒は」
「僕もその話は知らなかったよ」
「今知ったな」
「そうなったよ」
「ではあらためて話そう」
「居酒屋でね」
 こうした話をして二人で東京ドームの近くの食べ飲み放題の居酒屋のチェーン店に入った、そして赤ワインのグラスとカルピスで乾杯してだ。
 二人はまずはそれぞれ一口飲んで、そして早乙女は早速ラーメンを食べているおじさんに対して言った。
「名前で呼んでいい」
「どっちの名前かな」
「うん、有名な漱石さんじゃなくてね」
「本名か」
 おじさんはラーメンをすすりつつ応えた。 
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