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ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ

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白き極光編
序章
  ウェルカム・トゥ・デザートキングダム

「スノーモービルというのは、本来砂漠を走る物ではないのだがな」

 愚痴を溢すかのように呟くは白装束ニンジャのコールドホワイト。
 砂漠の海を愛用スノーモービルで進みながら、ザイルで繋がれたトロッコに乗る2人をチラリと見やる。

「フィガロは機械技術に優れる国だ。到着したら整備も修理も頼めるはずさ」

 額に青いバンダナを巻いた自称トレジャーハンターのロックはトロッコの縁に右腕を乗せ、コールドホワイトを宥めるように道案内をする。
 もう1人の乗客、魔導の少女ティナは、記憶の無い不安からか俯いたまま座り込んでいる。
 ウェーブがかかり、後ろに纏められた長いブロンドの髪が、前から吹き抜ける風に流される。

「フィガロ王国…表向き帝国と同盟を結びつつ、裏では反帝国レジスタンスと繋がっている国、か。とんだ二枚舌だな」

「フィガロは帝国に比べて国力、軍事力では劣っている。生き残りの為には舌を2枚でも3枚でも使わなきゃならないんだ。それに、堂々と自分のとこと同盟を公言してる国こそがレジスタンスの後援組織とは、帝国だって思わないだろう」

「ミヤモト・マサシ曰く、“非常に明るいボンボリの真ん前はかえって見にくい”か」

 ロックにはその言葉の意味はよく分からなかったが、恐らく目立たないと言いたかったのだろう。
 まだ信用するまでには至っていないが、話している内に軽口をぶつける程度には打ち解けた気がしている。
 そして、彼が別世界の存在であるという事実が、言葉の端々から実感出来るようになった。
 その時! 砂中から黒い物体が飛び出した!
 カブトガニめいた独特の甲殻を持つモンスター、デザートソーサー!
 接近するモービルの振動を感知し、獲物へ鋭いトゲ状の尻尾を向けて落下して来た!

「イヤーッ!」

 動じる事無くスリケン投擲!
 絶妙な角度で撃ち込まれたスリケンで弾かれ、尻尾の切先が逸れた。
 空中でクルクルと回転を加えられたデザートソーサーはそのまま落下し、コールドホワイトの左手で尻尾を掴まれる。
 そして、脆弱な腹側へニンジャ腕力のパンチをうけ死亡!

「そいつの殻は加工すれば防具の良い素材になる。それなりの値で買い取って貰えるぞ」

 この世界ではモンスターの身体の様々な部位が金になる。
 武器や防具の素材に、食材に、薬品に。
 故に、木っ端微塵にするよりは急所への一撃で即死させた方が得である。
 コールドホワイトは麻袋にデザートソーサーの死体を放り込み、何事も無かったかのように走り続けた。

「あれか」

 前方の砂丘の頂から、徐々に黒い城塞がその姿を現す。

「砂漠の機械国家フィガロ王国の王城、フィガロ城」

 南北に長い中央塔と、そこから渡り廊下で繋がれた東西の支塔。
 そして周囲には監視塔が等間隔で円形に点在している。

「止まれ! …ん、お前か。通れ」

 城門前に停止すると衛兵に呼び止められるが、どうやらロックは顔パスらしく通行を許可された。
 ロックはスノーモービルの整備を頼むと、コールドホワイトとティナの2人を先導して城門をくぐった。
 コールドホワイトの愛機は、元々は彼の世界の物であり、そこへガストラ帝国に雇われた際に魔導技術を導入した機体だ。
 帝国でもそれなりのメンテナンスは可能だった以上、機械技術に長けたフィガロであれば任せても大丈夫であろう。

「よう、ドロボウ! お宝はゲット出来たのか?」

「上々ってとこだな。あと俺はトレジャーハンターだからな」

 何人かの衛兵と言葉を交わしながら、城の奥へと進む。
 そして、一際大きな扉の前へ立つと、ロックは2人へ向き直った。

「この先にいるのはフィガロの国王だ。若くて気さくな奴だけど、一応王様だからな。言葉遣いには気を付けてくれよ」

 コールドホワイトは鼻を鳴らし、ティナはコクコクと頷いた。
 イマイチ安心の出来ないロックではあったが、とりあえず脇にいる衛兵に頼んで扉を開いてもらう。
 赤い絨毯の敷かれた玉座の間を進むと、2つの王座の向かって左に彼は座っていた。もう片方は空席だ。

「戻ったか、ロック。…この娘が…」

 肩辺りまで伸びた金髪を、後ろへ撫で付けて縛った若い男性だ。
 他の部分は綺麗に纏めていながら、敢えて前髪を2房ほど垂らしている部分にどことなく軟派な印象を与える。
 椅子から立ち上がった彼は、ティナを興味深げに眺めていたが、何かに気付いたように顔を上げて背を向けた。

「おっと失礼。初対面のレディに対してする態度ではなかったな」

 そして、大仰にマントを翻して再度こちらへと向き直ったのだ。

「私はフィガロ国王、エドガーだ。エドガー・フィガロ」

「…私、ティナです」

「ドーモ、コールドホワイトです」

 エドガーはティナに詫びた後、コールドホワイトにも目を向けた。

「まさかニンジャまで連れて戻るとは思わなかったぞロック」

 エドガーの言葉にロックは肩をすくめる。

「色々あってな。じゃ、俺はこの辺で失礼するぜ。またな」

 ティナの肩に手を置き、ロックはそのまま部屋を後にした。

「君は帝国の兵士だってな。そちらの彼もかな? だが心配はいらない。フィガロはガストラ帝国と同盟国だ」

「表向きは…だろう」

 コールドホワイトの一言に、エドガーは苦笑する。

「ふっ、ロックめ、その事も話したか。まぁ構わないさ。2人ともしばらくゆっくりしていくと良い」

 エドガーは近くの従者に部屋の支度を命じると、王族特有の堂々たる足取りで部屋を去ろうとする。
 その背にティナは呼び掛けた。

「なぜ、私に良くしてくれるの? 私のこの力が…」

 その先の言葉をエドガーは遮る。

「まず、君の美しさが心を捕らえたからさ。第2に、君の好きなタイプが気に掛かる。魔導の力の事は、その次かな」

 ティナは目をパチパチとさせながら首を傾げる。
 その横のコールドホワイトは、あまりにクサイ口説き文句に笑いを堪えている。

「…私の口説きのテクニックも錆び付いたかな…」

 どことなく寂し気な背中のまま、エドガーの姿は消えた。

「(…普通の女の人なら、その言葉に何かの感情を持つのね。でも、私は…)」

 やがて2人はそれぞれ別の部屋へ案内され、ようやく骨休めが出来た。
 コールドホワイトは装束を脱ぎ、カタナを抜いて刃こぼれや返り血による切れ味の衰えが無いかを確認する。
 ニンジャのイクサに耐え得るよう鍛えられた物ではあるが、それにも限度がある。
 この世界の人間は手強い。
 得物の手入れを怠れば、自分はイクサの中でブザマな死を迎えるだろう。

「…俺は死なん…死んでたまるか…!」



 一息つく事の出来たティナは、ようやく周りを見る余裕が生まれた。
 既にエドガーから伝達されているのか、城内を歩いても従者や兵士が優しく対応してくれた。
 エドガーは軽薄に見えたが、家臣1人1人への教育がしっかりと行き届いているのが伝わり、彼らもまた王へ強い信頼を向けている。
 人を良く見て、気配りを怠っていない事の証と言えるだろう。

「…信用、しても…良いのかしら…」

 見覚えのある廊下を歩くと、玉座の間へ辿り着いた。

「やぁ、ティナ。いかがだったかな? 私の城は?」

 エドガーは国王とも思えぬ気さくさで、ティナへ語り掛けた。
 と、ティナが口を開こうとしたその時、衛兵が扉を開けて駆け込んで来た。

「エドガー様! 帝国の者が来ました!」

 その報告を聞いたエドガーは、精悍な顔に心底ウンザリといった表情を浮かべた。

「…ケフカか…」



 あからさまにテンションの下がったエドガーが様子を見に出ると、既に2人の帝国兵を伴った男が城門を押し通って入って来ていた。
 白い顔には派手なメイクを施し、身に纏う衣装も赤や黄色を中心に様々な色が用いられている。
 その様はさながら道化師である。

「やぁやぁ、ガストラ皇帝直属の魔導師ケフカ殿がわざわざ出向かれるとは」

「フンッ、帝国からの脱走兵が逃げ込んだって話を聞いてな。1人の娘がねえ」

 胸を反らして鼻を鳴らし、見るからに嫌味な態度でケフカは問うた。

「娘…魔導の力を持っているという娘の事か…?」

「余計な詮索はせんで良い。それより、ここにいるのか?」

「さぁて、ね…娘は星の数ほどいるけどな」

 エドガーは嫌味なケフカに負けじと、彼に考え得る限り最高に嫌味な表情で空を指差す。

「隠し立てしても良い事は無いと思うけどねぇ…ま、せいぜいフィガロが潰されないように祈ってるんだな。同盟国と言っちゃいるが、帝国がその気になれば、こんなちっぽけな国なんて一晩で焼き払えるんだからな。ヒッヒヒ…」

 嫌らしい笑い声を残し、ケフカは去って行った。

「王様も大変だな」

 戻ろうとしたエドガーへ、ロックが労いとも、からかいとも取れる声を掛けた。

「まったくだよ。気苦労で白髪が増えそうだ。ま、それはそれでロマンスグレーで色男になってしまうかな。…ティナは?」

 ロックが身体を脇へ半歩移動させると、後ろの部屋からティナが顔を出した。

「帝国…私は帝国の兵士…」

 ティナは俯いたままであったが、ロックはその両肩に手を乗せ、諭すように言葉を紡いだ。

「帝国の兵士“だった”。帝国に操られたウソの姿だ。でも今は違う」

「…よく分からない…どうして良いか…」

「これからは自分の意志を持てって事さ。今はあまり深く考えない事。道はいずれ見えて来るから」

 意志と実感の籠ったロックの言葉にティナは顔を上げ、僅かに頷いた。

「良い事を言うじゃないかロック。…しかし、ちょっとレディへのボディタッチが多くないかな?」

「バッ…! ち、違うだろ! そういうのじゃないだろ!」

 ロックは慌てて手を離し、しどろもどろになりつつ反論する。
 ロックとエドガーのやり取りを見ていたティナは、唖然としつつも柔らかい笑みを浮かべた。
 部屋の中に立っていたコールドホワイトも、やや嘲るようなものではあるが軽い笑い声を漏らしていた。



「…む…ぅ…? …っ!」

 城内の異常を察知して目を覚ましたエドガーは、ベッドから起き上がると素早く王の装いへ着替える。

「エドガー様っ!」

「何事だっ!?」

 部屋を出たエドガーの目に、燃え盛る己の城が映った。
 消火せんと奔走する衛兵達の向こうに、高笑いする派手な男の姿を見る。

「ケフカっ! 何をするっ!」

 エドガーが現れた事に気付いたケフカは、ほんの1秒前まで大口を開けて身を捩らせ笑っていたとは思えないほど、冷徹な表情で彼を迎えた。

「娘を出せ。それとも全員焼け死ぬかね?」

「くっ…」

 エドガーは苦し気な表情を浮かべ、考え込む素振りを見せながら踵を返した。
 そしてある部屋の前に控えていた兵に声を掛けた。

「…あれの用意を…」

「はッ!」

 それを見たケフカは、邪悪な笑みを浮かべてゆっくりと歩み寄った。

「ヒヒッ…決心はついたかね?」

 苦々しい表情のエドガーが振り返る。

「……そろそろ良いか…」

 そして駆け出すと、城壁の上によじ登り…。

「ハッ!」

 床を蹴って勢い良く飛び出した!
 下の砂漠には発達した脚を持つ大型の黄色い鳥が3羽!
 この世界で主に騎乗用として用いられる、チョコボという生き物だ!
 エドガーはその先頭を走る1羽の背に飛び乗ると、そのまま駆け出した!
 その様子を見たケフカは、嘲笑うような笑い声を上げる。

「ヒャヒャ、こりゃあ愉快! 王様は1人で逃亡か! ヒッヒッヒ!」

 エドガーは頭上の声を意に介さず、3羽を指揮して城の周囲を北回りで西から東へ。
 そして、東の支塔へ続く渡り廊下の下に差し掛かったところで声を張り上げた。

「乗れっ!」

 その声に応じて廊下から身を躍らせたのはロックとティナ!
 見事に残り2羽の背に跨がった!

「イヤーッ!」

 さらに! ケフカの注意がそちらへ向くと同時、中央塔から飛び出す影!
 防塵改修を施されたスノーモービルを駆るコールドホワイト! 砂上へ着地し3人に合流する!

「何ぃっ!?」

 ケフカは目を剥いて急ぎ城門へ走り、ちょうど駆けて来た4人と鉢合わせた。

「エドガー!」

「良いぞ! 沈めろ! ケフカ、足元に気を付けるんだな!」

 城内へ向けて大声で呼び掛けたエドガーは、ケフカを指差し走り去った。
 ケフカが訳が分からぬという顔をしていると、不意に大地が、城が揺れ始めた。地震か!?
 否! それは城そのものの鼓動だった!

「さあ! 黄金の大海原にダイブするフィガロの勇姿! とくと見せてやるわ!!」

 中央塔の頂点に立った大臣が腕を振り、号令を下す!
 一見なんの変哲も無い中世の西洋城塞めいた城内に張り巡らされた機構がフル稼働!
 東西の渡り廊下が中央塔に格納され、支塔と中央塔が連結!
 階段、扉、全てが閉鎖されたフィガロ城が、凄まじい轟音と砂埃を上げて砂漠へと沈んで行くではないか!
 あまりの揺れに投げ出されたケフカは、大の字で砂漠に倒れる! ブザマ!

「ぐ…ぐ…ぐぐぐぐぅ…!」

 ガバッと起き上がったケフカが叫ぶ。

「行けぇっ! 殺せぇっ!!」

 ケフカの怒声を受け、待機させていた魔導アーマーに乗り込んだ兵士2人が追走を始める。
 さらに!

「ヨロコンデー!」

 その影から1人のニンジャ…そう、ニンジャが跳躍したのだ!
 ガストラ帝国の紋章が付いた朱色のニンジャ装束、そして顔にはコマイヌめいた恐ろしげな形相のガスマスクを装着している!
 これはニンジャが本能的に顔の一部、または全体を隠すべく着ける、メンポの一種だ!

「ニンジャか!」

「ニンジャだと!? やっぱり他にもニンジャを抱えてやがったか!」

 コールドホワイトの声に反応したロックが、首を巡らせ後方確認。
 魔導アーマーも徐々にチョコボとの距離を詰めて来るが、生身のニンジャはそれより速い!

「ニンジャは俺が殺る! あのガラクタはお前らでなんとかしろ! イヤーッ!」

 盛大なドリフト! からのターン!
 コールドホワイトは反転して敵ニンジャを捉え、突進して行く!
 相手のニンジャもそれに応じた!
 2人のニンジャは真っ直ぐに突っ込んで行き、そしてすれ違う!

「ドーモ、はじめまして。サーベラスです」

 敵ニンジャ、サーベラスが両手を合わせてアイサツ!

「ドーモ、サーベラス=サン。コールドホワイトです」

 コールドホワイトは左手でハンドルを保持したまま、右手を顔の前で立ててアイサツ!
 その一瞬の交差でアイサツを済ませた両者は、再度の反転から向かい合う。
 近くで見れば、サーベラスのメンポには3つの穴が空いており、口部分両端の穴からは、小さな火の粉が断続的に爆ぜていた。

「やはりニンジャも潜伏していたか! 勝ち馬たる帝国に牙を剥くとは愚かな狂犬め!」

「タイガーの前で威張るフォックス! 男なら野心に生きるべきだ腰抜けめ! 狂犬とて負け犬よりマシよ! イヤーッ!」

 コールドホワイトはモービルで突っ込みながらスリケン投擲!
 サーベラスもスリケンで相殺! そして両腕を交差させ、勢い良く開いた!

「Spittttt!!」

 メンポの口に当たる部分から可燃性の液体が噴射され、そこに左右の穴…バーナーの火が引火! 火炎放射と化して正面からコールドホワイトを襲う!

「ヌウッ!?」

 強引な方向転換で機体が浮き上がる!
 危ういところで右へ逸れる事で炎を回避!

「チッ、すばしっこい! 俺のカトン・ジツでそのポンコツ諸共に火ダルマになって爆発四散すれば良かったものを!」

「カトン・ジツ? なるほどな、その火吹き大道芸で城に火を放ったか!」

 炎を扱うカトン・ジツにも様々な種類がある。
 サーベラスのように、何かしらの機構を用いる物もあれば、テックの力に寄らず超自然の炎を発生させる物もある。

「イクサになど出ず、流れの大道芸人ででも生計を立てるのだったな!」

「口の減らぬ奴め! Spittttt!!」

 執拗な火炎放射!

「焼け死ね! 焼け死ぬが良い、コールドホワイト=サン!」



 駆けるチョコボの真横を、青白い光線が掠める。魔導アーマーに搭載された魔導レーザーだ。
 サンダービームやファイアビームといった兵装に威力は劣るが、あちらは魔導処置レベルの低い一般兵では使いこなせないのだ。

「どうするエドガー!」

「チョコボが負傷したりスタミナが切れたら終わりだ! ここで無力化する! ロックはティナを…」

 連れて逃げろ…そう言おうとしたが、ティナの決意を湛えた瞳に見据えられて言葉に詰まった。

「私も戦う! 私に力があるなら! 自分の意志で!」

「しかし…」

 何度目かの魔導レーザーがチョコボの足元に着弾! 砂を巻き上げる!
 戦闘用に訓練されたチョコボはそうそう怯まないが、このままでは直撃しかねない!

「エドガー!」

 投げナイフを使いきったロックが叫ぶ。

「…仕方無い。無理はするなティナ! 後ろから援護してくれ! ハイヤッ!」

 エドガーのチョコボが急停止、そして片脚を軸に180度回頭!

「機械王国フィガロ。その真髄を味わってもらうぞ!」

 そして靡いたマントの中から取り出したのは、銀色に輝く銃…否、ボウガンだ!
 器用にガンスピンを決めたエドガーは、装填された鋼鉄矢の先端を、追跡して来る魔導アーマーへ向ける!

「我が自信作オートボウガン! その威力、お見せしよう!」

 トリガーを引くと、バネ機構が連続で稼働し、射出と装填を繰り返す!
 一瞬で飛来する矢の数8本!

「うわっ!?」

 搭乗していた帝国兵は、頭を抱えて操縦席内に屈む!
 強固な魔導アーマーの装甲、駆動部問わず深々と突き刺さる矢! 矢! 矢! なんたる貫徹力か!

「し、しまった! 砲口が…!」

 機体胸部に設けられた発射口に数本の矢が刺さり、内部の魔導エネルギー伝達パイプが破損したのか激しくスパークする。

「機械の扱いでこの私と競うつもりかな? 私はエドガー・フィガロ。機械王国フィガロの王にして機械文明の旗手だ」

 アーマー兵の周囲をチョコボで旋回しながらオートボウガンへ次弾装填。
 だが、それをもう1機の魔導アーマーが照準!
 発射口内部の砲身へエネルギー集束!

「…ファイア!」

 ティナの声が響くと同時、レーザー発射直前の発射口が突如として発火! たちまち激しく燃え上がったのだ!
 突然の異常発熱で砲身に過負荷! エネルギー暴発!

「うぐあぁっっ!?」

 操縦席でコンソールが爆発! 破片が顔面を襲い負傷!

「今のは…ティナか!? これが彼女の力…凄いな!」

 ロックが振り向く一方、エドガーは驚きのあまり飛び上がらんばかりだ。

「どうどう。おい、どうしたんだよエドガー」

 エドガーの方へチョコボを寄せ、相手の手綱を握って落ち着かせる。

「今ままままののののの見たか!? 見たよな!?」

 エドガーはロックの肩を掴んでガクンガクンと揺らす。

「ああ、あの炎か。ティナだよ。あの子には凄い能力が…」

「凄い能力どころじゃないだろ! 魔法だよ! まほう! 1000年前の魔大戦で失われたっていう、あの魔法!!」

「……………まままままほう!? あれが魔法!?」

 漠然と凄い力程度にしか認識していなかったロックだったが、伝説に謳われた魔法こそがその力の正体である事に気付き驚愕する。
 ロックとエドガーは、肩を組んで何事かヒソヒソと話し始めた…。



「あれがあの娘の力か…カラテも漲らせずして敵を直接発火させるとは…」

 コールドホワイトはサーベラスの火炎を距離を取ってかわしながら、ニンジャ視力でその一部始終を目撃していた。
 信じられない物を見たと言わんばかりに驚いたロック、エドガーがティナと話し始めたかと思えば、ロックがエドガーを蹴飛ばしていた。
 俯いていたティナはロックに何か言葉を投げ掛けられ、笑顔を浮かべて頷いているのが見えた。

「ハッ、どこぞの火吹きよりもよほどカトン・ジツをしているな」

「ダマラッシェー!!」

 己のジツを侮辱されたサーベラスが、ニンジャスラングを叫び逆上する。コワイ!

「もはや燃やされるだけで済むと思うなよコールドホワイト=サン! イヤーッ!」

 その場に止まって一方的な火炎放射を行っていたサーベラスが、タント・ダガー(短刀)を抜いて砂を蹴った!

「Spittttt!! これが俺のカトン・ダガー! イヤーッ!」

 手にしたダガーへ火を吹き付けると、油を塗った刃が激しく燃え上がる!
 コールドホワイトの進路を予測し、火の粉を撒き散らしながら斬り掛かった!

「おう、ますます大道芸じみたな! よくぞそこまで極めたもんよ! イヤーッ!」

 コールドホワイトもカタナを抜き、それに応じた。
 両者のシルエットが交差し斬り結ぶ!

「グワーッ!」

 刃を交えた瞬間、塗られた油が火の粉を伴って飛び散り、コールドホワイトの顔面に襲い掛かった!

「至近距離の熱! 振り掛かる火の粉! マトモに戦えまい! これぞフーリンカザン!! Spittttt!!」

 走り抜けたコールドホワイトの背中へ火炎放射の追撃!

「グワーッ!」

 火の粉で一瞬視界を奪われたコールドホワイトは直撃を許す!
 背中が燃焼! たまらずモービルから転げ落ち、砂上をのたうち回って火を消す!

「ジリジリと蒸し殺しにしてやるぞ! 一思いに焼かれていた方がマシだったと思えるほどにな! イヤーッ!」

 サーベラスはメンポの奥で舌なめずりし、カトン・ダガーを振り上げ跳び掛かった!

「バカめ」

 が、転げ回っていたコールドホワイトが不意に動きを止め、装束の内側から…オートボウガン!? 否、試作品のワイヤードボウガンだ!

「え…グワーッ!?」

 放たれた矢は1本のみ。
 だが、それはオートボウガンのそれより大型で逆刺の付いた専用の物! さらにボウガンと高硬度ワイヤーで繋がれている!
 ウカツにも咄嗟の身動きが取れない空中へ自ら跳び上がってしまったサーベラスは、その矢を避けられずに肩口へ被弾する!

「イヤーッ!」

 転げ落ちる寸前にオートパイロットに切り替えた相棒が引き返して来ると、コールドホワイトはブリッジ体勢からハンドスプリングで立ち上がって飛び乗った!
 当然その手にはボウガンが握られ、逆刺で矢が抜けないサーベラスは引きずられる!

「グワーッ! グワーッ!!」

 もがく! 抜けない!
 足掻く! 抜けない!

「アバッ! アバーッ! ヤメテ! やめてくれ! アババババッ!」

 コールドホワイトの向かう先には…エドガーに発射口も駆動部も破壊され四苦八苦する魔導アーマー!

「お仲間に助けてもらえ! イヤーッ!」

 横付けするようにモービルに制動を掛け、遠心力でサーベラスを振り回すと同時にボウガンを手放す!
 すかさずスリケン3連続投擲!

「アバーーーッッッ!!!」

 眉間! 喉! 胸にスリケン直撃!
 飛んで来たサーベラスに気付いた帝国兵は、慌てて操縦席から転がるように逃げ出した。
 サーベラスは無人となった操縦席にホール・イン・ワン! 直後!

「サヨナラ!」

 しめやかに爆発四散!
 魔導アーマーも同時に限界を迎えて爆散!

「ば、馬鹿なっ…!?」

 刺さった破片で視界が血に染まっていた兵士は、相方もニンジャも撃破された事に気付いて驚く。

「隙ありだ!」

「へ? ぐえっ!」

 チョコボで急接近してからその鞍を蹴って跳んだロックが、速度と体重を乗せた飛び蹴りで顔面へ追い打ち! 非情!
 操縦席から蹴り出された兵士はそのまま気絶してしまった。

「…これで全部か」

 操縦席の上に立ったロックは、額に手を翳して周囲を索敵。
 フィガロ城があった辺りで、米粒のように小さい影がギャーギャーと喚きながら手足をバタつかせて地団駄を踏んでいるが、放置しておいて問題無いだろう。

「…よし、周りに敵はいないな。ティナとコールドホワイトのおかげでどうにかなったなエドガー」

「ああ。これで名実共に帝国との同盟は解消だ。今後の事を相談する為にもリターナー本部へ行こう。コルツ山の先だな」

 エドガーの提案にロックも頷いた。

「ここから洞窟を抜けた先のサウスフィガロで登山準備を整えよう。山越えだからな。街に着いたらティナも少し休ませてやらないと」

「俺への気遣いは無しか。やれやれ」

 わざとらしくため息を吐いたコールドホワイトが、モービルを押しながら近付いて来た。

「ニンジャは頑丈だろ。ティナは戦い慣れしてないし繊細なんだよ」

 ロックがコールドホワイトの胸板を裏拳でトントンと叩く。

「それじゃあ行こう。サウスフィガロへ」

 3羽のチョコボと1台のスノーモービルが砂漠を南へ進む。
 強大な帝国との戦いは、まだ始まったばかりであった。 
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