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ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ

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白き極光編
序章
  エスケープ・ドゥ・マイン・シージ

 坑道内を疾駆…とはいかないが、真白なるニンジャ、コールドホワイトは愛用のスノーモービルで駆けていた。
 あの魔導の力を持つ少女を確保しておけば、何かと役に立つ。
 元々彼はこの世界の存在ではなく、我々の知る地球と似て非なる世界に生きていた。
 そこでとある死神とのイクサに破れ死亡したはずの彼は、気付けば愛機と共にこの世界に降り立っていたのだ。
 当然、ガストラ帝国に対する忠誠心などという物は無く、ナルシェ侵攻を計画していた帝国に傭兵として雇われただけである。
 ただその日その日を生き延びる事だけを思って淡々と任務に従っていたが、彼らが重要視する力を持つと思われる少女が帝国の支配を脱した所を見たコールドホワイトは、その力を利用して成り上がる野心を抱いたのだ。

「(俺は男だ! ニンジャだ! せっかくの新たな生、誰かの使い走りのままで終わってなるものか!)」

 元の世界で絡め取られていた組織の呪縛から解き放たれた今、イクサに生きる戦士として、この世界で何かを成さんと考えた。
 魔導も幻獣も、奴らの求める力を奪い取り、利用してやるのだ!
 と、ここでコールドホワイトはエンジンの出力を落とし、周囲へ耳を傾ける。
 彼のニンジャ聴力が、無数の足音を察知したのだ。

「…下の階層か?」

 薄暗い小部屋にスノーモービルを隠すと、息を潜めながら物音の後を追い、地下の闇の中へと消えていった。



 その青年は焦っていた。
 銀の髪を揺らしながら、軽快かつ慎重な動きで坑道の中を走り、目的の少女を探す。
 トレジャーハンターとして培った観察眼が、壁や地面に残された痕跡から少女の移動ルートをトレースする。

「ガードの連中に先に見つけられるとマズい事になるぞ…」

 何しろ帝国によって街を荒らされ、仲間を何人も殺されているのだ。
 十中八九、帝国の情報を引き出すために苛烈な拷問を加るだろう。
 彼らは当の少女が洗脳によって思考を奪われていた事など知る由も無いし、知ったところで関係無いと言いかねない。

「っと…」

 足跡を追った先の通路には、真ん中に大きな穴が空いており、痕跡もそこで途絶えていた。
 周囲には少女の物の他、武装した兵士…ガードの物と思われる足跡も複数見受けられる。
 追い詰められて飛び降りたか? 否、意図せず落ちたのだろう。
 この地面の崩落はごくごく最近…それこそ今さっき発生したものだ。

「…階段探すよりこっちのが早いか」

 青年は手際よくザイルを固定すると、穴の中を降りていく。
 やがて下の階層が見えてくると共に、崩れた地面の残骸に覆い被さるように倒れた少女の姿を捉えた。
 ある程度の高さまで降りると、ザイルから手を離して飛び降り、少女の脇へ着地した。

「…良かった、気を失ってるだけだ」

 生きている事、そしてガードよりも先に発見出来た事で、まずは安堵の息。
 …と、思ったのは束の間だった。

「いたぞ!」

 怒声に顔を上げれば、ガード…しかも青い装束を纏った小隊長クラスが、戦闘用に調教した狼・シルバリオと、同様に訓練を受けたイノシシ型モンスターのメガロドルクを展開し始めていた。
 シルバリオの素早い動きも然る事ながら、巨躯を誇るメガロドルクの突進力、そして冷気を操る能力は共に危険極まりない。

「くそっ…!」

 青年は腰からナイフを抜き、腰を落としてジリジリと前進して来るモンスター部隊を睨む。
 複数のシルバリオがいる時点で、この少女を抱えて逃げる選択肢は絶たれたと言って良い。
 接近して来た何匹かを斬り捨てれば、怯んで隙が生まれるかもしれない。その可能性に賭ける。

「クポー」

「!?」

 背後からの声に驚き振り向くと、そこには白い…豚か? 熊か?
 否、これはこの世界の原生生物モーグリだ。
 体長は120cmほどだろうか? 2頭身ほどの大きさで、頭頂部に黄色い玉の付いた触角が揺れており、コウモリめいた赤く小さい翼を背中に備えている。
 そのモーグリが洞窟の奥からワラワラと姿を現したのだ。
 手に手に剣や槍、鎚など様々な武器を握られているが、それは青年や少女ではなく、迫るモンスター達へ向けられていた。

「モーグリ…力を貸してくれるのか?」

 敵意を微塵も感じられない彼らへ、はたして言葉が通じているのかは不明だが、思わず尋ねる。
 リーダー格らしき個体が、槍の石突で勇ましく地面を打ち、胸を叩いた。

「クポー!」

 そして、右手に持った槍を軸にして不思議な踊りを始めた。
 直後! 接近していたシルバリオ第1波の足元に突如として大穴が開き、敵が一瞬にして奈落へと落下して行った。
 モーグリが踊りを止めると、まるで穴など初めから存在せず、束の間の幻であったかのように元の地面に戻っていた。フシギ!

「なんだと!? くそっ、モーグリ共め!」

 ガードリーダーは配下のモンスター達を散開させる。
 集まっていればあの不可思議な範囲攻撃で一掃されてしまう!
 これを好機とばかりに、モーグリ達が武器の切先を敵へ向けて切り込んだ!

「この流れなら行けるか…!?」

 青年もナイフを構え、モーグリ達に続いた。
 彼らの助力を受けてガードリーダーを倒せば、指揮系統が乱れて逃走もしやすくなるかもしれない。
 その動きは機敏! 飛び掛かるシルバリオを左へのサイドステップでかわすと、ナイフを握った右手を振り抜き、相手の勢いも利用して口から後頭部までを切り裂いた!
 横目に周囲を確認すると、モーグリとモンスターの戦闘がそこかしこで始まっていた。
 彼らの体躯からすれば、持っている人間用の武器はかなり大振りなはずだが、見事に使いこなしており、分散したモンスターを各個撃破している。

「あれは…!」

 1匹のモーグリの背後からメガロドルクが突進しているのが見えた。
 青年は壁を蹴ってメガロドルクの頭上へ回ると、落下速度を乗せてその背中へナイフを突き立てる!
 たまらず叫び声を上げるメガロドルク! 狙われていたモーグリはその声で敵襲に気付き、振り向きざまに大剣を一閃させた!
 顔面が横向きにスライスされたメガロドルクの背から跳ねた青年は、僅かな滞空時間でガードリーダーへの最短ルートを導き出す。

「貴様、その身のこなし…盗賊か!」

「トレジャーハンターと呼んで欲しいね! 世界一のトレジャーハンター、ロック・コール! 覚えときな!」

 モーグリ達に周囲のモンスターを任せ、姿勢を低くしてガードリーダーの脇腹目掛けてナイフを突き出す!
 しかし敵もさるもの。狙われた方とは逆側に半身ずらして刺突をかわし、カウンターに丸盾を叩き付けんとする!
 ロックは半ば後ろへ倒れ込むようにしながら、スライディングでそれを避ける!

「(…強い!)」

 今の攻撃の応酬で、ロックは相手の力量を悟る。
 やはりガード部隊の指揮官クラスとなると精鋭中の精鋭! 易々とは仕留めさせては貰えない!
 他のモンスターを排除したモーグリが2匹、ロックの隙をカバーするかのようにそれぞれ片手剣と手斧を振り上げ、ジャンプしてガードリーダーへ打ち掛かる。

「舐めるなっ!」

 逆に1歩踏み込んだガードリーダーは、斧モーグリの攻撃に勢いが乗る前に盾で受け止め、そのままシールドバッシュ!
 剣モーグリの斬り下ろしを鋼鉄の膝当てで受け止め、体格差を幸いと肘を後頭部へ打ち込む!
 壁に叩き付けられた斧モーグリ、頭を打たれた剣モーグリ共に脳震盪!

「やらせるかっ!」

 立ち上がったロックは、投げナイフを抜くとガードリーダーへ投擲し、モーグリ達への追撃を妨害!
 やはり効かない! 水平に構えた鎌の柄で受け止めた!

「こそ泥風情がっ!」

 鎌に刺さったナイフが、腕を振った勢いで抜けて投げ返される!
 それを追うように、盾を構えて腰を落としての突撃を行う!

「やばっ…!?」

 飛んで来たナイフをかわすも、身体の重心が戻りきらない! 迫るガードリーダー!

「トドメ…っ!?」

 不穏な気配を察したガードリーダーは、脚を前に出し、地面を削るように急制動!
 そのままの勢いであれば彼が走っていたであろう位置へ、殺人的な速度でカタナが振り下ろされた!

「チッ…」

 空振りしたカタナを戻した白い影が、ゆらりとガードリーダーへ向き直る。

「ドーモ、コールドホワイトです。…ニンジャでもない相手にアイサツは不要か」

 両手を合わせてオジギした上半身をゆっくり戻して臨戦態勢へ入る。

「(ニンジャのアンブッシュをかわすとは…)」

 他のガードであれば先の一撃で仕留めていたであろう。
 しかし、見たところこの男はそれらを統率する立場にあるらしく、同時に優れた戦士でもあるようだ。

「(やはりこの世界の人間…元の世界のモータルとは比較にならぬ!)」

 この世界に来て間も無い頃、コールドホワイトは情報収集の為にドマ王国に潜伏していた。
 そこで彼は、自分同様のはぐれニンジャが、ドマの剣士を襲撃する現場を見た。
 しかし、そのニンジャは剣士に動きを見切られ、敢えなく返り討ちに遭い爆発四散したのである。
 見るからにサンシタではあったが、それでもニンジャであれば武装したモータル程度は容易く殺戮する事を可能とするニンジャ身体能力を持つはずなのだ。

「(こ奴らの中でも手練れの者はニンジャに匹敵する…! 気を抜けば次に爆発四散するのは俺だ!)」

「その服装! 部下から報告のあった帝国兵…いや、ニンジャか!」

 やはりニンジャを知っている。
 ダイヤモンドダストがこの街に雇われていたのならば、その防衛隊の指揮官クラスに存在を知られているのも当然か。

「やや正確性に欠ける情報だ。イヤーッ!」

 言うが早いか、上段振り下ろしで脳天から裂きに行く!

「ぬっ!! ぐおぉっ!!」

 驚異的なニンジャ敏捷性に反応が遅れる!
 すんでのところで盾での防御が間に合ったが、ニンジャ腕力で打ち込まれたカタナの一撃だ! 防いだ腕の筋肉と骨に深刻なダメージ!
 だが耐える! ガードリーダーはこの一撃に耐え、力任せに腕を振るい、コールドホワイトを押し退ける!
 そして前のめりにならんばかりに踏み込み、全身でぶつかる勢いのシールドバッシュ!

「グワーッ!」

 予想外の耐久力とそこからの反撃に、岩壁へ大の字で打ち付けられる!

「うおぉぉぉーーーっ!!」

 ロックの方へ鎌を投げつけ牽制しつつ、リボルバー拳銃を抜いてニンジャへ連射!

「イヤーッ!」

 コールドホワイトは両肘を壁へと叩き付けて反動で脱出!
 膝立ち姿勢になって銃撃を回避すると、そこからさらに姿勢を低くし、地面を這うかのような低姿勢で急速接近!
 ガードリーダーは膝蹴りで顔面へのカウンターを狙う! 鋼鉄膝当てだ! アブナイ!
 しかし! コールドホワイトはこれを右手に持った逆手カタナで逸らすと、弓めいて引いた左腕を突き出す!

「イィィィヤァァァーーーッ!!」

「なっ!? ごぶぅっっ!?」

 鋭いチョップ突きが、ガードリーダーの喉に突き刺さり、布で覆われた口から赤黒い血が噴き出した。
 その吐血は、この世界に来る前のコールドホワイトを討った死神のニンジャ装束を彷彿とさせる色だった。

「か…ふっ…」

 しばしの痙攣の後、白目を剥き項垂れるガードリーダー。
 コールドホワイトが血塗れの腕を引き抜くと、青い衣を赤く染めた亡骸が崩れ落ちた。
 彼は構えを解かず物言わぬ骸、そして背後でナイフをこちらへ向けるトレジャーハンターへの注意を怠らない。ザンシン。

「…まぁ、そう警戒するな小僧。俺は敵じゃあないぞ」

「味方の保証も無いだろ」

「ハッ、違いない」

 コールドホワイトは小さく笑うと姿勢を戻してカタナを納めた。

「なぁに、俺もあの娘に用がある。お前もだろう」

 今はこの小僧と戦うべきではない。
 一部始終を見ていたが、こいつもさっきの男と同等レベルの戦闘能力を持っている。
 さらに周囲で警戒を解かない白いヨーカイ達もなかなかの手練れ。
 ここで敵を増やしても苦戦は免れないどころか、或いは死ぬ!

「あの娘を生かす事という目的は合致しているはずだ」

「…生かした後の最終目的は」

 やはり油断ならぬ小僧だ。

「…奴の持つ魔導とやらの力を利用し、俺の身を立てる」

「…!」

「お前は耳触りの良い言葉で煙に撒ける男ではない。状況判断だ」

「それを聞いて話に乗ると思うのか?」

 敵意こそ薄れたが、警戒心は未だ色濃い。

「だから待て。今の俺はなんの後ろ楯も無い傭兵に過ぎん。そんな俺が、如何に大きな力があるとはいえ小娘1人手にしてどうなる?」

「何が言いたい?」

「あの娘をお前…いや、正確にはお前のバックにいる組織か? そこに預け、俺も協力してやろう。その見返りとして、お前達は俺にこの世界の情報、そしてマネーだ。だが雇うのではない、対等な協力者として扱ってもらう」

 コールドホワイトは、自分と相手の条件を両手の指でそれぞれカウントする。

「最後に、お前達の目的が成った後、あの娘を借りる。…何、心配せずとも世界征服などと言うつもりは無い。この世界の片隅にでも一国一城を得たいだけだ。独立した領地を持つとなれば、攻めるにも守るにも力は必要だろう?」

 この弁舌は、ドサンコ・ウェイストランドに新たな上司が現れた折、幾度も制裁と矯正を受ける中で(主に言い訳の為に)培われた物だ。

「………」

「………」

 睨み合う事およそ5秒。
 ロックがナイフを腰に提げた鞘へ納めた。

「俺の独断では決められない」

「分かっている」

 お互いに相手を信用などしていない。
 だが、ここはまだ敵の勢力圏内であり、いつ増援が雪崩れ込んで来るか分からないという状況だ。
 ロックは動きは素早いが、少女1人を抱えて多人数を相手取るには力不足。
 コールドホワイトは戦闘能力は高いが、閉所での戦闘は苦手な部類に入る。
 自身と相手の実力を考えれば、少なくともナルシェを出るまでは共同戦線を張る必要はあるだろう。

「…ありがとう、モーグリ達。彼女は俺が必ず守り抜く。約束する」

 コールドホワイトへ武器を向けたままだったモーグリ達だったが、ロックの確かな決意を込めた言葉を受け、切先を下げて少しずつ後退し、現れた時と同様に洞窟の奥へと消えて行った。

「プランは?」

 彼らを見送ったロックは、少女を両腕で抱き上げ、コールドホワイトへ向き直る。

「上に俺のスノーモービルがある。その背に負っているのは命綱の類だな? 坑道で見掛けたトロッコとモービルをそいつで固定して突破する」

「随分とザックリしたプランじゃないか?」

「カラテで俺を上回るニンジャ多かれど、モービルの扱いであれば右に出る者はいない」

 この評は一部ハッタリであった。
 何故ならコールドホワイトが死亡したのは、死神とのスノーモービルを用いた雪上戦闘だったからだ。

「信用して良いんだな?」

「元より信用などしておるまい。だが、俺にもモービル乗りとしての矜持がある。俺を信用せずとも俺の矜持は信用して良い」

 睨み合う時間も惜しい。
 少女を確保した2人は階段を昇り、スノーモービルをトロッコの元へと移動させてロックのザイルで連結させる。
 生憎と毛布も枕も無いが、彼女には我慢して貰うしかない。

「行くぞ」

「ああ」

 エンジン始動。炭鉱から響き渡る轟音が、雪降る夜空へ広がって行く。
 ガード達が音を聞きつけ急行するがもう遅い。
 1度目覚めたモンスターマシンは速度もパワーも桁外れである。
 駆け付けた彼らは、坑道を飛び出して既に小さくなりつつあったスノーモービルの背中を呆然と見送るしか無かった。

「(なんだよこの馬力…!)」

 金属製トロッコと人間2人を牽いてなおこのスピード!
 ロックは自分の腕で彼女の頭を保護するように抱えるが、彼自身もガタガタと揺れに揺れる。

「先に言ってなかったが、乗り心地は保証出来んぞ。本来は乗客など想定しとらんのでな」

「だろうな! おかげさまで堪能してるよ!」

 とはいえさすがにルートはしっかり選んでいる。
 この状態で崖からテイクオフなどしようものなら、乗客2人は空中へ投げ出されてしまうだろう。

「このまま南で良いんだな?」

「ああ! 平原を抜けて砂漠へ! そこに協力者の治めてる城がある!」

 街の出口が見えて来たが、ガード達の検問が置かれていた。
 こちらに気付いたガードが慌てて銃を手に取る。

「イヤーッ! イヤーッ!」

 コールドホワイトは左手でスリケンを生成、連続投擲!
 ガード達の腕に次々に突き刺さり、彼らは銃を取り落とす!

「どけっ!」

 速度を緩めぬモンスターマシン!
 雄叫びの如きエンジン音と、恐るべきニンジャ存在感!
 銃を失ったガード達は、たまらず蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行く!

「ゲートを破る! 備えろ!」

 コールドホワイトの忠告に、ロックは気絶したままの少女を抱き寄せるように守る!
 鉄のフェンスを食い破るかのように突破!

「わざわざバリケードまで用意してくれるとは気が利いているな。イヤーッ!」

 通り抜けざま、近くの櫓の支柱へスリケンを投擲投擲投擲! 集中投擲! そして倒壊! ガードによる追撃を阻む壁となった!

「(これが個人の戦闘力かよ…)」

 顔には出さないが、ロックは内心戦慄していた。
 ニンジャ…ごく最近現れ始めたその存在の噂を聞いてはいたが、そのイクサを目の当たりにしたのは今日が初めてだったのだ。

「(確かにこの力がリターナーに協力してくれるとなれば大きい…何より)」

 帝国側にもニンジャが複数雇われている噂が真実であれば、この男を味方に引き入れられるか否かの影響力は無視出来ないだろう。

「ぅ…」

 少女が小さな呻きと共に身動ぎする。
 ロックは自分が思いきり彼女を抱き締めている事にようやく気付いて慌てて力を緩めた。
 スノーモービルは既にナルシェを出て平坦な大地を疾走しているので、さっきまでのように衝撃に備える必要も無いだろう。

「気が付いたのか?」

 少女は上半身を起こし、ぼんやりとした目でロックの顔を見る。

「…私…助かったの?」

「モーグリ達に感謝するんだな」

 ロックに言われ、それまでの事を思い出そうとしているのか、少し考え込もうとする少女だったが、苦し気に頭を押さえた。

「うっ…はっきりと思い出せない…その前も…ずっと前の事も…」

「記憶が無いのか…!?」

 少女はゆっくり頷く。

「でも、時間が経てば戻るって…」

「記憶が…安心しろ。俺が必ず守ってやる。必ずだ!!」

 胸を叩くロックに、少女は驚いたように瞬きした。

「あ…そうだまだ名乗ってなかった。俺はロック。ロック・コール。トレジャーハンターだ」

「ロック…。私…名前は…ティナ」

「ティナか…良い名前だな。…で、そっちのが」

 ロックはスノーモービルを操縦する男へ視線を移す。

「ドーモ、コールドホワイトです」

「コールドホワイト…さん…? 声…」

「聞き覚えがあるか? …意識は封じられても、耳と頭には残ってるわけだ。帝国の兵士として後ろのあの街に来たお前に、俺は同行していた」

 “あの街を襲った”…と言おうとしたが、コールドホワイトは言葉を選んだ。
 今ここでこの娘へ馬鹿正直に“お前はあの街で破壊と殺戮を行った”などと伝え、悪感情を持たれるのは得策ではないと判断したからだ。

「俺もお前も、既に帝国からは追われる身。その小僧の伝手に縋るしか無い立場という状況だ」

「ああ、分かってるさ。2人を紹介する為にも、早く行かなくちゃならない。砂漠の王城…フィガロ城へ」

 白い雪原、緑の平原を駆け抜けた彼らの行く手には、黄金の大砂海が広がっていた。 
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