ニンジャ・イン・ザ・ファンタジーⅥ
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白き極光編
序章
オーロラ・イン・ザ・スチームシティ
前書き
ドーモ、はじめまして、ドラゴンアクセルです。
ニンジャスレイヤー、FFⅥ共に一部原作設定に沿っていない部分もあるやもしれませんがご了承ください。
降りしきる雪と夜の闇が視界を遮る中でも、そこに人が暮らす限り街の灯りは輝きを絶やさない。
炭鉱都市ナルシェ。
街中に設置された無数の大型ストーブを動かす蒸気機関が、雪と競うかのように夜空を白く染める。
その街を見下ろす崖の上に、4つの影が立った。
「あの都市か?」
「魔大戦で氷漬けになった1000年前の幻獣か…またガセじゃねえのか?」
搭乗者の上半身が露出する形となっている人型兵器。
軍事大国ガストラ帝国が誇る主力兵器・魔導アーマーである。
それに搭乗するブラウンの軍装を纏った2人の兵士が、眼下の灯りを眺めながら言葉を交わす。
「フム。だが、あれの使用許可が出るくらいだ。かなり確かな情報だろう」
2人の片割れ、ウェッジが、後方に控える3機目の魔導アーマー搭乗者へ視線を注ぐ。
緑がかったブロンドの美しい髪を、頭の後ろで纏めている少女だ。
幼さを残しつつも整った顔立ちだが、その瞳に光は灯っておらず、額に取り付けられたリングが妖しく明滅している。
「生まれながらに魔導の力を持つ娘か…魔導アーマーに乗った兵士50人を、たった3分で倒したとか…恐ろしい」
もう一人の兵士、ビックスが身震いをする。
「だが、その頭の輪で思考を封じているのだろう?」
それまで黙っていた、スノーモービルに跨がった男が口を開いた。
防寒仕様の白い装束は、ウェッジ、ビックスの鎧に比べると明らかに防御能力に劣りそうではある。
目元だけを露出した頭巾のため、その表情は窺い知れない。
「そうだ。俺達の命令通りに動かす事が出来る。無論、アンタにも働いてもらうぞ」
ウェッジが男へ若干の訝しさを向けながら言う。
「当たり前だ。俺はその為に同行させられたのだからな」
「妙な真似はするなよ。お前がドマ王国のスパイでないとは言い切れないんだからな」
ビックスもまた、彼に対しては怪訝な表情。
「勝手に疑っていろ。だが、雪中のイクサであれば俺に敵はいないぞ。たとえ魔導とやらでもな」
暗に敵対するなら相手になってやる…という意図を込めた言葉を返しつつ男はハンドルを握り、エンジンを蒸かせる。
「東から回り込むのだったな。さっさと行くぞ」
真っ白なスノーモービルが、雪上に跡を残してターンする。
「(怪しい男だが、雪上戦闘演習での活躍は実際目覚ましかった…せいぜい実戦で見定めさせてもらうか)」
3機の魔導アーマーと1台のスノーモービルは、ナルシェへ向けて移動を始めた。
雪が降っていたのは幸いだ。
人々は家に籠り、夜陰も相まって隠密性を高めてくれる。
実際彼らは何の障害も無くナルシェの入口へと至っていた。
「ナルシェは自衛戦力としてガード部隊を抱えている。この娘を先頭にして突っ込むぞ」
ウェッジの指示に従い、少女の魔導アーマーが前衛へと出る。
「目標の幻獣は炭鉱の奥だ! 行くぞ!」
いよいよ街中へと突入が始まった。
さすがに異変を察知したガード達が、詰所から出動し、彼らを迎え撃った。
クリーム色の布装束の下には、軽装ながら黒い甲冑を身に付け、丸盾と小型の鎌、中にはマスケット銃で武装している者もいる。
「帝国の魔導アーマー!? とうとうこのナルシェにまで!」
数人が盾を構えて突進したが、魔導アーマーの胴体から照射された赤い光線に飲まれ、その身体が燃え上がった。
「ギャアァァァーーーッッッ!!?」
「くそっ! 乗ってる奴を狙え! 動かす人間がいなければ鉄屑だ!」
銃を持ったガード達が一斉に狙いを定める。
引き金に掛けた指に力が込められた、まさにその瞬間、前進する魔導アーマーの間を縫って、スノーモービルが前へ出た。
「イヤーッ!」
シャウトと共に逆手に構えたカタナを振るうと、一瞬にしてガード3人の首が宙を舞った。
「ヒィッ!? な、何」
「イヤーッ!」
目の前に落ちた仲間の首に驚いたガードもまた、白い風が通り過ぎると共に同じ運命を辿った。
次いで男はスノーモービルは走らせたままにハンドルを放して跳躍すると、櫓の上で銃を構えていたガードと目線を合わせた。
「え?」
家の屋根よりも高い位置にいる自分と、何故敵の目線の高さが同じなのか?
「イヤーッ!」
そんな事を考えた次の瞬間には、櫓の縁に手を掛けた男の飛び蹴りで首が切断されていた。
彼はそのままの勢いで櫓の反対側から飛び降りると、走ってきたスノーモービルの運転席に収まった。
「速い…」
ビックスが唸る。ウェッジも同様だ。
「実力は本物か…!」
思わず感嘆の声を漏らしたのも束の間、スノーモービルが突如反転し、ウェッジへ向かってきた。
「な、なんだ!?」
「頭を下げろ! 死ぬぞ!」
ウェッジは反射的に操縦席の中で身を縮こませる。
男は近くのコンテナに器用に乗り上げると、ウェッジの頭上を飛び越してカタナを振るった。
「イヤーッ!」
その刃は、彼方から飛来した何かを切断していた。
「!? こ、これは…!?」
操縦席の中に落ちてきたそれは、雪の結晶を半分にカットしたような形状の、薄く鋭利な氷の塊だ。
「ウェッジ! あそこだ!」
ビックスが指差した先。
そこには、家の屋根の上に立つ白装束がいた。
スノーモービルの男よりも薄い布の装束であり、細身だ。
「………」
遠距離攻撃を防がれた白装束は、目を細めてスノーモービルの男を見る。
対するスノーモービルも別の家の屋根の上に着他し、視線を交わした。
そして。
「ドーモ、はじめまして。コールドホワイトです」
開いた左手に、カタナを逆手に握った右手の拳を合わせてオジギをした。
「ドーモ、コールドホワイト=サン。ダイヤモンドダストです」
遠距離攻撃をした側もそれに応じ、両手を合わせ、指先を揃えてオジギを返した。
それは何も知らぬ者からすれば、とても戦闘中に行うような行動には見えないかもしれない。
だが、彼らにとって、このアイサツという礼儀作法は、決して疎かにしてはならない、厳粛な儀式めいた本能なのである。
そう、彼らニンジャにとっては!
「…貴様…コールドホワイト=サンだと…?」
先にアイサツの構えを解いたのはダイヤモンドダスト!
「聞き覚えのある名だ…ドサンコ・ウェイストランドのサンシタがこんな所になんの用だ」
相手の挑発を聞きながら、コールドホワイトはゆっくりとアイサツを解き、鼻を鳴らした。
「コリ・ニンジャクランの一番槍とも呼ばれたニンジャにお会い出来るとは光栄な。ハッ、そちらこそこんな所でせっせと雪遊びですかな?」
両者は直感的に悟った。相手もまた自分同様、この未知の世界で生き延びる為に傭兵ニンジャとなったのだと。
2人のニンジャは、互いの隙を窺うかのように睨み合う。
「お前達は炭鉱へ向かえ。ニンジャのイクサにその鈍重な鎧は付いて来れん」
コールドホワイトは背を向けたままウェッジ達へ告げる。
ウェッジとビックスは顔を見合わせて頷くと、再び少女を先頭にして前進を始めた。
「イヤーッ!」
ダイヤモンドダストはシャウトを発し、一瞬にして両手に雪の結晶を作り出して彼らの背中へ向けて投擲した。
大気中の冷気を圧縮した、氷スリケンだ!
「イヤーッ!」
コールドホワイトも負けじと両手に十文字の黒い鉄塊を生成して投げつけ、相殺を試みる。
ニンジャがイクサに用いる飛び道具、スリケンだ!
ギザギザが多く鋭利な氷スリケンは、通常のスリケンを凌駕する威力を誇るが、連続スリケン衝突を受けて勢いを殺され、離れ行くウェッジ達には届かなかった。
「チィーッ!」
「イヤーッ!」
舌打ちするダイヤモンドダストへ、スノーモービルを駆るコールドホワイトが飛び掛かる。
「ナメるな! イヤーッ! イヤーッ!」
ダイヤモンドダストは両手から4枚の氷スリケンを投擲する。
しかし、暴れ馬めいた馬力のモンスターマシンを巧みに操るコールドホワイトは、まるでウィリーをするかのようにモービル底面を相手に向けると、取り付けられた魔導強化スキー板で氷スリケンを弾いた。ワザマエ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
落下してくるスノーモービルを側転でかわしたダイヤモンドダストだったが、着地と同時に投げられたスリケンが右脚へ刺さった。
コールドホワイトの白装束は、街灯に照らされオーロラめいた輝きを放っている。
「おのれ! オーロラ・ニンジャクランなど、コリ・ニンジャクランの分派でしかない分際で! 本物の雪のイクサを見せてくれるわ!」
言うなりダイヤモンドダストは脚の傷を氷で塞ぎながら、再度氷スリケンを生成する。
しかし、今度のそれは手の中ではなく、ダイヤモンドダストの周囲に次々と生み出されて浮遊する!
コリ・ニンジャクランの者が扱う、サイキックとの併せ技だ!
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
なんたる物量と連射速度か!
さしもの魔導強化スキー板とて防ぎきれぬ!
状況判断したコールドホワイトは、その場でドリフトし、加速して別の屋根へと飛び移る!
無理をして真っ向から戦う必要は無い。
ウェッジ達が幻獣へ辿り着き、回収するまでこのニンジャを釘付けにしておけば良いのだ。
「イヤーッ!」
絶え間無く飛来する氷スリケンを自慢のハンドル捌きで避けながら、時折スリケンを投擲して反撃する。
機関砲めいて弾幕を張る氷スリケンによって容易く粉砕されてしまうが、こちらへ注意を向けておけば目的は達成される。
その時だった。
コールドホワイトとダイヤモンドダスト、両者を同時に悪寒が襲った。
ただならぬアトモスフィアの発信元は炭鉱方面。
「なんだ…? 今のは…?」
ダイヤモンドダストは思わず氷スリケンの投擲を停止してそちらを見やる。
コールドホワイトもまた、一瞬だけ意識がそちらへと向くが、ニンジャのイクサにおいてはその一瞬の差が勝敗を分かつ。
「っ! イヤーッ!」
コールドホワイトのスリケンが、ダイヤモンドダストの両脚へと突き刺さった。
「グワーッ!」
その隙は見逃さない。
エンジンを最大まで唸らせ、屋根から屋根へ飛び移ってダイヤモンドダストへ迫る。
アキレス腱を断裂して座り込んだダイヤモンドダストは氷スリケンでの迎撃を図る。
「オーロラ・スクリーン・ジツ! イヤーッ!」
「グワーッ!?」
コールドホワイトの装束が一際強烈なオーロラ色の光を放ち、ダイヤモンドダストの視界を包む。
距離感、方向感覚、共にあやふや、迫るコールドホワイトのシルエットは朧に波打つ上に幾つにも分身して見え、ダイヤモンドダストは闇雲に氷スリケンを投げまくる。
そして。
「グワーッ!!」
大質量に撥ねられ、ダイヤモンドダストの身体は宙を舞う。
その後を追うように、コールドホワイトは愛機のボディを蹴って跳躍し、勢い良くカタナを振り上げた。
「イヤーッ!」
「アバーッ!!」
首が胴を離れると同時に、氷スリケンが砕け散り、主の身体をキラキラと彩った。
次の瞬間!
「サヨナラ!」
断末魔の叫びを上げ、ダイヤモンドダストは空中で爆発四散した。
宿主を失った事で、エネルギーの行き場を無くしたニンジャソウルの暴走だ。
氷の破片が雪と混ざり合い、夜空を幻想的に演出するが、コールドホワイトにはそれを眺める余裕は無かった。
「何が起きた…?」
彼はそのまま家々の屋根をモービルで飛び跳ねると、街の中央を走る大通りへ着地して炭鉱を目指した。
「ひっ…!」
そんな彼の進路上に、住人と思しき防寒具を纏った男が路地裏から現れ、恐怖の表情を浮かべた。
戦闘音に気付いて様子を見に来たのだろうか。
「………」
以前のコールドホワイトであれば、邪悪な笑みを浮かべ、行き掛けの駄賃とばかりに嬉々として首を斬り飛ばしただろう。
だが、どういうわけか今の彼はモータル(非ニンジャ)を殺す事への快感や高揚感、溢れ出ていた殺戮衝動などが殆ど湧き上がらないのだ。
彼の内に宿る古代ニンジャの魂…ニンジャソウルの脈動が、かつてよりも弱々しくなっている事に起因しているのだろうか?
その影響なのか、以前は人間狩りに狂喜していた残虐性は鳴りを潜め、別人のように…それこそ得意とするフィールドたる雪原のように冷たく静かになっていた。
コールドホワイトは尻餅をついた男に一瞥だけくれるとその脇を走り抜けた。
炭鉱の入口から坑道内に至るまで、ガードや軍用狼シルバリオが焼け焦げたり、感電死して倒れていた。
魔導アーマーの主兵装であるビーム砲によるものだろう。
どうやらウェッジら3人はここまでは滞り無く進む事が出来たようだ。
少し大きめのゲートの向こうでは、巨大なカタツムリの殻のような物が転がっており、これも魔導アーマーによる損傷が見られる。
モービルから降りて中身を覗くと、既に息絶えていた。
「なんだこれは…ヨーカイの類か?」
この世界に来てから、通常の生き物やバイオ生物と大きく異なる怪物を多数見掛けたが、これほどの巨大な物は初めて見た。
「…この先か」
先ほどの悪寒は、こいつではない。
だいぶ通路が狭くなってきたので、モービルは手で押して進む。
「ムッ…」
突き当たりの小部屋に入った瞬間、背筋が凍るような感覚を味わう。
それはまるで、ニンジャソウル自体が恐れを抱いているようにも感じられた。
コールドホワイトの見開かれた瞳孔、その視線の先には、長大な蛇に鳥の翼が生えたかのような怪物が氷漬けになっていた。
「これが…奴らの言っていた幻獣という物なのか…?」
半ば魅入られるように視線を外せなかったコールドホワイトだが、頭を振って正気に戻る。
そして周囲を確認する。
幻獣の近くには爆発四散跡と魔導アーマーの残骸が散乱しているが、誰の死体も転がっていない。
いや、そもそもにして目を凝らせば残骸は魔導アーマー1機分しか無いように見える。
加えて、彼のニンジャ観察眼は見逃さなかった。
アーマーの残骸から、誰かが引きずり出されたような痕跡を。
損傷が激しく、ウェッジ、ビックス、魔導の娘…誰の機体なのかは判別できないが、少なくとも1人は生存の可能性が残っている。
しかし、最大の問題は幻獣だ。
自分1人でもこれを回収し帰還するべきか?
それとも生存者と合流してからか?
「ヌゥー…」
コールドホワイトは幻獣を見上げる。
未だ生きて、意思を持っているかのようなその視線が彼を射貫く。
ザワザワとニンジャソウルが萎縮する感覚に、思わず後退る。
本能が告げている。逃げろ。ここにいてはならない。
「ッ…!」
不意に背後から気配を感じた。
10人ほどか?
「幻獣は無事か!?」
「帝国兵は!?」
状況判断だ。
支給されたデバイスで幻獣の姿を記憶素子へ収めると、素早くモービルへ乗り込み、火花を散らしてターン。
愛機に多少の傷が入ってしまうかもしれないが、背に腹は代えられぬ。
「お、おいっ! 貴さ…」
ガード達がこちらを発見して声を張り上げるが、聞く耳持たぬ。
行く手を阻む敵に構わず急加速し、強引に突破した。
「帝国兵だ! 帝国兵が逃げるぞ!」
ガードは慌てて銃を構えるが、壁を走るように角を曲がったコールドホワイトを捉える事は出来なかった。
追手を振り切り、高台に登ったコールドホワイトは、街の中でやや大きめの家を視界に収める。
「ここを開けろ! 魔導アーマーに乗っていた娘を出せ!」
「そいつは帝国の手先だぞ!」
騒ぎながらガードが扉を乱暴に叩いている。
「生き残りはあの娘か…」
コールドホワイトは顎に手を添えて沈思黙考する。
思考を制御してまで運用し、さらに作戦への投入には相応の手続きと許可を要する魔導の力を持つ娘。
「…利用出来るか」
とある思惑が浮かんだその時、家の裏口から見覚えのある少女が飛び出し、辺りを気にしながら走り出した。
制御を脱したのか?
「ソウカイヤ、ザイバツ、アマクダリ…何もしがらみの無いこの世界…これが夢でなく、思いがけず得た第3の生ならば、己の為にのみ生き足掻くも一興」
凍りかけていた魂に、熱が灯り始める。野心の熱だ。
ドサンコ・ウェイストランドの雪原を縦横無尽に疾っていた頃の、戦士の矜持が蘇る。
愛用のスノーモービルに跨がったコールドホワイトは、相棒のボディを1度だけ擦った。
「コイツと共に駆け抜けてくれる」
エンジンが唸り、高所から飛び出した白い風は、少女の消えた坑道へと走って行った。
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