外道戦記ワーストSEED
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閑話 月の戦乙女達①
前書き
この話に全く関係ない話ですが、オーブの国営企業モルゲンレーテ社は地上一と言われるくらい非常に技術力が高く、一度完品を見れば、ジンの複製品をすぐ作れたらしいよ!しかも、同じ中立的立場から、どの陣営とも商売できるジャンク屋連合とも仲が良いんだ!
『蜘蛛の糸』という寓話をご存知だろうか?
簡潔に言えば、カンダタという一人の男が、蜘蛛を救った見返りに、罪により投獄されていた地獄から這い上がるために垂らされた蜘蛛の糸を自分の行為による成果だと独占しようとし、結果としてその浅ましさから一緒に蜘蛛の糸にぶら下がっていた亡者と共に糸ごと落とされるお話。
『他者を貶め、自分だけ助かろうとした者には罰が下る』
なるほど、教訓を込めた寓話として、納得できる話だ。
だから、ここからは言葉遊びの世界だ。
このカンダタとやらが、逆に優しすぎて、地獄の皆に綱を渡して皆天上に上がってしまったら。
それはそれで困らないだろうか?
「という訳で、世界中から恵まれないコーディネーターを取り揃えた、世界樹女士官学校の居心地はどうですか〜?」
「煽り言葉に心が死にそう」
わざわざ古典の『蜘蛛の糸』の紙芝居を出したと思ったら、煽り散らかしたイヴに、心の底からの感想を伝えるジョン。
その横には、オロオロと戸惑う『二人』の女性がいた。
対象的な少女である。
腰まで伸ばした、艷やかな黒髪。
穏やかで整った目鼻立ちは、なるほど、かつて居た日本で言う、『大和撫子』とはかくあるべきという容姿であろう。
……まあ、少々下品な言葉を使うならば、パイロットスーツからも分かる胸部の盛り上がりが、未だ現役であるジョンの劣情をこれでもか、と刺激するのが問題か。
後述する理由のため姓を捨て『ミモリ』とだけ呼ばれる女性である。
もう一名は、反対に、全身でエネルギッシュであることを表しているかのようなスポーティな少女である。
特徴的な桃色の髪色の長髪をポニーテールに束ね、ぴったりのパイロットスーツで、その鍛錬の跡が見られる女性的な丸みと筋肉質な部分が合わさった惠体を見せる彼女は美しかった。
『ミモリ』同様、姓を捨て『ユウナ』とだけ呼ばれる女性である。
さて、現実逃避はやめて話を戻そう。
「すまないな。二人には全く文句はないよ。そもそも、君たちのような魅力的な容姿の女性を口説いておいて、そういった事を口にするバカは死んだ方が良い」
会議の時とは違う、困ったように照れて頬をかくジョンに、今度は逆に二人が赤面する。
その二人の表情に、ジョンは改めて、あの時の選択を肯定した。
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地球連合という組織が、自身の知っている宇宙世紀の地球連邦よりも、更に地域別でバラバラな組織であることは実感していた。
というか、ジョンが初めてモビルスーツを敵に向けたのは、ザフトに寝返ろうとした地球内の連合に対する反乱分子の鎮圧である。実感もくそもなかった。
そして、『この世界特有』で、その互いの仲の悪さを更に難解にしているのが、コーディネート技術であった。
強化人間手術と違い、民間のある程度の技術力があればできてしまう手術であり、更に基礎技術がインターネットにより一般的に流布されているとあらば、まあ起こるのは互いにその技術を競い、利益を求め合う争いである。
それが命であるという倫理的な枷も、『皆やっている』『子供の為だ』という上っ面の正論や同調圧力により容易く流された。
結果、ザフトと地球連合という決定的な敵対の前に誕生したのが、プラントのザフト生まれではない、多数の『どちら側でもない』コーディネーターである。
生まれる前から既に決定付けられる才能や肉体的スペックの違い。
そこにナチュラルが嫉妬や羨望を抱くのは、罪ではない。
生まれる前から親から与えられたものに、妬み嫉みをされても困る。
そう、親にコーディネーターして作られた者がいうのは気持ちとしては理解できる。
だが、時代はそれを許さなかった。
彼らの運命を語る前に、今の世界の『一般の人々』の生活を語ろう。
元々バックにいるアズラエル財閥が準備してくれていた大西洋連邦や、地熱発電やモルゲンレーテをはじめとした異常に優秀な国産企業を抱えるオーブ以外が、『エイプリルフールクライシス』によって、国の運営自体を機能不全に追い込まれたのは、前に話した通りだ。
そして、上の二国が中心となり、各国の人民が追い詰められすぎて地上を地獄絵図にしないため、可能な限り周囲の国に施したのも本当。
で、ここからが本題だ。
オーブや大西洋連邦、果てはブルーコスモスに至るまで、地球圏の経済活動を停止させないために、飢え無いようカロリーベースで計算し、食料を供給した。
勿論、食べなきゃ腐ります、などという騙しは無しで、栄養たっぷりの保存食やパッケージした飲料を運び、とりあえず当座飢え死にしないように定期的に食料、水分を補充はした。
ちなみに、原作より多くの命が生き残ったのに、よく人々の食料賄えたな、という問題の解決法は皮肉にも、世界樹防衛戦のサイクロプスによる自爆より生み出された。
この味方ごと焼く後先考えない作戦は甚大な被害をザフトに与えた上で、ザフト側の政治活動にも影響を及ぼしたのだ。
圧勝だと思っていた作戦で多大な損失を与えられた今作戦は、理由が自爆なため誰かに責任追求の手はのびなかったものの、それ故に、次に自爆作戦に巻き込まれた場合その戦闘を指示した議会が責任を負わされることは必須なため、ザフトの議員達は誰もが大軍を動かす作戦に消極的にならざるを得なかったのである。
結果、互いに決定力を得るまで攻めないという危うい均衡の中で、多くの一般市民は生を拾った。
じゃあ、これで問題は解決したと言えるのか?
違う。
『生きていける最低限の栄養だけを摂取して、ゴールの見えない日々をただ、過ごす』
残念ながら感情のない機械ならともかく、人間は、そういった外部から強制された節制や制限に、非常に強いストレスを感じるものである。
しかも、天上には、自身を追い込んだザフトが、地上では施している側の大西洋連邦やオーブ、または一部の金持ち達が不自由ない生活をしているのが分かるならなおさらである。
味気のない、栄養だけの保存食に味のついていない真水のみの生活に、多くの人間はうんざりし、ストレスを日々溜めていった。
で、まあありがちなのが金持ってる国に戦争だー、とかなのだが、実はこれ、他でもないザフトのせいで阻止されていた。
ニュートロンジャマー、電波を邪魔するため、近代戦のような小さな通信機器での連携した戦闘ができないのである。
あれもだめ、これもだめ。
そういった状況で、更なる不幸が彼らを襲う。
散発的に起こるザフトの偵察行為と、それに伴う戦闘行為である。
ここで、一度各国のストレスはピークに達し、酷い所では死傷者が出るナチュラルとコーディネーターの諍いが各地で起こった。
困ったのは地球連合である。
正直、多数のブルーコスモス派閥にとっては、コーディネーターの命なんてどうでも良かったのだが。
この困窮のさなか、何の益にもならず、貴重な資源を無駄にする内乱を放置するほど、馬鹿ではなかった。
結果、地球連合は一つの解決策を打ち出す。
民度低下を防ぐため、コーディネーターの家族、関係者などを地元から離し、地球連合の支配地域に一旦隔離し、当のコーディネーターは戦闘可能年齢の場合、強制的に軍に『徴兵』するという指示を出したのである。
これは、結果的に成功した。
反乱を防止するためモビルスーツにも乗せず、銃器も持たせたくないので従軍もさせないなど裏に多大な意図があれど、家族の安全が図られたコーディネーターは作られた強靭な肉体で復興支援活動、薬剤の生成などの医療行為から、果ては草刈りなど多岐にわたる仕事でその優秀っぷりを発揮し、結果、マンパワーにより多くの国の復興の役に立った。
まあ、仕事の割に給料据え置きなどピンハネはされたが。
で、前置きが長かったがここからが本題である。
彼らはコーディネーターであり、更に上記の理由があれど軍事基地に所属している。
通信機器は長距離は通じず、クォーターガンダムの正規パイロットは各基地居ても三人、小隊規模。
しかもその指揮権は、自分達にはない。
ここで各国の基地の上層部は色気を出した。
『裏ルートでモビルスーツ組み立てて従順なコーディネーター乗せても、バレないんじゃない?』と。
そうやって東洋のとある基地でおそらくジャンク屋連合からの横流しの中古ジンに載せられていたのが彼女達である。
まあ罪状が横流し品による無許可の戦闘行為だ。
当然、アズラエルはブチ切れた。
まあ、しかも機体そのものは横流し品でも、銃弾や武器そのものはガンダムの予備からパクってたからね。立派な支給品横領の罪もつく。
手錠を掛けられた彼女達を前に、青筋を立てて切れているアズラエルが事情を話した上で…‥
「ジョンがいらないなら決死隊にでも志願させるけど」
という言葉に、全員揃って
「「「私が志願するので他の皆助けてあげてください!」」」
というのを見せられて、見捨てられる人はいるのか、いやいないでしょ、である。
そっからは大変だった。
なんせスタートがメンタル最底値のギャルゲーだ。罰ゲームかよ(本音)
一人ひとり話を聞き、励まし、宥め、好きなこと、趣味を聞き……
前職がホストなのも功を奏したのか、もはや飯と寝るとき以外はずっと君たちの事考えてるよというくらいベッタリケアしたので立ち直ってはくれたが、よほど前の基地の上層部にトカゲの尻尾切りされたのがトラウマなのか、俺の対応が不味かったのか、好意で転属を仄めかすと刃物持ち出してくる病み具合になるとは欠片も思いませんでした。(大本営発表)
「あの……ジョン大佐、私達全勤で働いたので2日間非番なんです!少し夜にお話したいなあ、なんて」
おずおずと予定を聞いてくるユウナ。ありがとう、最初は皆死んじゃえ、とか言いながらミットを殴ってたのが嘘みたいだよ!心配だから予定開けるね。
「私も、ユウナちゃんの後で良いので話を……」
そんな、ミモリくんも遠慮しなくていいよ。仲良いキッチン担当が早めに包丁一振り行方不明な事教えてくれなかったら、自分のお腹裂こうとしてたでしょ。絶対油断しないから。
「大丈夫、部下のメンタルケアも仕事だから、必ず予定空けるからね!」
そういって必死で電子スケジュール表を整理するジョンに、ふふ、と邪気のない笑みを浮かべながら、聞こえないほど小さな声でイヴは呟いた。
「そうやって馬鹿みたいに不幸な人を放っておけずに背負うから、皆貴方に思慕の念を抱いちゃうの、貴方気づいてないでしょ」
そう呟いて、イヴはそっとジョンの背中を指でツンツンと突ついた。
後書き
他にも何人もいるけど、全員ジョンが救ったよ。
ちなみに屈強な男をパイロットに仕立て上げるとすぐバレるからという理由で彼女達を違法パイロットにした上で売った基地司令は、何故か急病でこの世を去ったよ!
アズラエル「私は何もしませんよ、としか約束してませんからね、外道に切れた甘ちゃんの死神が何をしても、私に静止する義務はありませんね」
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