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外道戦記ワーストSEED

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流星になった漢達(後編②)

 
前書き
なんとか更新出来ました!

読んで頂いている皆様に感謝を。 

 
「さて、各国の皆々様の情報交換も済んだことですし、次の話に移らせて頂きます。各国から情報媒体にてデータは頂いておりますが、この後のディスカッション等で追加で気づいた事がございましたら、遠慮なく近くの議事運営担当官にお申し出下さい」

数十分の休憩をはさみ、ジョンはそう、アナウンスした。

同時に、熱心に話し合っていた各国の担当官が自席に戻る。

まあ、ここまで人が集まって協議するのだ。当然、代表として来ている人員は、ある程度の権限と知識を持っている人間が来ている。

おそらく、近隣諸国で協力出来る範囲を決めて、弾薬や人員等、作戦に必要なモノを融通するのだろう。

良い傾向だ。これで少しでも欧州やアフリカが戦力化してくれれば、少しは大西洋連邦の負担が減る。

地球連合の最大手として、有形無形の支援を行っている大西洋連邦。

戦後の地球圏の舵取りを狙うアズラエル財閥の支援と、戦勝国(地球圏の親プラントの国を凹ませた件)である程度の余裕はあるが、あくまで『ある程度』である。

自ら考え、自衛してもらうことに越したことは無かった。

だが、ここからはだいぶ厳しいことを言わなければならない。

「続いては全世界で猛威を奮っている水中型モビルスーツ『グーン』だが……これについては現状最も勝率の高い戦法は『モビルスーツとの戦闘を熟練のソナーマンを用いて徹底的に回避、モビルスーツの帰還の際にそれを追跡し、捕捉した敵母艦、又は基地を撃沈』しか現状方法がない。」

途端にざわつく周囲。先程の静止で辛うじて『ざわつく』で済んでいることを了解しているジョンは、更に続けた。

「言っていることが無責任に聞こえて申し訳ない。ただ、一つ了解してほしい。我々は既にクォーターガンダム完成時に、『ナチュラルパイロットの操作可能なOS』以外は、一応ではあるが量産モビルスーツを完成させているのです。だが、最後の一つが出来ていないので戦えない。そう、まだ陸地ですら対モビルスーツ戦は出来ないのです。」

痛いところを付かれ、皆のざわつきが止まる。

まあ、それはモビルスーツ開発に携わっている俺の口から言えて良い台詞じゃねえけどな。

心の中でだけ、そう悪態をつきながら、ジョンは続ける。

「この状況で、更に対抗して水中モビルスーツをOS込みで、となると更に時間を要する。無論、対策と開発は進めるが、メインであるハルバートン少将の量産型の基礎となる機体が最優先になるのは了解頂きたい。コーディネーター側もソレが分かっている故に水中モビルスーツの武装が『対艦艇用』なんだろう……しかし朗報もある」

相手方、ザフトも馬鹿ではない。

組織の大きさに対し、余りに少ない此方側の現状の運用モビルスーツの少なさに、地球連合のパイロットの少なさはバレているだろう。

だから『パイロットが用意できなくとも有用な技術だけコピーする』

533mm7連装魚雷発射管

1030mmM-70スーパーキャビテーティング魚雷

フォノンメーザー砲

グーンの全体図と共に表示されている、搭載されている武装のうち、3つにアンダーラインと共に『解析完了』という文字がつく。

「取り急ぎ、水中にて効果的である武装はコピーし、新しく建造する潜水艦には搭載できる準備は整えた。各国用のデータディスクに詳しい仕組みが載っているので、活用してほしい」

これについては、海洋国家であるオーブが全力で解析し、データをよこしてくれた。

まあ、間違いなく自国防衛のためだが、ここまで早くデータを貰えるなら文句はない。

その言葉に少し顔色をよくする面々に、言葉を重ねる。

だが、話すのは良いニュースばかりではない。

役目とはいえ、やな立場だなと思いながらジョンは言葉を続けた。

「だが、相手を倒す『矛』をえたとしても、過信は禁物だ。原則艦艇による有視界戦闘が不可能な水中を自在に飛び回り、対艦性能に優れた迎撃武装を持つモビルスーツに直接つっかかるのは不可能。それは港を持ち、実際船舶を潰された各国が痛感していることだろう」

そう指摘された、特に領海が多く海に面した対象の国が悔しさに唇を噛む。

この機体、『グーン』の厄介な点は、鈍重さと引き換えに得た装甲で、ある程度の深さまで潜れる上に、何故か機体が潜水状態にある状態で有視界戦闘が出来てしまう点にある。

通常、潜水艦は『ソナー要員が戦闘の要』と言われるほど、音を中心とした索敵が中心である。

これは書物からの受け売りだが、潜水艦が視界に頼らず、窓もないのはそもそも水深100m程度を越すと光が届かないため満足な視界を確保できず、更に窓やライトのガラス類は外圧で破損してしまう可能性が高いからなのだが、どんなマジックなのか、彼らはどういう訳か短期間でその課題をクリアし、実際にモビルスーツを建造し、運用している。

なんで海がないコロニーでここまで早く水中型モビルスーツなんて完成させてんだよとか色々言いたいことは沢山あるが、とりあえず無視する。

出来てるものは仕方ない。

問題は、仮に水中型モビルスーツを後追いで作ったとして、現状では運用できない点である。

まず、戦う舞台が『水中』なのが足を引っ張る。

当然な話で、何いってんだ今更と思われるが、機動力に優れたモビルスーツを運用する戦闘は、まず双方ほぼ同時にモビルスーツを出さなければ話にならない。

で、グーンを一から開発したザフトと違い、水中との戦闘を想定してなかった地球連合軍はモビルスーツを運用、整備できる設備を内蔵した艦艇を持っているか。

勿論、一隻もない。

その場合、水中型の機体を万一開発したとしても、襲われました、と言われてから陸地にある港から飛び込むはめになる。

間に合う訳が無い。

更に、このグーンのデータは幸運にも、単独行動した機体を命がけで魚雷等により中破させ、拿捕したものを使用しているが、ここで解析中に判明した、まあ少し考えれば当然な問題が発生する。

全く別、とはいわないが、勿論、水中運用に際して、操作系統を変えているのだ。

これは、陸上で歩くモビルスーツすらまともに動かせない我々にとって、致命的だった。

それは更にモビルスーツ開発が遅れることが決定的になったことと同義なのだから。

その事を噛み砕いて説明を終えた頃には、多くの会議参加者は頭を抱えていた。

たとえ事実でも、これ以上ネガティブニュースを与えても碌なことにならない。

そう判断し、あえてジョンは『バクゥ』の説明を簡潔にした。

「申し訳ないがアフリカ中心に砂漠にて運用されている4足歩行型特殊モビルスーツ『バクゥ』についても同様だ。コーディネーターですら、二足歩行のモビルスーツを運用困難と判断し四足歩行にしたと思われる、砂地の上での通常歩行可能な陸地とはまた違った戦闘。これを同じ土俵で撃退するには時間が必要。だからこそ、無理に反攻作戦を行わず、『コレ』で遅滞戦闘を繰り返し時間を稼ぐ」

画面に映るのは、小型艦艇と、モビルスーツを繋ぐ専用コネクタ、更に専用のヘッドパーツに換装したクォーターガンダムであった。

「無理に占領された地域を守らない代わりに、この機体に何体がを換装させる。この換装パーツ『アポロンアロー』は、大型バッテリー直結というデメリットこそあるが、それに見合うメリットを持つ、これを見てほしい」

眼の前に映る映像、特異なヘッドパーツにより望遠機能が拡張され、より遠くの対象をロックする機体、そこへコネクタに繋いだ筒から発射される荷電粒子砲と、綺麗に筒型に貫かれた鋼鉄製の対象物に、会議室のあちこちから快哉が上がった。

「皆様にお披露目するのは初めてですが、ビーム兵器の運用を我々は成功させています。今は歯がゆい思いをするかもしれませんが、耐えてさえ頂ければ必ず、我々が宇宙の脅威を駆逐してみせます」

まあ、実は数ヶ月前にブレイクスルーがあり、小型ジュネレーター内蔵で直接モビルスーツにコネクトできる機体は完成しているが、それについては一切口にしない。

最先端技術であり箝口令が敷かれているのもそうだが、この技術、最新型バッテリー技術と併用しても、長時間稼働に向かない、とお墨付きをもらっているからである。

これが試験機体群(GOT計画)では承認されるに至ったのは、ひとえに高速充電可能な母艦、アークエンジェルとセット運用だからだ。

(まあ、大量のモビルスーツを運用してるザフトのプラント側ならそういった母艦、大量にあるかもしれないが。モビルスーツ配備したばかりのモビルスーツ素人の地球連合にゃあ叶わぬ夢)

とどめに、地球上は今、深刻なエネルギー不足だ。エネルギー食いの機体なんか渡しても、持て余すだけだろう。

(実験のため、って名目で、セット運用のモビルスーツのキャリートラックには、折りたたみ可能なソーラー充電システムも搭載してるし、用途も事前に聞いてるから悪路でも走破できる。『別の運用』も考えるなら、これがベターだろう)

例えば、食料や水の運搬の際、固定さえすればモビルスーツの代わりに載せて高速で目的地に届けることが出来る。

無論、アポロンアローの充電と運用が最優先だが、余った電力があれば、例えば電力を用いて地下深くから水をポンプで汲み出すシステムに充電もできる。

三本の矢、ではないが、このアポロンアローはただビーム兵器で敵機を倒す機体として開発した訳では無い。

そこに気づいた何名かが、用途について聞いてくるが、『現場判断で臨機応変に、ただし配備可能台数はそこまで多くない』
と許可と同時に釘を刺す。

何処も懐が厳しいのは理解しているが、こちらを魔法の財布と勘違いしてタカられるとこまる。

その返しのニュアンスから気づいたのだろう。アフリカ諸国の面々が、それぞれ仕草で感謝の意を伝える。

それに手を軽く挙げ答えながら、ジョンは最後にこう答えた。

「散った多くの命に報いるため、ここでぐっと耐えて、勝ちましょう」

返答は、万雷の拍手で応えられた。

流星になった漢達(後編②) 
 

 
後書き
拍手で返したのはこの血で贖う遅滞戦闘に同意した故ではない。

命がけで最前線で生きた情報を得て我々に還元しながらも、一切恩に着せないジョン大佐の高潔さに敬意を表してである。

とある会議参加者の手記 
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