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不遇水魔法使いの禁忌術式(暁バージョン)

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4話

「いい、普通は魔法は術式を意識して組み上げそれに魔力を通すことで発動するの」

 俺はサーシャの言葉を聞きながらゴーレムの動きを見る。何が起こるか見逃さないように気をつけながら意識を目の前の敵へと集中させる。サーシャはどこか落ち着いている。サーシャにとって戦いの場は慣れた物なのか、それともこの状況を切り抜けられると確信できるような要素があるのだろうか。

「並の人間はそう、でもあなたは特別」
「特別って?」

 ゴーレムと真正面から戦うために走りだす。出来るだけサーシャが揺れないように気をつけたいけど不安定な砂場じゃ難しい。時折飛んでくる造られた岩石が直撃しないようジクザグに曲がりながらも走る。

「あなたの体に術式が刻まれているの」

ヒトやモノに術式を仕込む方法がいくつかあるとサーシャは言う。条件はあるとのことだがオレの身体には思っていたより色々と仕込みがあるらしい。俺たちに当たるコースの岩を切り払う。

「だからあなたはその幾つかの術式は感覚的に発動出来るのだけど…今回は私が発動の手伝いをするわね」
「わかった!」

身体の中で炎が吹き荒れるような力が渦巻く。そして『身体強化』されている状態で一歩踏み出す。今までとは違う加速力だ。全体的に筋力が跳ね上がるような感覚へとなり事実今までのペースだとゴーレムの魔法によって飛んでくる石礫などこの力が保てる限り当たることはないと確信する。それはそうとこの力の出力に戸惑ってるのが俺なんだよね。

「っ!」

そんな力に自惚れそうに、酔ってしまいそうになるが腕の中の重さに引き戻された。万が一にも転ばないように、サーシャを抱える腕に力が入りすぎないように気をつける。

「ガァァ!」

そしてもはや石礫など意味がないと思われたのかゴーレムは飛ばしてくるのを止め、向かってくる俺たちへその不吉に尖る爪めいた物が着く巨人のような腕を振り上げ容赦などなく叩きつけてくる。

「そのまま剣を振りぬいて!」
「ふぅ…しゃあっ!」

そして俺は真正面から振り下ろされる巨大な腕へ向かい剣を力一杯振り上げた。ガキンとぶつかる音が響き一瞬火花が散る。爪のようなモノが掠らないように力を込めて抵抗し拳をおしあげていく。

「はぁぁ!」

気合いを入れて声を出して力を込めてじわじわと押し返す。緊張感が高まるがここまで来ると逆に心が落ち着いてくる。

「ゴァァ!」

ゴーレムは自損も恐れずに自分の腕ごと壊すように俺へと拳を振り下ろされる。そして俺は全力で相手の拳を逸らすように上へかち上げながらも地面を蹴り後ろへと飛び下がっていく。

「っと、舌噛んでない?」
「え、ええ大丈夫よ」

足だけでは止まりきれずに地面へ剣を突き立てて減速し不恰好ながら止まる。それにより砂が飛び散り砂煙が立つ。ゴーレムは自分の腕を壊すだけだったようだ。サーシャには止まった勢いがキツかったのかもしれない。耳元へサーシャの声が聞こえてくることにはまだ慣れない。だけどようやく戦いの雰囲気や今の体の動かし方には慣れてきた。

「ふぅ…すぅ…」

片腕を自ら潰したゴーレムを見て息を整える。ゴーレムが魔力を使い周囲の砂を集めて腕を再生させようとしていくのが感覚でわかった。

「サーシャ…突っ込むぞ!」」
「っ」

そうして俺は足へ力を込めて前へとゴーレムへ向かって踏み込む。サーシャは俺の体へしがみつくようにし腕へ力がこもっている。風が後ろへ流れていくのを感じ、そしてゴーレムは腕を再生するのを中止し俺を迎撃するように残った腕をもう一度振り下ろされる!

「ゴァァ!」

雄叫びを上げるゴーレム、振り下ろされ…俺はそれに合わせて跳びその巨人めいた腕を足場に勢いのまま空中へと浮かぶ。

「術式…魔法…こうだな」

今でもサーシャが俺を介して『身体強化』の効果のある術式を発動している。なら感覚的には俺が術式を、サーシャがくれた力を使えない筈がない。

そして俺の中にある術式を意識して引き出し起動し風に乗るように、足場にするようにし宙へ発生した魔力で出来た光る魔法陣を足場へしゴーレムへ向かって堕ちていき剣を振るう。

「いけーっ」

振り下ろされた刃はゴーレムの腕を肩から切り飛ばし、ドスンとゴーレムは倒れこみその衝撃で地面は少し揺れ砂が跳ねた。

「ゴ…ガ…」

そして巨体は仰向けに倒れ呻き声のような不快な音が鳴りながら動きを停止する。

「そのままゴーレムの魔力の集まっている場所を貫いて!」

俺はサーシャの言った言葉が聞こえてすぐに倒れたゴーレムの身体を駆け上がり胴体の人間に当てはめるのなら心臓の部位にあるコアのようなモノを感じ取り剣を突き立てたのだった。

しばらく押し込むとパキリと何かガラスにヒビが入るような音がしてゴーレムの末端から崩れ始めた。

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初めての戦いが終わった俺はお疲れ様と労いの言葉をかけられて魔法の解かれ重くなった身体で休息を取っている。サーシャがゴーレムに用事があったというのも理由の一つのようだが。

「…人が一つ持つ属性は大まかに4つに分けられそれぞれに出来る事や術式との相性があるの」

『火』『風』『水』『土』に分かれている属性。例えば『身体強化』で最も筋力を、パワーを発揮できるのは『火』であったりとか目の前のゴーレムのような魔法と最も相性が良いのは『土』、次点で『水』、『風』と『火』は物質へ直接干渉するのは不得手だというように相性が存在するらしい。

サーシャはゴーレムの残骸を漁りながら俺へと魔法を簡単に説明してくれている。

「…一つ持つ属性か…俺は何の属性の魔法を使っていたんだ?」

興味もあるがさっきの戦いで俺が使った魔法について思い返して聞いてみた。

「まずは『火』と『風』は使えていたわね」
「それと間違いなく『水』も使えるわ」

この調子だったら『土』も問題なく使えそうねとさっきの説明と思いっきり矛盾する発言が聞こえた。

「ううん…?…どういうことだ」

思わず疑問を口に出す。

「……私が治した時にはあなたは魔力は持っていなかったの」
「契約をして繋がったからかあなたの記憶を少し覗いてしまったのだけど」
「本当に異世界から来たってそれで信じれたのよね」

「えっとちょっと脱線したけれど…まず治す為に魔力を受け入れる器へと体を作り替えたの」
「そして今はまだ何色にも染まっていない器に………使えるだけの魔力を持ってきている状態なの」

何処か言い淀む箇所があったけれど途中ほんとに成功していたのね、なんて冗談めかしていってくすりと笑ったりと何処か楽しげに話している。きっとサーシャは魔法のことが好きなのかもしれない。

「だからあなたは全ての属性が使える…はずよ」

「そっか…ありがとう」

そうして力をくれたことに感謝を告げる。

「…何度も言うけど私のためよ?」

俺は助けられたというのに自分を悪人だとでも思っているのだろうかサーシャは。俺は変わったというよりまるで進化したと言われてもおかしくないぐらいになってしまった気もするけど。それがサーシャの為に戦うというのが”NEOカズキ”の生き方だとカッコつけて言いたいくらいだというのに。

サーシャはゴーレムの残骸から目当てのものを見つけたのかキラキラした宝石のようなモノを手にして残骸の一部に座った。

「これからも今回みたいに一歩間違えたら死んでしまうようなことが起こる旅で…」
「それなら俺が戦えるようにしてもらってよかったな」

まるで自分のせいで俺が戦っているとでも言いたいのだろうか。俺は俺が選んだから頑張ったのに。

「きっと色々トラブルに巻き込まれるわ」
「その時は抱えて逃げようとしてみるのもいいかもな」

むしろ俺も異世界人だし思わぬトラブルを起こすかもしれない。

「もしかしたら追われる身になるかもしれない」
「俺の帰る場所はここにはない…だから変わらない」

俺は元の世界に帰りたいと今でも思っているだけど…サーシャを放って置きたくないという思いが今は強い。

「それに俺は約束しただろ…キミのために戦うって」

サーシャは俺が引くことはないのだと理解したのか呆れたヒトを見るような目で見て。

「馬鹿な人ね」

サーシャはそう楽しげに言っていて…目が合った。

「でもそうね…約束通りに私を守ってくれてありがとう」

そして二人きりの月明かりのしたでサーシャは微笑んでいた。

何か思い詰めている、裏があるのだと誠意を持って示しているサーシャだけど俺はその笑顔を見てなんだかとても嬉しいような、助けられたように思ってしまった。
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