不遇水魔法使いの禁忌術式(暁バージョン)
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3話
俺とサーシャは崩れる遺跡から脱出したのだった。脱出というより何か遺跡を維持するモノがなくなったから崩壊したように見えたけどそこあたりはもう無い場所を気にしても意味はあまりないだろう。そんなことを考えながら俺にはない土地勘のようなモノがあるサーシャの案内にしたがって一緒に夜の砂漠を歩いて進んでいく。
「…北の星があれで…川の流れは大きく変わってなければいいのだけど…」
サーシャはどう旅をすれば良いのか知っているようだ。俺は何か役に立つことはできるだろうか。
(あっ…スマホとか学生カバンとか置いてきちまったな)
(…こういう時にコンパスとかあったら…いや異世界だし使えないかなぁ)
そういうものが使えればとも思ったけどまあバッテリーも少なかったし自分の血で汚れた物だし問題はないだろう。
(それに…)
俺はベルトに引っ掛けるようにしている剣を撫でるように触る。俺はあの時にどうしてカバンではなくコレを咄嗟に掴んでしまったんだろうか。
それより気になるのは俺に何をさせたいのかだ。直接聞くと答えてくれるかどうかはまだ人柄を掴みきれていないし段階的に聞いていきたいが、そもそも俺に出来ることなのかとか俺もサーシャのように魔法を使って戦えるだろうかとか聞いてみたいことは多い。それにもしあまり役に立てなかったら正直かなり凹むから先に知っておきたい。
「よし…こっちで合ってるわね」
周囲の景色を眺めながら道を決めていくサーシャを見ながらタイミングを見計らい俺は尋ねてみることにした。
「…今聞くようなことじゃないかもしれないけど…サーシャみたいに俺も魔法って使えるようになれるか?」
サーシャが振り返って俺と目が合う。真剣な表情をしている。夜の砂漠の今の雰囲気に合ってるなとつい自分から聞いたことから外れたことをつい思いながら話を聞く。
「ええ、出来るわよ」
「今まで魔法を使ったこともないそれでもそれで戦えるようになれるか?」
「あなたは魔法がない此処ではない世界から来たんだったわね…だからあなたを助ける時に魔法を使えるようにした」
…異世界から迷い込んだことを話したっけ?怪我して朦朧とした時に話したのか魔法使いなら記憶でも覗かれたのか?まあそこあたりを話す手間が省けたと思えばいいのかな。
「使えるように…?」
「ええ…あなたの体を戦えるよう魔法を仕込んで弄ったの…実際今あなたは疲れてないでしょう?」
言われてみると体が軽い、手をグーとパーと動かしてみるが力も強くなっている気がする。
「…恨んでくれていいわよ」
説明するタイミングをサーシャも悩んでたらしい。こんな状況を経験していることはこの娘もなかったのかもしれない。
「…私は今はあまり戦いに力を入れる訳にはいかない理由がある」
些細な支援は出来るらしいが大きな魔法を使うことは出来ないということらしい。
「だからあなたが私の代わりに戦えるようにしているの」
サーシャはそう言って申し訳なさそうな表情で俺を見てくる。俺は命を助けられて異世界でも生きていくことが出来る力をくれたと思ったら感謝しかないのだけど。というか俺は命を助けられた
「ああ…安心した」
「あんなこと言っておいて俺は何も出来ないとかは…ダサいだろ?」
俺は笑ってそう言った。まあ女に貰った力を振りかざすとかもダサい気はするが、授けられた剣で少女を守ると言い換えると格好はつくだろうか。
「でも私なんかの…」
その時だった。サーシャの言葉を遮るように地面が揺れ、何かが起き上がるような音がする。風がないのに砂が舞い散る。
そして砂の中から巨人が、ゴーレムが出現した。
「魔導鬼(ゴーレム)!?そんなモノまで仕込んでいたの!?」
サーシャが怪物を見て驚いている。そしてその怪物は飛び散る砂で覆われた場所を裂くように大きな腕をサーシャに向けて振り下ろす。
「サーシャ!」
驚き動きが鈍っていたサーシャを庇い一緒に避ける。そしてゴーレムはもう片方の腕を振り上げ…
「ありがとう…うん、コレの狙いは私?…いや…」
サーシャは状況を考えているようだが…
「よし!逃げるわよ!」
「えっ…ああ!わかった!」
あんな話をしたばっかりだから戦うことになるのかと思っていたがサーシャがそう言うのならここは従おう。
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現在の大きさはヒトの背丈を優に超えて約5メートルほどはある魔導鬼(ゴーレム)がドオンと地面を踏み固めるように歩み、何かを探すように進んでいく。
「サーシャ!このまま走れそう!?」
サーシャと呼ばれた少女は首を横に振り答える。全力で走って数十分も経ったのだから魔法が使えたとしても体力は限界に近いのでだろう。
「……はぁっ…もう…むり…」
息をきらせて走る少女は必死に走る少女を少年は見て焦った表情をしながらも後ろから迫る幻獣(モンスター)の様子を見て少女へと駆け寄り…
次の瞬間パァンと何か質量のあるモノが地面へと着弾する音があたりに聞こえる。ゴーレムが砂漠を踏み固めた足跡から幾つもの岩石が形成されゴーレムがソレを従えているように宙に浮かせた。そして夜の砂漠に無数の砲弾が降り注ぎ着弾した地面からは砂が飛び散った。
「いきなり悪い!」
その砂煙の中から少女抱き抱えた少年が飛び出す。俗に言うならお姫様抱っこみたいに横抱きにして走る。
「はぅ…」
「怪我はない?」
少女は何が起こったのかわからないのかフリーズしつつも、首を縦にコクコクと振り意思を示している。
「さて…」
砂煙に映る巨大な影から距離を取るために動いているが…
「ゴアァァァア!」
ゴーレムは聞く者を不快にさせるような咆哮をあげる。
「それにしても…デカすぎんだろ…」
咆哮をあげるためにか立ち止まった怪物を観察すると少年はある事実へ気がつく。
「俺の見間違いであって欲しいだけど…アイツ大きくなっていってない…?」
ゴツゴツとした岩人形のような姿形が一回り大きくなり、尖った爪のような物も追加で構築されていく。
「どうしたもんかなぁ」
このまま追われて逃げ切れる訳もない。かと言って戦う術は持っているが、まともに戦った経験などありはしない、そして少女は戦える状態ではない。
そんな絶体絶命に近い状況で少年は考える。考える。
「ふぅ…ふぅ……こうなったら仕方がないわ」
「私が封印されていた場所の番人としてと思ってたのだけれど…ここまで追ってくるのなら…きっと私が抜け出た時に倒すためのモノなのでしょう」
「私から血と魔力を奪って動力に組み込んだゴーレム、封印が自然に解けた時には勝ち目はなかった筈のもの」
少女はゴーレムを観察し解析し理解する。
「だから…カズキ」
「私のために戦ってアレを倒してね」
そして少女が告げた言葉によって少年は現状に対する思索を打ち切る。そして不敵に笑った。
「そうだな、サーシャがくれた力だ」
「キミがそう望むのなら俺は戦うよ……でも初めてだから俺も助けてくれよ?」
「ええ、私があなたを導くわ」
そう言って首元へ抱きつくように腕を回した少女を片腕で抱え、もう片方の手で唯一持っていた武器である赤く染まっている剣を構え怪物と対峙し戦いが始まった。
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