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無限の成層圏 虹になった男

作者:syunin
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二巻
  八話

 私の一日はこれと言って面白い事は無い。
 朝、起床。大体一夏より先に起きるので、私が一夏を起こす。

 「一夏君、朝だ」

 「うぇぇ……おはよう、シャア」

 「おはよう」

 そして大体何時もの面子である、私と一夏、セシリア、箒、そして最近新しく入った鳳の五人で朝食をとる。

 「もう六月ですわね。時間が経つのが早いですわ」

 「それは今が充実しているという事だ。いい事じゃないか」

 セシリアが言った言葉に私が返す。セシリアも十分このIS学園を楽しんでいるのだろう。

 「そろそろ夏に差し掛かるのよね。日本の夏って暑いから本当嫌」

 「そうだな。シャアもセシリアも大変だぞ」

 「そんなにですの?……暑いのは苦手ですわね」

 「夏は道着が蒸れるから大変だ」

 「箒君は剣道部だったか。重武装だからな、大変だろう」

 鳳がぼやき、一夏が同調し、セシリアが驚き、今度は箒がぼやく。
 大体この様な形で会話は進んでいく。

 「そういえば、今日は一夏君は予定があるらしいな」

 折角なので、爆弾を投下してみる事にした。さて、どうなるやら。

 「……い~ち~か~?」

 「誰と何をするのだ一夏!」

 予想通り、鳳と箒が食って掛かる。

 「いや別に、(だん)の家に遊びに行くだけだぞ。序でに五反田食堂の世話になるだけだし」

 その言葉に、ほっとする者と警戒心が解けない者が一人ずつ。

 「なんだ、男の所か」

 「いや待ちなさい、確か五反田食堂には妹がいたはずよ」

 そう聞くやいなや、一夏への口調が強まる箒。それに追随する鳳と、この面子での会話は率直に言って楽しい。下世話なのは十分理解しているがな。

 「まったく。……そういえばシャアさんにはそう言った浮いた話は無いのですの?」

 「そうだよな。シャアってイケメンだし、彼女くらいいてもおかしくない」

 突然私に話を振られて、つい身体が固まる。
 ハマーン、ナタリー、……ララァは別にしても、私の女性遍歴は面白いものではない。
 ナナイは、どうだったか。

 「あまりそういった話は無かったな。そういう(・・・・)雰囲気になったことはあったが、断った」

 冷静に考えてみて欲しい。三十過ぎた男性が、セカンダリースクールの生徒やシックススフォーマー(イギリスで大学を目指す学校に入学した者を指す。日本の高校制度とは微妙に違う)を相手にするのはどう見ても犯罪臭がする。
 私も肉体年齢は同じだが、やはり精神が拒むものだ。

 「そうなのですね。ルックスも良く、声が良い。それなのに断る理由はありますの?」

 「そうだよな、シャアって声がすっごくいいよな」

 皆私の声が良いと言う。そんなに私の声(CV:池田秀一)が良いのだろうか。自分ではわからない物だ。

 「まあ私の声や顔はともかく。……ここだけの話にしてもらえるか?」

 「べつに、いいですけれども」

 「いいぜ、約束は守る」

 セシリアと一夏が続き、序でに鳳と箒の了承も得た。

 「私は、その……包容力のある女性が好みなのだ。年上の、包み込んでくれる様な女性がな」

 「シャアって、その……マザコンだったのか。壮絶な生い立ちだからな、俺も似たような感じだからわかるよ」

 「成程……包容力と言えば、やはり料理ですわね。精進しなければ」

 一夏がそう言い、セシリアが何やらぶつぶつと呟く。私が孤児である事は皆知っている。
 しかし、自分でもここまで正直に話せたことに驚いてる。まだ二カ月しか経っていないが、私の中ではこの集まりが重要な人達に思えているのだろうか。はたまた、何年もこの世界で生きて来たからやけになっているのか。
 きっと、前者だろう。この世界で私と出会った少年少女たちは、皆希望に満ちている。

 「それより!一夏、あんたもそういうのが好みなの!?」

 「そうだぞ一夏、年上が好みなのか!?」

 「えっ、どうだろな。確かに包容力のある女性は好みだけど……」

 詰め寄る鳳と箒に、しどろもどろになりながら答える一夏。
 そうやって、会話は弾む。本当に、良い者達に出会えたものだ。










 朝食を取り終え、各自は解散という流れになった。
 いつもは一夏とボードゲームなどと洒落込むのであったが、今日はIS学園の外に出てるという事で一人だ。
 大体一人の時は、読書に時間を費やしている。
 宇宙世紀では古書となった物が、この世界では手軽に手に取り楽しめる。
 私もイギリスに生まれたからにはとシャーロック・ホームズのシリーズとシェイクスピアを読んだが、中々面白かった。
 今は日本語を覚えたので、日本の文豪の本を読んでいる。
 芥川龍之介の河童。これが中々面白い。
 私も伝承の存在で河童は知っていたが、まさかあのように表現するとは。河童の社会性も奇抜で、楽しみながら読んでいる。
 そんなこんなで読みふけっていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。

 「シャアさん、そろそろ昼食の時間ですわよ。良ければご一緒しません?」

 セシリアが声をかけて来た。もうそんな時間か。

 「わかった、今行く」

 手に持っていた本に栞を挟み置いて行くと、扉の前ではセシリアが待っていた。

 「今日は何をしていたのですの?」

 「読書だな。日本の文豪も侮れない」

 「正直、日本語の読み書きにはまだ慣れない物ですの。……今度お教えして貰っても?」

 「勿論、構わないとも」

 私の言葉に軽くガッツポーズをとるセシリア。何をそんなに喜んでいるのだろうか。
 そのまま食堂に歩いていく。ふと、思いついた事があるので口に出す。

 「そういえば、セシリア君と会ってもう三カ月にもなるのか。早いものだな」

 「早く感じるのは、充実しているから、ですって。……シャアさんに言われると、なんだか嬉しいですわね」

 「これは一本取られたな」
 
 セシリアの言葉に思わず笑ってしまう。

 「しかし、これだと三年もあっと言う間に過ぎてしまうな」

 「そういえば、シャアさんには何か希望する進路が?」

 「正直、これと言って無い。だがな……」

 「やっぱり、何かあるのですの?」

 セシリアの言葉に、少し考えこむ。そして、思った言葉を口に出す。

 「存外、セシリア君と一夏君に教えるのが楽しく思えた。教師というのもありな気がするな」

 「まあ、IS学園の教師!それなら適任かもしれませんわね」

 「だといいがな」

 そんな事を言いながら、食堂に到着する。私は中華そばを選択、セシリアは和食をチョイスした。

 「それで、コブラ機動なら相手の後ろを一気に取れると思うのですの」

 「いや、ISなら強引な空中旋回も可能だ。ただ失速するだけになるだろう」

 昼食の最中は、こういったISにおけるマニューバの議論を行うことが多い。今だ啜ることに抵抗のある私は、ちゅるちゅると中華そばを食しながら続ける。

 「一夏君が鳳君との戦いで見せたベクタード・スラストは見事だった。ああいう戦闘機の空中戦闘機動なら真似できるだろう」

 「なら、ヴァーティカルローリングシザースも?」

 「敵機を振り切るには適した判断と言えるだろうな。他に何かあるか?」

 「では木の葉落としは?」

 「やはり失速するだけだろう。失速を利用したマニューバはあてにならないと考えてよい」

 私の言葉に、セシリアは少し考えこみ、言う。

 「PICを失速の代わりに利用すれば、急激な機動変更も可能でしょう」

 「そうかもしれないな。それはアリーナで検証してみよう」

 そう言いながら、再び中華麺を口にする。日本の食は、イギリスと比べて大分美味い。

 「そういえば一撃離脱戦法も、あまり見ませんわね」

 「ISは特殊な機動をするからな。一辺倒な攻撃の仕方は合わないのだろう。それこそ、一夏君や織斑先生の様な一撃必殺の剣が無ければな」

 「ああ、だからですの。一夏さんにああいう機動を教えたのは」

 「選択肢の一つとしては悪くないだろう」
 
 そんな事を話しながら、食事をする。
 気兼ねなく話せる友がいて、こうやって教えがいのある若い子もいる
 私にとっては、今はこれ以上ない幸せな空間だった。









 「では、本日もISにおける戦術の研究会を行う。初参加なのは鳳君と箒君だ。よろしく頼む」

 「こちらこそだ」

 「よろしく。……悪いけど、あたしあの所属不明機レベルの戦闘機動なんかできないんだけど」

 私の言葉に、箒と鳳が声を上げる。

 「心配せずとも、続けていれば自然とできる」

 「まあ、一夏と私がいい勝負になったのもあんたのおかげっていうし。少し期待してるけど」

 「じゃあその期待に応えて見せよう」

 そう言って、私は箒の方に向かう。

 「今日は人数がそろっていることだし、最初に模擬戦を行おう。私が箒君につくから、鳳君はセシリア君についてくれ」

 私がそう言うと、鳳が不満げに言う。

 「いくらあんたの(・・・・)B()T()兵器が増えた(・・・・・・)からって、舐めてるわけ?」

 「そういえばシャアさん、BITが四機になってますね」

 「ああ、そういえばそうだな」

 セシリアの言葉に頷く。駄目もとで申請してみたのだが、すんなり通ったのだ。

 「本当は六機にしたかったのだがな、もうこれ以上は拡張できないと言われた」

 「……ねえセシリア、これどう思う?」

 「化け物通り越して変態じゃありません?」

 「ひどい事を言う」

 鳳とセシリアの言葉に思わず苦笑する。

 「なあシャア。これでは私がお荷物だと思うのだが」

 「この中で一番搭乗経験が薄いからな、仕方のない事だ」

 箒が俯きながら言った言葉に、私が返した。

 「今から残酷なことを言う。君は私にとってのハンデだ。まずは当たって砕けてみるといい、それだけでも大いに経験になる」

 「……わかった」

 そう言って、箒は頷いた。

 「そういうわけだ、それぞれ十分に離れてから状況開始としよう」

 そう話すと、私たちは二手に分かれた。









 「くぅっ。こなくそ!」

 あたしが衝撃砲を放つが、それをさも当然の様に回避するアズナブル。
 あたしの後ろからセシリアのレーザーが飛んでくるも、それをひらりと躱す様子は、まさに化け物だ。

 「あんた後ろにも目がついてるんじゃないの!?」

 「センサーがあるだろう、誰にでもできる」

 箒はとうに脱落している。あれでも、よく持ったものだと思う。
 いや、あの男のペースに乗せられて生き残っていただけか。

 「よく言うわよ、人間には目ん玉は前方二つしかないっての」

 「出来なければ、君が撃墜(おと)されるだけだ」

 そう言うアズナブルの周りを、セシリアのBT兵器が取り囲み、すかさず射撃。それを避けたアズナブルのもとに衝撃砲を放つが、直線状の距離で避けられた。近接戦、上等よ。こっちは二刀使いよ!
 そのままアズナブルが降るブレードを片手で受け止める。胴ががら空きよ!
 しかし、あたしが振るう前にアズナブルはまるで宙返りの様に避ける。ったく、本当こいつ、どんだけ強いのよ!
 そのままアズナブルは、セシリアのもとへスラスターを吹かした。まずい、このままだとセシリアがやられる。
 すぐさま瞬時加速を使ってアズナブルのもとに行こうとしたが、上下左右から衝撃。
 アズナブルのBT兵器が、今もこちらを狙っている。
 急速に戦闘機動を開始するも、何発かは食らってしまう。そしてそうしているうちに、アズナブルはセシリアの前まで来ていた。
 
 「くっ、やぁ!」

 「近接戦では相変わらずお粗末だな。だが名前を呼ばず展開できるようになったのは褒めておこう。だがな!」

 アズナブルにショートブレードをかち上げられ、無防備になった胴体へ蹴りを入れるアズナブル。ったく、相変わらず足癖の悪い。

 「きゃあ!」

 「戦場で目を閉じるな。これが実戦だったら大ごとだ」

 そう言いながら追撃を入れるアズナブル。まったく容赦がない。

 「どうした鳳君。このままではセシリア君は負けるぞ」

 「わかっているわよ!」

 アズナブルに向かって、衝撃砲を放つ。無論、当たってはくれないがセシリアとの距離をとることには成功した。

 「セシリア君と私があの至近距離で戦っているのに、私だけを正確に目がけて撃って来るとはな。なかなかの精密射撃だ、鳳君」

 「だったら一発当たってみなさいよ」

 「当てて見せるのだな、鳳君」

 そう言って、再びアズナブルは中距離から射撃を始める。BT兵器もあってか、手数が多い。必ずどこかで逃げ道を塞がれる。

 「もぉ、あったまきた!セシリア、あんた中距離からの支援に徹してくれない?」

 「いいですわよ。適材適所って奴ですわね」

 「後ろから撃ってて。あたしも____」

 そう言いながら瞬時加速する。アズナブルとの距離が一気に近づき、あたしが青龍刀をふるう。
 
 「____もう逃がさないから」

 それを受け止めながら、アズナブルが言う。

 「ならばやって見せるがいい」

 もうこの距離から逃がさない。ここはあたしの領域だ。
 そんな私の思いとは裏腹に、アズナブルが宣言する。

 「敢えて言おう。当たらなければどうという事は無いと」

 「あーっ!言ったわね言っちゃいけない事!」

 「鈴さん、落ち着いて……」

 「絶対、コテンパンにしてやるから!」

 そういうわけで、終始熱量の高かった模擬戦は、結果からみればあたしとセシリアの惨敗。
 だけどこの模擬戦では、悔しいが大いに得るものがあった。
 だけど何時か絶対、ぎゃふんと言わせてやるとあたしは誓ったのであった。










 「へぇ、そんな事があったのか」

 夕食。また何時もの面子五人で今日あった事を話していると、一夏がそんな声を上げた。

 「まじで頭おかしいってこいつ。……未来予知でも出来る訳?」

 「さすがに未来予知はできないだろう、鳳君」

 「鈴でいいわよ鈴で。あたしもシャアと呼ぶから」

 「そうか、よろしく頼むよ鈴君」

 「こちらこそよろしく、シャア」

 手を出すとがっちり握りこまれた。急にどうしたというのだ。

 「今日の事、ぜーったいに忘れないから。覚悟しなさいよね」

 「……その時を待っているよ」

 どうやら鈴には今日の模擬戦はだいぶ堪えた様だ。ここまで敵意を見せられるとは。

 「まあ、俺もシャアにリベンジしたいしなあ」

 「わたくしも、もちろん追いつきたいですわ」

 「とはいえ、これが相手だからねえ」

 三人にじっと見られる。視線が辛い。

 「まあ、まず私の目標は確りとした専用機が欲しいな。最近、関節部のがたが早く出てくるようになった」

 「シャアさんの、専用機ですわね」

 「どんなになるだろうなぁ」

 「ぜったいまともじゃないでしょ」

 三者三様に声が出る。

 「まずBT兵器は必要だな。六機あればなお良い」

 「スターライトよりも、もっと取り回しの好い実弾兵器なんかもよさそうですわね」

 「ブレードも、両刃にしてみたらいいんじゃ?」

 「奇抜な兵装より、ちゃんとした取り回しの良い武器が合うんじゃない?」

 私の専用機について、皆で議論が進んでいく。

 「肩につけるキャノンとかどうよ」

 「いや、肩につけるとなると取り回しが悪くなる。片手で持てる武器が望ましいな」

 「一夏、それじゃヘンテコ武装じゃん」

 「えー、カッコいいと思うんだけどなぁ」

 「やはり実利が伴ってないといけませんわ」

 キャノン系は宇宙世紀では見かけたが、一年戦争からグリプス戦役が始まるころにはばったり見なくなった。やはり生き残らない物には理由があるのだろう。

 「ところで、もし私の専用機が出来たとしたら……」

 「したら?」

 「夕焼けの様な、赤色にしたい」

 「まあ、いいですわね。でもそうなると、名前はレッド・ティアーズに……」

 「血涙じゃん、それ」

 「しかも相手のね」

 どっと笑いが起きる。私も思わず笑ってしまった。
 まったく、酷い言い様である。

 「でもさ、あんだけの技量を持ってるんならシャアの専用機ってすぐ来るんじゃないか?」

 「今の所、私にそう言った話は来てないな」

 「でも、時間の問題って感じですわね」

 「はーやだやだ。化け物に本当の専用機持ってこられたら手が付けられなくなるんじゃないの」

 そうやって、穏やかに話は進んでいく。
 こういった日常が、私の心に染み渡る。
 こんな掛け替えない時間を守るためにも、一層精進せねばと私は思った。









 「それでさ、弾のやつがすげぇコンボ決めてきてな……」

 夕食後、就寝前の自習時間。私は一夏と話していた。

 「そういえばシャアって格ゲーやるのか?」

 「生憎、生まれてやったことが無いな」

 「まじかよ、人生損してるって。今度の外出日一緒にゲーム探しに行こうぜ」

 「ああ、それもいいな」

 ゲームなど、やっている暇がなかったからな。あの頃(宇宙世紀)は。

 「最近は減ってきているけど、ゲーセンなんかもあるしな。今度行ってみようぜ」

 「ゲーセン。まるで行った事は無いな」

 「日本文化の勉強ってことでさ」

 そうだな。もうあの頃とは違う。たまには娯楽に興じてみるのもありだな。

 「ところでさ、夕食の時なんだけど……」

 「どうしたんだ、一夏君」

 「箒のやつ、なんかおかしかったな。全然喋らないし」

 それには私も思い当たる事がある。

 「恐らく今日の模擬戦で、結果を出せなかったことだろう。落ち着いた時に、優しく語りかけてやると良い」

 「そうかな、そうしてみるよ」

 「ああ、そうすると良い」

 そうすれば多分、箒は落ちるだろう。まあ元々落ちてるようなものだが。
 さて、次の会話の楽しみが増えたな。

 「そろそろ消灯だ。明日も授業で朝が早いし、寝ることにしよう」

 「ああ、お休み、シャア」

 「お休み」

 そう言って、私は部屋の電気を消した。
 ベッドに横になった時、ふと思う。
 そういえばガルマとも、こんな馬鹿話をしたものだ。
 あんなに大切にしていた友人を、なぜ殺してしまったのか。
 部屋は暗く、まるで宇宙の様だ。ただ、星がない。それが私に堂々巡りに考えさせられる。
 ガルマの事、カミーユの事、アムロの事、____ララァの事。
 何時だって私は、自分の犯した過ちに気づいては苦しんでいる。
 だが、そうでなければ変われない。
 もうあの頃の様ではいけないのだから。
 六月上旬、暑さが顔を見せ始めた頃。
 私の一日は、こうして終わる。
 
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