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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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第一部 皇都編
  第十一章―ルガレドの実力―#2


「あれですね」

 レド様に神眼で探っていただくと、オーガの集落はすぐに見つかった。私たちは、少し離れた木の枝に登って集落を見下ろす。

「やはり、それなりに大きいですね。どういたしますか、リゼラ様」
「そうですね…」

 オーガの集落は、レナスを伴い狩りをした際のオークの集落よりも規模が一回りほど大きかった。でも、私が予測していたほどではない。

「レド様、あの集落にオーガが何頭いるか、また、変異種───他のものより突出した力のある個体はいるか、探っていただけますか?」
「解った」

 レド様の眼帯は、どういう仕組みなのか、つけたままでも神眼の力を発揮できるみたいだ。夜会の夜、わざわざ眼帯を外したのは、私を納得させるためだったらしい。

「オーガの成体が51頭、一際力が強いのが1頭───だな。あれが、“変異種”というやつか?」
「そうです。どうやら、あれがこの集落の長───“オーガロード”ですね」

 私も【(アストラル)(・ヴィジョン)】で確認しながら、レド様に答える。

 以前の───レド様と出会う前の私では、単独でこの集落を殲滅するのは不可能だっただろうけど、今の私なら魔術を駆使すれば殲滅可能だ。だけど、それはやらない方がいい。

 通常なら、ここはギルドに応援を要請して、他の冒険者たちと協力するところだが────幸い、今日はレド様がいる。レド様と二人なら、剣と魔法だけでも殲滅は可能だ。

「レド様、先程の5頭のオーガとの戦闘でおケガなどはしておりませんか?」
「かすり傷一つ負っていない」
「オーガの集団と戦うことが可能な状態ですか?」
「ああ、大丈夫だ」

「あの集落を潰します。協力してくれますか?」
「勿論だ」

 言葉通り────見る限り、レド様はケガもなく、またスタミナも十分なようだ。

 私は、ジグとレナスに向き直って、告げる。

「では、ジグとレナスはここにいてください。万が一、危なくなったら援護をお願いします」
「承知しました」
「お気をつけて」



「それで、どうするつもりだ?リゼ」

 ジグとレナスが冒険者として随行していて一緒に戦えるなら、レド様の援護を任せて、二手に分かれて前後から強襲していたところだけど。

「集落中央の見張り台にいる2頭を、まず私が矢で射ます。その後は、正面の塀を魔法で崩しますので、二人で強襲します。
もう少し手勢があれば魔物の集落を襲う際のセオリーなどお教えできたんですが、今日は二人だけなので、時間もないですし、力押しでいきます。
でも、せっかくなので、連携の練習をしましょう」
「解った」

「魔法のみで戦います。それと、武具は一つだけにして、どうしてもという場合以外は替えないでください」
「魔法は解ったが────武具は何故だ?」
「これだけの数なので、解体はギルドの解体師に任せることになります。ギルドに凄腕のベテラン解体師がいるんです。その人にかかれば、死体の切り口からどんな武具を使用したか判ってしまうんです。二つくらいならともかく、何種類もの武具を使用すると不自然になってしまいますので」
「それはすごいな…」

 その人は、私に解体を教えてくれた人で、私は秘かに“検視官”と呼んでいた。



 私は弓を取り寄せ、構える。矢が現れ、狙いを見張り台の1頭に定める。

 顔の向きはそのままに、レド様の方に視線だけ遣ると、レド様は両手剣を手に持ち頷いた。

 矢羽根と弦を放つと、矢は狙い通りに飛んでいく。狙ったオーガの眉間に吸い込まれるように刺さった。

 1頭目が(かし)ぎ始めたときには、2頭目にも矢を放っていた。

 私は、弓を【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】でアイテムボックスに送りながら、集落に向かって走り出す。レド様も同時に走り出し、並走している。

 集落に近づくと、私は片膝をつき、地面に両手を突いた。地中に混じる魔素を操作し、土をこちらに引っ張るように動かす。

 細い丸太を束ねて造られた集落を囲う塀は───土に釣られるようにあっけなく内側に倒れていく。

 レド様と私は、塀がある程度傾いたところで駆け上がり、私たちの体重によって余計に傾いた塀から飛び降りて、集落の内側への侵入をあっさりと果たした。

 オーガは、何が起こったのか理解が追い付いていないようで、散らばって立ち尽くしている状態だ。

 私とレド様は、オーガたちが我に返る前に出来るだけ数を減らすべく、近くにいる個体に斬りかかった。

 最初の数体は、一刀の下、屠ることができたが、さすがにオークのときみたいにはいかず、すぐに、反撃してくる個体が出てきた。

 1頭を倒すのに時間がかかれば、その分だけ、こちらへと群がってくるオーガの数も増える。ほどなくして、レド様と私は複数のオーガに囲まれ、対多数の戦いを余儀なくされていった。

 レド様が、1頭のオーガを相手取る。相手のオーガが持つのは大剣だ。かなり刃毀れしており、斬るというよりは打撃用として使っているようだ。

 他のオーガによってレド様に向かって突き出された槍を、右手の小太刀で斬り落としながら、左手の小太刀で、別のオーガの剣を持っている右手を腕から斬り落とす。

 次いで、腕を斬り落としたオーガに回し蹴りを放って、他のオーガたちの方へ蹴り飛ばす。腕のないオーガは周囲を巻き込みつつ、吹き飛んでいった。

 レド様は、大剣を振り回すオーガを難なく倒したみたいだ。

 私が穂先を斬り落とした槍を持つオーガをレド様が斬り倒すのを横目に、私は立ち上がり始めたオーガに肉迫し、その首を刎ねていく。

 蹴りに巻き込まれなかったオーガがこちらに近づいているのが判ったが、レド様がそのオーガに向かっているのに気づき、私はオーガの数を減らすことに集中する。

 レド様と二人、お互いの補助をしつつオーガを屠り続け、大分オーガの数が少なくなったとき────それは現れた。

 この集落の長である、変異種────オーガロードだ。

 オーガロードは、通常のオーガの1.5倍ほどの体格をしていた。通常のオーガが約2mくらいなので、オーガロードは約3mくらいか。

 武具は何も持っていない。

 オーガは───オークや二足歩行の魔物すべてに言えることだが───武具は扱うが、鍛冶ができるわけではない。オーガたちが使用している武具は、大抵が人間から奪い取ったものだ。

 オーガロードが扱えるような大きな武具は造らない限り存在しないので、徒手で戦うしかないのだろう。

 【(アストラル)(・ヴィジョン)】で確認したところ、オーガロードの肉体は、魔獣には及ばないものの、魔物にしてはかなりの魔力を内包し、その魔力によって強化されているようだ。

 だけど、私の───レド様の敵ではないな。

「リゼ、こいつは俺がやる」
「では、残りのオーガは私が引き受けます」
「頼んだ」

 オーガロードが、対峙するレド様に向かって、怒りの雄たけびを上げた。

 オーガの荒い造りのログハウスや、集落を囲う森の木々が、びりびりと震え、木々に巣くっていたらしい鳥型の魔物などが飛び立っていった。

 オーガロードがレド様に突進していく。体格の割には素早いが───あんな単純な動きでは、レド様に当たるはずもない。

 私は、レド様を念のため気にしつつも、オーガの残党を狩るために向かった。オーガたちが、オーガロードの雄たけびにより委縮しているうちに、私は次々に接近して首を刈り取っていく。

 ようやく正気に戻ったらしいオーガに反撃されたが、私は少し身体をずらしてそれを避け、攻撃を避けられ体勢を崩したオーガの首を落とした。

 すべてのオーガを屠り、レド様の方を見遣ると────ちょうど決着がつくところだった。

 レド様は、オーガロードの片足を斬って転ばせたようだ。そして、地面に倒れ伏したオーガロードの首を、一気に斬り落とした。

 魔獣を相手にしていたレド様にとって、やはり魔物では敵にもならなかったみたいだ。多数のオーガを相手にしていたさっきの方が、手間取っていたかもしれない。

「生き残りはいないようだな」
「そうですね」

 レド様と二人で状況を確認していると、ジグとレナスが寄って来た。

「お疲れ様です、ルガレド様、リゼラ様」
「お二人ともおケガはないようですね」

 レド様と私の実力を知っているとはいえ、ジグとレナスは心配だったようで、安堵しているのが見て取れた。


「それでは、私はギルドに戻って報告と援助要請をしてきます。ジグ、レナス───レド様を頼みます」

「援助要請?」
「はい。今の私もレド様も、この数のオーガを持ち帰ることは可能ですが、普通は持ち帰れません。だから、持ち帰るための助っ人を連れて来なければならないんです。それに、このオーガの集落を、他の二足歩行の魔物や盗賊などに悪用されないために壊さなくてはなりませんから、人手が必要なのです」

「なるほど。解体はしなくていいのか?」
「数頭ならやってしまうんですが。この数ですと、短時間で解体するのは不自然ですので」
「ああ、そうか。そういえば、先程、解体はギルドに任せることになると言っていたな。そういう理由か」
「はい。あ───でも、血だけは集めておいた方がいいですね」

 今のところ、魔物や魔獣の血は、私が魔玄で利用するくらいしか需要がない。なので、血抜きはしても、血を集めることはしないのだ、私以外は。

 私は片膝をついて、右手を地面に突く。

 地中から、オーガの血に宿る魔力を探る。オーガ51頭と、オーガロード1頭───すべての魔力を捉えると、その体内に残ったままの血を凝縮するイメージをする。

 オーガの死体から血が躍り出て、浮き出てきた土に染み込んでいた血と合流し、凝縮されていく。

 実は、レド様に解体を教えるために、解体せずに血だけを取り出す練習をしていたのだ。

 すべてのオーガとオーガロードの血を凝縮できたので、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で、共通のアイテムボックスへと送る。

「リゼは、本当に能力や魔術を使い熟しているよな」

 レド様がまたもや溜息を吐いて、呟いた。



 私が一人でギルドに戻ることに一悶着あったものの、ジグとレナスをレド様の元に残すことを何とか押し切り、私は【転移(テレポーテーション)】で街に戻ると、ギルドで助っ人を募って、荷馬車に乗せて連れてきた。

「おいおい、マジかよ…。これを────リゼとアレドの二人で殲滅したってか…?」

 話を聞いて一緒にやって来たガレスさんが────現場を確認して、呆然と立ち尽くす。

 ちょうどギルドに居合わせ、助っ人を引き受けてくれた幾つかの冒険者パーティーの面々も同じように立ち尽くしている。

 ちなみに、ジグとレナスは、例によって【認識妨害(ジャミング)】で姿をくらませている。

「初日からこれかよ…。マジで最強夫婦じゃねぇか……」

「え、リゼさん、結婚したの?」

 ガレスさんの戯言を真に受けて、Bランクパーティー『黄金の鳥』の斥候を務めるレナさんが目を輝かせて、私とレド様に振り向いた。

「っしてない、してないですっ。婚約───まだ婚約しただけですっ」

 うぅ、ガレスさんのバカ…。

 オーガの集落を手分けして壊して回り、荷馬車を何往復かさせて、オーガの死体をようやくギルドに運び切ったときには、もう日が沈んでいた。

 レド様が最初に倒した5頭分だけ査定してもらい、集落分は数が多すぎるため、後日、解体終了後に清算となった。

「この5頭だけでもすげぇよ。さすがは、リゼの旦那だ」

 だから、そういうの、やめてくださいってば…。皆、本気にしちゃうじゃないですか。レド様は、物凄く嬉しそうですが…。いや、別に私だって嫌なわけではないけど…。


◇◇◇


 レド様がオーガの肉を提供してくれたので、今日の晩御飯は────オーガの肉を存分に使った“焼き肉丼”である。

 時間がないから、オーガの肉を適当な大きさに切って、細切りにしたピーマンと炒めて、醤油と味醂、お酒で味付けして、ご飯に載せるだけのお手軽料理だ。

 ご飯とお味噌汁は、こういうときのために、毎回多めに作って、余り分をその都度アイテムボックスに保存しているので、それを使うことにする。作りたてのまま保存できるので、本当にアイテムボックス様々だ。

 醤油の香ばしい匂いが、食欲をそそる。

「これは────美味しそうだな…」

 隣ではレド様が、後方ではジグとレナスが、おやつを期待する幼子のように待っている。それが微笑ましくて、私は思わず笑みを溢しそうになった。

「後は盛り付けるだけですから」

 炊きたてご飯に、どんどんお肉とピーマンを重ねて載せていく。

 最後にフライパンに残った醤油ベースのタレをかけると、お肉とピーマンの表面から流れ落ちたタレが、艶やかな白いご飯に染み込んでいった。

「美味そう…」

 レナスが呟いて、ごくり、と唾を呑み込む。

 お味噌汁はワカメとキノコ────どっちにしようかな。

「リゼラ様、お願いがあるのですが」
「何ですか、ジグ」
「リゼラ様が使っている“お箸”、自分にも創ってもらえませんか」
「お箸を?」
「はい。スプーンとフォークを持ち替えながら食べるよりも、“お箸”の方が食べやすそうなので」
「あ、それなら、オレにもお願いします」
「勿論、いいですよ」

 そっか。親子丼なんかはスプーンだけで食べられそうだけど、この焼き肉丼の場合は食べにくいかもしれない。

「使い方も教えていただけるとありがたいです」
「解りました」

 レド様は、どうだろう。訊ねようとしたとき────

「睨まないでくださいよ、ルガレド様。これぐらいいいでしょう」

 ジグが、しれっと言う。

「そうですよ。ルガレド様も、創ってもらえばいいじゃないですか」
「いいわけあるか。リゼに頼まずに、その辺の木の枝でも拾って使え」
「それでは、ルガレド様は“お箸”、いらないんですね?」
「いるに決まってるだろう!」
「素直にそう言えばいいのに」
「お前ら…、いい度胸だな。明日の鍛練、覚えてろよ?」
「大人げないですよ、ルガレド様」

 三人の会話に、私は目を瞬いた。

 何か────すごく、親し気だ。

 いつの間に、こんなに打ち解けたんだろう?

 レド様は憮然としているけれど、それでも何処か楽し気で────私は何だか嬉しくなった。

 ちょっと寂しい気もするが、レド様の傍に、こうやって言い合える───気の置けない同性がいるのは喜ばしいことだ。

 ジグとレナスなら、信頼できるし────きっとレド様を支えてくれる。

 軽口を続ける三人の様子に────自然と口元が緩み、私は微笑んだ。
 
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