スーパーヒーロー戦記
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第8話 もう一人の魔法少女
バラージの一戦を終えた後、ビートルを失った為に帰る手段を失い意気消沈していた時、突如何処からもなく現れた一隻の浮遊船。
時空管理局の保有する次元航行船アースラである。
その全長は現代である巨大タンカーと同じかそれよりも二回り位大きい。
そして、その次元航行船アースラの中にある部屋に連れて来られた。
其処にあったのは畳に盆栽にと和風をイメージしているのだろうがハッキリ言うと誤解しているようにも見て取れる。
その証拠にその部屋を見た途端ムラマツキャップが微妙そうな顔をしていた。
そして、その部屋の奥には一人の女性が座っていた。
翠色の髪を後ろに束ねたポニーテールと呼ぶべきだろう髪型に綺麗なルビー色の瞳をし紺色の制服を纏った綺麗な女性だ。
「困っていた所を助けて頂き有難う御座います。私は科学特捜隊のムラマツです。それでこちらに居るのが隊員のハヤタ、イデ、アラシ、そして特別隊員の兜君に高町君です」
「宜しくお願いします。高町なのはで」
「マママ、マイネームイズ、コウジ・カブト。ディスイズアペン。ハウアァユー」
なのはは普通に挨拶を交わしたが甲児は何故か片言の様な英語を話し出した。
しかも半分以上が解読不明の様な。
「どうしたんだい甲児君」
「だだだ、だぁってよぉハヤタさん。あの人外人だろう? 俺英語苦手なんだよぉ~」
どうやら目の前の女性が明らかに外人に見えた為に日本語は通じないだろうと判断しての事だろうか甲児がハヤタに泣きが入った。
それを見ていた女性がクスリと口元を隠しながら笑う。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと日本語も話せますから」
「本当ですか? そりゃ良かった」
ホッと胸を撫で下ろす甲児。
そんな甲児を見て皆がドッと笑い出したのはご愛嬌である。
そんなお茶目な一面もさておき、一同は用意された座布団の上に座るとその女性の話を聞いた。
「自己紹介が遅れましたね。私は時空管理局所属のアースラ艦長であるリンディ・ハラオウンと申します。貴方達の戦いですが、失礼ですが見させて貰いました」
(ギクリッ!)
リンディのその言葉を聴いた途端ハヤタは思わず肩が震えた。
もしかしたら自分の変身する瞬間を見られたのでは?
そう思っていたのだ。
そんなハヤタに向かいリンディは微笑んだ。
(心配しなくても貴方の正体は誰にも伝えませんよ)
「!!!」
すると、ハヤタの脳裏にリンディの声が伝わってきた。
驚きである。まぁ何はともあれ皆にばらされないのであれば一安心である。
そんな訳で会話は続いた。
「私が貴方達を救助したのには実は理由があるんです」
「理由、それは一体何なのですか?」
「はい、その理由はそちらにいらっしゃるなのはさんです」
「え、私ですか?」
突然自分を指されたので思わず自分を指差した。
何せ指名されるなど思ってもいなかったのだから。
「なのはが? 一体何で?」
「それは、貴方が使ってるインテリジェントデバイスの事と、貴方が集めているロストロギアについてです」
「ロストロギア? それってもしかしてジュエルシードの事ですか?」
イデが鋭く尋ねる。
それにリンディは頷いた。
だが、隣でアラシは首を傾げていた。
「ロスト何チャラだのジュエルシードだの、俺はどうもそう言った難しい単語は苦手だ」
どうやらアラシには理解するのは難しいようだ。
そんなアラシは放っておき会話は続いた。
「それで、貴方はそのジュエルシードの捜索をしているみたいだけど、それは一体何故?」
「えっと、頼まれたんです」
「すみません、僕から説明します」
答えに渋るなのはに代わりユーノが説明を行った。
彼がジュエルシードを見つけた経緯。
輸送中に謎の事故により殆どのジュエルシードが地球に散らばってしまった事。
それを集めようと向かったは良かったが力が足りずなのはに協力を申し出た事。
その後の事も全て話した。
「成る程ね、自分で起こしてしまった事件を自分の手で解決しようとしたのね。偉いわ」
「い、いえ…それ程では」
「でも、同時に無謀でもあるわ。何故、事前に私達に通報しなかったの? 貴方一人ではどうしようもない事位分かってたんじゃないの?」
「す、すみません」
今度はユーノが更に小さくなってしまった。
体がフェレットなだけに更に小さく見える。
そんなユーノを見てリンディは軽く溜息を吐く。
「それより、そろそろ元の姿に戻ったらどう? 何時までもその姿じゃ窮屈でしょ?」
「へっ? 元の姿」
「何言ってるんだよリンディさん。ユーノは元々フェレットだったんじゃねぇの?」
なのはが甲児が不思議そうに尋ねる中、ユーノの体を閃光が包み込む。
そして、彼の姿が瞬く間に人間の少年に変わったのだ。
金髪に奇妙な柄の入った服を着てマントを羽織った少年であった。
「ふぅ、なのはにこの姿を見せるのは久しぶりだね」
「ゆゆゆ、ユーノ君がぁぁぁ!」
「おおお、お前人間だったのかああぁぁぁ!」
振り向いたユーノの先では仰天して腰を抜かした甲児となのはが居た。
幾ら何でも驚き過ぎでは?
「あ、あれ? 僕前にこの姿見せてなかったっけ?」
「見せてないよ! 最初からフェレットだったよぉ!」
「お、お前! どうやって変身したんだよ!」
どうやらお互い意志の疎通が出来てなかったようだ。
「ふむ、まぁ君達の事は後で思う存分話してもらうとして、それでリンディ艦長。私達を此処に連れてきた目的とは?」
驚く三人をとりあえず置いておいて、ムラマツキャップは話を進めた。
其処は流石と言うべきである。
「本来なら私達時空管理局が以降のジュエルシード捜索を一手に引き受けたいと言いたいのですが、この地球には私達の常識を遥かに超えた存在が多数居る事が分かったのです」
「怪獣に宇宙人、それに機械獣の事だな」
「うむ、私達も怪獣には手を焼いています。ウルトラマンが居なければ我々は満足に怪獣を撃退する事が出来ない。何とも歯痒い話だ」
「そうですね」
苦虫を噛み潰したような顔をするムラマツにリンディは同情の言葉を述べた。
そして、一呼吸を置こうと置かれたお茶に手を伸ばす。
そして、何故か横に置かれていた砂糖の入った瓶を取ると主室にお茶の中にそれを入れたのだ。
その光景には一同が眼を疑った。
「あ、あのぉ…リンディさん? それ砂糖なんじゃぁ…」
「えぇ、皆さんもお使いになります?」
「い、いえ! 僕は結構です」
流石のイデもそれは願い下げだったようだ。
「しかし何故お茶に砂糖を? 折角茶菓子があるのに口が返って甘味で濁ってしまうのでは?」
「私この飲み方が好きなんですよ。勿論お茶菓子も食べますよ」
ムラマツの問いにリンディが何の迷いもなく答える。
流石のアラシやハヤタも若干引き気味に見ていた。
しかしムラマツは流石と言うべきか全く動じていない。
「確かに味覚は人それぞれと言うでしょう。しかし甘いお茶とは今まで飲んだ事ないなぁ」
そう言って懐からパイプを取り出して口に咥える。
タバコの草を入れて火をつけようとした際にハヤタが止めに入った。
「キャップ、此処でタバコは控えた方が宜しいですよ」
「む、そうか。いやぁ申し訳ない。つい癖なもので」
赤面しながらパイプを仕舞うムラマツキャップ。
普段ならお咎めなしなのだが今回はなのはやユーノなど子供が居る。
子供の成長に悪影響を及ぼすので科学特捜隊としてはそんな事はNGなのでハヤタが止めたのだ。
かなり話が逸れてしまったので此処でリンディが強引に話を戻した。
「簡潔に言います。ジュエルシードの捜索ですが、我々時空管理局もご協力致します」
「それは有り難い。イデの開発したジュエルシード探索装置も此処でなら有効に利用出来るでしょう」
「いやぁ、時空管理局の皆様から比べたら僕の発明なんて子供騙しみたいなもんですよぉ」
謙遜しながら自作の探索装置を目の前に出すイデ。
何気に嬉しそうだ。
リンディがそれを手元に引き寄せてマジマジとそれを見る。
するとリンディの眼の色が変わった。
「とんでもない! イデさん。これは素晴らしいですよ。私達の技術でも此処まで正確な探索技術は作れません。是非私達のところで使って宜しいですか?」
「え? 本当ですか! そりゃもう喜んでお願い申し上げる所存で御座います」
イデがとても嬉しそうに頭を下げる。
その光景を見て隣のアラシが笑っていたが今は別に気にしない。
「と、なるとこれからはジュエルシードの捜索の際にはこのアースラを基点として行う事になるみたいですが、移動手段はどの様にすれば宜しいですかな?」
「それならば必要ありません。要望があれば我々がこちらに転送致します」
何とも至れり尽くせりな事であった。
これなら移動でビートルの燃料を使う必要もない。
「それから、甲児さん」
「は、はい!」
「貴方のマジンガーZですが、こちらで格納しておきますね。そうすれば何処でも瞬時に転送出来ますから今回の様に探し回る必要が無くなりますよ」
「本当ですか? そいつは助かります」
甲児としてもそれは嬉しい事でもあった。
今回の捜索は本当に疲れた。
何せ広大な砂漠の中マジンガーZを探し回ったのだから。
もうあんな思いは御免であった。
「それからなのはさん。貴方も私達が自宅にお送りしますね。もう何日も帰ってないのでしょう?」
「はい、有難う御座います。お父さん達きっと心配しているでしょうし」
「なのは、折角だから暫くはジュエルシードの事は忘れてゆっくりすると良いよ」
「ユーノ君?」
いきなりユーノが持ち出したのは以外な言葉であった。
それに驚くなのはにユーノは続ける。
「此処数日連戦続きだからきっとなのはも疲れてるだろうし、なのはも学校があるし、良い機会だよ」
「でも、ジュエルシードの捜索はどうするの?」
「その辺は大丈夫だよ。僕と科学特捜隊、それに時空管理局の皆で捜索はする。だから思い切り羽を伸ばしてきなよ」
「その通りだよなのはちゃん。子供ってのは思い切り遊んで勉強するのが仕事なんだよ。ジュエルシードの捜索は我々に任せなさい」
「ムラマツキャップ…はい、分かりました」
皆の言葉もあってかなのはは頷いた。
「あれ? もしかして俺も学校に行かなきゃなんねぇの?」
「当然だろう。君も学生なんだから」
「げぇっ、折角学校サボれると思ったのになぁ~」
ガッカリした顔で愚痴る甲児に部屋に居た全員が声を出して笑ったのであった。
「そう言えばなのはちゃん、貴方年は幾つ?」
「今年で9歳になりますけど、どうかしましたか?」
「いえね、貴方を見てると家の子供を思い出しちゃってね。丁度なのはちゃんより4つ位上の感じなのよ」
リンディがそう懐かしむように言う。
「それで、そのお子さんは何処に居るんですか?」
「今丁度別任務中で此処には居ないのよ。丁度地球の調査に行ったとこなんだけど、変な事に通信が出来ない状態になってるのよねぇ。大丈夫かしら」
途端に心配そうな顔をする。
が、今此処でどうこう出来る問題でもなさそうな事でもあったのは事実だった。
***
「ただいまぁ!」
リンディの計らいで家の前に転送して貰ったなのはは早速家の扉を開いて大きな声で帰宅時に言う言葉を発した。
すると真っ直ぐに家族全員が飛んできたのだ。
どうやら皆心配していたようだ。
すぐさま抱き寄せられて押し潰されんばかりに抱きしめられたり頬ずりされたりとかなり大変な目に会うのではあったが、なのははそれが苦とは感じられず、寧ろ嬉しくも感じられた。
それから、直ちに夕食の支度が行われ、久しぶりのなのはの帰宅と言うのもあってか目の前には豪勢な料理がズラリと並んだ。
「なのはが無事に帰ってきてくれて嬉しいから、お母さん腕によりを掛けて美味しいご飯作ったからねぇ」
「お、そりゃ嬉しいなぁ。さ、頂こうか」
両手を合わせて皆が揃っていただきますした後、各々が料理を取り食べ始める。
その間話題になった事と言えば数日間に起こった出来事である。
「ふぅん、甲児君とキャンプした際に怪獣と出くわしたのか。そりゃ災難だったなぁ。竜ヶ森だっけ? あれニュースにもなったしなぁ」
「父さん、それを言ったら砂漠の怪獣も出たじゃないか」
恭也が父士郎に向かい言う。
どうやら怪獣の出現は直ちにニュースになったようだ。
あれだけでかいのだから余計に目立つのは当たり前だろう。
「ま、何はともあれなのはが無事に帰って来てくれた父さん達は凄く嬉しいよ。後で甲児君にはお礼を言っておくとしよう」
「うん!」
その後も夕食は楽しい話題で持ち切りになった。
その後、夕食を食べた後自宅の風呂に入り数日間の戦いの汚れを洗い流し自室で眠る事にした。
久しぶりの自分のベットの感触が妙に心地よく感じられた。
そうして、物の数分で忽ちなのはは深い眠りに落ちてしまった。
翌日は久しぶりに友人のアリサとすずかに会った。
二人共数日間帰らなかったなのはを凄く心配していたのだ。
そんな二人になのはは謝罪した。
もしかしたら今後同じ様に友達を心配させてしまうかも知れない。
そんな思いがなのはの中にあったのだがその胸中の思いに気づきはしなかった。
「それで、学校は進んでる? 私授業出てなかったから心配なんだけど」
「学校なら休校状態よ。竜ヶ森で出た怪獣のせいで授業どころじゃないってさ」
アリサがそう言った。
どうやらさきの竜ヶ森でのベムラーとの戦いの件で学校は授業どころではなく休校状態になったと言うそうだ。
まぁなのはからして見れば一人だけ授業が遅れる心配がなくなったので嬉しい事ではあるが。
「そうだったんだ。何だか私が居ない間に大変な事があったんだねぇ」
「って、現場に居たあんたが何言ってるのよ! 聞いたわよ。あんた怪獣が来た際に竜ヶ森でキャンプしてたそうじゃない! 危うく踏み潰される所だったんじゃないの!」
流石アリサ。鋭い洞察力である。
まぁ其処はなのは自身上手く誤魔化したと言う事にしたので幸いなのはがその事件に関与していた事は二人には知られる事はなかった。
***
付近の雑木林。
其処に数匹の子猫が戯れていた。
そんな時、一匹の子猫が青く輝く石の様な物を見つける。
その石に興味を引かれた子猫がその石に手を触れる。
すると、その石、ジュエルシードが眩い光を発し、子猫を包み込んでいく。
閃光が止んだ時、其処に居たのは先ほどの子猫の姿ではなく、おぞましい姿をした化け物の姿が其処に居たのであった。
アリサとすずかとの会話を終えて帰り道を歩いていたなのは。
時刻は既に夕刻に差し掛かっており空は茜色に染まり日は西に傾きだしている。
そんな中、なのはは一人帰り道を歩いていた。
ジュエルシードの捜索は一先ずユーノや甲児達、そして時空管理局が行ってくれている。
なのはは一先ず束の間の休息を楽しむ事にしていた。
そんな時、首筋に嫌な感じを感じ取った。
人間の心理の様な者で、敵意のある物、危険性のある物が近くにあるとてき面この現象が起こる。
「レイジングハート…もしかして?」
【はいマスター。近くにジュエルシードを感じます。この反応からすると既に発動した模様と思われます】
「大変! 早く封印しないと!」
付近に誰も居ない事を確認したなのははレイジングハートを起動させてバリアジャケットを纏いデバイスを手に持つ。
「レイジングハート。私一生懸命頑張るから一緒に戦おうね」
【勿論です、マスター】
なのはの言葉にレイジングハートは頷く。
そして、雑木林の中を突っ切っていく。
其処には数匹の子猫が怯えているのが見える。
そして、その子猫達の前には一匹のおぞましい姿をした怪物が其処に居たのだ。
「な、何あれ?」
【どうやら動物と融合したみたいです。気をつけて下さいマスター】
なのはにとって動物と融合したジュエルシードとの遭遇は初めてな事であった。
怪獣の時はウルトラマンや甲児の助力のお陰でどうにかなったが今回は一人しか居ない。
応援を呼ぶと言う手もあるが時間が足りない。
一人でやるしかない。
覚悟を決めてデバイスを構える。
すると化け物がなのはに気づいたのか彼女の方を向く。
その姿はまるで豹の様な姿をしていた。
しなやかな体つきをしており機敏に動きそうである。
化け物の口から牙が姿を現し不気味な唸り声をあげる。
その唸り声が人間の中に眠る恐怖心を煽りたてる。
幾ら魔導師として戦う覚悟が出来たとしても彼女はまだ9歳の少女なのだ。
普通に怖い物は怖いのだ。
だが、怖がってなどいられない。
自分が戦わなければ更に大勢の人達が怖い目に会う事となってしまうのだ。
「怖いけど…私が頑張らないと!」
自身にそう言い聞かせて恐怖心を振り払い、デバイスから数発の魔弾を放った。
桜色の閃光の魔弾が化け物目掛けて飛んでいく。
だが、その全てをしなやかな動きで華麗に化け物はかわした。
そしてかわしざまになのはに向かって飛び掛ってきた。
「きゃぁっ!」
咄嗟に倒れたから外れた物の、あの牙に噛まれたら一溜まりもない。
一撃貰えば終わりなのだ。
「レイジングハート! ディバインバスターは撃てないの?」
【危険です! 此処の様な狭い空間でディバインバスターを撃てば被害は甚大です。それにあの様に動きの素早い相手には不向きな武器です】
レイジングハートの言う通りだった。
ディバインバスターの威力はなのは自身が一番良く知っている。
マジンガーZやウルトラマンの武器が通じなかったあのアントラーを一撃で葬った武器なのだ。
あれをこんな雑木林の生い茂った場所で使おう物なら付近に甚大な被害が出てしまう。
また、魔力のチャージに時間のロスが発生してしまいその間無防備な状態となってしまうからだ。
即ち大技で仕留める事は出来ないのだ。
「それじゃ、アクセルシューターとかバインドで仕留めるしかないって事?」
【そうなります】
とは言うものの、あの様に機敏に動く化け物を相手にまだ戦闘面で不慣れななのはがアクセルシューターやバインドで仕留めるのは難しい。
だが、やるしかないのは事実なのだ。
「シュート!」
なのはが叫びデバイスから魔力弾を放つ。
しかしそのどれも華麗にかわされてしまう。
かわした隙にバインドを掛けようとしたがやはり駄目であった。
動きの素早い化け物を相手にバインドで固めるのは相当の錬度が必要なのだ。
その点ではなのはにまだそれが欠けていた面があったのだ。
その上、敵の動きが素早く狙いが付け辛い。
それが更に敵の厄介さであった。
「くっ…あ、当たらない…早くて狙いが定まらない」
【落ち着いて下さいマスター。焦っていては当たる物も当たりませんよ】
レイジングハートが注意するも敵から放たれる威圧感とジュエルシードを早く封印しなければと言う使命感の為かなのはの中で焦りは募っていくばかりだった。
それが災いとなり一気に化け物が間合いに入るのを許してしまった。
化け物の鋭い爪が唸りを上げて襲い掛かってきた。
咄嗟になのははレイジングハートのデバイスでそれを受け止める。
が、力の差が有りすぎた為になのはの手からデバイスが弾かれてしまいその拍子になのは自身も地面に叩きつけられてしまった。
其処へ化け物が上に圧し掛かってきた。
両手を押さえつけて動けない状態のなのはを見下ろすように化け物が唸りを上げる。
ダラリ…
化け物の口から垂れた唾液がなのはの頬に掛かる。
嫌な匂いが鼻についた。そして、その匂いが同時に彼女の中にあった恐怖心を更に煽り立てた。
必死に逃げ出そうともがくが子供の力では振り解く事などできず無駄にじたばた動くだけで終わった。
そんななのはに向かい化け物が雄叫びを挙げる。
勝利の雄叫びだ。
もうなのはに抵抗する力などない。
今やもう食べられるだけの餌と成り果てた。
そう言う意味の篭った雄叫びだったのだ。
そして雄叫びを挙げ終わった後、なのはに向かい巨大な牙を突き出してきた。
「い、いやぁ!」
咄嗟に首を右に思い切り捻った。
それが幸いしたのか化け物の牙は地面に突き刺さった。
なのはに外傷はない。
しかし、それも唯のまぐれだ。
次はない。
次こそは確実に自分の体に鋭い牙が突き刺さる。
そう感じ取ったのだ。
(嫌だ、嫌だ! こんな所で死にたくない! 助けて、ハヤタさん、甲児さん、ユーノ君! 誰か、誰かぁ!)
声にならない叫びを上げる。
しかしそんな叫びを上げた所で誰も助けに来る筈がない。
無情にも化け物の牙が迫ってきた。
が、その時、化け物を横から何かで弾き飛ばしたかの様に横っ飛びに吹き飛んでいく。
吹き飛ばされた化け物は付近の巨木に体を激突させて地面に倒れこむ。
「え? 誰!」
誰かが助けてくれた。
そう思えたのだろう。
なのはは化け物とは反対の方向を向く。
其処には一人の少女が居た。
年頃はなのはと同じ年であろう。
金色の長い髪を両端に束ねた髪型に黒を基調としたバリアジャケット。
そして鎌か斧のどちらかを思わせる形をしたデバイスを手に持っている。
「間に合って良かった」
「えっと、貴方は?」
「下がってて、アイツの相手は私がするから」
それだけ告げると少女はなのはを通り越して化け物の前に立つ。
そして持っていたデバイスを構える。
化け物が今度は少女に狙いを定めて唸りを上げる。
「ジュエルシード…回収させて貰うよ」
静かに、澄んだ様な声でそう呟く少女。
その直後、一瞬の内に少女の体は化け物の目の前に来ていた。
それには化け物は勿論なのはも驚かされた。
「は、早い!」
それが思わずなのはの口から出た言葉であった。
あの少女はとても素早く動けるのだ。
その目の前で少女がデバイスから発せられた光の刃を思い切り化け物に叩き付けた。
化け物の腕に傷が付き化け物が痛みの叫びを上げる。
カウンターに腕を振るったが、そんな物に少女が当たる筈もなくかわされカウンターに今度は顔面に刃が叩きつけられた。
「凄い、あの子…凄く強い」
圧倒的であった。
なのはでは全く歯が立たなかった相手を圧倒しているのだ。
それ程までに少女はなのはよりも実戦慣れしていると言う事が伺える。
すると、化け物が少女に背を向けて逃げ出した。
恐らく少女には勝てないと判断したのだろう。
だが、それに対し少女がデバイスを振りかぶる。
「逃がさない。切り裂け! ハーケンセイバー!」
叫び、デバイスを思い切り振るった。
すると振るわれたデバイスから光の刃がブーメランの様に化け物目掛けて飛んでいく。
その刃が化け物を縦一文字に両断する。
断末魔の悲鳴と共に化け物の体が閃光に包まれ、やがて閃光が収まると其処には幼い子猫が横たわり、その横にジュエルシードが落ちていたのだ。
「良かった。怪我もなく済んで」
子猫に大した怪我がない事を知り安堵した少女がデバイスをジュエルシードに近づける。
そして、それを封印し、この場の脅威は去った。
「あ、あの…」
「ん?」
後ろからなのはが声を掛けた。
それを聞き少女は振り返る。
「あ、有難う。助けてくれて」
「君も魔導師なの?」
「えっと、うん!」
「そ、だったら…今すぐ止めた方が良い。君の腕前じゃその内ロストロギアに殺されるから」
そう言い残すと少女は飛び去っていく。
「あ、名前…行っちゃった…まだ自己紹介してなかったのに…」
なのはの前では大空へと飛び去っていく少女の後姿だけが見えた。
今から大声を発した所で聞こえる筈がない。
なのはからしてみれば命の恩人であり自分と同じ魔法少女との出会いだったのだ。
出来れば名前を聞きたかったし、どうせなら友達にもなりたかった。
だが、あの少女はジュエルシードの回収を終えるとその場から立ち去ってしまったのだ。
「あの子もジュエルシードを集めてるんだよね。だったら、きっとまた会えるかな? その時は、ちゃんとお礼を言って、名前を聞かせて貰わなきゃ。その為にも…もっと強くなる! もう皆のお荷物にならない様にもっと強くならなくちゃ!」
なのはの中である決意が芽生える。
少女に認められる為に。
そして、仲間達と肩を並べて戦う為に。
少女は更に強くなる事を決意した。
そんな少女を黙って夕日が見つめて、やがて沈んでいった。
つづく
後書き
次回予告
少女は強い決意の元己を磨きだした。
そんな少女はある出会いを果たす。
それは、他人に運命を弄ばれた一人の不幸は青年との出会いであった。
次回「仮面の戦士」
お楽しみに
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