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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第三節 決断 第五話(通算95話)

 
前書き
宇宙に出て不安に駆られるフランクリン。
そんな不安など素知らぬ顔のカミーユ。
そこに迫るアレキサンドリアの主砲が放たれた。
残り二分。
回避運動をするエマとカミーユは……
君は刻の涙を見る―― 

 
 レコアの《リックディアス》を先頭に二機の《ジムⅡ》が続く。パーソナルエンブレムから一機はランバンの機体、もう一機はカミーユの機体であることが解るが、カミーユ機に誰が搭乗しているのかまでは判らない。

 急速に近づいた二機の《ジムⅡ》はカミーユとエマの盾になるように張り付いた。レコアは牽制の弾幕をいつでも張れるように先行して警戒を怠らない。カミーユの全周天モニターにランバンのパーソナルエンブレム――《夢喰いの貊》が大写しになった。

――カミーユ!先に撤退しろ

 言いながらランバンが《アーガマ》の正確な位置情報を接触通信で送って寄越した。カミーユは受信するや、短く「了解!」と返事して、踵を返す。エマも同様に《アーガマ》を目指していた。
エマの策戦は人質の救出作戦である。もし追撃隊が来るなら迎撃するまでだが、基本的にはエマとカミーユが撤退する時間を稼げばよいだけだ。長引くなら、、二人が戦線に復帰するまで粘ればいいだけである。しかも、《アレキサンドリア》はカミーユの突発的な行動でカタパルトが使えなくなっていることを考えれば、ティターンズの追撃隊が出てくるまで、まだ時間的な余裕はあると考えられた。

――散開セヨ

 レコアの《リックディアス》のモノアイが明滅した。光通信による暗号通信である。ミノフスキー粒子撒布下における通信は指向性のレーザー通信か光通信があるが、MS同士の非接触通信としては光通信が最も信頼できた。

 三機のフォーメーションはレコアを頂点とした三角形の面を敵に対した防禦陣形だ。時間を稼ぎに攻撃陣形は必要はない。

 配置につき、逆噴射を掛け相対速度を0に殺すと、《アーガマ》からの掩護射撃が始まった。

 まだ《アレキサンドリア》から追撃のMS隊のあがる気配はない。レコアはじっと息を殺して、周囲を監視する。いっそこちらから仕掛けるか――そんな気も起きる。だが、今は撤退戦である。戦わずに済むなら、それに越したことはない。それより、ランバンたちが焦れて飛び出さないかどうかの心配が先だった。

(来たっ!)

 メガ粒子の光束帯がレコア機の近くを通過していく。《アレキサンドリア》が《アーガマ》に対して発砲した流れ弾だ。相対距離はまだ数十キロメートルはある。牽制であるのは間違いない。互いの有効射程内とはいえ、範囲ギリギリのところだ。二隻ともの主砲の射程距離にそれほどの差はない。《アレキサンドリア》としてはMS隊を出撃させるまでの時間稼ぎをしているつもりだろう。

「このままなら、逃げ切れるわね」

 安堵した途端、センサーが別の方角から侵入する機影を察知した。警報が鳴り、望遠映像が出る。最大望遠でも点ほどの大きさしかない敵機らしきものを、よくぞ識別したものだった。そして、その方角は、レコアたちが張った防禦陣の裏手からであった。

 敵の新手である。

 こんなに早く増援が到着するとは、誰も予想だにしていなかった。戦馴れしている連中に違いない。サイド7からの追撃ではないはずだ。考えられるのは〈ルナツー〉しかない。

「ちっ!」

 慌てて無線封鎖を解いて指示をだそうとする。だが、まだ敵味方識別信号の受信範囲外である。光学センサーが捉えた映像だけがたよりだが、味方とは思えなかった。

「ランバン!後ろに敵!」

 無線が通じないと解っていても口に出してしまう。やはり、信号弾を出すしかない。今はエマもカミーユも戦闘ができるような状態ではないのだ。

 赤、赤、赤。

 作戦失敗の合図である。

――中尉?

 ランバンから通信が入る。怪訝な声で、説明を求めていた。もどかしさを覚えながら、機体を振り返らせる。やはり、ランバンたちは気づいていなかった。ミノフスキー粒子が引き起こす電波障害が艦との通信を途絶させているため、《アーガマ》からの情報も途絶しているのだ。

「後方に所属不明機!掩護に向かうから、頼むわよっ」
――りょ、了解!

 ランバンが気がつかなかったのも無理はない。《ジムⅡ》と《リックディアス》では索敵能力が違いすぎるのだ。運用機体の不統一はこういう場面で個々のパイロットに判断の差が生じてしまう。

(この時点で追い付くには〈ルナツー〉以外は考えられない……ということは、ダグラス大将はアチラ側についたってことね)

 サイド7と〈ルナツー〉が最も離れた時を狙っての行動であったが、哨戒任務にあたっていたものを増援に寄越したのだろう。となると厄介だ。新兵同然のランバンらと人質を抱えたカミーユたちの勝てる相手ではない。しかも、光点の動きはトリッキーで素早かった。

「この動き……特務仕様? いや《カスタム》だわっ」

 光点は三つに増え、明らかに《ジムⅡ》よりも機動力が高い。〈ルナツー〉のRGM‐79N《ジム・カスタム》に間違いない。敵味方識別信号が入るまで待つ余裕はない。いくら近代化改修を受けていても、《ジムⅡ》は所詮、旧型機ベースである。現在、アナハイム社が総力を挙げて新型を開発中と聞かされてはいたが、今ここにないものは当てにしようもなかった。

「まずいわ……」

 バインダーのスラスターも全開にすれば追い付けない距離ではない。だが、迎撃される危険もある。 
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