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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第二部 黒いガンダム
第五章 フランクリン・ビダン
  第二節 人質 第二話(通算87話)

 
前書き
フランクリンは苛ついていた。
軍属とはいえ軍艦に乗る謂れはなかった。
何より軍人が嫌いだった。
そして、妻と息子が一堂に会する。
君は刻の涙を見る―― 

 
「何故って……新しい任務だ。お前も軍人なら解るだろう」

 苦しい言い訳だった。
 正規の軍人と違い、基本的にプロジェクトにのみ従事するのが軍属である。戦場に駆り出されるには相応の理由や状況が要る。たかが各艦の技師長レベルを民間から引っ張るほどティターンズに人材がいない訳でもない。そんなことは、長年共に暮らしてきたカミーユが知らない筈はなかった。苦し紛れであることは簡単にバレる。

「親父も知らないのか……」

 カミーユは仁辺もなくいい放つ。軍事機密とでも言った方がまだましだったろう。

 だからこそ、カミーユは自分がグラナダに配属されたからではなく、そもそもマークされていたのだと直感できた。それが故に、両親は何も知らされず、《アレキサンドリア》に乗艦させられたのだ。

 極秘任務である自分のことが知られているということは、グラナダの情報が筒抜けになっているということでもある。《アーガマ》へ戻ってブレックスに知らせなければならない。カミーユは遅蒔きながらこの任務の重要性を悟った。これまで、任務に対する感情は親子の情に責任を感じてのことだった。だから、エマ対しても感情を吐き出せた。

 だが、もはやエマに対する拘りを捨てて、作戦を成功させなければならないと考えられた。感情が理性を超える、若者らしい割り切りのよさが、ここではプラスに働いた。

 そもそも慎重派のブレックスが大胆にも敵本拠地の奇襲を決めたのも、エマの作戦に乗ってみせたのも、スパイの実在を疑ってのことではなかったか。奇襲は成功したものの乗組員の家族が人質になっているという事実は、エゥーゴの今後の在り方に関わってくる。コロニー政府の抱き込み――寄り合い所帯の泣き所だった。

 どのコロニーが味方なのか、誰が敵なのか、可能ならスパイの尻尾も掴みたいところだが、それは欲張りすぎだろう。作戦の目的を増やせば注意が散漫になり、どこから破綻が始まるか解らない。今は人質を確保して脱出することを優先すべきだと、新米のカミーユにも解る。

「おや、親子の対面は終わりかね?」

 底意地の悪そうな目で部屋を見回しながら、ジャマイカンがブリーフィングルームに入ってきた。カミーユはこいつが元凶なのかと感じた。露骨に嫌悪の表情をしそうになったが、堪えた。だが不満顔は簡単に改まるものでもない。そもそも、父の態度も、母の態度も、ここの待遇も、なにもかも気に入らなかったのだ。

 それをジャマイカンが目敏く見てとった。心の中でほくそ笑みながら。

「不満そうだな、ビタン少尉」
「自分は捕虜ではありません。宇宙軍少尉MSパイロットとしての待遇を求めます」

 ジャマイカンはわざと面白いという顔をしてみせた。形だけ敬礼をしているカミーユをまじまじと見つめる。だが、ジャマイカンが浮かべるのは、権力を持った者が持たざる者を見る蔑みの表情だった。

「少尉、考え違いをしてもらっては困る。ここはティターンズだ。一般将校は二階級下の扱いだ。ティターンズで少尉扱いして欲しければ連邦軍大尉くらいにはなってから言いたまえ」

 自分たちティターンズは特別である――組織に与えられた特権を自らの力と勘違いしている愚かさの見本だった。エリート意識の肥大化が選民主義になるのは仕方ないのだろうか。エリートでない者がエリートになるが故の弊害だろうか。

 この醜さには反吐が出る思いがした。

 ジャマイカンはカミーユの憤懣やる方ない態度が愉快だった。これがティターンズに加わった最大の役得だとさえ思える。少佐で大佐相当の待遇を要求でき、一般将校への指揮権もある。優越感をこれほど満たすものはなかった。

「くっ……」
「解ったのかね?」

 ティターンズのスタッフにさえ嫌われる嫌味ったらしい笑みを浮かべてカミーユを見据える。一瞬、真剣な眼を据えて傲岸に見下した。

 腐ってやがる。そう言おうとしたのを飲み込んで、奥歯を噛み締める。だが、怒りを堪えきれない。

 カミーユの顔に怒気の所為か赤みが差す――が、見かねたエマが割って入った。

「ジャマイカン少佐、ビダン少尉をからかうのはそのくらいにしていただけますか?」

 エマの横槍に鼻白んだジャマイカンは、面白くなさそうに鼻哂して部屋を出ていった。ブリーフィングルームが一瞬静まり返る。

「カミーユ、ジャマイカン少佐の挑発にのらないで。少佐は計算ずくなのよ? 今のままなら、貴方を営倉に入れる理由はないから」

 カミーユは憮然として相槌を打つ。
 ティターンズの中にあっては、エマがかなりまともに感じると、出発前に突っ掛かったこともあり、気まずさを覚えるのだ。

 エマはカミーユに対してまるで子供だという印象を持った。つまりは、反抗期の少年と同じなのだ。理屈を言えば解るだけに始末が悪かった。

「エマ、そのぐらいにしとけ」

 事態を静観していたカクリコンが声を掛けた。バスクからフランクリンとヒルダ夫妻の監視を命じられて、ブリーフィングルームに来たのだが、興がのらないことこの上ない。命令には背かないが、パイロットの仕事ではないとやる気のない態度である。

「カミーユと言ったか、少尉はエマが案内しろ。大尉と中尉は自室にお戻りください」
「カクリコン中尉、息子――カミーユと話をさせて」

 ヒルダが取りすがるが、カクリコンは首を横に振った。無言で出口を指し、有無を言わさぬ態度を崩さなかった。 
 

 
後書き
ジャマイカンってホントに嫌な奴ですねぇ。 
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