海底で微睡む
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狭間-黒 彼が見る世界
ゴボ、ゴボゴボ。
なんだか、息が苦しい。
そう思って口を開けると、さらに苦しくなって。目の前が霞んでいく。
綺麗な青が、遠くの方に見える。光が、どんどん小さくなっていく。
私は、どんどん深くへ。闇の中へ。深海へ、落ちていく。
この風景は記憶にない。でも……何を意味しているかは大体想像がつく。
きっと、私を殺した"彼"が、ずっと見ている風景。
(本当に独りぼっち……)
藍色に見える宇宙、輝く星々から一番遠い場所。
あの素晴らしい茜色の空も、深海の闇は飲み込んでしまう。紅葉はここまで落ちてはこない。どこまでも広がっていると錯覚するような若草色の原っぱも、深海まではやってこない。碧色の美しいあの水も命を飲み込むけれど……きっと、魂を食べた数は、この闇には到底敵わない。
どこまでもどこまでも落ちていく。
暗い。寒い。苦しい。
……ああ。こんなところにいては、誰にも見つけてもらえない。
『幻なんかじゃない、実在するんだよ』
『……存在を否定するつもりかい?』
たとえ、本当に実在するのだとしても、この闇の中では誰にも見つけてもらえない。誰にも気づいてもらえない。
ずっとこの中にいたのだとしたら——あの時、みんなで話していたあの瞬間。どれだけ喜んで、期待していたのだろう。
やっと見つけてもらえた。やっと自分以外の誰かと話せた。
やっと、やっと。待ちに待ったこの時が。
(……なのに、私は)
男の人が怖い。お父さんを見ていたら、そう思うようになってしまった。
そのせいで、私は彼にひどい態度をしてしまって、彼を傷つけた。彼がずっとずっと望んでいたであろう喜びを、私が壊してしまった。
……私が死んだのは、当たり前だった。ひどいことをしたんだもの。
(叶うなら、もう一度やり直したい。それができないなら、もう一度彼に会って、謝りたい。それもまたできないなら……)
(すべて、やりきって。死ぬなら、それからがいい)
深海の闇の中で、私は静かに誓った。
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