真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第35話 剛毅なる者
私達一行は故郷の山陽郡を立ち、馬上の人となっています。
父上は馬3頭を融通しれくれました。
これで問題無く青洲に行くことができます。
凪、沙和、真桜にそれぞれ馬を割当ました。
父上に馬を融通してくれる様に頼みに行った時、麗羽の甘味の件で恨みがましく愚痴を言われました。
結局、父上は鍋一杯の杏仁豆腐を食べる羽目になったそうです。
当分、杏仁豆腐は食えないと父上が言っていました。
当の麗羽は自分の作った杏仁豆腐が不味いことを気付いてしました。
揚羽がそれとなく伝えた様です。
それで麗羽は元気がありません。
朝起きてから麗羽とは一度も会話をしていません。
気まずい空気です。
私が悪いです。
こんなことになるなら、不味いと正直に伝えれば良かったと思います。
後の祭りです。
私は麗羽に勇気を出して声を掛ける事にしました。
「麗羽。昨日の甘味の件だけど・・・。ごめん。正直に不味いと・・・言えば良かったんだと今は思っている」
「・・・・・・正宗様。今は放っといてくださいませんこと」
麗羽は元気なく返事をしてきました。
気まずいです。
「不味いのを不味いと言うのも悪いと思ったんだ。それに初めから上手に作れる訳ないと思う」
「でしたら、そう言って欲しかったです」
麗羽は俯きながら元気なく言いました。
麗羽に掛ける言葉が見つかりません。
私が麗羽に掛ける言葉を思案していると揚羽が私達の会話に入ってきました。
「麗羽殿。くよくよするのは止めましょう。過ぎたことを悔やんでも仕方ありません。料理が不味くても良いと思います。不味いなら練習すれば良いのです」
揚羽は珍しく麗羽に優しく声を掛けました。
「揚羽さんに何がお分りに成りますの!揚羽さんは料理が上手いからそのようなことが言えますの」
「私は料理が上手い訳ではありません。何度も失敗して作りました。麗羽様との違いは味見をしていたかどうかです。麗羽様は味見を為さらなかったのではないのですか?」
「味見?料理は味見をするものですの?」
麗羽は不思議そうな顔で揚羽に味見のことを尋ねていました。
「自分が口にしていない料理を人に食べさせることは失礼です」
「私は料理人の出すものをいつも食べていましたわ。料理人も味見をしますの」
「当然です。自分が美味しいと思えない料理を自信を持って人前に出せますか?」
「・・・・・・。揚羽さんの言う通りですわね。私が味見をすれば良かったですわ。そうすれば正宗様に美味しい料理を食べていただけましたわ」
「そうだ。今度料理するときは味見すれば良いんだよ。私は麗羽の料理を食べたいと思っている」
「正宗様とお義父様にはご迷惑お掛けしましたわ」
麗羽は少しすっきりした表情で私に謝りました。
「麗羽。全然気にしなくて良いよ。父上に関しては私が素直に本当のことを麗羽に告げれば良かったと思う」
父上の件は私の所為なので、麗羽が謝ることではありません。
私が麗羽に不味いと言えば済んでいたことです。
「正宗様。麗羽殿。仲直りは出来ましたか?」
揚羽は笑顔で私達二人に言いました。
「揚羽さん。何を言いますの。正宗様と喧嘩など初めからしていませんわ」
麗羽は揚羽にそういうと胸を張っていました。
いつもの麗羽に戻ってくれた様です。
私は一先ず一安心して、旅路を進めました。
泰山郡の渓谷に差し掛かった辺りで、異変が起こりました。
遠くで剣戟と人の怒号が聞こえます。
私達は何事かと馬を走らせようとしました。
「正宗様お待ちください」
それを揚羽が制止しました。
「この先で戦闘が起こっているのは必定です。無闇に攻めるのはお止めください。一度、見晴らしの良い場所に移動しましょう」
揚羽の提案通り私達は見晴らしの良い場所に急いで移動しました。
どうやら官軍と何者かが戦闘をしているようです。
官軍と言っても装備からして大守の処の兵だと思います。
「官軍を襲っているのは賊の様ですわ。官軍は100人位。賊は10人。あの数で官軍に立ち向かうとは愚かなものですわ」
「それは違う。賊ならそんな危険を犯さない。確かに、ここは渓谷だから道幅が狭い。小数でも一度に相手にする人数が少なくなるから、官軍の数の利は無くなる。だけど、数の利が無かろうと兵数は10倍だ。彼らが一騎当千であろうと長く持たない。危険を犯してでもあの官軍を襲う必要があったというのが自然だと思う。麗羽見てごらん。官軍達の中央に檻車がある。あの中に助け出したい人でも居るんだろ」
「正宗様。それでは彼らは賊ではありませんの?」
「ああ。今の泰山郡の大守はあまり良い噂を聞かない。どうせ役人の不正を追求した結果、逆に捕まったというところだろう。それに、襲撃している者達は賊とは明らかに動きが違う。兵士ではないが、統率は取れているのが、ここからでも良く分る」
この時代はこの手のことが多々あります。
霊帝が行った売官のお陰で官卑が蔓延っているのです。
「正宗様の推察通り近からず遠からずでしょう。彼らには悪いですが、ここは静観しましょう」
揚羽は彼らを見捨てるように言ってきました。
「何を言っていますの!揚羽さん。あなたを見損ないましたわ。正宗様の話では悪いのはあの官軍達ではありませんの。ここは助太刀するのが当然ですわ!」
麗羽は胸を張って揚羽にビシッと指を指して言いました。
「彼らに加勢した場合、この地の大守に要らぬ恨みを買うことになります。ここは静観するのが上策です。麗羽殿。気持ちも分ります。ですが、ここは押さえてください」
揚羽は淡々と麗羽に言い、私の方を見ました。
私にも彼らを見捨てることに同意しろということでしょう。
揚羽には悪いですが、私には彼らを見捨てることはできないです。
権力者ならば見捨てたかもしれないです。
彼らは人を助け出す為に命懸けの行動を取っています。
ここで見捨てたら後悔すると思います。
しかし、彼らを助ければ、父上と袁逢殿に迷惑が掛かることになります。
無位無官の身の私が大守を糾弾する伝手と言えば、父上達を頼るしかありません。
その上、大守の軍とはいえ、官軍と事を構えれば面倒なことになります。
力の無い自分が呪わしいです。
助けたくとも自分の力では何もできない。
他人の力を頼らなければいけない自分が惨めです。
幾ら大勢の賊を打ち倒す力があっても、権力の前では腕力など意味がないです。
私は自分の力の無さを痛感しました。
それでも彼らを見捨てることはできないです。
私は目を瞑り深呼吸を一度して、目を開けました。
「彼らを助けようと思う」
私は迷い無く揚羽を見て言いました。
「えーーーーーー!アニキ。止めようよ。絶対に面倒なことに成るに決まってる」
猪々子は面倒臭そうに言いました。
「正宗様。この郡の大守が不正をしているのであれば、この旅が終わってからでも遅くないと思います。短慮に成られてはいけません」
揚羽は私の前に進み出て、厳しい目で私を見据えています。
「揚羽。悪いが私には彼らを見捨てることはできない。そこを通してくれ」
「できません。正宗様の身の安全を守る為ならば、諫言程度幾らでもします!」
揚羽は退くつもりはないようです。
「この地の大守と事を構える必要があるなら、喜んで受けて立つつもりだ。この程度のことで、怯んでいて私の夢を実現できると思うか?」
私は揚羽に負けじと彼女の目を見据えました。
私と揚羽はしばしの間睨み合いをしました。
「はぁ・・・・・・。分りました。言うだけ無駄のようですね。正宗様。彼らを助け出す前に、この件を文にしたためてください。宛先は正宗様のお義父様と麗羽殿の叔父様にです。今の正宗様ではどうにもならないです。その後は、急いでエン州を抜けます。文を届けるのは斗詩と猪々子に任せましょう。斗詩と猪々子は仮にも袁家に仕えています。仮に大守側の人間に捕まっても酷い目に遭うことはないでしょう」
揚羽は嘆息し、彼らを助け出したら父上と袁逢殿に文を出す様に言いまいた。
父上と袁逢殿には申し訳ないです。
「ありがとう。揚羽」
私は揚羽が彼らを救うことに納得してくれたことを感謝しました。
「お礼は彼らを無事助け出してからにしてください。正宗様。私も助成します」
揚羽は私に力強く微笑みました。
「斗詩と猪々子は父上と袁逢殿の元に使いとして行ってくれないか」
「えーーーーーー。ここでアタイと斗詩だけ洛陽に帰るなんて嫌だよ」
猪々子は不満気に言いました。
「もう、文ちゃん。空気読んでよ!正宗様。使いのお役目はお任せください」
斗詩が猪々子を嗜めつつ役目を受けてくれました。
「皆。彼らを救出しにいくぞ!揚羽。策を考えてくれ。斗詩と猪々子は文を書くから、それが出来次第ここを立ってくれ」
「仕方ないなあ。分ったよ。アニキ。お土産を沢山買ってきてくれなきゃ駄目だからな」
猪々子は渋々言いながら、ちゃっかりお土産を要求してきました。
「もう!文ちゃん。すいません。正宗様。使いのお役目は必ずやり遂げます。ご安心ください」
「二人とも頼むぞ。猪々子。土産は期待して良いぞ」
「本当っ!やったあ。流石、アニキ。使いは任してくれよ」
猪々子は土産が買ってくると言ったら俄然やる気を出しているようでした。
「正宗様時間がありません。戯れあうのはその辺にしてください。策の方なのですが、官軍の注意は結果的に彼らが引いてくれています。まず、正宗様が官軍の後方を襲撃して官軍を撹乱させます。後は、前後から攻撃を受け混乱した官軍の陣の乱れを突いて、私達が檻車の人物を助け出すことに専念すれば良いと思います。救出後は直ぐに撤退します。官軍を全滅させる必要はありません。麗羽殿も必要以上に殺さないでください。後々、正宗様のお義父様と麗羽殿の叔父様に後処理をお任せすることを考えれば、死傷者は少ないことに超したことはありません」
「分りましたわ」
麗羽は胸を張り言いました。
「必ずや救出を成功させてみせます」
楽進も義侠の心に燃えている様です。
楽進の瞳から炎が出ているように見えるのは錯覚でしょう。
その他の面々は渋々な表情をしています。
沙和が一番やる気がなさそうです。
面倒臭いオーラを体中から放っています。
私は父上と袁逢殿への文を急いで書き上げると、斗詩と猪々子に文を渡しました。
私達は馬を走らせ官軍の後方を急襲し檻車の人物を助け出すことにしました。
この私の行動が新たな出会いの始まりとはこのときは露程にも思いませんでした。
後書き
次話はオリ武将登場です。
今回のオリ武将は劉ヨウ陣営です。
袁紹陣営のオリ武将の登場はまだ後です。
泰山郡と話の流れでもうお分かりの人もいると思います。
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