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第二章
メアリーと書いてあった、前田はその看板を見て橋本に話した。
「こんなところにバーがあったんですね」
「うん、僕もはじめて見たよ」
橋本は前田にこう答えた。
「本当に」
「そうですか」
「うん、けれど一杯位ね」
「飲んでいきますか」
「幾ら高くても」
それでもというのだ。
「たまには飲んでもいいね」
「お店で」
「一杯位ならそんなにお金もかからないし」
「ですね、幾ら物価が高くても」
「それじゃあね」
「今からね」
「お店に入りましょう」
「そうしよう」
こう話してだった。
二人で店に入った、するとだった。
店の中は木造でダークブラウンを貴重とした部屋であった、全体的に一九二〇年代のジャズ喫茶を思わせる雰囲気であり。
カウンターの席に黒のベストとズボン、白いブラウスに赤の蝶ネクタイを着けた初老のアフリカ系の男性がいた。客も十人程いてそれぞれ飲んでいる。
二人で店の中を見回してだ、前田は橋本に話した。
「何処座ります?」
「カウンターでいいんじゃないかな」
橋本は前田にこう答えた。
「丁度二つ並んで空いてるしね」
「そうですね、それじゃあ」
「あそこに座って」
そうしてというのだ。
「一緒にね」
「飲みますか」
「そうしようか」
「それじゃあ」
前田は橋本の言葉に頷いてだった。
そのうえで実際にカウンターに並んで座ってだった。
まずはメニューを確認したが。
「いや、これは」
「安いな」
「そうですよね」
「それもかなり」
「今のニューヨークとは思えないです」
真顔でだ、前田は橋本に話した。
「この値段は」
「全くだね」
「嘘みたいですね」
「うん、けれどね」
それでもとだ、橋本は前田に話した。
「カウンターに座ったし」
「注文しますか」
「詐欺の様に思えても」
「そうしましょう」
「危なかったら訴えたらいいし」
「そうですね」
こうした剣呑な会話もした、二人で話しているのは日本語だ。それで結構おおっぴらに話してだった。
そのうえでそれぞれカクテルを注文して飲んだ、安かったので二杯三杯と飲んでそうしてであった。
つまみにナッツも頼んだ、そうしてかなり飲んでだった。
オーダーを払う時になってだ、前田は橋本に話した。
「あの」
「ああ、若しな」
「何だかんだで高かったら」
「弁護士に話すぞ」
「そうしますね」
「アメリカだからな」
この国だからだというのだ。
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