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第一章
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日本の本社からニューヨークの支社に来てだ、前田幸男は上司で数年前からこの街にいる橋本隆俊に言った。
「物価が凄いですね」
「最近はね」
橋本は前田に苦い顔で応えた、髪の毛が前からなくなった太った中背の男で優しい感じである。
「そうなんだよ」
「噂には聞いてましたが」
前田も苦い顔だった、彼は眼鏡をかけて黒髪を右で分けている。細面で背は高く痩せていて若々しい雰囲気だ。
「いや本当に」
「暮らしにくいというとね」
「今はそうですね」
「うん、こうまで物価が高いとね」
それならというのだ。
「もうね」
「苦しいですね」
「全くだよ、食べることさえね」
「今のニューヨークでは厳しいですね」
「うん、僕も何年もいてね」
橋本は前田に話した。
「ここまで苦しい状況はね」
「そうはないですね」
「うん、早くこの状況はね」
「終わって欲しいですね」
「そう思うよ」
こう話した、そしてだった。
二人でこの日も働きそうしてだった。
夜にだ、橋本は前田に話した。
「ここまで物価が高いと飲むにもだよ」
「大変ですね」
「高過ぎるんだよ」
その物価がというのだ。
「だから気晴らしに飲むのもだよ」
「大変ですね」
「精々スーパーで買って」
「食べることですね」
「店で飲んで食べるとか」
そうしたことはというのだ。
「とてもね」
「出来ないですね」
「そうだよ」
こう言うのだった。
「だからだよ」
「スーパーで買って」
「そうするしかないよ」
「昼も弁当で」
「パンとかをね」
そうしてというのだ。
「そのうえでだよ」
「食べるしかないですし」
「飲むにしても」
これもというのだ。
「仕方ないよ」
「スーパーで何か買って飲んでますね」
「ああ、洒落た店で飲むなんて」
「ニューヨークらしい」
「それもだよ」
どうにもというのだ。
「難しいよ」
「そうですよね」
「高過ぎてね」
こう話してそうしてだった。
二人でだ、ニューヨークの夜の街を歩いていた。治安がよくなったので夜でも普通に歩ける様になったがだ。
別の問題、物価のことが問題になっていた。それでだった。
二人も浮かない顔であった、だが。
その二人の前にだ、ふとだった。
木製の扉が見えた、そこには古風な看板でバーとありだ。
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