真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第25話 正室と側室 前編
揚羽の仕官に成功した私は、一度、麗羽と合流することにしました。
私が司馬家の屋敷を後にしようとしたら、揚羽も着いて行くと言いました。
揚羽を連れて行きたくなかったのですが、無理でした。
麗羽達を探す道すがら、揚羽に私の真名を預けました。
この後のことを考えると、私は憂鬱でした。
「正宗様。ご説明していただけますこと」
麗羽は不機嫌そうに、私のことを睨みつけてきました。
「えーと、麗羽さん、何から話しましょうか」
「全てですわ!」
「そう・・・ですか・・・」
私がいるのは今夜宿泊する宿の一室です。
この部屋には私と麗羽、猪々子、斗詩、そして、揚羽の5人です。
私と揚羽は床に正座させられ、残りの3人は麗羽を中心にテーブルに座っています。
私の心境は裁判官を前にした被告人の心境です。
剣呑とした空気が立ちこめています。
お気楽な猪々子もこの空気が気まずそうです。
「あのさ姫・・・。アタイ、ちょっとお腹が減ったからさ・・・」
「猪々子さん、何かありまして」
麗羽は能面の表情で、猪々子に視線を送ります。
「ア・・・ハハハ・・・、何もないです・・・」
口を閉じた猪々子は私に避難の目を送ってきます。
斗詩は私に「何とかしてください」オーラを放っています。
揚羽を見ると、私の隣で落ち着いた表情で、飄々と正座しています。
「麗羽、揚羽が仕官してくれたんだ」
言葉が何も思いつきません。
「揚羽・・・、司馬懿さんのことを真名で呼びますのね」
麗羽の額に青筋が現れています。
「それは、さっき聞きましたわ!私が聞きたいのはそんなことじゃありませんわ。正宗様は司馬懿さんに仕官を頼みに行かれたのですわよね?それが何故、司馬懿さんが正宗様の側室を宣言していますの?」
麗羽は能面の表情を私に向けてきました。
「揚羽が、私に仕官する条件に側室にして欲しいと言われたんだ」
「そうですの・・・。そんな大切な話を私に相談もなしに決めましたのね」
麗羽の表情が能面から般若の表情に豹変しました。
ひぃぃーーー、麗羽さん、落ち着きましょ。
私は麗羽の怒りに気圧され喋ることができなくなりました。
「袁紹殿、よろしいでしょうか?」
今まで、黙っていた揚羽が口を開き、麗羽に声を掛けました。
「黙りなさい!今、私は正宗様と話していますの!」
麗羽は揚羽に発言は認めぬと言わんばかりの迫力で言いました。
「黙りません。正宗様が一番愛している女性は袁紹殿であることは事実です。私は正宗様の仕官の話を断るつもりでした。ですが、正宗様はこれを私に渡されたのです」
揚羽は私が渡した短剣を麗羽に差し出しました。
「何ですの・・・。これは正宗様が持っている物に似ていますわね」
麗羽は訝しい表情で短剣を見ていましたが、私の短剣と気づき疑問の表情を揚羽に向けました。
「はい、これは正宗様の短剣です。正宗様は自分に仕えて、仕えるに値しない人間なら、これで自分を殺してくれと私に仰りました。」
「な、何ですって!正宗様、本当ですの?」
麗羽は私が揚羽に言った内容に驚いているようです。
仕方無かったのです。
揚羽には自分の秘密を話してしまいました。
後には引けなかったのです。
もし、仕官を断られれば、私は揚羽を殺さなければいけませんでした。
「命を賭してまで、私を仕官させたかった理由を袁紹殿はお分かりですか?」
揚羽は麗羽に対し、話を続けました。
「・・・その理由は何ですの?」
麗羽は揚羽に対して、神妙な面持ちで聞きました。
「その前に、そちらの2人にはご退席していただけますか?」
揚羽は猪々子と斗詩に目を向け部屋から出て欲しいと言いました。
猪々子と斗詩は麗羽に視線を向けて、返事を待ちました。
麗羽は揚羽が私達にしか話せない内容を感じたのか、2人に退出を促しまた。
「いいですわ。二人とも街にでも行って、時間を潰してきなさい」
猪々子と斗詩は「助かった」という表情で部屋を出て行きました。
猪々子と斗詩が部屋を退出するのを確認した麗羽は揚羽に話の続きを促しました。
「早くお話しなさい」
「袁紹殿、あなたの為です。正宗様は袁紹殿と安寧に暮らせる世を実現したい。その為には私が必要と仰られていました」
その後、揚羽は麗羽に私の秘密を教えられたことを話しました。
麗羽は揚羽の言葉を黙って聞いていましたが、最後は驚き私の顔を見ました。
「私の為ですの・・・。正宗様の秘密を教え、自分の命を預けてまで・・・。正宗様・・・、この司馬懿はそれ程の人物なのですか?それ以前に信頼できますの?」
麗羽は憑き物がとれたように、いつもの表情でした。
「ああ、揚羽は天下一の軍師だ。そして、将軍としても一流だ。だから、彼女には是が非でも私の右腕に成って欲しかったんだ。彼女に私の秘密を話さなければ、彼女を仕官させることができないと思った。私は将来、死にたくない。でも、麗羽が不幸になるのはもっと嫌だ」
私は俯いて麗羽に自分の気持ちを正直に告げた。
「正宗様・・・。卑怯ですわ・・・。そんなことを言われたら何も言えませんわ・・・」
麗羽は私に近づいてきて、片膝を着き、私の手を握りながら言いました。
ページ上へ戻る