DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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煽り
前書き
マジ昨日から変な人に当たりすぎてネガティブなる……
莉愛side
(この回は八番から。監督の話だとそろそろ《ビッグイニングの法則》っていうのが来るかもしれないってことだったけど……)
中盤に大量得点を奪って逃げ切り体制に入る桜華学院。さらにはクリンナップに打てるバッターが揃っている以上、その前にランナーを溜めて行きたいはず。
(内野はバント警戒。例のトライアングルも注意しながら行きましょう)
((((了解))))
相手が奇策をしてくることは想定済み。そのための対策もしてきたから予行練習はバッチリ。何が来ても対応できる!!……はず。
(狙うなら初球でしょ。いきなりフォークで攻めてみていい?)
(フォークなら小技なんてさせないけどね)
瑞姫の決め球であるフォーク。このボールをトライアングルに転がすなんてできるはずがない。そう考えての入りだったが、バッターは予想外の強振。しかしバットには当たらず1ストライク。
(??普通に打ってくる?)
カミューニside
「初球からフォークか。よっぽどうちに大量得点を許したくないみたいだな」
準々決勝を見ているからか下位打線相手とは思えない入り方。これじゃあ確かにトライアングルもカット打法もできない。
「どうするんですか?このままじゃ負けちゃいますよ」
「まだ序盤だぞ。ただ、そこまで警戒してくれるならそれを利用しない手はねぇな」
部長の相変わらずの慌てぶりにイライラするものの相手がこちらを意識してくれるならそれはそれで好都合。やられっぱなしに見えるようでは、この心配性も収まらないだろうしな。
(この回は正直捨ての予定だったが、次の回の攻め方を予定と変えるか。そのための種を蒔いておこう)
念には念を。ここはブロックサインではなくフラッシュサインで送っておく。
(これでより奇策を講じているように見える。出雲が初球をフルスイングしてくれたこともより生きるな)
サインを送れば俺にできるのはそれを見守ることだけ。もちろんここからのことも考えてはいるが、やはり選手の頃と比べると退屈に感じる時がある。
(でも勝利への渇望は変わらねぇよ。部員数が少ない?選手に恵まれてない?関係ねぇ、それを覆して勝利を得るのが俺たちの力だ)
第三者side
初球のフォークボールが空振りになり1ストライク。続く二球目の前に相手ベンチを見ていた莉愛だったが、特別な動きは見られない。
(仕掛けるのかこの回じゃない?それでも警戒は緩められないけど……それなら次はストレートでカウントを取ろうかな)
フォークは振ってもらえない限りストライクを取りづらい球種。早めに追い込めればそれだけ打者の攻め手を減らすことができる。そう思い安易にストライクを取りにいった二球目、打者に動きが見えた。
「セーフティ!!」
「優愛!!」
「はいはい!!」
カウントを取りに来たストレートを三塁線へと転がす。打球の勢いは殺しきれていないもののコースは完璧。
「サード!!間に合う!!」
「任せな……よ!!」
あらかじめセーフティバントは予想していた。そのため優愛の打球処理までのタイムは普段よりも早く、ジャンピングスローで一塁へ送球。葉月も足を目一杯開いてこれを伸びて捕球する。
「アウト!!アウト!!」
間一髪のタイミングでアウトにすることができた明宝ナイン。しかし一瞬気が抜けたところでの奇襲に選手たちは明らかに動揺していた。
(初球のフルスイングの時に気にするべきだった。あまりにも打つ気がありすぎてこの回は普通に打つのかと思っちまった)
真田も警戒が疎かになっていたことを反省する。次の丸メガネをかけた少女を見つめている。
(こいつが日帝大戦ではトライアングルを決めてあのビッグイニングが始まった。安易に入るなよ、瑞姫、莉愛)
監督からの視線を感じた莉愛が頷きマスクを被る。相手のベンチからは指示が出ているようには見えない。
(もしかしたら既に指示が出されてるのかも……何が来てもいいように対応お願いします)
これまでのチームのようにならないように神経を張り詰めているのが誰の目からもわかる。それを見たカミューニはなぜかほくそ笑んでいた。
(考えてる考えてる。日帝大の二の舞になるまいと気負ってるのが目に見えるぜ。もう既に泥沼にハマっているとも知らずに)
続く左打者は初球からバントの構え。それに合わせて明宝ナインは動くかバットを引いてボール。
(瑞姫にも力が入っちゃってるか。ここはスライダーで行こう)
握力を使うフォークを温存しつつ相手の狙い通りには試合を動かさせたくはない。そう考えると自然と投じる球種は限られてくる。
(今度は一塁線に転がしてやれ。どんな反応するのか楽しみだぜ)
右投げの瑞姫のスライダーは左打者である小野の身体に向かってくる。それに狙いを定めてプッシュバント気味の強いゴロを一塁側へと転がす。
「瑞姫!!紗枝!!ベースカバー!!」
葉月が前に出ることでベースが空く。しかしそれに対しても事前に対策をしていたことで紗枝がベースカバー入っているため無事にアウトにすることができた。
(キッチリ対策してくれてる。選手全員が一つの打球に動いている)
まるで隙のない相手の動きに通常の監督なら新たな策を講じていく。それなのに次の打席に入った青髪の少女はいきなりバントの構え。
「またか……」
いつもの真田ならここで違和感に気が付くはずだった。しかしこの日は様々な要素が重なったことによりその違和感に気付けない。
絶好調の瑞姫に手も足も出ない桜華学院。元々の選手層の薄さと力のなさから瑞姫の体力を削りに来たようにしか見えなかった。
コッ
またしてもセーフティバント。しかし打球の勢いも殺しきれずコースも甘い。瑞姫がこれを捌いて難なく一塁をアウトにしていた。
「出雲、美幸、青葉、貴重な一打席をありがとう」
「いえいえ」
「準備は整った感じですか?」
「あぁ。お陰さまでな」
「ということは……」
この回セーフティバントを敢行した三人の問いに青年は頷く。それを受けた他の少女たちは嬉しそうに頬を緩ませる。
「次の回……仕掛けるぞ」
莉愛side
「ナイス瑞姫」
「サンキュー」
冷静な処理で三人をアッサリ切ってくれた瑞姫に労いの声をかける。少し汗ばんでいるけど、まだ呼吸も乱れていないし大丈夫そうかな?
「莉愛、さっき何打ったの?」
ヘルメットを被っている莉子さんから声をかけられる。さっき打ったのは……
「外角のストレートですね」
「特徴とかあった?」
「んん??そんなになかったような……」
横から投げられてるから違和感はあるけどこれといった特徴があるような気はしない。コースが厳しいことくらいかな?っとも思うけど、踏み込めば対応することはできるし……
「ふ~ん……なるほど。ありがと、それでいってみようかな」
初回のピッチングはあてにならないことはこれまでの戦績からわかっている。だからこその質問だったんだろうけど、私もよくわからないしなんとも言えない。
(あ……でもあのこと伝えなくてよかったのかな?いや、でもいいか)
既にネクストに向かっている莉子さんを見てから伝え忘れたことがあったことに気が付いたけど、そこまで重要なことじゃないしとそのままベンチに戻る。
(この回は凌いだけど、次の回はまた違う攻め方をしてくるかもしれない。でも中盤を凌ぎきれれば勝てるはず)
あんな奇襲戦法が終盤にリードされている状況で、選手たちが冷静に決めることなんてできるはずがない。とにかく5回まで相手を抑えることができれば……
守備への不安と責任感……そのことが勝ってしまい大事なことを伝え忘れてしまった。そのせいで試合が混戦に陥ってしまうことをこの時の私は予想することができていなかった……
第三者side
三回の裏の攻撃。打席には前の打席アウトにはなっているもののいい当たりを放っている紗枝が入る。
(この子もいい当たり打ってたなぁ。初球から咬ましていくか)
リュシーからのサインを受けたソフィアは速いテンポから投球に入る。サインにも首を振らないだけにとにかく間合いが短いように周りからは見える。
(この間の無さも打つ方からしたら厄介だよね)
そんなことを考えていた紗枝の目に映る白球。それはコースも高さも甘いストレートに見えた。
(ウソ!?何このボール!!)
いくらなんでもこんなボールを逃すようなことはしない。そう思いながらバットを振り出した紗枝。
ガキッ
パワーの無い彼女でさえ長打が狙えるほどの甘いボールだったにも関わらずまたしても快音が響かない。それどころか彼女の手には芯で捉えた際には残るはずがない痺れがある。
(なんであんなボールを……)
打てないはずがないはずのボールを捉え損なったことに奥歯を噛む。勢いの無い打球はセカンドが難なく捌いてアウトにした。
(またこの当たり……これは何かあるな……)
ここまでほとんどのものが早打ちでアウトになっている。それを見ていれば当然ボールを見ていこうと考えるのだが、その考えがあっても手が出てしまうのには何かあるとしか言えない。
(打てそうで打てない……初球は何が来ても見ていくか)
ここまで凡退が続いては莉子も見ていかざるを得ない。それを読みきってなのか、初球は真ん中へのストレート。
(特に何かあるようには見えない。甘過ぎて力が入ってしまってるのか?)
力みがあればベストなスイングはできない。長打すら狙えるようなボールが来れば思わず食い付きたくなる気持ちもある。
(それだと莉愛が打てたことにも説明がつくしな)
まだ経験の浅い莉愛は多少のボールも関係なくとにかく打ちたがり。甘いボール、厳しいボールなどわかっていないであろう彼女なら惑わされることがない。それゆえに打てたのだと莉子は考えた。
「たぶんそれ、間違ってるよ」
「え?」
己の中で答えが出たと思ったところでのその声に集中が切れる。それを見越したかのようなタイミングで投球に入るソフィア。
(くっ……遠っ……)
タイミングがズレた上に一転して厳しいボール。焦って手が出そうになった莉子だったが懸命に手を止めボールを勝ち取る。
「ラッキーだったね。今のはどっちでも取れたよ」
ソフィアにボールを返しながらそう言うのはリュシー。思わぬところからの声に莉子は動揺していた。
「別に。あのピッチャーじゃ甘いボールが必ず来るからな」
「あぁ……やっぱりそう思ってるんだ」
彼女のそんな言葉に首をかしげる。それを見てリュシーはクスッと笑ってから答える。
「そう考えてるならずっとそう考えておけばいいよ。このトリックに気が付いた時には、取り返しのつかないことになってるから」
続くボールは外角へのストレート。これも莉子は見送るが判定はボール。
「三年生なのに下級生にチームの中軸を取られて恥ずかしくないの?」
「何?」
「カミュが言ってたよ。明宝は渡辺と東だけ警戒すればいい。あとはいくらでも抑えられる。だからわざとあの二人に打たせて潰したんだから」
「何を……」
後ろから次々にかけられる声に集中力を保つことでやっと。そのせいか顔付近に来た釣り球に手が出てしまったもののファールで逃げる。
「次、内角にストレート。狙ってきなよ」
「っ……」
どこまでナメられているのかと思わせる予告投球。怒りに満ち足りている莉子を見てリュシーはほくそ笑む。
(内角……なら……)
ここまでの口上があってウソをつくとは思えない。相手がなめてくるならそれを利用しない手はない。
(ホームランで後悔させてやる!!)
予告通りの内角のストレート。しかも失投かベルト高に来たボールを莉子はフルスイングで弾き返す。
「これでどうだ!!」
高々と打ち上げられた打球。それはレフトスタンドへと一直線に伸びていく。
「ホントだ。渡辺と東だけ警戒すればいいなら大分楽になるなぁ」
「は?」
ホームランを確信していたのかゆっくりと走り出した莉子に聞こえるようにリュシーはそう言う。その言葉の意味がわからず振り返った莉子だったが、彼女の視線の先を行く打球を見て絶句した。
「なんで……」
捉えたと思った当たりが失速して定位置にいたレフトのグローブに収まる。それは彼女の完全敗北を意味していた。
「残念でした。それともう一つ」
自身が打ち取られた理由がわからず呆けていた莉子。そんな彼女にリュシーは人差し指を立ててあることを伝える。
「次の回の守備、頑張ってくださいね」
「何?それはどういう……」
その言葉の意味がわからずに聞き返そうとしたがリュシーは次のプレーに入ろうとしていたことでそれが出来ずにベンチに戻る。
「監督」
「どうした?」
ガキッ
1ボール2ストライクからの四球目、優愛は外角のボール球を打たされてしまいショートゴロ。これにより明宝学園の三回の攻撃は三者凡退と抑えられてしまう。
「カミュ、ちゃんと伝えておいたよ」
「おぉ、見てたぞ」
ハイタッチしながら戻ってくる桜華学院の選手たち。その中でリュシーは早々にカミューニの元へと戻ってくる。その顔は心底疲れているように見えた。
「これっきりにしてよね、私、あぁいうこと言うの苦手なんだから」
普段言わないことを言わされたからか疲れてしまっているリュシーだったが、それを指示した青年は悪びれる様子もなく笑っている。
「そう言うなよ、たぶん決勝もやんなきゃいけないんだから」
「えぇ……そんな……」
力のある相手……ましてやこちらを警戒している相手に立ち向かうためにはあらゆる手段を使わなければならない。そのためこれまでは使ってこなかった口撃を仕掛けざるを得なかった。
「まぁおかげで舞台は整った。仕掛けるぞ、この回」
全員が集合しているのを確認してそう告げるカミューニ。それに少女たちは頷いて応える。
「まずは餌を撒きつつ、チャンスを作るか。頼むぞ、美空」
「了解です!!」
敬礼して打席へと向かうメガネをした黒髪のツインテールの少女。準決勝の四回、ついに優勝候補の一角を破った桜華学院がその牙を向く。
後書き
いかがだったでしょうか。
次は桜華の反撃開始です。
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