| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

迷宮への落とし穴

 
前書き
先週はグルミクが絵空としのぶのイベントだったのでずっとゲームしてました。 

 
キンッ

一、二塁間へ低いゴロが転がっていく。それに葉月が出ようとしたが、一塁ランナーを抑えるためにベースについていたこともあり届かないと判断したのか追うのをやめる。

「任せた!!」
「オッケー!!」

二塁へと走る蜂谷の後ろを抜けていく打球に飛び込む紗枝。彼女の目一杯伸ばされたグローブに白球が収まった。

「紗枝!!」
「はい!!」

すぐに起き上がり一塁へ送球しアウト。抜けていれば1アウト一、三塁になっていただけに紗枝のこのプレーは大きい。

「またいいプレーが出たな……」

抜けていてもおかしくない当たりを平然とアウトにされていることに不満げなカミューニ。それでもランナーは二塁に進んでいる。

「外野前!!」

打順七番。ランナーが二塁に進んだこともあり外野を前進させバックホームへと対応する明宝学園。

(外野前進ね。うちの下位が長打を打てないと踏んでのシフトか)

通常の前進守備よりも前に来ている相手陣営を見て右打席に立つボーイッシュな印象の少女へとサインを送る。

恭子(キョウコ)にここは任せるしかない。まぁここで点が入らなくても問題ないけどな)

特に何かを仕掛ける雰囲気は見えない桜華学院。それはリードをする莉愛も気が付いていた。

(監督の言っていた通り勝負を仕掛ける回のために技を温存してるのかな?ならここはストライク先行でいこう)

ここまでの試合でヒットがほとんどないことはわかっている。その上で打ちに来るなら球数を抑えていきたい。そう考えた莉愛はまずスライダーを外角へ選択。

「ストライク!!」
「……」

外に外れたかに思えたボールだったが球審の右腕は高々に上げられた。それを受けて莉愛はもう一度外角に……今度はストレートを選択。

「ストライク!!」
「ナイスボール!!」

バッターはこれにも手を出さずストライク。追い込んだバッテリーは間髪いれずに三球目を投じる。

(また外!!)

三球目続けての外のボールにバッターは反応せざるを得ない。しかしそのボールは彼女の視界から消えるように地面に突き刺さる。

「莉愛!!下!!」
「オッケー!!」

三球目はフォークボール。ストレートと勘違いしたバッターはこれを空振り。振り逃げを試みたものの冷静に対処した莉愛が一塁へボールを送り三振を成立させた。

















「初回に点数を取れたことで明宝が流れを支配したな」
「これだけいいプレーが連発したら桜華でも気落ちしちゃいますよ」

本部席で見ていた町田と佐々木がそう言う。せっかくの得点機を生かせなかった桜華学院。しかしベンチから出てきた選手たちはこれまで通り声が出ていた。

「ごめ~ん!!」
「大丈夫大丈夫!!」
「まだまだこれからだよ!!」

強がっているようにも見えるが決してそれだけではない。本当に勝負はここからだと言わんばかりに声が出ているのだ。これには町田は驚かざるを得ない。

(なんだ?まさか今まで通りここからのイニングを0で抑えられるとでも思ってるのか?)

マウンドに向かうソフィアはこれまでの4試合2回以降の失点はない。それどころかヒットも準々決勝で桜井に打たれた1本のみ。しかしそれは彼女たちがノーマークだったから。この準決勝……ましてや優勝候補を下している状況でこれまで通り戦わせてもらえるはずがない。

(二回以降の攻撃……監督が何も策を講じていないわけない。それで抑えられるほど甘くないはずだ)
















「リュシー、まだ慌てる必要はねぇぞ。仕掛けるのは四回だ」

彼の言葉に頷いてから守備へと向かう背番号2。彼女が到着するとその妹は初回よりも体重が乗り切ったボールをミットへと投げ込む。

(あちらさんはソフィアが打てない理由に気が付いてるか?まぁ、こればっかりは打席に立たなきゃわかんねぇ。気付いた時には試合が終わってる。そう言うピッチングなんだからな)

攻撃前の円陣を組んでいる相手ベンチを見ながら不敵な笑みを浮かべる。彼の頭の中にはいかにして得点を奪うことしかなかった。

(次もまだ我慢だ。勝負は予定通り四回。ここで試合を決める点数をいれてやる)
















「ここからが本番だからな、お前ら」

明らかにピッチが上がってきている相手の投手を全員で見ながら真田はそう告げる。その事は前日から伝えられていたこともあり少女たちもよくわかっていた。

「比率はストレートの方が高い。ただコーナーに決めているのかヒットが生まれていないのも事実。早打ちはしなくていい。球数が嵩めばどこかで失投が必ず来るはずだ。そこを狙い打つぞ」

大量得点を狙うことは厳しい。それだけいい投手であることは誰の目からも明らか。それを理解した上で指示を出さざるを得ない。

「ストレートのタイミングに合わせておけ。スプリットは三振しても構わない。捨てていけ」

狙い球を絞り選手たちを送り出す。まず打席に入るのは二年生の明里。

(球種はストレートとスプリット。ここまでわかりやすいピッチャーもなかなかいないよね)

プロ野球のストッパーのような少ない球種で勝負をして来るピッチャー。高校野球ではそのような投手もいるが、基本的にはストレートとスライダーの組み合わせになるためこの手の投手は珍しい。

(ベルト高のストレートは振っていこう。低めは捨てていく)

普段通りの構えで打席に入る明里。その初球、ソフィアの手から投じられた投球は狙いを定めていたベルト高のストレート。

(コースは厳しいけどこれは……打てる!!)

外一杯のストレート。それに果敢に振って出た明里だったが、打球はセカンドへの足の早いゴロ。

「くっ……」

完璧に捉えたと思ったところで彼女だったが結果は凡ゴロ。それを見ていた真田も首を傾げていた。

(高さは狙い通りだったように見えたが、なんでゴロ?捉え損ねてフライだったらわかるが……)

ゴロが転がるということはバットがボールの上っ面を叩いたということ。速球型の投手である対戦相手からその手の打球が出たことに違和感を抱いていた。

(日帝大戦も同じような打球が多かった。つまり思ったよりもストレートに伸びがないってことか?)

それならそれで対策はある。さらに打席には翼星戦から打撃好調の莉愛。

(まず初球は見送ってくれ。それで軌道を覚えろ)
(了解です!!)

サインを受けた莉愛を見てリュシーは手早くサインを送る。その初球、投球はど真ん中へのストレートであっさりとストライクを奪われてしまった。

(打つ気無さすぎ)
(てへっ)

あまりにも打つ気配を感じさせなかったために貴重なファーストストライクを奪われてしまった。しかしそれでもボールの軌道はしっかり見れたため、二球目からは彼女に任せることにする。

(今度は打ち気になったかな。カミュはあんまり警戒しなくていいって言ってたけど、前の試合三安打だからね。ちょっと慎重に行こうかな)

次の投球は内角へのストレート。これを莉愛は身体を捻るように避けてボール。

(次は外。高さは気にしなくていいからいつも通り行こう)
(オッケー)

速いテンポからの三球目。外角へベルト高のストレートを投じるバッテリー。

(甘い球!!)
(振りに来た、狙い通り)

内角からの外角は予想することが十分にできる。前の投球を気にすることなく踏み込んだ莉愛。それを見たリュシーは勝利を確信した。

カキーンッ

しかし、結果は彼女が予期したものとは違っていた。

「はぁ?」

ショートの頭上を鋭い打球が越えていく。レフトとセンターの間に落ちた打球を見てベンチにいたカミューニは思わずそんな声が出た。

「センター!!ボールセカン!!」

キッチリ捉えた打球だったがセンターが回り込んで抑えられる程度のものだったため莉愛は一塁でストップ。

(……え?)
(こっち見んな)

エルボーガードを外しながら笑顔を見せる少女を見た後、リュシーがベンチへと視線を送るがカミューニは試合に意識を戻すように促す。

(リュシーの反応的にソフィアはしっかり投げてくれてるみたいだが……じゃあなんで打てた?球種がバレてた?まぁここまでストレートしか投げてないから読まれることぐらいは考えられるか)

気になる点はあるがまずはこの場面を切り抜けることが重要。グラウンドに立つ少女たちも彼から出される指示を待っていた。

(次の高嶋もいいバッターではある。だがそれを過信して打ちに来るなら好都合。ゲッツーシフト……一、二塁間に来るぞ)
(了解です)
(ソフィア、ベースカバーね)
(大丈夫大丈夫!!)

細かなサインを覚えられる進学校ならではの記憶力を生かしての細かな指示。そのサインを受けてリュシーも配球を組み立てる。

(引っ張りに来るって判断か。だと打たせるのは内角かな)

ゲッツー狙いならゴロを打たせる形になる。まずは外角へのストレートで入るがこれは外れて1ボール。

(ここでいいの?)
(いいよ。振らせてみ)

顎をクイッと上げてリュシーに指示を出す。それを受け彼女も妹へと指示を出す。

(ストライクを取りに行きながら……の!!)

コースだけは間違わないように投じる二球目。これに伊織は反応しかけるが、咄嗟にバットを止めた。

「ストライク!!」
(入るんだ、これ」

手元で小さく沈むスプリット。高さが甘かったもののコースが厳しかっただけに手を出さなかったがここはストライク判定。

(サイドスローから投げられるからシンカー気味に落ちてくるんだね。追い込まれたらこれも振っておかないといけないのか)

力任せに投げているように見えて考えられている投球に驚かされる。それでも彼女からすればそれほどの脅威には感じなかった。

(比率は圧倒的にストレート。確かに速いけど捉えられないようなボールじゃない)
(……って考えてるなら命取りだよ)

伊織のこれまでの動きから狙っている球種は丸わかり。本来ならそれを投げずに追い込むのがセオリーだが、彼女はそれをあえて選択しない。

(次も内角。頼むよ、二人とも)
(了解です)
(多少強くても絶対止める)

ファーストとセカンドにアイコンタクトを取りミットを構える。素早いクイックから投じられたボールはそのミット目掛けて飛んでくる。

(来た!!ストレート!!)

待ち構えていた球種。しかも痛打しやすい内角にフルスイングで対抗する。

ガキッ

タイミングはバッチリだった。にも関わらず少女のバットから快音は聞かれなかった。

「うっ……なんで!?」

手に痺れが残る。バットの芯で捉えられなかった証拠だ。信じられないといった様子の伊織だったが、桜華側にも予想外のことが起きていた。

「ボール一つ!!」

伊織の打球があまりにも死にすぎていたのだ。ゲッツーを狙っていた桜華学院だったが打球の勢いが無さすぎたこともありセカンドへの送球は間に合わない。送りバントのような打球をファーストの永島(ナガシマ)が拾い上げ一塁へ送球。二塁手の朝倉(アサクラ)がベースカバーに入っており2アウト。

「ソフィアちゃん!!ナイスボール!!」
「イェイ!!」

朝倉からボールを受け取り笑みを見せるエース。しかし彼女をリードする姉は仏頂面を見せている。

(ボールが動きすぎた(・・・・・)。おかげで送りバントみたいになっちゃったか)

本当ならここで切りたかっただけにタメ息が出そうになる。しかしそこで落胆してはいられない。

(まぁここからは初回にストレートを見せてる。ここからは配球も楽になるからいいか)

初回にライト前へのヒットを放っている栞里を前にしても全く動揺しているようには見えないバッテリー。その自信がどこから来るのかわからない栞里だったが、初球の入りでその意味を理解した。

(スプリット!!)

並の投手のストレートよりも速いのではないかというほどのスプリットに空振り。これには苦笑いするしかない。

(今までで一番気合い入ったボールだったね。ピンチになってギアが入ったかな)

続くボールは外角低めへストレート。コースも高さもギリギリだったことに手を出せなかったが判定はストライク。

(さっきまで高いボールが多かったけど、低めにボールが集まり始めてきたかな)

これにはさすがに手を出せないいった感じのまま迎えた三球目。ソフィアの投じたボールは低めへと向かってくる。

(際どい!!これは振るしかない)

ヒットにするには厳しいボールだが追い込まれているだけに手を出すしかない。しかしその投球はストレートではなかった。

栞里のバットを避けるように地面へと突き刺さるスプリット。リュシーがそれを身体を張って止め走り出そうとした栞里へとタッチ。三振を成立させる。

「ナイスピッチ」
「イェイイェイ!!」

完璧な投球でピンチを切り抜けたことでテンションが上がっているソフィアとグラブでハイタッチする面々。しかしベンチに戻ってきたところで指揮官が不機嫌そうな顔で仁王立ちしているのが目に入り、空気がピリつく。

「八番に打たれたのは?」
「外角の球だよ。いつも通りの投球だったけど、なんだか打たれちゃった」
「ふ~ん」

莉愛に打たれたヒットだけがどうにも腑に落ちないといった様子のカミューニは特に指示を出さずに円陣を解く。それを受けて少女たちは各々の準備に入るが、リュシーだけは彼に呼び止められた。

「あの八番……こっちの投球に気付いてるか?」
「そんなことないと思うよ?気付いてるなら全員が統一して来るだろうし」
「やっぱりそうだよな」

自分の考えに誤りがあるかどうかを確認するために彼女を呼び寄せ意見を聞いてみたらしい。彼女も同じ考えだったらしく、青年は安心したような表情を見せた。

「念のため警戒していくか。他の連中も様子を見ながら指示出すぞ」
「オッケー」

それだけ伝えてリュシーもその場から離れる。

(もし次の回も捉えられるなら攻め方を変えるか。攻め方は何通りもあるからな。ただそうなると初回の失点が痛くなるが……)

ブツブツと呟く青年。その様子に振れない方がいいと感じた選手たちは顔を見合わせその集中を切らさないように小声で話し合っていた。
















「莉愛、狙ってたのか?」

一方こちらは明宝ベンチ。ベンチ前で防具を着けている莉愛に真田が声をかける。

「内の後は外かなって思いました」
「あぁ……なるほどな」

そこまで割り切れる彼女のメンタルもなかなかだと思った彼だったが、まだ経験の少ない彼女ならではのものだと納得もできた。

(でも莉愛が打ってくれてよかった。変にヒットが出ないと後々焦るかもしれねぇし)

今までの桜華学院の対戦相手は二回以降ヒットを放つことができなかった。しかし莉愛が早々にヒットを打ってくれたことでそのことも頭から抜けてくれただろうと思っていた真田。

しかし、実際には彼女のこのヒットが明宝を迷宮へと突き落とすことになることをこの時は誰も想像することなどできるわけがなかった。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
ずいぶん久しぶりの更新のような気がします。
これからもボチボチやっていきますので気長にお待ちくださいm(__)m 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧