展覧会の絵
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第一話 キュクロプスその十三
「マスコミも騒ぐ。嫌な事件になるな」
「悪人を殺すとどうしてもこうした言葉が出ますよね」
ここでだ。検死官の一人がこんなことを言った。
「法に寄らず悪を裁く正義とかって」
「そうだな。マスコミなりネットなりでな」
「確かにそうかも知れませんけれど」
「警察にとっては許せるものじゃない」
法の番人である彼等から見ればだ。それはとてもだった。
それでだ。刑事は言うのだった。
「この一連の事件の容疑者は絶対にだ」
「ええ、捕まえましょう」
「必ず」
警官や検死官達も頷きだ。そのうえでだった。
彼等は遺体の処理にかかった。それはかなりの時間を要するものだった。
そして事件のことはマスコミやネットで大々的に取り扱われた。所謂猟奇殺人としてだ。
十字は報道を教会のテレビで観ていた。テレビではコメンテーター達が先の社長達への惨殺を含めてそのうえでだ。事件の関連性を指摘していた。
彼はそれを見てだ。静かにこう呟いた。
「それは正しいね」
「はい、何故なら」
「彼等は裁きを下されたのだから」
こうだ。共に質素なテーブルを囲む神父に述べたのである。
「だからね」
「そして枢機卿殿は」
「うん、僕はその執行を行わせてもらったよ」
実に淡々とだ。十字は述べるのだった。
「よかったよ。それでね」
「他に悪人はいますか」
「いるだろうね」
まだはっきりしないがそれでも言うのだった。
「この世には悪もまた多いから」
「そうですね。悪は何処にでもいます」
「あの学園にも」
ここでだ。場所が特定された。
「僕が今通っているあの学園にもね」
「八条学園にもですか」
「あの学園は経営陣や先生達はしっかりしているけれど」
世界的な企業グループでありかつては財閥だった八条グループが経営しているのだ。八条グループの本拠地であるこの神戸に設けられた巨大学園なのだ。
八条家はかなり清潔でしっかりとした経営で知られている。同族経営であるがそこに甘えはないのだ。
その八条家が選んだ教師陣もだ。日教組等の影響を排除して質のいい教師が揃っている。そうした意味で八条学園はかなり健全な学園であるのだ。
だが、だ。その八条学園でもだというのだ。
「どれだけ見事な林檎が入れられた箱でもね」
「一個は必ずですね」
「腐った林檎があるものだから。それに」
さらに言う十字だった。質素なパンと野菜ジュースという朝食を神父と共に食べながら。
そのうえでだ。彼はこうも言ったのである。
「外からはね」
「その外にもですね」
「腐ったものはあるよ。腐ったものがあるのは中だけじゃないんだ」
「学園の外から学園に関わりのある組織や人間がですね」
「学園にしろどんな世界にしろ」
十字は淡々と述べていく。テレビで報道されている凄惨な処刑を聞きながら。
「あらゆる世界はその世界だけで成り立ってはいないからね」
「様々な世界が重複的、かつ交差して存在していますね」
「そう。そしてその外の世界にも腐った輩はいて」
「中にも腐った林檎がありますね」
「それを見極めるよ」
十字は静かに述べた。
「そしてそうした輩がいれば」
「容赦なくですね」
「処刑が執行されるんだ」
その処刑は当然だという言葉だった。そうしてだ。
このことを述べてからだ。十字はパンを食べ終え野菜ジュースを飲みだ。
そのうえでだ。神父に述べた。
「それではね」
「今からですね」
「歯を磨いて学園に行くよ」
「ではその場所で」
「見てみるよ。さらにね」
学園の中の腐ったものを。それをだというのだ。
こう言うと共にだ。さらに言う彼だった。
「後は」
「腐ったものだけを御覧になられるのではなく」
「清らかなものも見てくるよ」
人の中にあるそれをだ。見るというのだ。
「人には両方あるのだから。だからこそね」
「ではその中には愛もありますね」
「うん。愛は最も清らかなものであり」
さらにだ。言葉を続ける十字だった。
「そして最も醜いものは」
「その愛を汚すことですね」
「そうした輩こそが処刑されるべき輩なんだ」
十字に炎が宿った。白い炎が。
それを宿らせたままだ。彼は学園に向かう。そうしてだった。
彼は白い詰襟の制服で学園に向かう。そこには何一つとして醜いものはない。だがその中においてだ。彼はあまりにも苛烈で凄惨な炎を身にまといつつだ。そのうえで今日も学園に向かうのだった。
第一話 完
2012・1・4
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