DOREAM BASEBALL ～夢見る乙女の物語～　

雪が降ったり降らなかったりでなかなかストレスかかりますね…… 

『6番ピッチャー坂本さん』

1アウトになり打席には陽香。彼女を迎えた岡田はすぐにサインを出す。

（桃子のストレートが来てる。これを見せればフォークとライズがより生きる）

その代わりコーナーをしっかりと突き最悪の事態だけは免れるように指示を出す。それは遠藤もよくわかっており、まずは外角低めギリギリのストレートでストライクを取る。

（なるほど……これじゃあ確かに打ちにいけないな）

厳しいコースを突いてくるバッテリー。手を出してもヒットにならなそうなそのボールに手を出すこともなく見送った陽香は足場を均す。

（立ち位置が変わったか？でもそこじゃあフォークに対応できないだろ？）

立ち位置がキャッチャー寄りになっているのを見てすぐさま球種を変える。変化球はキャッチャーに近付けば近付くほどその変化量は大きくなっていく。そのため岡田の判断は利にかなっていた。

地面スレスレから放たれた白球は陽香の目の高さまで上がってくるとそこから急降下し向かってくる。これに陽香は振って出るもののバットにかすることもなくワンバウンドしたそれを岡田が抑えた。

「ナイスボール！！」

土の付いたボールを両手で拭ってから返球する岡田。彼女は横目でバットでスパイクの土を落としている相手を確認する。

（これで立ち位置が変わるか？それによって攻め方が変わるが……）

陽香の立ち位置は前の投球と同じ。つまりストレートに狙いを絞っているのは見え見えだった。

（今の桃子は点をやれないといいボール投げてるからな。一球外してもいいけど、今の流れを生かしたいからな。三球で攻めるぞ）
（わかった）

続くボールもフォーク。今度は後逸しないようにと岡田はミットを低く構え全神経を注ぎ込む。

（よっぽど捕りにくくて苦労してるんだろうな……ただ、わかっていてもあのフォークは打てない）

見ることがない軌道に大きな変化。それは魔球といってもおかしくないため、どうにも対処する方法がない。

（打席の前に立てばストレート系になるが今のストレートは走ってるからな。差し込まれる可能性が高いし……次の回が勝負か？）

残り二回は抑えを任せられている大場がマウンドに上がる。三人の中で一番球は速いが下級生の上に球種も少なくなる。今マウンドに遠藤よりも安定感が落ちるため得点のしやすさで言えば彼女の方がいい。

しかし、陽香はそう思っていなかった。

（投球が始まったタイミングで……）

遠藤がモーションに入ったと同時に陽香が動きを見せた。

「なっ……」

キャッチャー寄りに立っていた陽香が前方へとステップする。それに全員が気が付いた翼星ナインだったがここからではどうすることもできない。

ｷﾝｯ

打席の前方ギリギリまで移動して落ち切る前でフォークを捉える。しかし遠藤のフォークは異質な球質。打者能力も高い陽香でも捉えきれずハーフフライが上がる。

「面白い！！落ちろ！！」

力がない打球だかショートとレフトのちょうど真ん中に向かっていく。そのボールを捕球しようと二人は全力で落下点へと向かう。

「守備は球際だよ！！届け！！」

思わず佐々木も声を上げた。ギリギリ届きそうな鈴木が懸命に飛び付き捕球を試みる。しかしボールは彼女を嘲笑うようにグラブのわずか数センチを掠めるように落ちる。
レフトがそれを捕球したため陽香は一塁でストップ。1アウト一塁となった。

（ランナーが出たらあのフォークはそうは使えないはず。ライズだけを警戒すればいい）

陽香が一塁にいることで投球に制限ができると考えた真田。それは打席に入った明里も同じで狙い球を絞れると考える。

（打たれ始めてからカーブとシュートがなくなった。多分ここではストレート主体になるはず）

前の回に痛打された変化球で来るとは思えない。ここはストレートに照準を合わせ、ライズは見送っていいと明里は割り切る。

陽香もストレート中心に来ると予想しているためまずはタイミングを計ろうと考えた。

しかしそんな二人の予想を裏切るようにバッテリーは初球からフォークを投じてきた。

「うっ……」

ワンバウンドのボールを岡田は弾いた。しかしすぐにそれを拾い直した彼女は一塁ランナーの陽香を目で牽制。予想外の球種に判断が遅れた陽香は走ることができなかった。

（初球からフォークで攻めてくるとは……次来たら絶対走る）
（これがフォークか……確かに不思議な軌道だけど浮いてきたら叩く！！）

陽香も明里も相手のこの入りに苛立ちと焦りを感じていた。彼女たちの熱量が上がっていることを察した真田はすぐさまサインを送る。

（動くな？）
（え？待て？）

カウントは1ボール。ここで待てのサインが出ることは不思議なことではない。しかしすぐにでも打ちに出たかった明里と陽香は出鼻を挫かれた形になり不機嫌そうな顔をしていた。

（次はストレートだろ？こいつは完全にコントロールされてるからな。下手したらゲッツーになりかねない。ガス抜きしてからだな）

気持ちが前のめりになっている二人では最悪の結果になりかねない。それを見越してのサインだったが、案の定投球はストレート。厳しいコースだったがストライクになり1ボール1ストライクとなる。

（落ち着いたか？）
（大丈夫です）
（なら打っていいぞ。陽香も逸らしたら行けよ？）
（（了解です））

一球挟んだこととその投球から得た情報により冷静さを取り戻した二人。それはもちろん翼星側にも伝わっておりバッテリーは細心の注意を払いカーブを外へと外す。

（カーブもあるのか。でも外すってことは打たれたことを気にはしてるんだよね）

守備も攻撃も最善の手を尽くしていることが伝わってくる。こうなるとどちらが主導権を握れるかはこの結果が大きく関わってくる。

（ライズで上げさせる。低めからストライクにお願い）
（いけるかな？）

ゴロを打たれるよりもフライでアウトを取りたいと目論んだバッテリー。それに対し明里は最低でも進塁打を放とうと上からバットを被せる。

（浮いてきた！！）

低い位置からのライズボールに何とか当てた。打球は一二塁間への緩いゴロ。打球が死んでいたことが幸いし陽香を二塁に進めることはできた。

「2アウト！！外野前進！！」

これ以上の失点は避けたい翼星は外野手を前へと寄せヒットでは帰らせないようにする。ただ、打席に立つ莉愛は先程長打を放っているため下手な攻めをするわけにはいかなくなる。

（とにかく低めでいくよ）
（まずはチェンジアップね。浮いたらヤバイなぁ）

緩いボールから入る選択をしたため高めに入ると長打になりかねない。遠藤は低めギリギリへそれをコントロールし莉愛は待ちきれず空振り。

（最高！！次もこの高さで頼むよ）
（今度はストレートか。これで追い込みたい）

二塁ランナーを目で牽制しつつクイックで投球。先程と寸分変わらぬコースと高さに一転して速いボール。

（おわっ！？速っ！？）

前のボールの残像が残っていた莉愛はこれに手を出すものの振り遅れて三塁側スタンドへ入るファールが手一杯。二球で簡単に追い込まれてしまった。

（完全に割り切ってやがる。あとはフォークで決めに来るか？）

守備の勢いをそのまま攻撃に生かしたいであろう彼女たちならばここは三球勝負の確率は高い。しかしここまてヒットにできたのは陽香の当たり損ねの一本のみ。

（まさか次の回も出てきたりしないよな？さすがにそうなったら厳しいぞ）

一抹の不安を感じている真田。ブルペンにいる背番号11のピッチが上がっているのが確認できるがマウンドにいる少女は交代するのが勿体ないほど調子が良い。

（最後はフォークだ。絶対止めてみせる！！）

逸らしさえしなければ絶対的な決め球となるフォーク。岡田はそれを要求し、遠藤も同調する。

（ポテンはもうやらせない）
（何があっても絶対捕ってみせる！！）

前進守備を敷いていた外野手たちは先程よりも前に来ていた。今の遠藤なら長打を打たれることはない。注意するべきなのは陽香のようなアンラッキーな打球で失点することと守備も意識していた。

（次はフォークなんだと思うけど、これといって打つ方法がないんだよねぇ）

押せ押せムードの翼星がどう攻めてくるかは莉愛も十分にわかっていた。しかし、それを対処する術はない。

（まぁ出たとこ勝負だよね！！大丈夫大丈夫）

追い込まれているとは思えないほどリラックスしている莉愛。そんな彼女に怖さを感じつつも、自分たちの攻め方に間違いはないと岡田は姿勢を崩さない。

強い意思と安定した投球フォームから繰り出される完璧な投球。それは要求通りの高さとコースに放たれた。

（よし！！決まった！！）

勝利を確信したバッテリー。ストライクコースに見えるそれを莉愛は強振する。

（ミートポイントを前にして振り抜く！！）

ｶｷｰﾝｯ

押し込む役割を持つ左手を離して右手のみでボールを捉えた莉愛。その打球はライト線ギリギリにポトリと落ちる。

「……バックホーム！！」

前進していたライトの脇を抜けそうになる打球。それを滑り込みボールを抑えた彼女はすぐさまセカンドへと返す。その間に二塁ランナーの陽香は三塁ベースを回る。

「マリー！！」

低い送球でバックホームする海藤。岡田は姿勢を低くしタッチに備える。

（ちょっ……走路に……）

中途半端なバウンドになりそうなボールを捕ろうと脚を後方に引いた岡田。その体勢は現在のコリジョンルールに抵触しそうなギリギリの位置。

（間に合え！！）
（交わせる！！）

捕球すると同時にタッチに入る岡田。対して陽香は左手が届くギリギリのラインを狙う。

ベースを覆うようにタッチしようとした岡田だったがここで一つミスが起きた。それを彼女自身が捕球のために下がったことを把握できていなかったこと。それによりタッチの位置がズレてしまい、脇を抜けようとしていた陽香の脚にグラブが接触してしまった。

「アウト！！」

それでもボールを落とさなかった岡田とタッチにより体勢が崩れベースに手を届かせることができなかった陽香。何とか失点を免れた翼星ベンチは沸き、明宝ベンチからはタメ息が漏れた。

「いい攻めだったぞ！！切り替えて守備に行け」
「「「「「はい！！」」」」」

真田に急かされ少女たちは守備へと向かう。そんな時に彼の目に写ったある少女の姿に違和感を覚えた。

「大丈夫か？陽香」
「大丈夫です。すみません」

ベンチに歩いて戻ってきた陽香に声をかける。それに対して彼女はいつも通りの感じで答える。

「息整えてからでいいからな。水も取っておけよ」
「わかりました」

グラブを受け取り水分を取り終えた彼女は走ってマウンドへと向かう。その足取りはこれまでのものよりも重そうに見えた。

（できればベンチで休ませる時間が欲しかったけど、これは仕方ない。そろそろ継投も考えていかないといけないかもな）

ゆっくりとした動作で投球練習に入るエースの姿を見つめながら近くにいる二人の少女に声をかける。

「莉愛、ゆっくり行っていいぞ」
「はーい」
「瑞姫、肩だけは作っておいてくれ」
「はい」

プロテクターを着けている莉愛は陽香を休ませるためにギリギリまで時間をかけて向かわせ、もう一人の投手である瑞姫には準備をしっかりさせておく。

（流れはまだうちにあるはず。このまま終盤までいってやる）

3点のリードを守りきることを考え始めた真田。しかし、そんな彼らをこの後予想外のアクシデントを襲うことを誰も知らなかった。




 

いかがだったでしょうか。
この試合も残り数話で終わると思います。4話くらいでしょうかね？もしかしたらもう少し伸びるかもしれませんがww