| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

諦めない心

 
前書き
マジで小泉萌香さんが可愛すぎてヤバイわ 

 
「スリーストライク!!」

再びワンバウンドするほどの落差のボール。優愛はこれを再度空振りする。岡田が弾いたもののすぐに拾い直し一塁へ送球。アウトに仕留めた。

「あぁ!!もう!!」
「ドンマイドンマイ」

悔しそうな声をあげる優愛。それをコーチャーが宥めているがファーストからマウンドにボールを置きにいく少女は強打者を抑えた喜びはない。それは他の選手たちも同様だった。

「陽香、この回抑えたらグッと勝ちに近付くと」
「はい!!」

3点を失ったことで翼星ベンチは明らかに空気が落ちている。それは今が畳み掛けるタイミングだと示している。

(この回向こうはクリンナップから。もしここを三者凡退に抑えたらコールドすらありえる)

翼星の攻撃は中軸から。この打順を完璧に抑えれば相手は絶望へと落とされる。そうなってしまえば堅守を誇る彼女たちでもどうなるかわからない。
そしてその事は翼星学園の指揮官佐々木もよくわかっていた。

「3点ならまだまだ問題ないよ!!この回1点でも取って流れを引き戻そう!!」

この回に少しでも得点を上げれれば戦うことは十分にできる。しかしもし抑え込まれようものなら勝負が決する確率が高い。

(アキ)、初球から狙っていいよ」
「はい!!」

先頭打者である大澤にもそう声をかけるしかない。指示を出そうにもまずは彼女が出塁しなければそれすらできないのだ。

(前の回に攻めきれなかったのがここまで響くとは……)

相手の弱点だと思っていた選手が軸となりチャンスを潰されなおかつ点すら奪われる。もっとも避けたかった展開になってしまっており佐々木も意気消沈しそうになっている。

(力入ってるなぁ。なら……)

出塁しようと気持ちが前のめりになっている打者を見て嘲笑うようにカーブを投じる。それを待つことができずに空振り1ストライク。

「ナイスボール!!」

すぐに莉愛は返球しサインを送る。陽香も打者に考える時間を与えないためにすぐに投球に入った。

(早っ……)

大澤はすぐに構え直すが前のボールが頭に残っていたのか高めのストレートを打ち上げファーストへのファールフライに倒れた。

(まずい……私が何とかしないと)

立ち上がった鈴木の表情はこれまでのものとは明らかに違っていた。チームの主砲としての責任感か、真剣さよりも焦りが伺える。

「愛里!!」

それを見て佐々木が声をかけるが彼女の耳には届いていないのか、振り向きすらしない。

(またあいつは……)

絶対的な主砲を擁していながらシードを獲得できなかった翼星学園。その理由は対戦相手に恵まれなかったこともあるが、チームの軸となる彼女の性格も関係していた。

(愛里は責任感が強すぎて大事な場面でいつも空回りするんだよな……これじゃあ秋と春と同じになっちゃう)

そんな佐々木の心配をよそに鈴木はベンチに視線をくれることもなく構えに入る。その気持ちの入りようはバッテリーから見てもすぐにわかるほどだ。

(やっぱり簡単には諦めてくれないよねぇ。じゃあ……)

まずは打ち気を逸らすために外へと逃げていくスライダーから。打ちたくて仕方がない状態だった鈴木はこれに反応してしまい、懸命にバットを止めようとするが中途半端になりスイングを取られる。

「愛里!!」
「!!」

一度プレイが切れたタイミングで鈴木を呼ぶ佐々木。それでようやく彼女も自分が冷静さを失っていることに気が付いた様子だった。

(ヤバイ……集中しないと)

しかしそれがさらに状況を悪化させた。責任感の強い彼女は自分が冷静さを失っていたこととそれにより容易にカウントを奪われたことでさらに固くなっている。

(気持ち入ってるなぁ……)
(いや、入りすぎだと思うぞ?)

打席で構える少女から放たれるプレッシャーに気圧されそうになっている莉愛だったが、陽香はそんなものを全く気にしていない。

(外して様子見ます?)
(いや、ボールを打たせよう)
(だとカットボールでいきますか)

厳しいコースを攻めていきつつ手元で変化するボールで凡打を狙いに行く。その思惑通り鈴木はこのボールに手を出す。

ガキッ

外からさらに外に……そしてわずかに沈んだボールに対しバットは鈍い音を響かせる。弱々しい打球を陽香ぎ処理し2アウトになった。

(こりゃあ決まったな)

自分のスイングもできずに凡退に倒れた主砲。三塁側ベンチへ戻るその背中を見ながら真田はそんなことを考えていた。
















ギンッ

キャッチャーの頭上へと打ち上げられたボール。それを莉愛が慎重に捌き翼星の攻撃は三者凡退に終わってしまった。

「これは厳しい展開かもしれないですね、翼星は」

本部席から見ていた男性は思わずそう溢した。ベンチから出てきた彼女たちの足取りは前の回よりも明らかに重い。

「5回か。このままなら明宝の勝ちだろうな。このままならな」
「「「「「??」」」」」

町田の意味深な言葉に首をかしげる面々。彼の言葉の真意がわからず全員が次の言葉を待っていた。

「強いチームほど三年生の最後の力は偉大なものだよ。それがあるから高校野球は面白いんだ。そう思わないか?」
「まぁ……確かに最後までわからないですけど……」

高校野球は9回での逆転劇は多々起こる。それは実力、精神力共に未熟なことも関係しているが、何よりも《負けたら終わり》という強い強迫観念が実力以上の力を発揮させるのである。

「辛い冬を二回も越えて先輩たちの涙を二度も見せられるんだ。最後の夏の三年生の力は計り知れない。一人でも諦めていない奴がいれば十分に建て直せる。最後のアウトカウントが取られない限りはな」

















守備に着く翼星ナイン。その司令塔を担う岡田は打席に入った葉月を見ながら遠藤へサインを送る。

(こいつも前の打席は申告敬遠だった。初対戦ならこっちが有利なはず)

初球は外へのストレート。冷静を装っていた彼女だったが、岡田も内心諦めているようだった。それがこの初球のサインに表れている。

(まずはストライクを取ろう)

ボールから入ってもいい場面でストライクを取りに行ってしまう。それが彼女の慌てぶりを明らかにしていた。

(先頭を出したくないよ?慎重にお願いね)

そんな佐々木の祈りも虚しく初球のストレートはゾーンへと入る。葉月はこれを振っていくがバックネットへのファールとなった。

「あれ?」

捉えたと思った葉月だったがバットはボールの下を通っていた。その違和感に両校の指揮官は気付いていたが、選手たちは分かっていない。

(危なっ……桃子がいいボール投げてくれたから打たれなかったけど下手したら大ケガしてたよ?)
(まだボールに力があるな……次もこのボールで来るか?)

葉月の打力をよくわかっている真田は特に指示を出さない。それは彼女もわかっており、息を大きく吐きながら構え直す。

(まずストライクが取れた。次はライズで……)

ライズボールのサインを出した岡田。それに遠藤は首を横に振る。

(じゃあフォーク?)

しかしそれにも首を振られた岡田は口を真一文字に結ぶ。そして初球と同じサインを出すと今度は彼女も頷いた。

(なんでストレート?ストライクを欲しがったらまた打たれるよ)

遠藤が連打を喰らった理由を把握していない岡田は不満げな表情を見せていた。それがわかっているのかいないのか、遠藤はいつも通りのテンポでストレートを投じる。

(低いようなギリギリのような……)

際どい高さのボール。打っても長打になりにくいそのボールを見送るが結果はストライク。

(ストレートまだ全然来るじゃん。この高さじゃわかってても打てないよ)

何が来るかは例のかけ声で判明しているもののここまでギリギリのコースを攻められると手を出すことができない。

(桃子……まだ諦めてないんだね)

そして気持ちが入っているそのボールを受け止めた少女は気が抜けていた自分を恥ずかしく感じた。それを受けて次のサインを送ると今度はすんなりと決まった。

(ん?構え方が違うような……)

ストレートの時の手を広げてから構えを見せた岡田だが、姿勢がこれまでとは異なっているように見える。しかし、ベンチから飛ぶ声はストレートの時のそれになっている。

(ストレート……三球続けてくるんだ……)

葉月もその声でストレートに照準を合わせる。伸びがあることを想定しながらスイングに入ると放たれたボールは予測したものとは違っていた。

(チェンジアップ!!)

来ないボールにバットが止まることなく空を切る。マウンド上で小さくガッツポーズを見せる少女。

(桃子はまだ諦めてない。なら私たちも……)

強打者を完璧な投球で抑えた仲間の姿に敗戦を予期していたチームメイトたちはそれを恥じた。そして再びこの試合を試合を戦い抜くためにも声を出し始める。

(今の三振で息を吹き返しやがったな……もう1点……1点を先に取れればいける……か?)

打席に向かう陽香もそのことを重々承知していた。そして彼女を迎え撃つ翼星ナインも互いに声を掛け合いポジションを調整し直していた。





 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
なんか今週疲れて力尽きてました。
次はもう少し早く出したいと思います。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧