DOREAM BASEBALL ～夢見る乙女の物語～　

先週はとにかく忙しくて時間が取れませんでした( ノД`)… 

「ボールバック！！」

最後の投球練習の前にキャッチャーボックスへと入りマスクをする莉愛。陽香からのボールを受けた彼女は二塁に送球し、内野がボールを回す姿を確認しながらあることを思っていた。

（陽香さん疲れてきてるかな？体重がイマイチ乗り切ってなかった）

マウンドにいる少女のボールがこれまでよりも来ていないこと。もちろん投球練習のため手を抜いていることは考えられるが、本塁突入の直後なため疲労も十分に考えられる。

（できるだけ球数を少なく行きたい。となるとストレートから入った方が無難かな）

コントロールの付きやすい球種でカウントを整えていこうと考えた莉愛。陽香もそれをわかっているからか表情を変えることなく投球に入る。

















ﾊﾞｼｨｯ

「ボール！！フォア！！」

左手で一塁方向を差し打者に進塁を促す球審。それに伴いスコアに映し出された三つの緑色のランプが消える。

（陽香がストレートのフォアボールか。珍しいな）

一球もストライクが入ることなく出塁を許してしまったことに真田は違和感を感じたが特に気に止めることはなかった。

（まぁここから下位打線だしな。残りイニングと点差を考えれば送りはないだろうし、うまく行けばゲッツーを取れる）

先頭打者が四球だったことでマウンドへと声をかけに言っていた莉愛が定位置へと戻っていく。彼女もこの後の打者のことはわかっているため、特に慌てた様子もなく試合を進行していく。

（フォアボールの後は狙われやすい。カットボールで引っかけさせましょう）

ストレートに近い球種で内野ゴロを狙いにいく。しかしその投球は莉愛の思惑を狂わすように打者に向かって飛んでいく。

「タイム！！テイクワンベース」

想定外のボールに打者も避けることができずにデッドボール。なんてことないはずの打者二人を制球を乱して出塁させたことで真田はベンチから伝令を送る。

「どうした？陽香」
「疲れちゃったの？」

莉子と優愛がそう声をかけるが陽香は額の汗を拭いながら生返事しかしない。それには全員が不信感を抱いており顔を見合わせた。

「どこか痛いのかって監督が」
「いや……息が整ってなかっただけだ。もう落ち着いた」

全力疾走でホームまで駆け抜けたこととこれまでの投球での疲労が重なった結果だと話す陽香。止めどなく流れてくる汗を見ればそれがわかるため、彼女たちもそう気にすることはなかった。

「一つずつアウトを取っていきましょう」
「点差もありますからね」
「こっちに打たせてください」
「あぁ。わかった」

後輩たちの声かけに素っ気なく答えるエース。それが疲労から来るものだと思った彼女たちはそのまま守備へと散っていった。
















「坂本がコントロール乱すのは珍しいね」
「やっぱりそうだよねぇ？」

スタンドから見ていた東英学園は突如制球が乱れた陽香のことを気にしていた。その中で黒髪の少女はマウンドの少女をじっと見つめ、何も話し出さない。

「疲れてきてると思う？」
「いや……そんなことはないと思うが……」

大山の問いにもどこか素っ気なく答える大河原。真剣に見える表情だが、その目からは心配しているのがよくわかるため三年生たちは首をすくめて話しかけないようにする。

「なんで瞳さんはそんなに坂本さんに入れ込んでるんですか？」
「日本代表で一緒だからですか？」

そんな中白髪の少女と茶髪の少女が問いかける。その質問に下級生は興味津々に視線を送り、三年生は苦笑いを浮かべるものとニヤニヤと笑みを浮かべるものと分かれていた。

「まあ……ちょっとな……」

言いたくなさそうなのがよくわかる反応を見せられたため下級生たちはこれ以上突っ込むことができない。しかし、そんな彼女の反応を見て後藤と笠井が白髪の少女と茶髪の少女の隣に陣取る。

「瞳ね、陽香と中学時代バッテリー組んでたんだよ」
「それでね？一緒に東英学園(うち)に行こうって誘ったら断られたんだよ！！」
「理沙！！希！！」

顔を真っ赤にして立ち上がる大河原。それに笑いながら逃げるように離れていく二人。彼女たちを追いかけようとしたが、周りからの視線に気が付いた大河原は咳払いをして元の席へと腰掛ける。

「……好きだったの？」
「お前後で説教な」
「えぇ！？」

後ろから声をかけてきた金髪の少女の問いに冷たい視線を交えて答える。和ませようとふざけた質問をした彼女だったが予想外の返しをされて悲鳴を上げていた。

「何やってんだが……」

敵情視察から外れていく仲間たちの姿を見てタメ息を漏らす大山。そんな彼女たちをよそに試合は進行していくのだった。















守備に戻った莉愛は打席に入った少女がバントの構えに入ったのを確認する。

（無難に進めてゲッツーをなくしておきたいんだろうね。そうすれば岡田さんまで回るから）

彼女が送れば次の打者はライナーでもない限りダブルプレーになることはない。そうなればここは送りバントが最善手であることは間違いない。

（送らせましょう。優愛ちゃん先輩、葉月さんお願いします）
（はいは～い）
（オッケー）

外にバントのしやすいストレート。これを定石通りバントしてきたため優愛が捌いてアウトを奪う。これにより1アウト二、三塁となった。

(まずはアウト一つ。できればここは三振が欲しい場面だよね)

ここからは上位打線につながってくることを踏まえもっとも安全なアウトの取り方にしたいと陽香の決め球であるスライダーから入る。これに打者はついていけず空振り。

(もう一球行きましょう。ただし低くお願いします)
(わかった。逸らすなよ)

パスボールもワイルドピッチも許されない状況で低めにキレのある変化球。ワンバウンドするそれに再度バットが空を切る。

(完璧です！！最後もスライダーで……)

三球同じ球種を続けることにした莉愛。ただし今度は右打者から外に逃げていくスライダー。パスボールの心配も少なく打者としてはバットが届かず打ちようのない球種。

(真ん中から外に逃す！！)

強く腕を振るい打者はそれに釣られて始動が早くなるが……

(またスライダー！？)

ボールが予想よりも来ない。必死に腕を伸ばしてボールを捕らえようとするが掠ることもなく三振に倒れた。

「ナイスボール！！」
「陽香ちゃん！！2アウト！！」

イニングの入りが悪かっただけに心配だったがランナーを背負ってからはキッチリと抑えたエースに守備も声が出る。一方チャンスで三振した少女は悔しさを滲ませながらベンチに戻る。

「ごめん！！」
「大丈夫！！絶対打つから」

打席に向かう岡田はこれまでの打席とは異なり厳しい表情を見せている。それだけ追い詰められているのだとその場にいる全員がすぐに理解した。

(本当なら岡田さんは警戒しなきゃいけないバッターなんだけど、前の二打席はバントだから目が慣れてないと思うんだよねぇ)

ここからは三巡目に入ってくる。本来なら打者の目が慣れ始めてくるのだが、岡田はここまでバットを振っていないためタイミングを取るのはこの打席が初めて。

(てっきり崩れるかと思ったけどさすがは坂本って感じか……でもここで打たなきゃキャプテンの名が荒む！！)

主将、一番打者、捕手、多くの重役を常に担ってきた彼女はプレッシャーにはめっぽう強いはず。周りも彼女自身もそう思ってきたが最後の夏が与える重圧は計り知れないのか、明らかに身体が固まっている。

(カーブでタイミングを外してみますか)

力の入っている相手に緩いボールから入る。待っていたボールよりも遥かに遅いボールに岡田は勢いよく空振り尻餅を着いていた。

「マリー！！リラックス！！」
「肩の力を抜いて！！」

ベンチからのそんな声。しかし、それでも岡田の力は抜けない。

（カットボールで打たせましょう）
（だな）

完全に明宝バッテリーが主導権を握っている状況。続くカットボールは厳しいコースに決まったこともあり手すら出ない。

「真理子！！」

呆気なく追い込まれ後がない岡田。そんな彼女を佐々木が呼ぶ。

「目一杯バットを握って素振りしなさい！！」
「え？」
「いいから！！」
「はい！！タイムお願いします」

タイムがかかり岡田は言われた通りに素振りを行う。そのスイングは彼女の実力を知る面々からすれば本来のスムーズなものとは異なっていることがよくわかる。

「なんで力入れて振るんですか？」
「普通逆なんじゃ……」

ベンチにいる少女たちが思わず問いかけた。それに対し佐々木は鼻で笑うと打席に入り直した岡田の方を見る。

「あれ？なんか力抜けてる？」
「なんで？」

構えに入った彼女はこれまでのガチガチの構えから普段通りのリラックスした構えになっている。突然の変貌に仲間である少女たちですら意味がわからず顔を見合わせている。

「言葉で言うだけでリラックスできるなら誰も緊張しないよ。それができないからどんなスポーツだって大番狂わせが起きる。じゃあどうやってリラックスさせるか？それがさっきの素振りだよ」
「力を入れてやらせたあれですか？」
「そう。力が入ってるならもっと力を入れさせた方が逆に力が抜けやすい。よくプロのバッターが重りを付けてバットを振ってるよね？あれは一度力を入れてバットを振ることで本来の重さにした時にスムーズに動けるようにしてるんだよ」

打席の最中にそれをするわけにはいかないため応急措置的にやらせた先程の素振り。そのおかげで力が抜けているのは誰が見ても間違いなかった。

（一球外しますか）

その構えに危険を察知した莉愛はボールを要求。これまでだったら手を出していたであろう岡田だったが、落ち着きを取り戻したことにより冷静にこれを見送る。

（ダメだ。選球眼がいいせいで見せ球はカウントを悪くするだけ。だったら……）

次に要求したのはスライダー。もっとも自信のあるボールで三振を奪いにいくバッテリー。

（大丈夫。真理子なら打てるよ）

何で相手が攻めてくるのかは佐々木はわかっていた。しかしそれを伝えることはしない。する必要がないと彼女はわかっていた。

（新チームができてからずっと中心でチームを纏めてきた。それだけでも大変なのに誰よりも遅くまで練習して自分の技術を高め続けたあなたがこの場面で打てないわけがない）

キャプテンとして常にチームを支え、プレーでも引っ張ってきた彼女だからこそ信じて送り出せる。そんな指揮官の想いを彼女もよくわかっていた。

（あとは自分のスイングをするだけ。やってきたことを信じろ）

一切の迷いもなく待ち構える岡田。その佇まいにベンチから見ていた真田は嫌な予感を感じてはいた。

（でも歩かせるのはなぁ……陽香なら大丈夫だと思うし任せるか）

岡田は長打力のある打者ではない。そのためここで同点になることは考えられないため自身のキャプテンでありエースである少女を信じて任せる指揮官。それに答えるようにエースは腕を振るう。

「！？」

放たれた瞬間莉愛の目が見開いた。低く決めようとしたスライダーがストライクゾーンへと入ってきてしまったのだ。そしてそれをこの少女は見逃さない。

ｶｷｰﾝｯ

「センター！！」

低い打球が右中間へと飛ぶ。それにセンターを守る伊織が飛び込むが打球は無情にもその脇を抜けていく。

「うわっ」

ライトの栞里が回り込みこれを抑えすぐさま内野へ返す。しかしすでに二塁へと到達していた岡田は追撃となるタイムリーを放ったことに歓喜し高々とガッツポーズを掲げていた。




 

いかがだったでしょうか。
試合展開はなかなか良いと自己満足してますww