DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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激戦区
前書き
最初の二試合めっちゃ短くなりそうな雰囲気……
「悪いな、曜子」
試合前のミーティングも終わりベンチで各々最後の準備を行っている少女たち。そのうちの一人……背番号7を着けた少女に真田は声をかけていた。
「いえ、仕方ないです」
話しかけられた彼女はそう言うが、やはり元気がないように感じる。
「試合中必ず出番が来るからな。しっかり準備しておいてくれ」
「はい!!」
気休めではない。彼の中では彼女はしっかりと戦力として計算されている。それはベンチに入っている全員に言えることだ。
(まさかここまで莉愛がここまで伸びてくるとは思わなかった)
真田は当初は背番号通りのポジションでこの初戦を戦うつもりだった。しかし、背番号配布後にさらなる躍進を遂げた莉愛。そのレベルは彼が求める捕手のレベルへと到達した。
(ただ莉愛は打力がない。美穂や曜子タイプになってる。となれば終盤で澪と恵を使うことも考えられる)
守備力はないが打力のある澪と恵。反対に打力がない分安定した守備で春のレギュラーを勝ち取っていた美穂と曜子。彼女たちをうまく使っていけば目標に掲げている場所へと登り詰めることもできるかもしれない。
(あとは緊張さえしないでくれてればいいんだけどな)
町田side
「なんか小粒になった気がするのは俺だけか?」
整列を終えフィールドに散っていく選手たち。先に守備に着いたライバル校を見てそんな感想を抱かずにはいられなかった。
「登録だと丹野が154cm、城田は152cmになってます」
「中島と村岡がいくつだっけ?」
「161cmと163cmです」
それを聞いて納得した。フィールドにいる選手のうち二人が10cmも小さく、さらにはセンターラインにいるとなれば全体的に小ささを感じずにはいられないだろう。
「でも菊池さんはセンターのままでもよかったんじゃないですか?」
「確かに……高嶋さんは最近はずっとショートでしたもんね」
明宝の新オーダーに疑問を抱かずにはいられない二人。それもそのはず、いくら本来のメインポジションであろうとも何ヵ月もそこから離れていては感覚は鈍る。ましてやそれがセンターラインとなれば、重要度を踏まえてもリスクを背負うべきではない。
「明里の負担を減らすためだろうな」
「菊池さんのですか?」
「あ!!ピッチャーもするから!!」
ただ、今の明宝には明確にポジションを変えた方がいい理由は存在する。それはセンターを担っていた明里の足だ。
「ピッチャー……この大会中はしないかもな」
あの一年生の中に何人新しいピッチャーがいるかはわからないが、確実に戦力として登板してくるであろう人物がいる。彼女と陽香……二人で十分と考え明里を野手に専念させるのはありだ。
『一番センター木下さん』
そんなことを考えていたらいつの間にか投球練習も終わり一番打者が打席に入っていた。それを見て頭を観戦モードに切り替える。
キャッチャーから出されたサインにすんなりと頷くといつも通りのテンポで投球に入る陽香。その初球はど真ん中へのストレートだった。
「うわっ、大胆」
隣からそんな声が聞こえた。それには俺も同意する。いくら大事な初戦の一球目とは言えあんな無防備な球を投じさせるとは……
「痛打されたどうするつもりだったんだ?大事な出端を挫かれることになるんだぞ」
莉愛side
(ちぇっ、ガチガチで振ってすらくれなかった)
打席に入っている木下さんは緊張のせいか、ずっと体に力が入っているように見える。だからあえて甘い球を投げて球数を減らしていこうと思ったけど、思ったよりも緊張しているらしく全く反応できていなかった。
(この感じじゃボール球使うの勿体ないかも……もう一球ストレートでお願いします)
(今度はコースを狙ってな?わかった)
アウトローへのストレート。もし手を出してもこの様子じゃ内野ゴロが関の山だろうし、甘くなってもいいから散らしていく指示を出す。陽香さんもそれがわかっているからかリラックスした様子で投じてくれる。
「ストライク!!」
これにも彼女は手を出さない。ただ、今回はコースが良すぎた。冷静な状態でもこの球には手を出さないかな。
「ナイスボールです!!」
今回は組み合わせの関係で私たちも相手もこの二回戦が初戦となっている。そのためか、全体的に固さが見える人が敵にも味方にもちらほら。
(ここまで来たら三振取っちゃいましょう。スライダーで)
(しっかり捕れよ)
(はい!!)
あの練習試合からずっと課題に挙げられてきたスライダーの捕球。陽香さんの球のキレに付いていけなかったけど……
(今なら確実に捕れる!!)
何回も練習に付き合ってもらい、莉子さんにも泣くまで練習付き合ってもらったからね。自信を持ってこのボールを要求できる。
ストレートと違わぬ強い腕の振りから放たれた白球。それは真ん中の甘いボールに見えたようで、追い込まれていた打者はスイングを開始する。
「!?」
しかし、徐々に外に逃げていくボールに気が付いたようだがバットが止まらない。結果、外へのボールとなるスライダーに空振り三振に倒れていた。
町田side
「なるほど……そういうことか」
初球の入りを見て不安になっていたが、どうやら一番冷静だったのは彼女だったらしい。打者の構えを見ただけで瞬時に相手を効果的に追い詰める方法を選択できる。それにより主導権を完全に手中に納めたわけだ。
「莉子から正捕手の座を奪っただけのことはあるみたいだな」
背番号は20だが、登録を終えた後に急成長したのだろう。その結果、こうやって正捕手として試合に出始めたわけだ。
(それに陽香の状態もいい。大事な初戦での固さもないしな)
二番打者への初球も腕が振れている。ストレートも走っているしスライダーもいいキレだった。調整は万全なように見える。
ギンッ
続く二球目、恐らくカットボールだろうか?打者は引っかけると打球はサードへのボテボテの当たり。
「OK!!」
その当たりを優愛は衝突するように捕球しジャンピングスロー。難なくアウトにしていた。
(優愛のブランクも問題ではないな)
チームではセカンドを担っていたがU-18ではサードを任せていたこともありサードの守備も錆び付いていないように見えた。
「となると問題点は……」
自然と視線が二遊間へと向く。新しくスタメンに入った一年生とずっと捕手を担ってきて久々の本職へと戻ったショート。この二人が今どの程度の守備ができるのかが非常に気になるところではある。
キンッ
あの二人のところに打ってくれればと思いながら見ていたが、打球はライトへの浅いフライ。これを栞里が難なく捕球しチェンジとなった。
「力の差がありすぎるかなぁ」
初回の入りを見る限り明宝はうまくゲームに入っていけているが、相手はそれができていない。これではウィークポイントを見つけたくてもそれができそうにない。
「やっぱり翼星との試合が一番見たいかなぁ」
実力が近いチーム同士であれば自ずと弱点も見えてくる。それが見えるとすれば順当に勝ち進めば当たるはずの強豪同士の潰し合いか。
「その勢いで日帝大も食ってくれねぇかなぁ」
名鑑を開いて組み合わせを確認する。明宝には悪いが日帝大の方が手強い相手だ。あそこが転けてくれればうちの優勝はより近づく。
「あれ?桜華は日帝大のブロックなんだっけか?」
都内有数の進学校と言われる桜華学院。この学校では海外の姉妹校からの留学等もあり、時折スポーツでも躍進する時があるのだ。
「そういえばあいつのケガは治ってるのか?」
パラパラとページを捲り桜華の登録選手を確認する。本来なら1番のところにあいつの名前があるはずーーー
「!!」
「??どうしました?先生」
「いや……」
開いた名鑑を閉じる。見なければよかったという気持ちと早めに気付けてよかったと思う気持ちが入り交じっている。それは心配してくれた少女にも返事をするのが億劫になるほどだった。
「こりゃあくじ運に恵まれたかもな」
反対のブロックが例年以上の激戦区の状態になっている。優勝を目指す者としてはラッキーとも思えるが、その勢いを生かされてしまうのではないかと不安も大きくなっていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
本当は成長していく過程も書いていきたかったのですがだらけそうなので省略しました。
初戦と次の試合は恐らく短くやっていく感じになると思うのでご了承お願いしますm(__)m
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